進撃のワルキューレ   作:夜魅夜魅

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調査兵団研究棟に匿われているアルミン、クリスタ、ミカサ達です。
ハンジ、ぺトラ、シャスタもいます。


第35話、長い夜

(side:ミカサ)

 

 新兵勧誘式が終わったその日の夜遅く、調査兵団研究棟の医務室のベットにミカサはいた。ベットに腰掛けるミカサの横には、衛生官らしいシャスタと名乗る女性がいる。シャスタはミカサと同じく黒髪で東洋人っぽい容姿をしている。シャスタはミカサの脚のギブスを外し、腿を触診していた。周りには技術班のリーダーであるハンジ、助手のぺトラ、幼馴染のアルミン、同期のクリスタが心配そうに見守っている。

 

「痛みますか?」

「大丈夫です」

「じゃあ、脚を動かしてみてくださいね」

 シャスタに言われてミカサは脚を交互に振ってみた。特に違和感なく動くようだった。複雑骨折で下手したら兵士を続ける事すらも危うかったはずだが、自分でも驚くほどの回復だった。

 

「よかったですぅ。手足共に骨折箇所はほぼ治っていますよぅ。歩く分には問題ないと思います。激しい運動はまだ控えた方がいいとは思いますけど」

「へぇー、全治三ヶ月の重傷って聞いていたけど、随分早く治っているね。さすがシャスタ。あの薬の効き目は抜群って事かな?」

 ハンジは感心したように訊ねた。ミカサはその薬の投与前に”医療用ナノマシン”との説明を受けていたが、何の事かさっぱり分からない。患者の体内で細胞組織の再生を手助けする特殊な薬品らしかった。

 

「本人の体力も物を言いますよぅ。ミカサさんは普段から身体を鍛えているそうなので、そのお陰ですよぅ」

「よかった……。わたしも心配していたんですよ」

 クリスタは優しく微笑んでいた。

「よかったね、ミカサ」

アルミンが声を掛けてきた。

「……」

ミカサは黙っていた。心は沈んだままだったからだ。周りは怪我の回復を祝ってくれるが、一番会いたい人はもうこの世にはいないのだから。

 

(エレンの馬鹿! 本当に死に急ぐなんて……。あれだけ死なないでってお願いしたのに……)

 ミカサはトロスト区防衛戦の詳細、そしてエレン達訓練兵第34班の戦いの経過を聞かされていた。訓練兵にしてはあまりも過酷な戦況に置かれてしまったようだ。次々と巨人と遭遇し、兵士達は一人また一人と散っていった。アルミンやミーナも含めて全滅していてもおかしくなかった。アルミン達を逃したエレンの最後の決断、囮が必要な状況だった事は理解できる。それでも生きていて欲しかった。

 

「さすがはトロスト区防衛戦の英雄の一人ね」

 ハンジはミカサをそう褒め称えた。ごく限られた人間しか知らない事だったが、超大型巨人および鎧の巨人が人間体のときに、奴らに瀕死の重傷を負わせたのがミカサだったのだ。

 後衛付近に巨人達が浸透していないあの時点で瀕死の重傷になった奴らは、止むを得ず巨人化した。それがアルミンの気付きにつながり、結果として新兵器の狙撃成功を演出したからである。さらにミカサの斬撃は巨人化能力者を抹殺するには一撃殺が必要との戦訓も得られていた。

 

「……」

「まあ、とにかく今は治す事だけを考えてくれたらいいよ。今後の事はそれからでも遅くないからね」

ミカサは俯いたまま、軽く頷いた。

 

「ぺトラ先輩。僕達の同期はどうでしたか?」

 アルミンがぺトラに話しかけていた。ぺトラは夕方、新兵勧誘式に出席していたのだった。今期の新兵全員が調査兵団の一時預かりとなったので、彼らの様子を偵察しに行っていたらしい。

「ええ、元気にしていたわよ。南の訓練兵の上位陣は、全員調査兵団に入団希望だったわね」

「えっ? そ、そうなんですか? ジャンやコニーやサシャも?」

「そうよ」

「あいつ等は憲兵団だと思っていたんだけどな」

「今回の戦いで思うところはあったのでしょうね」

「そうか……。あいつらも決めたんだな」

アルミンは感心したように頷いていた。

 

(わたしは何の為に……)

 身体は驚異的な回復をしているとの事だったが、心の方はぽっかりと穴が開いたままだった。周りにいるアルミン達の会話もどこか遠くから聞こえてくる。

 

「他地区の憲兵団新兵達もほとんどが壁外調査組を選んでいたわ」

「そうか、今期の新兵達は結構頼もしそうだね。わたしは捕獲した巨人の実験が忙しくて出席できなかったけど……」

「ハンジ分隊長、そ、その……巨人の実験って何をするんですか?」

 アルミンが何気なく聞いたようだった。

「!?」

 ぺトラとシャスタの顔が引き()っていた。

「な、なんて事を!?」

「ああ、もう! アルミンさんは責任取ってくださいね」

ぺトラとシャスタは突き放した言い方をしていた。ハンジは俯くと眼鏡の奥がキラッと光った。

「そうか、そうか、そんなに聞きたいのか? それじゃあ、しょうがないな、アルミン」

ハンジは満面の笑みで答えていた。

「えっ?」

「ここはミカサさんの病室ですぅ。別室でお願いしますね」

「アルミン。これも通過儀礼だと思って諦めなさい」

「あ、あの……僕は何か不味い事を言ったのでしょうか?」

「ど、どうしたんですか? 先輩方は?」

クリスタは怪訝そうに首を傾げている。

「じゃあ、クリスタさん。あたし達と一緒に行きましょう」

「でもアルミンは……?」

「いいから、いいから。ミカサ、おやすみなさい」

ぺトラはクリスタの手を引いて医務室を逃げ出すように出て行った。シャスタも一緒だった。

 

「さあ、アルミン。夜は長いし、わたしの部屋で話すとしよう」

「あ、あの……、今日はもう遅いので……」

「いやいや、気にする事はないよ。善は急げだ。それじゃあ、ミカサ。おやすみ」

ハンジはアルミンの腕を取りながら軽やかな足取りで病室を出て行った。なぜかアルミンが捕食者に捕まえられた獲物のような気がしてならなかった。

 

(な、なんなの?)

 残されたミカサは状況を理解する事ができず呆然としていた。後で知ることになるが、ハンジは巨人の話となると暴走して止まらなくなる事があるそうだ。この日の夜はアルミンが哀れな犠牲者となったのだった。

 

 

(side:???)

 

 トロスト区南ブロックに設けられている捕獲巨人の生体実験場。捕獲した巨人は当初5体だったが、実験の過程で3体が死亡し、残るは2体(5m級巨人・7m級巨人)との報告が、兵士に紛れ込んでいる情報提供者(スパイ)から届いていた。

 

 夜の闇に紛れて3つの影が実験場の傍に来ていた。実験場には駐屯兵団の兵士が交代で見張りをしている。

 

「巨人の秘密をこれ以上知られるわけにはいかない。なるべく速やかに処分せよ!」

 影達は依頼者からそう告げられていた。

「見張りが邪魔な場合はいかがしますか?」

「言わずとも知れたことだ! 邪魔者は排除せよ!」

つまり見張りの兵士を殺しても構わないとの事だった。ならば見張りを抹殺してから仕事に掛かる方が手っ取り早いだろう。影達は攻撃のタイミングを虎視眈々と狙っていた。




【あとがき】
重傷のはずのミカサは、シャスタのオーバーテクノロジーにより驚異的な回復を見せます。(巨人の治癒能力とは関係なし)
アルミンは失言(?)した事で、ハンジの餌食になります。(原作ではエレンがハンジの餌食でした)

同時に不気味な影が動いています。


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