「出番を増やせ! ゴラァ!」と筆者はリタに文句を言われそうです。
迎撃作戦の翌日早朝、研究棟機密区画にある隠し部屋では、シャスタは
「ご、ごめんなさい。身体が弱いばっかりに……」
布団に半分顔を隠したシャスタは申し訳なさそうにリタに謝っていた。長い黒髪を束ねておらず眼鏡をしていないシャスタの顔は普段と違って新鮮に見える。
「いや、シャスタはよくやってくれたよ。おかげで敵の偵察隊を壊滅させる事もでき、さらに捕虜も得る事ができた。これで奴らに関する重要な情報が得られるかもしれない」
「よくやってくれたのはミカサさんですよぅ。あたしは車酔いで全然だめでしたから……」
「むろんミカサもよくやってくれている。むしろ謝るのはわたしの方だ。この世界に来て以来、ずっとシャスタに無理させていた。本当にすまなかった」
リタはシャスタにずっと甘えていたと思い返していた。なまじ彼女が技術面での天才だけに仕事を増やしすぎてしまったのだろう。負担を分散させてやりたいところだが、残念ながらシャスタの代わりはいない。リタ達の世界から持ち込んでいる
「ううん、あたしが望んだ事です。リタの役に立てる事があたしの一番の幸せですから」
シャスタはリタを見てにっこりと微笑んでいる。
「あ、ありがとう。シャスタ。とにかく今はゆっくり休んでくれ」
「で、でも……」
「今は自分の身体を一番心配してほしい。わたしからのお願いだ」
「は、はい。すみません……」
シャスタは目を閉じたようだ。当分は安静にしていた方がいいだろう。
リタは寝室を出るとペトラとハンジが心配そうな様子で待っていた。
「リタ、シャスタは?」
「疲労が溜まっているんだと思う。今は静かに寝かせておこう」
「そうだね。シャスタには悪い事をした。……時間があればミカサを鍛えて戦闘班の
「愚痴を言っても仕方がないだろう。今出来る事をするべきだ」
ペトラとハンジは頷いていた。
「ではシャスタ抜きにはなるが
戦闘に限らない事だが、
リタから昨日の作戦行動について二人に告げた。昨日リタは
「……以上です」
西側方面を担当したペトラが報告を終えた。報告の中で敵の工作員が水場に毒を撒いたかもしれないとも述べる。(アルミンが指摘)
「ハンジ、君はどう思う?」
リタはハンジに訊ねた。
「うーん、確かに怪しいけど、どうも
「どういう事でしょうか?」
「つまりだね、敵にしてみれば戦士(巨人化能力者)は貴重な存在のはずだ。水場に毒を撒いたところで数十人の村人を殺せるに過ぎない。遠路はるばるやってきて投入する戦力の割りに戦果が見合っていない感じがするんだよな」
「わたしも同意見だ。これだけの工作をするからにはただの毒ではない気がするな。恐らくはもっと悪質なものだろう」
「……」
ペトラとハンジは黙ってリタの次の言葉を待っているようだ。
「
「ば、バイオ……テロ?」
ペトラは聞きなれない単語に首を傾げている。対応する語句がなかったため、自動翻訳機で翻訳しきれなかったようだった。
「簡単に言うとだな、人に感染する病気をもつ細菌をばら撒く攻撃の事だ。大量の感染者が出れば人類社会にとっては大きな打撃となるだろう」
「そ、そんな……。それじゃあ、やっぱりアルミンの言うように村に戻っていれば……」
ペトラは深刻さを理解したのか顔が青ざめていた。
「いや、ペトラ。仮に
「そ、そうですか……。でもどうすれば……」
「わたしがラガコ村に調査に
「そうだね。
ハンジはリタの案に賛成していた。
「じゃあ、リタ。お願いするわ」
「あと、御者を兼ねた助手を1名付けて欲しいところだが……」
「わたしは……、でも演習があるし……」
ペトラは少し考えて答えた。彼女は本日、(調査兵団の)行軍演習に参加する予定だった。調査兵団のほぼ全員が参加する大規模演習であり、新兵達への顔見せの機会でもある。まして今回の演習では偵察気球との連携訓練も取り入れられる予定なので、技術班としてはアピールも兼ねてぜひ参加しておきたいところだった。
「ミカサはどう? ミカサは兵士として目的意識の高い子だから大丈夫だと思うよ。任務の重要性を説明すれば付いてきてくれるでしょう。それにミカサは(表向きは怪我から)快復していない事になっているからね」
「そうか、ではそうしよう」
リタはハンジの意見を採り入れて、ラガコ村の調査にミカサを同行させる事にした。
「それでリタ、捕虜の様子は?」
ペトラはリタは訊ねる。
「ああ。捕虜、カーヤと言ったが、地下牢に閉じ込めている。ただかなり怯えた様子ですぐに尋問できそうないな。ただ拷問したりするつもりはない。虐待されていたようだから転向の可能性はあると考えている。敵拠点への水先案内人になってくれればいう事がないのだが……。我々の事を”悪魔の末裔”と教え込まれているようだから、誤解を解くのに時間が掛かるかもしれない」
地下牢とはこの研究棟機密区画に地下に作られている隠し場所を改装したものだった。むろん工事は
「彼女は”戦士”ではないのですか?」
「絶対とは言い切れないが、簡易検査の結果、血液中に特殊抗体は発見できなかった」
リタとシャスタは巨人化能力の原理を体内に含まれるナノマシンではないかと推測をつけており、その推測に基づいて
「それより問題はウォール教の方だろう。ハンジ」
「まあ、言われてみれば符合があうね。彼らは5年前から急に勢力を拡大していると聞いている。後ろ盾に敵勢力からの支援があったのだろうね」
「5年前というとウォールマリア陥落ですね」
ペトラが口を挟んだ。
「そうだと思うよ。それに例のプレートだ」
ハンジは被験体巨人の殺害現場においてウォール教のプレート(女神像が彫られたリリーフ)を回収している。気化しきっていない巨人の躯の下にあった為、
「そ、そうですね」
「おそらくウォール教の中枢は敵とつながっているんだろうね。もっとも末端の信者達は真相を知らないだろうけど……」
「だとしても見逃すわけにはいかない。壁外から偵察部隊が来た事を他の連中に知られるわけにはいかないからな」
リタはシャスタに在家信者夫婦の殺害を命じていた。(直接殺害したのは
「信者達の直接の上司はカラネス区の教区長だという。さすがに内地の調査までは我々の手に余るだろう。ハンジ、君のところの団長に情報を流して捜査させてはどうかな?」
「そうしようと思う。団長は今日の午前にはこちらに戻ってくると聞いている。私が直接話しておこう」
「ウォール教の件はなるべく急いでくれ。内なる敵を排除しない限り、外の強大な敵に勝つ事はできないだろうな」
リタの言葉にハンジとペトラは頷いている。カラネス区教区長から始って、ウォール教の上層部、中央第一憲兵団、さらには一部の保守派貴族につながっている可能性もあった。本人達がどこまで自覚しているかは不明だが、人類の裏切り者がいるわけだった。いつ背中を刺されるか分からない状態では勝てる戦いも勝てないだろう。
「では最後に今回の会議の決定だが……」
リタは立ち上がってホワイトボードに今回の決定事項を書き出していった。
その1、リタ・ミカサはラガコ村に調査に赴く。
その2、ハンジは団長と接触、ウォール教の調査を促す。
その3、捕虜については転向を促す。
その4、ペトラ・アルミン・クリスタは本日の行軍演習に参加。
シャスタが疲労で倒れてしまった以上、彼女にあまり無理をさせる事はできない。今回のように敵が複数地点を同時に攻撃してくる事を考えれば、秘密結社の
【あとがき】
シャスタは過労で倒れてしまいました。さすがに働きすぎですよね。リタ達を技術面で支える為に奮闘していましたから。おまけに長時間馬車に揺られて遠征してます。
ラガコ村の件は、リタがバイオテロと推測しました。原作を知っている読者なら……わかるかと思います。
【次回予告】
今度こそ、ミーナ達新兵の話にするつもりです。多分……