進撃のワルキューレ   作:夜魅夜魅

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一ヶ月ぶりの更新になってしまいました。リアル方面でバタバタが続いたためです。

極秘任務を終えたミカサとアルミンの翌朝のシーンです。


第6章、ラガコ村事件
第44話、再度の極秘任務


(side:ミカサ)

 

「ミカサ。任務の完遂、ご苦労だった。それにシャスタを無事連れて帰ってきてくれて礼を言う」

 会議室に呼び出されたミカサ・アッカーマンは、先輩のリタ・ヴラタスキから礼を言われた。傍らには自分達新兵の指導教官でもあるペトラ・ラルが座っている。外出している事が多かったリタとは顔を合わせる事は少なかったので、こうして会話するのは弔いの日(トロスト区防衛戦の葬礼)以来だった。リタは赤毛の短髪に童顔、小柄な体型で、一見するとミカサ(15歳)と同年代に思える。もっともペトラやハンジと対等に会話している事から考えて、実年齢は20代だろう。

 

「いえ、任務ですから。それに実際、わたしは敵と戦ったわけではありません」

 ミカサはそう答えた。実際、昨晩の極秘任務ではミカサ自身は一戦も交えていない。戦闘を行ったのは07(ミタマ)と呼ばれる奇妙な動物の方だった。

「そうね、もともとあなた達をの役割は補佐(バックアップ)だったからね。ただ状況によっては戦う必要があったかもしれない。とにかく無事に済んでよかったわ」

 ペトラが微笑みながら口を挟んできた。

「その……、シャスタ先輩は?」

 ミカサは復路途中に倒れてしまったシャスタの容態を聞いた。

「シャスタはしばらく休養が必要だ。もともと開発作業だけで激務だったところにわたしが任務を割り振ってしまったからな」

「?」

ミカサはリタは言い方に違和感を覚える。

「ミカサ、あなたには本当の事を教えてあげる。今回の作戦の立案および発命者はここにいるリタよ」

ペトラはさらりと重要な事を告げた。

「えっ!?」

 ミカサは今回の極秘作戦の発令者はハンジであると聞いていたので、少し驚いた。リタは技術班に所属する職人だと思っていたからだ。リタが否定しないところをみるとどうやら事実のようだった。

「簡単に言うと二重組織みたいなものね。わたしとハンジ分隊長、そしてシャスタの4人で結社みたいなものを結成しているのよ。この結社内では、リタが最上位。わたしとハンジ分隊長が、リタ達に協力しているというのが正確なところね」

「……」

「納得いかないって顔しているわね。でもちゃんと理由があるのよ。今は話せないけど……」

「知る必要があれば情報は教えてくださるのでしょう?」

「それはそうよ」

「それならあえて聞きません。わたしは一介の兵士ですから」

「ミカサ、あなたは物分りが早くて助かるわ」

 ペトラは満足そうに頷いた。ミカサは兵士としての分を弁えていた。それに昨晩の極秘任務、情報の正確さと対処能力の高さで、ペトラ達の秘密結社の作戦遂行能力の高さが十分実感できた。世間の目に決して触れる事はないが、普通の兵隊では対処が困難な敵を的確に叩くという重要な役割を担っている。巨人勢力の潜入工作員だけでなく人類の裏切り者の存在が明らかになった現在、こういった特殊作戦を行う部隊の重要性は増しているだろう。

 

 ミカサは昨日から疑問に思っている事を聞くことにした。

「わたしが知る必要があるかわかりませんが、07(ミタマ)、あれはなんでしょうか?」

 シャスタが”ミタマ”と呼んだ奇妙な動物。丸みの帯びた体系、背丈は子供程度だが、人間の数十倍の腕力、銃や剣が通用しない強固な外殻、さらに暗闇でも作戦行動可能という巨人とは違う意味で化け物のような存在だった。味方なら確かに心強いが、人でない以上どこまで信用していいのかミカサには分からない。

 

「ああ、ミタマの事ね。心配いらないわ。リタ達が昔から飼っていた動物だからね。軍馬みたいなものよ」

「そ、そうですか……」

「命令に反してわたし達を攻撃する事はない。その点はわたしが保証する」

 リタとペトラが太鼓判を押している以上、聞いても無駄のようだった。

 

「それと……、捕虜(カーヤ)については?」

 昨晩捕獲した敵側の潜入工作員――カーヤは拘束した後、馬車で研究棟まで連行してきていた。リタとペトラが引き取り、その後についてはミカサは知らなかった。

「彼女の事もそうだけど極秘任務の内容は一切口外しないで欲しい。彼女は”戦士”(巨人化能力者)ではないと思われるが、仮にも敵勢力の人間だ。憲兵団に知られたらいらぬ介入を招く事になる」

「はい、わかりました」

 ミカサはすぐさま承諾した。調査兵団の立場が微妙なのはペトラ達から説明を受けていた。対巨人戦闘では最精鋭部隊ではあるが政治的には弱い立場で、常に憲兵団に監視されている状態だった。王政府の締め付けを良しとしない荒くれ者の集団であり反乱を警戒しての事だろう。ミカサは以前までは政治に関心はなかったが、ハンジやペトラから内情を聞かされて複雑な思いだった。人類一丸となって巨人に立ち向かうという状況になっていないからである。

 

「さてと……ここからが本題ね。ミカサ。昨日の今日で悪いけど、もう一度極秘任務に引き受けてもらえる?」

「極秘任務ですか?」

 ミカサはペトラの言葉に目を丸くして驚いた。まさかすぐに極秘任務が来るとは思っていなかったからだ。

「リタ、説明してあげて」

「ミカサ、昨日、ペトラ達が西側のウォールローゼ辺境で作戦行動をした事は知っているな?」

「はい」

 ミカサはペトラ達特別作戦班がクロルバ区(西端の城塞都市)方面に出陣した事は聞いていた。作戦は成功したと聞いているが、詳細については知らされていない。

 

「敵工作員はどうやらラガコ村の水場に何かを撒いたらしい。ペトラ達が確認している」

「……」

「敵巨人勢力がわざわざ潜入工作員を使ってまで僻地の村に毒物らしき物を撒いたという事だ。ミカサ、何か疑問を感じないか?」

 リタに訊ねられてミカサは考え込んが、よくわからなかった。

「え、えーと……」

「人類側により損害を与えようとするなら都市の水場を攻撃する方が理に適っているだろう」

「そういえばそうですね」

「ここからはわたしの予想だが、撒かれたのはただの毒物ではなく、人に感染する病気の元(病原菌)が撒かれた可能性が高い。それもただの病気ではなく致死性の高い悪性のものだろうな。わたしはこれからラガコ村の調査に向かうが、ミカサ、君にも同行してもらいたい」

「はい、了解しました」

「予め言っておく。村人を助けにいくわけではない。最悪、村人全員を見殺しにせざるを得ない場合もある。だがそれはウォールローゼ全住民を救うためだと割り切ってもらいたい」

「!?」

 リタの言葉にミカサは驚く。確かに最悪を考えれば有り得る事態だった。敵巨人勢力の悪辣さは今に始まった事ではない。手段を選ばず人類を滅ぼそうという連中だ。だからこそ奴らには絶対に負けるわけにいかないのだ。

「……了解です」

「じゃあリタ、ミカサ。気をつけて行ってきて」

「ああ、任せてくれ」

 リタとミカサは直ちに出動準備に入った。

 

 

 

(side:アルミン)

 

 馬の戦慄きが聞こえてくる。アルミン・アルレルトは研究棟内の個室(元倉庫)で目を醒ました。昨晩の極秘任務から帰還して後、機材や装備の後片付けなどで就寝は深夜を回っていた。雨戸の隙間から差し込む明りで朝食の時間帯はとっくに過ぎているのが分かった。

 

(どうして馬を!? 先輩達、もしかしてラガコ村に向かうんじゃ?)

 昨晩の任務中、アルミンは上官であるペトラと口論になったのだった。ラガコ村に対する敵の破壊工作を知りながら、任務の秘匿性を重視して無視を決めたペトラに対し、アルミンは異論を唱えてしまっている。ペトラの意見が戦術的に正しい事はアルミンとて理解はしている。しかしながら同期で仲の良いコニーの家族――弟や妹が犠牲になるのは割り切れない思いだった。

 

 アルミンは起きようと手を伸ばした。するとシーツの中に温かくて弾力性のある柔らかいものが掌に触れた。

(え? なに?)

 アルミンが驚いてシーツを捲ると、そこには金髪の少女が身体を丸めて眠っていた。寝巻き姿のクリスタだった。さきほどアルミンが触れたのはクリスタの胸だったようだ。クリスタはもぞもぞと動くと顔を上げて大きく欠伸をした。

「ク、クリスタ?」

「あー、アルミ~ン。おはよ~」

「ど、どうして僕の寝床に?」

「え、えーとね。あのね~、部屋間違えちゃったかな?」

クリスタは頬に指を当てて首を傾げながら答えた。わざとらしい言い訳だった。

「もう! ふざけないでよ!?」

「ごめん、ごめん。実はね、ペトラ先輩に言いつけられているの。今日は一日、アルミンと一緒にいなさいって」

「一緒なのは今日に限った事じゃないと思うけど?」

アルミンとクリスタは特別な事情により、あの日(トロスト区攻防戦)以来ハンジ分隊長管轄の調査兵団研究棟で寝起きするようになっている。先輩のペトラが指導教官となり、座学と訓練を重ねてきた。クリスタとは一日中顔を突き合わせている間柄である。

「ううん、今日は常に見えるところに一緒にいなさいって言われているもん」

アルミンはだいたいの事情を察した。おそらくクリスタはペトラから自分をそれとなく監視するように言われているのだろう。昨晩の件を自分が外部(コニー達)に漏らす事を恐れているのかもしれない。ペトラには全て先読みされている気分だった。

 

「ふーん、そうなんだ」

「うん、今日は自習する事になっているよ。日課の運動と課題の報告書(レポート)作成、それに古代語(バーストイングリッシュ)の習熟とかする事は一杯あるもんね」

古代語(バーストイングリッシュ)とはある遺跡で発掘された未知の言語らしい。詳しくは教えてもらっていないが高度な技術情報に触れる為には習得は必須である。そうペトラやシャスタからは聞かされていた。古代語は自分達が使う言葉とは文法の仕組みも文字の形も全く異なる。主要26文字、数字、いくつかの記号だけで全てを表現する簡易言語らしいが、アルミン達の習熟レベルは初歩の段階だった。先輩のペトラも習い始めて日が浅く、この言語に関してはシャスタとリタが講師である。

 

「ペトラ先輩、普段は優しい顔しているのに怒ると鬼教官だもんな」

「ふーん、今の発言、先輩に言っちゃおうかな?」

「く、クリスタ。それは酷いよ。僕をいじめないでよ」

「あはは、冗談だって」

 クリスタと会話をしながら、アルミンは考えていた。現状、ラガコ村の事は自分の管轄でない事はよく分かっていた。偶然、ピクシス司令に拝謁できる機会を得たが、新兵であることには変わりはない。アルミンとクリスタは成り行き上、重要な軍事情報(巨人化能力者、アニ謀殺)に触れてしまったので、言い方を変えれば、研究棟内に軟禁されている状況ともいえた。今は事を荒立てるべきではないだろう。今日のところは平穏無事を祈るしかなかった。




【あとがき】
ミカサ、リタと共にラガコ村へ調査に赴く。原作同様、惨劇が待っています。

アルミンとクリスタは、研究棟内で自習。

ペトラは別件の用事、ハンジはトロスト区支部にて調査兵団幹部と会合しています。

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