進撃のワルキューレ   作:夜魅夜魅

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リタ、ミカサ。ラガコ村に到着します。そこで目にした光景は……

※注意)この話には残酷な描写があります。


第47話、惨劇の村

 時刻は調査兵団の主力部隊が巨人の群れを発見する1時間ほど前に溯る。リタ、ミカサの二人組はラガコ村の建物群を視界に収める2キロ程の位置にやってきた。ミカサが御者を務め、幌で覆った荷馬車の中にリタが乗り込んでいる形である。

 

 ミカサは昨日の任務を終えて、リタを指揮官とする軍事組織――秘密結社の有能性を実感していた。シャスタのずば抜けた技術力もさることながら、情報収集能力の高さはもはや言うまでもない。壁外領域(ウォールマリア)の巨人の群れの動向を把握できるからこそ、昨晩のような少人数による迎撃策も採る事ができるのだった。シャスタの説明ではその手段が確立できたのはトロスト区攻防戦以降という事だった。

 

(もう少し早ければ、エレンだって死なずに済んだかも……)

 恩人であるリタやシャスタに文句を言うのは筋違いかもしれない。それにトロスト区では甚大な犠牲を出したが、それ以上の大きな戦果があったともいえる。人類の怨敵たる鎧の巨人(ライナー)超大型巨人(ベルトルト)を討伐し、巨人化能力および巨人を操る敵勢力の存在をも明らかになったからだ。単純に人を食う化け物――巨人を駆逐するすればよいという話ではなくなっていた。エレンが今の現状を知ったらどう思うだろうか?

 

09(ミカサ)、馬車を止めろ!」

 物思いに耽っていると後ろからリタから声を掛けてきた。ミカサは手綱を引いて馬を制止した。

「ここからは徒歩で村に接近しよう。馬車はここに繋いでおけ」

「わかりました」

 ミカサはリタの指示に従って手綱を近くの木に結び付けた。その間にリタは馬車を降り、村の方を双眼鏡らしき装置を使って観測していた。

 

「おかしいな。この時間帯なら村人が農作業しているはずだが、人影が全く見当たらない」

「やはり毒物でしょうか?」

 ミカサは事前に聞かされていたリタの推測を口にしてみた。

「……そうだな。ここで憶測を述べていても仕方がない。わたし達の今回の作戦目的は水場の水を採取し持ち帰る事だ。では行くぞ!」

「はい」

 ミカサはリタに付いていく。ミカサはリタの甲冑姿を見て、改めて驚かされた。

 

(これが武器なの!? いくらなんでも大きすぎるんじゃ……)

 事前に説明を受けていてもミカサは驚かずには居られなかった。リタは艶やかな深紅の鎧(機動ジャケット)を纏い巨大な戦斧(バトルアックス)を持っている。重量200kg、斧というにはあまりに大きすぎる鋼鉄の塊とも言うべき得物である。普通に考えれば人が持てるサイズではないのだが、リタは普通の刀剣類を持つような感覚で持ち運びしていた。おそらく天才技術者――シャスタが開発した特別な鎧のおかげだろうが、常識を超えた存在だった。考えてみれば、昨日の任務で一緒だった07(ミタマ)も化け物じみた存在だったのだ。

 

 リタとミカサは村の北はずれにやってきた。相変わらず人影は見当たらない。しかし、農家の家屋のいくつかは激しく破壊されたような跡が見受けられた。村のあちらこちらに何かが散らばっているようだった。ミカサは怪訝に思い、それらを注視してみた。

 

「えっ!? こ、これは……」

 ミカサの視界に凄惨な現場が飛び込んできた。明らかに幼児と分かる子供の手。散らばった内臓、作業着をきた下半身だけの人体、頭蓋が割れて中身を見せている首だけの女。少なく見積もっても十数人の亡骸だった。まるて巨人が食べ散らかした後のような有様である。

 ミカサにとっては初めて見る惨たらしい光景だった。トロスト区戦では後衛に配置され、敵の|巨人化能力者(ライナー達)と交戦した直後に人事不省(じんじふせい)に陥っている。そのため実際にトロスト区の凄惨な戦闘現場を見たわけではなかったからだ。

 

「ひ、酷い……」

「悪い予想があたったな」

 リタはとくに動揺することなく周囲を冷静に観察しているようだった。

「ど、どういう事ですか?」

「見てのとおりだ。巨人が出現したのだろう」

「し、しかしここは壁の中です。まさか巨人が壁を越えて……」

鎧の巨人が壁を登った実例があるので、ミカサはそう思ったのだ。

「いや、もっと悪い事態かもしれない」

「それは?」

「憶測を述べていても仕方ない。水場に向かうぞ」

「……」

リタは会話を打ち切るとさっさと歩き始めた。ミカサは急いでリタの後を追った。

 

 村の中央の広場に近づくと、リタは手で制した。

09(ミカサ)、巨人がいる。その右の建物だ!」

リタは戦斧を構え戦闘態勢を取っていた。ヘルメットを被りその表情はミカサからは分からない。

(ど、どこに巨人がいるの?)

ミカサは辺りを見渡しても特に巨人らしき姿は確認できない。巨人特有の地響きを立てる足音も聞こえなかった。ミカサは戸惑いながらもブレードの柄を握り締めた。

 

 突如、大きな農家の建物から獣の雄たけびのような咆哮(ほうこう)が聞こえた。その直後、建物は激しい物音を立てながら崩れ落ちていく。土煙が立ち込め、その中から巨大な体躯の何かが現れた。

 

09(ミカサ)、隠れろっ!」

「はいっ!」

 リタとミカサは近くの納屋の影に飛び込んだ。角から顔を少し覗かせてみると、先ほどの崩れた建物の中に巨人がいるのがわかった。猫背をした老人で悪意に満ちた笑みを浮かべる8m級巨人だった。いや猫背である事を考慮すれば12m超級の大物かもしれない。

「ぐへへへっ!」

猫背巨人は不気味な笑い声を上げながら辺りをキョロキョロと見渡している。獲物である人間を捜しているようだった。

 

09(ミカサ)、お前は戦えるか?」

 リタが小声で聞いてきた。

「も、もちろんです。そのために今まで鍛錬してきたのですから」

「よし! ならばわたしが奴の注意を引く。お前がトドメを刺せ!」

「了解です」

「ふっ」

 リタはヘルメットを被っているので表情は窺い知れなかったが、リタが笑ったような気がした。リタは巨人を前にして随分と余裕がありそうだった。

 

(もしかして、巨人が出現する事がわかっていたんじゃ……)

 ミカサはなんとなくそう思えてきた。今回、自分達は対巨人戦を想定した完全武装で出撃している。リタがただの水質調査とは考えていなかった証拠だろう。

 

 巨人は地響きを立てながら自分達へと近づいてくる。リタは慎重に間合いを測っていた。

「では頼んだぞ」

 リタはそう言って建物の陰から飛び出し、一気にその巨人に肉薄する。巨人の死角からの攻撃であり、その巨人がリタの方に顔を向けたときには懐へと潜り込んでいた。

 

 空気を斬り裂く旋風と共に、巨大な戦斧が一閃。鈍い衝撃音と共に巨大な戦斧が巨人の膝下に叩き付けられたのだった。片脚を一撃で破壊された巨人はその場に肩膝を衝いて中腰の姿勢になった。

 

 リタはすかさず追撃を見舞う。跳躍し、戦斧を巨人の顔面に横殴りに戦斧を振り下ろした。ぐしゃっという肉の潰れた音と共に巨人の顔面が陥没、目を完全に破壊していた。むろん巨人の驚異的な再生能力の前では時間稼ぎに過ぎないが、それでも数分間は奴は暗闇の中だろう。

「うおおおぉぉ!!」

猫背巨人は痛がっているのが大きな呻き声を出していた。

 

「今っ!」

 リタの掛け声に促され、ミカサは飛び出す。視界を失った巨人は目を押さえているため、背後はがら空きだった。肩膝をついた状態なので、延髄の弱点までの高さは4mほどだ。ミカサは立体機動装置を使って巨人の背後に回りこみ、アンカーを巨人の肩に打ち込み突撃した。

 

「はあぁっ!!!」

 二対の硬質ブレードを一気に切り下し、うなじを叩き斬る。手ごたえ十分、うなじを深く切り飛ばした。ミカサは勢いのまま、地面に転がるようにして着地し、受身を取る。

 

 ミカサは後ろを振り返ると、猫背巨人が前のめりに地面に倒れ込んでいた。巨人のうなじの傷口からは蒸気が激しく噴出している。どうやら訓練どおりうまく出来たようだった。

 

「や、やったっ!」

 ミカサは動悸がすぐには収まらなかった。いくら訓練を積み重ねてきたとはいえ、今初めて巨人を討伐したからである。

「さすがだな。逸材と噂されるだけはある」

リタはぶっきらぼうに声を掛けてきた。

「は、はい……。先輩のおかげです」

ミカサは素直に礼を言った。そもそもリタが巨人の片脚・視力を奪ってお膳立てをしてくれたからこそ、ミカサは完璧な仕事が出来たわけだった。

 

(リタはわたしに獲物を譲ってくれたのよね?)

 ミカサはさきほどのリタの俊敏な動きで、戦闘能力の高さを実感していた。重厚そうな甲冑姿からは考えられないような身のこなしである。たとえ生身であってもこれほど速く動ける兵士はいないだろう。ましてリタは身の丈程の巨大な戦斧を手にしているのだった。その気になればリタ一人で今の巨人を倒せていたはずだ。それをあえて新兵のミカサに譲り、実戦の場を踏ませる事にしたようだった。

「他に巨人はいないようだ。目的地へ向かうぞ」

リタは倒した巨人には目もくれず、先へと急いだ。

 

 数分後、ミカサ達は目的地である村の南側にある水場へと到着した。水場は浅い井戸で壁のない雁木の屋根が組まれている。ミカサが周囲を警戒する中、リタが水場の水を採取し、持ってきた金属製の水筒に入れていた。

 

 リタは腰にあるポケットから金属製の小さな筒(スタンポッド)を取り出し、井戸に向けて投げ込んだ。バチバチと火花が飛び、井戸の中から黒い煙が上がってくる。

 

「何をしているんですか?」

「消毒だ。……を流し込んだ」

「えっ!?」

 ミカサはリタの発した言葉の意味が分からなかった。

「ああ、すまない。君達にはない言葉だったな。説明すると長くなるが、要するに奴らの撒いた病原菌を死滅させる方法だと思っておいてくれ」

「え、ええっと……」

「悪いが説明している暇はない。急いで戻るぞ」

「あっ、はい」

リタは詳しく説明しようとしなかった。ミカサも今が作戦目的が最優先である事を理解していたので深く聞く事はしなかった。

 

 死臭の漂う無人の村と化したラガコ村を突っ切ってミカサとリタは急ぎ足で歩いていく。村の北側には惨殺死体が散乱し、南側には破壊された建物が幾つも見受けられる。生存者は一人も居ないようだった。痛々しいのは年端も満たない幼子――腰から上だけしかない遺体が虚無の瞳でミカサを見つめている事だった。苦悶の表情を浮かべたまま息絶えている。

 

(これが巨人に襲われたという事なの!? ……、怖かったでしょうね。苦しかったでしょうね。ごめんなさい。助けられなくて……)

 ミカサはその幼子に胸の内で哀悼の念を捧げた。

 

09(ミカサ)、どうやら遅かったようだ」

 リタが立ち止まって話しかけてきた。

「どういう事ですか!?」

「巨人の群れが接近してきている」

「まさか……」

 ミカサは驚きながらも耳を澄ましてみる。かすかに地響きとも思える音が聞こえてきた。

「数は最低でも20体はいるな。どうやらさきほど斃した巨人の叫びが呼び寄せたようだ」

「どうしますか?」

「馬車のところまでは間に合わないな。仕方がない。一旦、隠れてやり過ごそう」

「戦わないのですか?」

「それしか手段がなければだが、今は無理する必要はない。確か演習中の調査兵団が近くまで来ているはずだ」

「調査兵団!? そういえば今日、行軍演習をすると聞いています」

「そうだ。ハンジには念のため完全武装で出陣するように伝えている。猛者揃いの調査兵ならば巨人数十体程度なら蹴散らしてくれるだろう」

「……」

リタはやはり巨人の出現を念頭に置いていたようだった。偵察気球の実用化などによって発言力が高まっているハンジを通じて、調査兵団の主力部隊を動かして敵巨人の出現予想地点に向かわせていたのだった。

 

(ミーナやコニー達も参加しているはずよね? 彼らも巨人と戦うという事なの?)

 ミカサは同期の仲間達の事が心配になった。巨人との戦いが楽な戦いになるはずがない。トロスト区で修羅場を潜り抜けたとはいえ、まだまだ訓練兵に毛が生えた程度だろう。出来る事なら自分も第104期の同期達と一緒に戦いたかったのだ。

 

「そう心配するな。ミケ・ザカリアス団長代行をはじめ、多くの強兵(つわもの)が揃っている。駐屯兵団の精鋭班も同行していると聞いている。しかもここは内地で巨人の数も限られている。壁外調査よりはずっと条件がいいだろう」

 リタはミカサの顔色を見て気持ちを察したようだった。

「それはそうですが……」

09(ミカサ)、お前が戦いたいというのも分かる。だがわたし達の任務を忘れるな。この戦争、ただ巨人を討伐すればいいというものではないという事はお前にも分かっているはずだ」

「……」

「それに今のお前は(おおやけ)には重傷を負い、満足に動けない事になっている。シャスタやペトラ達を困らせないでくれ」

「はい」

ミカサも現在の自分がリタの配下に居る事は理解している。恩人であるリタ達を裏切る真似はできないだろう。リタとミカサは巨人の群れが調査兵団に引きつけられた隙を見て離脱する事になった。




【あとがき】
リタ、ミカサ。両クロス作品の最強ヒロインペア登場。(ただしミカサはこの時点では巨人討伐数0で初陣) リタの戦闘能力なら巨人10体程度なら高確率で撃破してしまうでしょうが、作戦目的(水場のサンプル採取)を優先しました。この後、ミーナを含む調査兵団主力部隊が巨人と交戦します。

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