進撃のワルキューレ   作:夜魅夜魅

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久々の更新になってしまいました。原作でも調査兵団によるウォールマリア奪還作戦が始りました。しかし、敵(ライナー達)も準備万端で待ち構えていたところで、どちらが勝つか、知略を駆使した戦いで目が話せないところです。

本作では原作でいう”座標”の設定がないため、原作との乖離が大きくなりつつありますが、その点はご了承ください。

【前話までのあらすじ】
ラガコ村付近で突如出現した巨人の群れ。付近を行軍演習を行っていた調査兵団がこの群れの討伐に入る。しかし、獣の巨人や組織的戦闘行動を取る新手が現れて、ミーナ達新兵は一転窮地に追い込まれた。一方、調査兵団本隊もハンジの指示により、待機している。
 さらに調査兵団に先じてリタとミカサの秘密結社組もラガコ村調査に来ていた。



第51話、魔弾

 うなじ付近に憲兵団新兵達を磔にした巨人達の群れ。横一列に展開しての組織的な戦闘を行っている事は明白だった。ミーナ達新兵は巨人は強大であっても無知性であるから対抗可能と教わっていたので、こんな事態は想定外である。もはや為す術がなかった。

 

「や、やめてくれー!!」

 また一人逃げ遅れた新兵が10m級巨人に捕まった。片脚を捕まれて逆さ吊りにされて持ち上げられていく。手足をバタつかせて激しく動かしていたが無駄な抵抗だった。大きく腕を振ったかと思うと持っていた新兵を地面に叩き付けたのだった。水風船が弾けるような音と共に血肉が飛散した。巨人の圧倒的な力の誇示であり、捕食を目的とする従来の巨人達とは明らかに違う動きである。

 

(そんな、もう逃げられない!? ど、どうすればいいの?)

 ミーナ達は森の奥へと逃げたつもりだったが、森はそこで途切れていた。開けた荒地が目の前にある。巨人を前にして平地に降り立つ事がどれほど危険かは、兵士ならば誰もが知っている常識だった。

 

「ミーナ!? 逃げて!!」

 サシャの叫び声が聞こえた。振り向けば巨人の手がミーナに向かって伸びてきていた。立体軌道装置で逃げる隙もなかった。次の瞬間にはミーナは巨人の手に捕われていた。もがいてもピクリとも動かない圧倒的な力である。

 

(わたし、殺される!? ……)

 数秒時間が経過しただろうか、ミーナは異変に気付いた。ミーナを掴んでいた10m級巨人は動きを止めている。そればかりではなく、周りの巨人達も皆動きを止めていた。

 

「この野郎っ! ミーナを離せ!!」

 ジャンが立体軌道装置を使って、ミーナの方へと飛翔してくる。己の身体を回転させながら、超硬質ブレードを巨人の手首に振り下す。一閃、手首の腱を切断したのだった。ジャンは立体軌道装置の扱いは訓練兵団随一の腕前を持っており、同期からも一目置かれている。それが遺憾なく発揮された瞬間だった。

 

 とたんミーナは自分を掴んでいた巨人の握力がなくなり、そのまま地面へと落下していった。衝撃が全身を打つ。

「あいたたっ!?」

 ミーナは思わず痛みで叫び声を上げた。ミーナは腰をさすりながら辺りを見渡す。どうやら低木の茂みがクッションとなり落下の衝撃を和らげたようだった。

 

「おーいっ! 巨人達は動きが止まった! 今のうちに(憲兵団新兵を)助けるぞ!」

 ジャンが回りの新兵達に発破を掛ける。しかし他の新兵達の動きは鈍かった。巨人達がまた動きだすのではないかと恐れているようだった。あるいは助ける対象が自分達を嘲笑していた憲兵団新兵という事もあったのかもしれない。

 

「お前ら、仲間を見捨てろと習ったのか!? 憲兵団も巨人と戦う同士じゃないか!?」

「そ、それもそうだな」

「貸しを作るのも悪くねーな」

 コニーが鼻を擦りながら同意する。ジャンが一喝したことで、新兵達は動き始めた。

「まずは先に彼らを助けよう。トドメはその後だ」

 新兵達は一斉に立体軌道装置を使って飛び出し、巨人達に向かっていく。最初にうなじに磔られた憲兵団新兵を切り離す事から始めた。連続して兵士が斬りかかり、新兵達を剥がし終えた後、新兵の身体を数人かかりで担いでいく。その後、後発組の兵士達が次々と巨人のうなじを斬り裂いていった。

 

 静止状態の標的と化した巨人を仕留めるのはさほど難しいことではなかったようだった。

「やったー! 巨人討伐数1っ!!」

 サシャは最初の巨人撃破で大喜びしている様子だった。

「はん! 動かない巨人なんて、やった内にも入らないねーよ!」

「でも討伐は討伐ですよぅ!」

 コニーの揶揄する声が聞こえたが、サシャはお構いなしといった様子だった。ミーナは起き上がり、救出された憲兵団新兵達の様子を窺った。彼らは他の新兵達に介抱されているところだった。幸いな事に手足は付いていた。手足を巨人の身体の中に埋め込まれていたと表現した方が正確だった。しかし、高温の巨人の身体に触れていた事で火傷を負っているらしく、真っ赤に爛れていた。

 

「あ、熱いよ! な、なんであたしがこんな目に!?」

 憲兵団新兵の少女兵―ヒッチが喚いていた。そんなヒッチの悪態に眉を潜めながら、周りの新兵達が救助した者を介抱していた。

「す、すまない。礼を言わせてくれ」

 憲兵団新兵の筆頭――マルロは礼儀正しい人物のようだ。ジャン達に向けて感謝を述べていた。

 

「なあ、ジャン。なんで巨人達、急に動きが止まったんだ?」

「さあな、オレが聞きたいぐらいだ」

 新兵達は各々、お互いの顔を見合って首を傾げていた。あのままだったら自分達は間違いなく巨人達に蹂躙されていただろう。

 

(いったい、どうなってるの? 何が起こってるの?)

 辛うじて命拾いしたミーナは状況の急激な変化についていけず、呆然と突っ立っていた。

 

 

 

 今回の行軍演習の首脳陣の傍らに、調査兵団精鋭兵士――グンタと同僚のエルド・ジンがいた。

「おい、なんで待機命令なんだよ!?」

 グンタは、動きの鈍い首脳陣に対する苛立ちを募らせていた。森に逃げ込んだ新兵達が新手の巨人の群れに襲われているというのに、降りてきた最新の命令は「待機」である。

「なにか考えがあるんじゃないか? もっともミケじゃなくてハンジの策だろうよ」

 エルド・ジンはそっけなく答える。

「ハンジか!?」

 ハンジの名前を出されてグンタは暫し考え込んだ。奇行が目立つハンジだが、天才的な閃きの持ち主であることは知れ渡っていたからである。今回の行軍演習の行き先もハンジが直前になって急遽、変更を主張した事も知っている。

 

「おい、グンタ! あれを見ろ!」

 エルドの指差す方向を見ると、空に幾つもの花火が撃ちあがってた。

「あ、あれは……」

 むろん、こんな辺鄙な荒野で花火を打ち上げる酔狂な馬鹿はいないだろう。花火といえば、すぐさま思い当たる節があった。トロスト区防衛戦において、最重要標的たる鎧の巨人・超大型巨人を仕留めた際、ほぼ同時に花火が使われたのだ。それも友好的と考えられる壁外勢力――ユーエス軍によってである。

 

一撃で知性巨人を倒す超兵器は、今の人類は持ち合わせていない。トロスト区とまったく同じパターンだった。

 

「お、おい! 見ろよ、あの猿巨人が倒れたぞ!?」

「例の新兵器か!? やったぞ!」

 兵士達の間から一斉に歓声が上がった。

「”彼ら”がいるのか!?」

ユーエス軍に関しては幹部のみの機密事項扱いとなっているので固有名詞は出せない。それでグンタは”彼ら”と表現した。

「いるんだろうな」

「しかし、一体どうやってアレ(獣の巨人)を倒したんだ!?」

「……」

 グンタはエルドに訊ねたが、彼は首を振るばかりだった。

「残る巨人は通常種に過ぎんっ! 総員突撃っ! 総員突撃せよっ!」

 伝令兵が大声でミケからの命令を伝えてきた。グンタは馬の手綱を引いて駆け出す。

「うおおおぉぉぉぉ!」

苦境に立たされていた戦況が一変したのだ。兵団の兵士達の顔に輝きが戻っている。調査兵団全軍は総反撃に転じた。

 

 

 時間は数分ほど溯る。獣の巨人は為すすべなく狩られていく調査兵団新兵達を侮蔑しながら、戦況を観察していた。彼は壁外勢力”故郷”より派遣された威力偵察を目的として上級戦士である。

 数週間前のトロスト区侵攻は絶対に失敗するはずのない作戦だったが、味方からの一切の音信不通という結果に終わった。壁内人類に戦士――知性巨人を倒す術がない以上、戦士の誰かが裏切りを働いたに違いない。督戦されていたはずだが、家族親族の犠牲を覚悟で反乱を起し、さらに壁内人類側の真の支配者も反乱軍に組している可能性も考えられた。現時点においても壁内支配者からの釈明の使者が来ていないのが疑惑の種である。

 

(ぐふふっ。ホント愚か者ですよネ、たかが数人の戦士の反乱に組して滅びの道を選ぶとハ……)

 彼は一般戦士と違って、洗脳教育は受けていない。壁内人類が悪魔の末裔か否かはどうでもいい話だった。祖国”故郷”にとって《壁内|ウォール》世界は、いつでも潰す事のできる属国のようなものだった。事実過去百年間、壁の内外で密貿易が行われており、”故郷”側からは塩を始めとする調味料や各種嗜好品、壁内側からは主に巨人化素材(人間)が輸出されていた。

 

 それが変わったのは、6年前、地質調査隊の一行が壁内世界に程近い河川で砂金鉱を発見したからである。砂金の採取を行うには工夫達人間が行う必要があるが、徘徊する巨人達の存在は邪魔だった。大半は制御できるとはいえ、常時というわけにはいかず、制御を受け付けない奇行種もいるからである。巨人達を壁内へと追いやる作戦が、5年前のシガンシナ区侵攻だった。(人類側でいうウォールマリア陥落)

 

 経済的利益優先だが、国内的には高邁な悪魔の末裔に懲罰を与えるという理由を大儀名分としている。壁内の真の支配者は、これまで以上の援助物資を与えることで機嫌を取ることにしたが、こうして反乱軍に組したところを見ると、よほど不満を募らせたらしい。それでも彼我の戦力差を考えれば愚かな選択である。裏切り者の戦士が最大3人だとしても、戦力比は百倍を超えている。壁内人類側に万が一にも勝ち目はない。

 

(フフフッ、これは予告ですヨ。壁内に安全な場所など存在しない事がよーくわかるヨネ)

 壁内の僻地の村――ラガコ村に巨人化ウィルスを撒き、巨人を発生させたのは前座である。現在、本国では反乱軍および壁内人類に対する大規模な掃討作戦が準備中だった。戦士の裏切りという前代未聞の事件であり、国内の動揺を抑えるためにも徹底的な殲滅作戦が実行されるだろう。裏切りの代償がいかに高いかを思い知る時が来るに違いない。

 

 ただ一つ気になるのは昨晩のうちに先行させた新人の戦士2名が未帰還という事だった。ラガコ村に巨人が発生している以上、巨人化ウィルスを撒くという最低限の任務を果たしただろう。

 

(ったく使えない新人達ですネ。戦士失格と報告するだけですネ)

 大方、未知の土地に夜間侵入して迷子になったのであろう。使えないものは処分する。それが彼のモットーだった。戦士失格になれば儀式で次の戦士に喰われる運命が待っている。

 

(がはっ!?)

 その時、彼は全身に衝撃が走った。視界が真っ赤に染まり、身体が燃えていく。何が起こったのかを理解する暇さえなく、彼の意識は消滅した。

 

 

 

(これが新兵器!? こんなに離れた場所からあの巨人を倒すなんて……)

 周囲の見張りを命じられていたミカサはただ驚くばかりだった。ミカサの傍らには、紅い甲冑を着脱して身体のラインが浮き出た黒いスーツを纏い、対物狙撃銃(アンチマテリアルライフル)を抱えたリタ・ヴラタスキがいる。

 リタはたった今、獣の巨人に対して狙撃を行ったところである。強力な貫通力を持った炸裂弾――30ミリ劣化ウラン弾を800メートル離れた標的の急所(うなじ)に正確に撃ち込んだのだった。そもそも巨人には銃は無力というのが常識だが、リタ達秘密結社が持つ新兵器には常識が通用しないようだ。ミカサは知らないが、この銃はリタの世界で対ギタイ用にカスタマイズされた特殊銃である。

 

「目標の沈黙を確認。後は調査兵団の仕事だ。ずらかるぞ」

 リタはミカサに撤収を指示した後、商売道具の片付けに入った。

「あ、はい。……あ、あの、巨人が出現することがわかっていたんですか?」

 ミカサはリタに従いながら、疑問を口にする。当初、この極秘任務はラガコ村の調査が目的だったはずだ。にもかかわらずリタは知性巨人を倒せるだけの兵装を用意していたのだから。

 

「昨日の言ったはずだが、我々はウォールマリア内の巨人の動きを探知できる手段がある。不自然な動きがあれば分かる。惜しむらくはトロスト区侵攻に間に合わなかったことだな」

「そうですか……」

「むろんあの時点(トロスト区防衛戦)では巨人達を操る勢力の存在を知らなかったから、間に合ったとしても活用できたかは疑問だが……」

 リタは探知手段に関する詳しい説明をしなかったが、情報を最大限活用し先手を打って行動するという結社の姿勢はミカサにはわかった。

 

「残りの巨人達は?」

「それは心配ない。司令塔を失った以上、ただの通常種(無知性巨人)だ。それなら調査兵団の得意分野だろう。ハンジも付いているしな」

「そ、そうですね」

 確かに調査兵団は巨人殺しの専門集団である。ライナー達ですら調査兵団の留守を狙ってくるぐらいだから、敵にも一目置かれているという事だろう。もともと今回の行軍演習において、調査兵団一行は過剰なまでの重武装で出陣している。リタの言うように後は任せておくのが最善かもしれない。

 

「それにわが社は影の存在でなくてはならない。この銃にせよ、正体が判明すれば敵も対策を講じてくるだろう」

 リタ達秘密結社の基本戦略は影の戦力であり続けることだった。味方想定の調査兵団にも正体を明かすことはしない。どこに敵のスパイが潜んでいるかわかったものではないからである。敵も愚かではないので、こちらの正体を探ろうと必死に動いているだろう。

 

 用意していた荷馬車に乗り込んだミカサとリタは一目散に戦場からの離脱を図る。リタが被っているヘッドギアには優れた観測装置があるらしく、雑木林などの障害物があってもそこに人がいないかが分かるようだ。御者を務めるミカサはリタの指示に従って馬車を走らせたが、人を見かけることはなかった。

 

「あ、あの……01(リタ)

「ん?」

「ありがとう。調査兵団の仲間を救ってくれて」

 ミカサはリタにお礼を言うことにした。調査兵団にはジャンやミーナ達同期が多く入団している。辛い訓練の日々で寝食を共にした仲間が一人でも多く助かって欲しいと思っていたからである。

「別に彼らを助けるために動いたわけではない。あくまで敵勢力の撃滅が目的だからだ」

「それでも助けてくれたことには代わりはないでしょう。わたしだってこうして戦えるから……」

ミカサはトロスト区戦で重傷を負い、兵士生命を絶たれたはずだった。しかしミカサがこうして再び戦えるのもリタ達のお陰である。

「勘違いするな。我々は巨人達と戦ってはいない。ただ殺すだけだ」

「そ、そうでした」

「……」

それっきりミカサとリタの会話はなかった。リタはそもそも必要以上に喋ったりしないし、ミカサも会話上手というわけではない。それでもミカサの胸は希望と闘志で溢れていた。

 

(エレン、見ていてくれる? 貴方の願い、きっとかなえて上げる。巨人をこの世から駆逐してあげるから)

 今は亡き愛しい人を想いながら、ミカサは紅く染まった夕暮れの空を見上げた。

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