進撃のワルキューレ   作:夜魅夜魅

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第7章、内なる敵
第52話、入社


 ラガコ村事件の翌朝、クリスタ・アルミン・ミカサの3名は、研究棟の会議室で上官たるリタ、シャスタ、ペトラと机を挟んでいた。そしてリタから組織(秘密結社)への入社を正式に認められたところだった。辞退して普通の兵士の進路もあると告げられたが、クリスタを含め3人に迷いはなかった。秘密保持の誓約書を書いたところで、リタは切り出した。

 

「君達も薄々気付いているだろうが、わたしとシャスタはこの世界の人間ではない。異世界からの訪問者だよ」

「!?」

 クリスタは言われた意味がよく分からなかった。

「今から4ヶ月前に私達はウォールマリアの郊外に漂着した。そのとき、壁外遠征中だったペトラと出会ったわけだ」

「ええ、そうよ。あの時、わたしの班は巨人の群れに襲われて部下は皆……」

 ペトラがそこで言い淀む。クリスタにも事態は察しがついた。部下達は一人残らず全滅したのだろう。

「わたしも危なかっただけど、リタに助けてもらったのよ。リタは、うん本当に強いわよ。15m級を含む30体あまりの群れを数分で全滅させたんだから」

「そうだったんですか。そのときも例の新兵器を使ったんですかですか?」

アルミンが訊ねるとシャスタは少し笑った。

「うふふ、そうですね。もうあの子達の事、アルミンさん達に隠す必要はないかもしれませんね」

「そうだな、正式に入社したところだからな。じゃあ、シャスタ。”07”を連れてきてくれ」

「はい」

シャスタはリタに従って部屋の外に出て行った。

「!?」

(兵器の事を聞いたのにあの子達って、一旦なんなんだろう?)

 クリスタは少し頭を捻るが、さっぱりわからなかった。

 

「ハンジはまだ戻っていないが、ラガコ村事件の真相についてお前達に教えておこう。アルミン、あの巨人達はどこから来たと思うか?」

「えーと、壁を越えてきたとは考えにくいです。まるであそこから沸いてきたような……」

「正解だ。あの巨人達はラガコ村から発生した。これはわが社がもつ観測装置(振動探知網)の結果からも間違いない。確定ではないがラガコ村の住民の半分ほどが巨人化したと思われる」

「村人が巨人に!?」

「……!?」

寡黙で常に冷静なミカサでさえも目を見開いて驚いていた。

「そ、それって。あの水場の!?」

「察しがいいな、アルミン。敵の工作員が水場に巨人化”ウィルス”、おっとこの言葉は翻訳不能だったな。要するに人を巨人化してしまう薬品を散布したということだ。被害の方はペトラ、教えてやれ」

「はい、早馬でラガコ村事件のその後の報告が来ているわ」

ペトラがリタの後を引き継いで説明した。

 

 ラガコ村に出現した巨人の数は大小約80体。また村人の死者数は確認できただけでも40名以上、ただし生存者は一人も確認できていない。なお被害はラガコ村だけにとどまっている。これは付近を行軍演習中だった調査兵団が巨人達を早期に討伐したからである。知性巨人と思われる”獣の巨人”が出現するという非常事態もあったが、秘密裏のリタの支援もあって敵を撃滅したという。

 そして調査兵団側の死者23名、負傷者多数、そのほとんどが新兵との事だった。ただし一度実戦(トロスト区攻防戦)を経験している南側訓練兵の死者は3名。名前を聞いたが馴染みの薄い新兵で、顔なじみのジャン、コニー、ミーナ達は無事のようだ。

 

(よかった。サシャ達は無事なんだ)

 クリスタは少しだけ安堵した。苦楽を共にした仲間との訓練兵時代は自分にとってかけがえのない思い出である。

(だから裏切り者は絶対に許さない)

クリスタは潜入工作員(アニ)の粛清に一役買ったことは一片たりとも後悔していなかった。

 

 ドアが開いてシャスタが入室してきた。後ろからは床が軋むような足音が聞こえる。かなり重量のある人物らしい。

「リタ、連れてきましたよぉ」

「ああ、入ってくれ」

シャスタに続いて入ってきたのは大きな布を被った人というより樽のようなものだった。

 

「ちょっと驚かれるかもしれませんが、大丈夫、襲ったりしませんよぉ。ミタマ、オープン」

布がばさりと床に落ちる。

「!?」

そこに居たのは異様な生物だった。太った蜥蜴のような外見、寸胴な胴体に鋭い爪を持つ前足、大きな尻尾が付いている。

 

「こ、これは!?」

アルミンが驚いていた。

「コード番号07、ミタマ。私達の世界の生物兵器です」

リタ達は異世界からの訪問者だと述べていたが、この生物を見れば本当の話だと思えてきた。

「実はですね、こう見えても狙撃の名手なんですよぅ。あのトロスト区戦であの鎧の巨人と超大型を倒した功労者なんですぅ」

「狙撃!? で、でもあの攻撃は大砲以上の火力がないと不可能なのでは?」

アルミンが訊ねた。

「ミタマの体内には、スピア弾という一種の電磁速射砲(レールガン)を内臓しています。超高速の弾丸を射出するので、弾丸の大きさは小さくともいいわけです」

 

 クリスタはシャスタの説明を聞きながら、立ち上がるとミタマの傍に近づいた。外見は不気味な生き物だが、自分達にとっては救世主だと思った。

「ミタマっていうのね。わたし、クリスタ=レンズ。初めまして」

「……」

ミタマは何も答えない。

「ありがとう。あなたのお陰だよ。わたしやアルミンや皆が無事なのは。トロスト区を守ってくれて本当にありがとう」

クリスタはミタマの頭を撫でてみたが、やはりミタマの表情に変化はなかった。ただ尻尾を後ろでパタパタ振っている。

「どういたしましてって言ってるみたいですよ」

(犬みたい)

「なんか可愛いかも……」

「まあ、そういえばそうですね」

シャスタは微笑んでいた。

「わたしからも礼を言いたい。エレンの仇をとってくれて感謝している」

ミカサもクリスタの横に来て、ミタマを撫でていた。ミカサはトロスト区戦で最愛の人――エレンを喪っている。

 

 場の空気が和んだのも束の間、リタが主ろに切り出した。

「さてと、そろそろ話の続きをしよう。現在の戦況、ならびにわが社の方針についてだ。シャスタ、ミタマを連れて行ってくれ」

「はい」

シャスタと共にミタマが退室する。

 

「まず、敵についての情報だ。巨人を操る敵勢力だが、総大司教を頂点とする政祭一致の独裁国家だ。推定人口は5千万人で、軍事力の主力は君達も知ってのとおり、巨人化制御技術を用いての巨人ーーいわゆる知性巨人というところだな」

「!?」

「そんな大国が相手だったなんて……」

 単純な人口比でも50倍以上である。さらに巨人化制御技術を保持していることから戦力差は絶望的なまでに開くだろう。

「そしてここ壁内世界はいくつかある”贄”の供給地でもある」

「”贄”って何でしょうか?」

「生贄だよ。かの国では神への供え物として生きた人間を捧げる風習があるとの事だ。ここ壁内世界は処女50人を含む300人の供出が義務付けられているとの事だ」

 

 そこでリタは生贄という言葉の意味を説明した。詳しい儀式の方法までは判別していないようだが、生贄に捧げるとは、被害者にとっては理不尽な処刑の何者でない。聞くも悍ましい風習だった。

 

「ウォールシーナの貧民街などで孤児などを中心に毎年多数の行方不明者が出ているらしいの。新聞社は王政府のいいなりだろうし、中央第一憲兵団が関わっているらしいから怖くて誰も言い出せないんでしょうね」

ペトラが説明を付け加えた。

「……」

中央第一憲兵団――王政府直属の親衛隊であり、主に政治犯や思想犯の摘発を主任務とする秘密警察のような組織である。捕まったら五体満足で解放されることは決してないと言われる恐怖の対象だった。その耳目となる密告者が、駐屯兵団や調査兵団にも潜んでいるだろう。

 

「中央第一憲兵団を含む内なる敵の掃討が最優先だろうな。外の敵よりも内なる敵の方が遙かに恐ろしい。いつ寝首を掻かれるかわからないのだからな」

「それがリタ先輩、いえコマンダーが秘密結社を作られた理由でしょうか?」

アルミンの質問にリタは丁寧に答えた。

「そうだ、アルミン。それが技術供与を抑えている一番の理由だよ。ハンジの技術班の中にも敵のスパイが潜り込んでいないとは言い切れない。だから一見価値があるように見える気球技術のみを技術班には取り扱わせていた」

 

 気球技術だって十分世間を驚かせているに、実のところはそれ以上の兵器・技術を保有しているのが、この秘密結社なのだろう。戦闘力でいえば、トロスト区攻防戦でも窺えるようにミタマ一体で調査兵団全軍にも等しいかもしれない。

 

「君達3人には、ここ数日の激務で休暇を与えたいところだが、事態は急を要する。恐らく奴らは情報収集がうまくいっていない事で強攻策に出る可能性が高い。すなわちハンジ技術班の接収と粛清だ」

「で、でも証拠はないんじゃ?」

 アルミンは呟いたがリタは一辺のもと切り捨てる。

「証拠など後でどうにでも作れると思っているだろうな。ペトラはその辺りは詳しいだろう」

「いえ、わたしはハンジさんから聞いただけなので詳しくは……。でも中央第一憲兵団の怖い噂を聞いたことはあります」

 

「そうか、とにかく本日中にこの研究棟から引越しを行う。これは軍事事項であり、わが社の方針だ」

この秘密結社においては、軍事に関してはリタに命令権があると説明されている。リタが決定を下している以上、引越しは確定事項だろう。

 

「それで引越し先はどこに?」

クリスタが訊ねた。

「奴らが絶対に手出しできない場所だ」

「??」

クリスタは首を傾げた。壁内世界にそんな安全地帯があるとは思えなかったからだ。

「ウォールマリアだよ」

リタは巨人達の徘徊する人外の領域を名に挙げたのだった。




【あとがき】
超久々の更新で申し訳ありません。諸事情でこのサイトにアクセスできませんでした。

原作の巨人も敵勢力の正体が明かされてきていますね。
それゆえ原作との差が大きくなっていますが(^^;)

 敵巨人勢力は政祭一致の軍事独裁国家であり、クリスタ達の壁内世界は生贄の供給地でした。権力を握っている中央第一憲兵団、ウォール教、マスコミなどの売国勢力が存在するという構図です。あれ、現実世界のどこかと似ているような。。。

 リタが敵勢力に関する情報をどのように得たのかは伏せておきます。

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