進撃のワルキューレ   作:夜魅夜魅

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兵団政府の動きです。



第71話、処刑

 この日、総統府の自室で参謀総長エルヴィン=スミスは貸与された通信機で侯爵夫人リタ=ヴラタスキと連絡を取っていた。三千に達する敵巨人の大群は予想どおり最寄のトロスト区に侵攻、ウォールシーナまでの最短距離で選んでいるらしかった。敵は小細工などしなくても圧倒的数の力で人類側の戦力を粉砕できると踏んでいるのだろう。

 

『もう一つ悪い知らせがある』

 そういってリタは天候について触れた。今日の午後あたりから天気が崩れ、冬の嵐すなわち吹雪になる可能性が高いという。まさに敵の大攻勢が開始されたこのタイミングでの天候の悪化とは不運としか言いようがない。

『残念ながら気球を使っての爆撃は不可能だろう』

「うーむ。意外な弱点があるものだな」

エルヴィンは素直な感想を漏らした。超高性能な兵器・機械を多数持つヴラタスキ侯爵家と言えども自然の猛威には勝てないらしかった。

「不確実になるが我が軍と調査兵団で敵中央を突破、爆弾を敵陣に運搬するよりない。威力が威力だけに起爆まで離脱できるかどうか……。突入部隊の生還はかなり厳しいだろう」

「……」

敵の数が多すぎる為、まともに戦っては勝ち目がない。リタが保有する超大型爆弾(気化爆弾)で敵司令部を吹き飛ばす以外の方法は考えられないが、爆弾を抱えての敵中突破も相当困難であることが予想された。また爆弾を設置した後も、起爆まで爆弾を守る必要があり、殿となった部隊はまず助からない。さらに今作戦で用意できるのはこの一発のみで、やり直しが利かないとの事だった。

 

 エルヴィンはしばし考え込んだ後、ふと思いついた事があった。

「侯爵夫人。爆弾を敵司令部に届ける事ができればよいのだな?」

「そうだが、何か手があるのか?」

「爆弾は気球に乗せられると聞いている。人が持ち運びできるものだろうか?」

「いや、それは無理だ。重量は大人二人分ぐらいはある」

「そうか、しかし馬車なら可能という事だろう? こんな方法はどうかな?」

そう言ってエルヴィンは自分の案を説明した。

 

『なるほど。それはわたしも思いつかなかったな。あまり褒められた策ではないが、奴等がこちらの状況を知らない今なら嵌るかもしれないな』

 ヴラタスキ侯爵家(ユーエス軍)は壁外領域(ウォールマリア)に展開して、敵の斥候を全て捕捉撃滅、情報封鎖を続けている。敵は壁内世界で革命が起きて兵団政府が誕生したことも、人類が強力な援軍を得ていることも知らないはずだった。

 

『直ぐにこちらの技術主任に検討させよう。少し待ってくれ』

 そういってリタは通信を切った。待たされる事数分、再びリタから連絡が来た。

 

『エルヴィン、貴殿の案が一番良さそうだ。すぐに準備させる。そちらも動いてくれ』

「わかった」

 エルヴィンもリタも切れ者同士である。最小限の会話を済ませると直ちに作戦準備に取り掛かった。

 

 

「この無礼者がっ! わしを乱暴に扱いおって! このわしを誰だと心得るっ!?」

 ロッド=レイス卿は声を張り上げた。レイス卿は2ヶ月前までは壁内世界の影の支配者として権力の座にあったが、兵団革命後は王都内の高級ホテルに軟禁されていたのだった。面会に訪れる者は殆どおらず、世の中の情勢は配達される新聞でしか知りようがなかった。その新聞も旧王政派は排除(パージ)されているので兵団政府の御用達メディアである。今朝方、突如兵士達がやってきて拘束された上に目隠しさせられて、ここにつれて来られたのだった。

 

「悪態をつくとはまだまだ元気そうじゃのう? レイス卿」

「こ、この声、まさか!?」

「目隠しを外してやれ」

 兵士がやってきてレイス卿は目隠しを外される。ここはどこか薄暗い地下室、周囲には数名の長銃を持つ兵士と威厳を放つ一人の老人が立っていた。むろんレイス卿はこの老人をよく知っている。自分を権力者の座から追い払い、壁内世界の新たな支配者となった男――ダリス=ザックレー総統である。傍らには元調査兵団団長、総統の右腕となった参謀総長エルヴィン=スミスも居た。

 

「ザ、ザックレーっ! この裏切り者がっ! 我がレイス家の後押しで総統になった恩を忘れだけでなく、調査兵団のようなチンピラ連中とつるむとはなっ!」

「裏切り者はどちらですかな? 仮にも統治者ならば壁内(この)世界の人々を守る責務があるはずじゃろう? それがどうじゃ? 巨人を含む敵に関する情報を隠蔽し、敵工作員の浸透を助け、あまつさえ人類の守り手である調査兵団の壊滅を目論み、巨人化薬品を使用した襲撃を指示しておるな」

「き、貴様らは何もわかっておらん。あちらはその気になれば何千もの巨人の大群を送り込む事ができるのだっ! 百年の安寧があったのは偏に総大司教猊下の御慈悲と我がレイス家歴代の交誼があっての事だっ! そ、それを……」

レイス卿の罵声にも関わらずザックレー総統は冷たい目線で見返した。

「ふん、総大司教か。敵巨人勢力、いや神聖マーレ帝国の首魁か。御慈悲じゃと!? 散々我ら人類をいたぶっておいて勝手な事を抜かすなっ! 貴様らレイス家が中央第一憲兵団に命じて、毎年何百人もの生贄を彼の国に捧げていた事も調べがついておるぞ。知識人を始め市民への拷問弾圧、壁上砲台の設置妨害、ウォールマリア失陥時の無策、奪還作戦に関する機密漏えい、敵との内通。貴様の罪を挙げれば切がないっ!」

 

「総統閣下、わたしにも言わせてほしい」

 エルヴィンが総統の了解を取るとレイス卿に向き直った。

「貴方が巨人に関する情報を隠蔽したせいで多くの調査兵達が無駄に命を散らしていった。巨人の生態情報一つ取るためにどれだけ多くの血が流されたことかっ! 死んでいった者達を代弁して言わせてもらおう! ふざけるなっっ!!」

エルヴィンの大音声が地下室に響き渡った。

 

 頃合と見たのがザックレー総統は右手を上げる。部下達がさっと動き、レイス卿は膝を蹴られて跪かせられた。部下の一人が紙を取り出して読み上げる。さきほどザックレー総統が指摘した罪の数々を正式名称で述べたものだった。

 

「……よって、被告人ロッド=レイスを極刑に処すっ! 刑は直ちに執行するものとする」

「き、貴様ら下賎の者共に裁く資格などないわっ! わ、わしは王であるぞっ! ぐはっ!!」

レイス卿はそれ以上言葉を発せなかった。兵士の一人が後頭部を銃底で殴りつけてきたからだった。

「本来なら八つ裂きにしても足りないところだが、息女フリーダの功績を鑑みて銃殺で済ませてやる。娘に感謝するんだな」

エルヴィンの無慈悲な宣告が聞こえてきた。

 

 数秒後、地下室に1発の銃声が響きわたった。後頭部を撃ち抜かれたレイス卿の死体が転がっている。ザックレー総統、エルヴィンは冷ややかに死体を見下ろしていた。

「まあ、ただの茶番じゃな」

「手続きの問題です。この男の死体が必要でしたから」

「うむ、後は任せたぞ」

「はっ」

総統が去るとエルヴィンは部下に命じてレイス卿の死体を棺桶に入れて所定の場所に送ることにしたのだった。

 




【あとがき】
前の最高指導者だったロッド=レイス卿、人類に対する背信の罪という事を考えれば処刑は已む無しでしょう。この話のエルヴィンも述べていますが、レイス家を首魁とする旧王政府が巨人に関する情報を隠蔽したせいで、多くの調査兵が無駄死にとなっていました。

吹雪による空爆作戦が困難となり、エルヴィンはリタにある策を提案します。レイス卿の処刑が行われた事で鋭い読者は想像がついてしまうかも……。

また当小説では敵巨人勢力の正式名称は”神聖マーレ帝国”とします。宗教独裁国家であることを明示するためです。あっ、別に政治体制を批判しているわけではないですよ。私達地球人類の歴史でも中世ではよく見られる政治体制ですから。
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