歌姫に拾われた俺がアスタリスクで生活をするのはまちがっているだろうか。 作:リコルト
「ふー………終わったぁ」
デバイス内に表示された動画のウィンドウを閉じ、俺は後ろにある自室のソファーに体を預ける。
何を見ていたかって?勉強だよ、勉強。学園にいても生徒じゃないから、こうやって動画を使って独学で勉強するしかないんだよ。
といっても、今見ていたのはペトラさんから支給されたマネージャーの仕事の基礎や礼儀作法についての動画だ。学生の授業である五科目や実技科目に加えて、俺は仕事をする上での勉強もすでに始めている。俺を誘ってくれたペトラさんとシルヴィの力に早くなりたいからな。
「そう言えば今日はペトラさんが言っていた指導の開始日だったな。時間はまだ早いとは思うが、待たせるよりはマシだし、先に出るか」
待ち合わせの時間は夕方の5時。今は夕方の4時15分である。場所はこの俺が泊まっているベネトナーシュの施設から地下を通って行けるベネトナーシュ専用の練習場だ。地下の廊下を道なりに進むだけだが、初めての場所だしな。こういう時は早めに出るのが一番だ。
「よし、行こう」
ベルトの腰に西園寺さんから頂いたヴァルハラと黄昏の夢幻剣を身に付けて、俺は指定された場所へと向かうのだった。
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「あら、新宮君。早いわね」
「やっほー!八幡君!」
指定された待ち合わせ場所である練習場へ到着すると、そこにはすでに俺より先に到着していたペトラさんとシルヴィが待っていた。
「お待たせしてすいません」
「いいえ、別に大丈夫よ。待ち合わせの時間よりも早く行動した新宮君の行動は間違っていないわ。今は貴方の指導を指導をしてもらう人物を待っている所だから、まだゆっくりしていても構わないわ」
「ありがとうございます」
どうやら、今待ってるのは俺に星脈世代としての戦い方を教えてくれる指導者のようだ。一体どういう人物なんだろうな。
「八幡君、緊張してるの?」
指導者がどういう人物か頭の中で想像してると、シルヴィが話しかけてきた。
「まぁな。少し緊張してるよ」
俺がアスタリスクで初めて出会った指導者らしき人物(仮)は俺の魔術師の能力を強引な方法で目覚めさせたあの女児……万有天羅だからな。あれのせいか、指導者は全員ああいう感じではないかという推測にまで至っている状態だ。いきなり手刀を食らったり、腹パンされる指導はコリゴリである。
「そう言えば、シルヴィは最近俺に付き合って貰いぱなしだが、星武祭の方は大丈夫なのか?」
彼女は数ヶ月の冬に行われる王竜星武祭にエントリーするつもりだ。出場する選手のレベルも非常に高く、わざわざ俺に付き合っている時間は無いはずなんだが。
「うん、全然大丈夫!今は星武祭に向けて新しい曲も作っているんだ!」
話を聞くと、準備の方は順調らしい。ただ、それを俺に付き合う理由にするのはどうかと思うけど。
「失礼します、理事長」
そんなこんなでシルヴィと話をしていると、練習場にクインヴェールの制服を着た女子生徒が入って来る。常磐色の長髪が特徴的で、物静かそうな雰囲気を思わせる女子生徒だ。総武での雪ノ下雪乃を彷彿させるような雰囲気を持っている。
「待っていたわよ、クロエ」
「すいません、日直の業務の関係で担任の先生に残されてしまいまして………」
二人の話を聞いてみると、やはりあの女子生徒が俺の指導員のようだ。学校の教員みたいな人が来ると思っていて俺は正直びっくりしている。だけど、あのペトラさんが信頼するベネトナーシュの工作員ということは彼女は見た目に合わない才能と人格を持っているのだろう。
「ペトラさん、その人が………」
「ええ、彼女が貴方の指導員よ」
ペトラさんがそう言うと、常磐色の長髪の彼女が少しこちらを見て驚きはするものの、すぐに冷静さを保って自己紹介をする。
「初めまして。わたしの名前はクロエ・フロックハート。下の名前は長いから気軽にクロエで良いわ」
自己紹介と共に求められる握手に俺は一瞬戸惑いつつも、それに応えるように俺は利き手である右手を握手として差し出した。
「……どうしたのかしら?」
「あ、いや、似ている奴を思い出して……」
雰囲気とかは雪ノ下とほぼ似ているが、人格はまったくは違うな。むしろ、こっちの方が雪ノ下よりも全然社交的である。もっとツンとした感じの人かと思っていたが、意外にも相手に積極的な面が見えた気がする。
「俺の名前は新宮八幡だ。よろしく頼む」
「ええ、こちらこそ。ひとまず、貴方の事はわたしもまだ詳しく無いの。指導する前にひとまず、貴方の事について少し聞かせてもらうわ」
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クロエに促されるように、俺は大まかに自分のことについて彼女に話した。内容としてはシルヴィの専属マネージャーであるという事と自分の星脈世代としての能力についてだ。
「なるほど……自身と相手の五感を変化できる魔術師ね。確かにこれは私達ベネトナーシュと同じくらいの秘匿性だわ。男子である件も含めてね」
二重の意味で秘匿性の高い俺に彼女は呆れるような溜め息を思い悩むように吐き出す。恐らく、彼女の様子を見る限り俺の事は今さっき初めて知ったんだな。自分ではまだあまり理解していなかったが、どれだけ秘匿されているのが良く分かってしまう。
「……ひとまず、八幡の事はよく分かったわ。じゃあ、早速だけど貴方の今の星脈世代としての実力を私に見せてくれるかしら?」
「ああ、分かった」
こうして、俺の特訓は始まった………