歌姫に拾われた俺がアスタリスクで生活をするのはまちがっているだろうか。   作:リコルト

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舞神(ハトール)への対策

 

 

 

『ネイトネフェルに決闘を挑んだ!?』

 

 普段のクールで大人しい性格はどこに行ったのやら……と言わんばかりの大声を先程任務から帰って来たクロエがチャット越しで発する。

 

『八幡、正気なの…!?』

 

「ああ、正気だ。俺はネイトネフェルに勝つ気でいる。その為にまず色々な学生の戦闘分析や戦闘記録に詳しいクロエに電話をしたんだ。無闇に練習するより対策する方が優先だと思ったからな」

 

『全く……頼るのは良いのだけれど、生徒会長が彼女について一番詳しいのでは?』

 

「これはシルヴィが俺に構った事で起きた問題だ。シルヴィに聞いて対策をして決闘に勝った所でこの決闘に勝った意味が無い」

 

 あくまで俺とネイトネフェルの勝負だからな。シルヴィにまた時間を削ってもらってネイトネフェルに勝ってもお互いが納得しないだろう。それにシルヴィなら、ネイトネフェルについて聞いた所で今からでも嫌という程決闘を止めるに違いない。だからこそ主観的な意見をあまり持たない第三者であり、情報戦に長けたクロエにネイトネフェルについて聞こうと俺は考えたのだ。

 

『はぁ……現場にいなかったわたしが貴方の決闘について止めるのは野暮のようね。分かった、可能な限り協力するわ。ちなみに、ネイトネフェルとは何時頃に決闘をする予定するのかしら?』

 

「今日から二週間後だ」

 

『思ったより………かなり短いわね。車の免許合宿にでも行くのかしら?』

 

 彼女の予想よりも早い決闘の日時にチャット越しでクロエは頭を悩ませる。ツッコミも疲れているのかいつもよりキレキレだ。

 

「そんなに短いのか?」

 

『当然じゃない。相手はあの序列二位よ?二週間で序列二位に勝てるなら、星武祭も苦労しないわ』

 

 確かに……クロエの言う通りである。二週間で序列外が序列上位に勝てるようになったら、それは苦労しないな。そう言った参考書でも売れば、ベストセラーになるのも夢ではない。

 

「そもそもネイトネフェルってどういう人物なんだ。クインヴェールの序列二位にしては知名度も低いし、情報も少ないんだが?」

 

『はぁ……確かにいきなり彼女について知ろうとするのは初心者だと厳しいわね。まずは彼女ーネイトネフェルについて説明するわ』

 

 そう言って、クロエは指で何かを選択している動作を見せると、俺のデバイスにデータが送られる。成る程、ネイトネフェルについてのファイルを送ろうとしていたのか。

 

『八幡も知っている通り彼女はクインヴェール中でもトップクラスで秘匿性が高い学生よ。彼女自身も生徒会長や他の学生みたいに芸能活動をしているけど、全てが生ライブオンリーで異常なぐらいのメディア嫌いね。ライブの写真や動画も一切無いし、知名度が低いのと情報が少ないのはこれが原因よ』

 

 言われてみれば、シルヴィやルサールカといったクインヴェール所属の歌手やアイドルはテレビやSNSで見た事があるが、ネイトネフェルについては一切見た事がない。クロエから送られてきたファイルによると、彼女の生ライブもコアなファンしか日時や場所を知らないシークレットライブが殆どである。テレビや雑誌の取材も全てNGな所を見ると、彼女が異常なぐらいのメディア嫌いだと呼ばれる所以も簡単に理解できそうだ。

 

『彼女の主な戦い方は己の肉体による体術ね。体術だけだと馬鹿にする人も多いけど、彼女の体術の腕は界龍の冒頭の十二人をも軽く凌駕するかもしれないわ。一撃一撃も強力だけど、舞神(ハトール)と呼ばれる彼女の舞を利用した独特なステップやリズムに飲まれたら二度と抜け出せないぐらいの連続攻撃を畳み込まれるわよ。気を付けなさい』

 

 そう言って見せられるのは彼女が前回の星武祭に出た数少ない戦闘記録である。武術に特化した木派があるあの界龍を凌駕するかもしれない体術っていうのがかなり厄介だな。彼女の舞やステップについてもどういったものか記録では詳しく分からないが、攻略出来た人は殆どいない。

 

『これがわたしが提供できる可能な限りの情報よ。一番重要なのは体術ね。彼女は近接戦が得意だから攻めるのは無理でもそれに対応出来るぐらいの防御的な面の体術の技術は必要よ。わたしが教える?』

 

「いや、これはもっと詳しい人にやってもらうつもりだ。さっきシルヴィにその人物の電話番号を教えてもらって連絡したら、大丈夫そうらしい。クロエには別の練習をお願いしたい」

 

『別の練習?』

 

「俺の他人の五感を操る能力と純星煌式武装の同時使用の実践練習だ」

 

『……成る程、分かったわ』

 

「ああ、助かる」

 

『なら、明日から他人の五感を操る能力の制御についても一緒に練習するわよ。詳しい事は明日話すわ。それじゃあ……おやすみなさい』

 

「ああ、おやすみ」

 

 そう言ってクロエはブチッという音と共にチャットの電源をオフにする。

 

 

「……二週間でどこまで追い込めるかだな」

 

 

…………………………

 

 

………………………………………

 

 

…………………………………………………

 

 

ー二週間後ー

 

 

「理事長、本当に今日の八幡とネイトネフェルの決闘を行うのですか?」

 

 理事長室にやって来たクロエはその部屋の主であるペトラに確認するように訊ねた。

 

「ええ、私は止めるつもりはありません。そういう貴方はどうなんです?新宮君の特訓に付き合っていた割には八幡君に不安を覚えているのですか?」

 

「はい……確かに八幡は強くなりました。八幡が二週間で編み出した戦い方も並の序列入りなら対処も難しいです。ですが、いきなり星武祭慣れした序列二位と戦うのはあまりにも無謀過ぎるというか……普段なら止める筈の理事長はこの決闘で八幡に何を見出だそうとしてるのですか?」

 

「あら……気付いたの。流石はクロエね」

 

 そう言ってクロエの頭の回転の良さを褒めながら、ペトラは話を続けた。

 

「新宮君がアスタリスクに来てすでに一ヶ月半。この日まで星脈世代としての能力を高めて来た新宮君にはそろそろ試験が必要だったのよ。ずっと保留にしてきたこの仕事が出来るかどうかのね」

 

「仕事……ですか」

 

「そう、もしネイトネフェルに善戦したら及第点。勝てたら、文句無しの合格よ」

 

 ペトラは一枚の紙を机の引き出しから取り出し、それを眺めるようにクロエに説明した。

 

「さて、そろそろ時間ね。クロエ、行くわよ」

 

「えっ!?理事長も見学を?」

 

「当たり前よ。この決闘で新宮君がどこまで成長したのか、あの仕事が出来るかを測るのだから」

 

 

 こうして、色々な思惑を抱えたギャラリーが集まる中、新宮八幡VSネイトネフェルの決闘が始まろうとしていた。 

 

 




一気に二週間飛ばしてしまいました汗。
特訓の成果や内容は八幡とネイトネフェルの決闘内で明らかにしようと思います。
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