歌姫に拾われた俺がアスタリスクで生活をするのはまちがっているだろうか。   作:リコルト

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吐露した本音と二人の提案

 

 

「………………以上が中学での出来事と家族と絶縁した経緯です」

 

 30分以上の時間をかけて、ペトラさんとリューネハイムさんに文化祭の出来事や修学旅行での依頼、そしてそこから始まった虐めと家族との絶縁までの経緯を二人に包み隠さず口から出しきった。

 

 元家族らは俺の説明を真に受けず、一方的に悪人だと決めつけていたが、ペトラさんとリューネハイムさんは違った。説明をしていく中で俺の説明に共感し、時には関心を持つように質問もしてくれる。聞き手としては当然の行為かもしれないが、それだけで俺は十分に嬉しかった。

 

「……ひど過ぎる。君はいくつもの問題を解決した一番の立役者なのに。どうしてそんな事が……」

 

「ええ、訳ありだとは思っていたけど、ここまでとは……。学園を経営する身分として見ても彼の学校はとても酷いとしか言い様が無いわ。文化祭にいたっては彼が活躍しなければ、文化祭そのものが無くなっていたかもしれないのに」

 

 俺の話を聞いた二人は深刻そうな顔で、各々の気持ちを述べる。ここまで心配してくれたのは目の前の二人を除いて総武中学の戸塚、川崎、材木座の三人だけだった。

 

「中学の友達は心配してくれなかったの?」

 

「……最後まで心配してくれた友達は三人いました。けれど俺を心配したら、彼らも虐めの対象になって迷惑になるかもしれない。だから、自分は三人と敢えて距離を取ったんです」

 

 リューネハイムさんに訊ねられ、俺はゆっくりとその問いに応えた。

 

「そう……君はとても優しいんだね」

 

 リューネハイムさんの優しい言葉に俺の目頭が段々熱くなるのを感じた。それは世界的アイドルに慰められているからではない。あの忌々しい出来事から今日まで初めて人に慰められたからだ。

 

「泣いても良いんだよ。君は頑張ったんだから。人のために自分を犠牲にして頑張った人が泣いちゃいけない理由なんて無いよ」

 

「……はい。ありがとう……ございます」

 

 俺は今までの忌々しい出来事の辛さを吐き出すように静かに泣いた。女性の前だから早く泣き止もうと試みるが、そう簡単に治まるものではなかった。

 

 

…………………

 

 

 

………………………………

 

 

 

………………………………………………

 

 

「もう、大丈夫です」

 

 気が付けば、10分以上も泣いていたようだ。けれども、二人は飽き飽きとせず最後まで俺が泣き止むのをただ最後まで静かに待ってくれていた。 

 

「君はこれからどうするの?」

 

 リューネハイムさんがそう言って俺に訊ねる。家族に見捨てられ、中学にも行く意味を見出だせなくなった。家も無いわけだし、このままだと放浪者ルート確定だろう。格好良く言ってみたが、実質ただのホームレスである。

 

「そうですね。帰る家も無いわけですし、今はまだ何とも言うことが……」

 

 ありのまま思った事をリューネハイムさんに話すと、今まで黙っていたペトラさんが口を開く。

 

「何もすることが無いのであれば、我々と学園都市アスタリスクに来てみるのは如何ですか?」

 

「あっ!ペトラさん、それ名案だよ!」

 

「アスタ、リスク?」

 

 

 学園都市アスタリスクーそれは北関東のクレーター湖に浮かぶ正六角形型のメガフロートに築かれた学園都市で、日本の領土に位置しているが治外法権領域になっている場所だ。そこは落星雨(インベルティア)という過去の災害によって衰退した世界政府の代わりに世界を牛耳る統合企業財体によって六つの学園が設置されていて、世界各地から星脈世代(ジェネステラ)と呼ばれる者達が集まる場所であった。

 

「貴方はそこに来る価値が十分にあります。私達と一緒に来てみませんか?」

 

「いやいや、価値が十分にあるって言われても。学園に通うようなお金も持ってないし、そもそも俺は星脈世代じゃないですよ。だから、俺が二人についていった所で逆に迷惑になるんじゃ……」

 

 二人の好意はありがたいが、アスタリスクの各学園の入学や授業料は特待生でも無い限り一流の私立大学の2~3倍の値段だった筈だ。そんな大金を払える所持金が無いのに……そもそも星脈世代じゃない俺がわざわざ行く目的は無いだろう。

 

「非星脈世代って……それ本当に言ってるの?」

 

 リューネハイムさんがさっき俺が言った事に対して怪訝そうに訊ねる。ペトラさんもリューネハイムさんと同じ様子だ。

 

「えっ、違うんですか?」

 

「貴方……もしかして自分が星脈世代だと気付いていなかったの?しかも、貴方は星脈世代の中でも稀な魔術師(ダンテ)というものなのよ」

 

 

………嘘だろ?衝撃の事実だ。

 

 

 まさか、俺が星脈世代だったなんて。元親からも何も聞かされていないから初めて聞いた事だった。二人に聞くと、ナイフで腹を刺されてすぐに回復できたのも星脈世代特有の自然治癒能力の高さかららしい。そういえば、入学した時期に遭遇した交通事故時の骨折も傷の深さにしては他の骨折患者よりも退院が早かったような。

 

「私とシルヴィも魔術師の君と同じくらい稀少な魔女(ストレガ)という存在なのよ。倒れた君を看病した時に同じ者同士ピンと来るものがあったから、簡単な検査をしたけど、まさか魔術師以前に星脈世代であることを知らなかったとはね」

 

 どうやら魔術師の女性版が魔女と呼ばれる者らしいが、その二つの存在は星脈世代の中でもさらに稀少な存在で、星脈世代では見られない能力を発揮できるらしい。火を自由に操ったり、光を作り出す者などがアスタリスクには数名いて、歌を能力とするリューネハイムさんもその一人だ。

 

「アスタリスクにある専門機関で検査をしないと詳しい魔術師の能力までは分からないけど、何か心当たりは無いかしら?」

 

 心当たりか。未だに自分が稀少な魔術師だという事に疑問を覚えているが、心当たりなどあまり検討がつかない。ただ、強いて言うなら………

 

「もしかすると、俺の五感の変化が能力かもしれません。昔からストレスとかで急に目が見えなくなったり、耳が聞こえなくなったり、食べ物の味が無くなったりしたんです。気分が少し落ち着くと、それも少しは解消されるんですが、今度は視力が普段より良くなったり、小さな声も聞きやすくなったり、ただの水も甘く感じるように過敏になるんです」

 

 そのおかげでリューネハイムさんを襲うテロリストの行動もすぐに分かったわけだが、やはりただのストレス疾患だろうか?

 

「自身の五感変化ね。魔術師や魔女の実例が少ないせいもあるけど、貴方の能力はかなり珍しい方よ。私とシルヴィも昔はストレスとかで能力が暴走している状態もあったから」

 

 どうやら、ビンゴだったようだ。ペトラさん曰く俺の能力は自分で制御できていない状態らしい。アスタリスクに行けば、それを自分で制御できるようになれるとか。

 

 

「自身の五感を変化させる魔術師……やはりクインヴェールに欲しいわね」

 

 

「私も彼なら大丈夫だと思うよ」

 

 

 俺から能力について手がかりを得た二人は俺が分からない会話を何やら二人でこそこそと相談するように続けていた。やがて二人の会話が終わると、ペトラさんは改めて俺に問いかける。

 

「貴方が星脈世代だと分かった上で、もう一度訊ねます。我々と一緒にアスタリスクへ来ませんか?」

 

「はぁ……その自分がアスタリスクに行っても大丈夫な事は分かりましたが、学園に通うお金を俺は持ってませんよ。それにリューネハイムさんがいるのは女子校だったような気が…?」

 

 男子が永遠の0の女子校に転校するというのはフィクションでの出来事で、俺も憧れを抱いていないわけではなかったが、それを二人の迷惑になるような形で実現はしたくない。そもそも他学園に行っても金銭問題が解決するわけではないし。

 

「ええ、貴方が言うようにシルヴィが所属する我が校はアスタリスク唯一の女子校。男子である貴方の入学を理事長である私が認めても、学園の雰囲気に拒絶されるでしょう。ですので、貴方を生徒として迎えるのではなく、貴方を私が()()形で迎えようと思っています」

 

「雇う?俺をですか?」

 

「ええ。貴方にはそこにいるシルヴィの専属マネージャーとして雇いたいと思います。主な仕事は事務関連ね。貴方の中学での行動力を踏まえてそこは問題無いと思っているわ。後はボディガードの仕事ね。シルヴィも並の星脈世代よりは強いけど、歌に夢中になるとさっきみたいに気が緩んじゃうから。まぁ、ひとまずは事務関連の仕事をするという事を把握しておけば良いわよ」

 

 成る程、マネージャーか。確かに現場作業のような身体を使う仕事よりは事務の方が自分に合っているという自覚はある。文化祭もそういう仕事をこなしてきたからな。

 

「もちろん、雇うという形なので仕事をすれば給金もする予定ですし、生活の拠点もこちらが手配します。生徒という形ではないので星武祭には参加できませんし、学業は独学という形になりますが、十分にアスタリスクで生活が出来るでしょう」

 

 まさか、住居も提供してくれるとは。一文無しの俺にここまでしてもらうと、逆に申し訳ない。ペトラさんからは勧誘する必死さを微かに感じるが、魔術師とは他の学園や統合企業財体に譲りたく無い程レアなのだろうか。

 

「全てを話した上で最後にもう一度訊ねます。我々と一緒にクインヴェールへ来ませんか?」

 

 

 ……理事長にここまでしてもらったら、もう断る理由は無い。ここで逆に断ったら、理事長の面子を潰したことになるだろう。

 

 別に女子校の授業に潜り込みたいという下心は無いし、俺としては千葉から離れて生活出来ればそれで良い。それに、俺の悩みだった五感変化もコントロール出来るかもしれないし。

 

 

 ならば、答えは一つ。

 

 

 

「……アスタリスクに行かせてください」

 

 

 

 




〇比企谷八幡

年齢:15歳(中学三年で、シルヴィアと同い年)
所属:クインヴェール女学園。
二つ名:特になし

 ペトラさんとシルヴィアの提案でクインヴェールに所属し、シルヴィアの専属マネージャー兼ボディーガードとなる。ボディーガードについては八幡がまだ星脈世代としての実力が引き出せないため現在は保留である。
 自身の五感を変化させる強化体質の魔術師の能力を持っていることは確認できたが、まだ全容は不明。ペトラさんが言うには彼の特殊な生活環境がストレスとして、彼の能力は暴走という形で身体に現れていたとか。
 体力にはそこそこ自信があり、剣道をやっていた経験から剣術を主とする(予定)

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