歌姫に拾われた俺がアスタリスクで生活をするのはまちがっているだろうか。 作:リコルト
「ほう、逃げずにしっかりとこの場にやって来たか。その事だけは褒めてやろう。」
「うっす。それはどうも……」
そう言って俺と対戦相手であるネイトネフェルは決闘の舞台である練習場の真ん中で試合前最後の会話を交わしていた。
「この二週間、シルヴィアもお前に付き合った様子もなく、自力でわらわを倒す特訓をしていたようだな。わらわを倒す為に再びシルヴィアの貴重な時間を削っていたら、その時はすでに勝負の価値すらも無いとわらわは思っていた。だが、貴様はそれをしなかった。という事は自分で考えた勝算というものがあるのだろう?」
「勝算と呼べるかどうかは分かりませんが………貴女に対する対策はしっかりとしました」
「ほう……対策か。なら、その対策とやらを見せてもらおうか。わらわはいつも通り美しき舞で相手を強引に捩じ伏せるだけじゃがな」
その言葉と共にネイトネフェルの全身から一気に星辰力が満ち溢れる。これが……序列二位か。星辰力と共に今までの戦いの経験や序列を持つ者の誇りに近いものを威圧感として感じている。どうやら、彼女も出し惜しみをする様子も無さそうだ。
『頑張ってー!八幡君!』
だが、俺もここで挫けるにはいかない。俺は後ろの練習場の控え室から大声で応援しているシルヴィと彼女の横で静かにこちらを見て応援するクロエ、そして上のVIP席で期待するように眺めるペトラさんの全員の思いに応えたい。この一ヶ月半が無駄では無かった事を証明するんだ。
俺はその思いを胸に銃剣型煌式武装ヴァルハラをネイトネフェルに向けて抜刀する。
「いきます!」
「来るが良い、新宮八幡!」
二人の張った声が響き渡ると同時に練習場に試合開始を合図する機械音がそれをかき消す。
『
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「はぁっ!そらっ!」
試合開始と同時に俺はネイトネフェルの最も得意とする近接戦を避けるために彼女から距離を取り、銃型へと変えたヴァルハラから光弾を繰り出す。
「ほぅ、確かにわらわのスタイルに合わせた戦い方だ。猪みたいに突っ込んでくる男共とは何処か違うらしい。だが、武器をシルヴィアに真似た所でこのわらわが倒せると思ったら、大間違いだ!」
けれど、こんな簡単な対策でやられるネイトネフェルではない。ヴァルハラから放たれる光弾を踊るように回避しながら少しずつ距離を詰めていた。
光弾の一つ一つをかわしていくのに無駄な動きは一切無く、むしろそれを利用するように自身のスタイルを使って周囲を魅力する。これが
「呑気に眺めている暇は無いぞ、新宮八幡」
ネイトネフェルが繰り出す舞に無意識的に見とれてしまっていた俺は目前まで迫っていた彼女の声でハッと目が覚める。気が付くと、彼女の華奢な細い右足が星辰力を纏い、鋭い凶器として俺に襲いかかろうとしていた。
「くっ!!?」
俺はそれを自身の魔術師の能力による動体視力の向上で動きを捉え、左手で何とか防御する。
(これが体術だけで勝ち上がってきた彼女の一撃か!何とか防御したが、マジでギリギリだった。クロエの全力の倍の威力はあるぞ!?)
「ほぅ、今の状態から防ぐか。咄嗟の体術による防御もなかなかだ。だが、わらわの舞は一撃で終わるモノではないわ!」
「しまっ……!」
ネイトネフェルはすかさず左足で俺の腹に蹴りを入れる。先程の予想以上の彼女の攻撃を受けた反動で俺の身体は一瞬対応に遅れてしまったのだ。
「がはっ!?」
腹に鉄球でも撃ち込まれたような一撃に悶絶し、そのまま俺は吹き飛ばされてしまう。素足ならまだしも彼女のヒールの踵がその腹に食い込み、それがまた痛みに相乗効果を与えていた。
空中に飛ばされ、何も出来ない俺にネイトネフェルはさらに距離を詰め、強襲をかける。このままだと、ドラ〇ンボールの空中戦みたいにボコボコにされる未来が見えている。何も出来ずにただでやられるわけにはいかねぇ。
「零距離射撃か!詰めすぎたな」
ネイトネフェルも俺の考えを読んだのか、俺の手にあるヴァルハラから繰り出された大きめの光弾を避けるが、その光弾は彼女の肩を掠り、その部分の制服が欠損する。
「よく今の攻撃から持ち直したな。わらわは相手の骨を折るぐらいの一撃で腹に撃ち込んだんだが。まさかとは思うが、効いていないのか?」
「いやいや、めっちゃ効いてます。身体がジンジンするぐらいです」
マジか~。道理で骨がずれたようなズキズキとした痛みがあったわけだ。あの時、攻撃を持ち直したのは自身の能力で痛覚を一時的に遮断したからだ。今は星辰力不足を回避するために能力を解除している。今はマジでお腹痛ぇ。
「……次はこっちの番ですね」
「良いだろう。貴様の攻撃などわらわが華麗に対処してやるわ」
俺はヴァルハラを銃型から暗緑色の刃を持つ剣型へと姿を変える。
なら、行かせてもらおうか。
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「…………………………」
八幡とネイトネフェルが戦っている練習場より上にあるガラス張りのVIP専用のギャラリー席で、学園の理事長であるペトラは二人の戦いを分析するようにただ一人静かに見守っていた。
「どうじゃ?今の状況は?」
その沈黙を破るようにVIP席にピンク色のチャイナドレスを着た女児が躊躇いも無く入ってきて静かに見守っていたペトラに訊ねた。
本来なら只の学生ではこのVIP席に入ることすらも出来ないのだが、彼女は只の学生という枠を超越した存在で、この一件に八幡に体術を教えた者として絡んでいた経緯があった。八幡も彼女が来ることは知らされておらず、もし会ったら絶句の一言に尽きるだろう。
「今は近接戦による一歩も退かない戦闘が続いていますね。あのネイトネフェルに体術で何とか応戦出来るまで鍛えるとは流石ですね、万有天羅」
「何、妾だけの力だけではない。彼奴の勝ちたいという集中力があそこまで才能を伸ばしたのじゃ。最初に彼奴自身から練習を付けて貰いたいという連絡を受けた時は驚いたが、妾としては輝石を育てられて有意義な時間ではあったぞ」
そう言ってピンク色のチャイナドレスを着た女児ー范星露はガラス張りの席から興味津々で楽しそうに二人の試合を眺めていた。
「そうじゃ!ちなみに、試合中で八幡はあの純星煌式武装を使ったかの?」
「純星煌式武装?いえ、まだですが……?」
「ほほう!なら、お主も見ていた方が良い。彼奴が考えた魔術師の能力と純星煌式武装の能力を使った恐ろしい戦法……そろそろ見れるぞよ」
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「あわわ……八幡君。今度は防戦一方だよ」
場所が変わって今度は練習場の控え室。そこではシルヴィが八幡とネイトネフェルの近接戦をハラハラとしていた様子で眺め、クロエは試合開始時と変わらないクールな表情で試合を眺めていた。
「…………そろそろね」
「えっ?」
今まで静かに黙っていたクロエが口を開けたことに驚いた反応を示したシルヴィアは声の主である彼女を見るように振り向く。
「そろそろって……何がなの?クロエちゃん」
「生徒会長、そろそろ盤面が変わるかもしれません。八幡の考えた戦法が見れますよ」
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(不思議だ……こやつは何故わらわの得意とする近接戦闘を仕掛けたのだ?)
戦闘の最中、ネイトネフェルは八幡が近接戦闘に持ち込んだ事に違和感を覚えていた。
(こやつの剣術、体術、近接戦闘に関わる攻撃は全てわらわが技術的に優位なのに、何故諦めないのか。たまに反撃をしても目で避けるように回避するから攻撃も決定打にはならない。しかし、このまま決定打も無いまま長期戦に持ち込めば、近接戦闘に利があるわらわが圧倒的優位の筈。先程の戦いを見るにこやつは馬鹿ではあるまい。血迷ったのか?)
「…………ようやくだ」
「くっ!こやつ!?」
ネイトネフェルの腹を右手で触れた八幡はネイトネフェルの手刀を避けつつ、再びネイトネフェルから距離を取った。
「ふー……まだ十数回しか練習してないからここまでかなり手間どったな」
そう言って、八幡はようやくと言わんばかりに彼の二本目の相棒である黄昏の夢幻剣を腰にある鞘から抜刀するのだった。
「貴様、何をした?」
ネイトネフェルの短い問いかけに八幡は彼の右手に顕現した怪しい紫色に光る痣を見せて説明する。
「
「なっ!?そのために近接戦を……」
「ええ。さっきのまま近接戦闘続けていれば、貴女に分があったでしょう。けれど、ある女児の言葉を借りれば、俺は長期戦になれば誰にも負けないらしいんすよね。あまり自覚は無いけど」
(こやつ…ここまでは準備だったと言うのか)
ネイトネフェルは八幡の魔術師の能力に驚愕していたものの、八幡の全てを見透かされたような知的な戦い方を高く評価するのだった。それに思わず彼女の顔には戦闘を愛した者の笑みが浮かんでいた。
「ならば……ここからが貴様の本番というなら、貴様の真価をわらわに証明してみろ!!」
「……言われなくても!」