歌姫に拾われた俺がアスタリスクで生活をするのはまちがっているだろうか。 作:リコルト
「これが星武祭か……すごい景色だな」
六花の中央区にある星武祭のメインステージを有するドームーー通称シリウスドーム。星武祭の試合前の開会式が開かれるこのドームの観客席、しかも生徒会長クラスの序列上位者しか入れない部屋のようなVIP席から会場全体を眺め、初めての生で見る星武祭の雰囲気に思わず感動してしまう。
観客の数といい、学生の数といい凄い人数だ。流石は世界が誇るアスタリスクだけのエンターテイメント。
あの衝撃のデビューを果たしたシルヴィ専属の初仕事から早くも一ヶ月。今日はアスタリスク、いや世界中が待ちに待った星武祭が開かれる日である。
あの初仕事の功績がペトラさんに認められてから、仕事量が一気に増えて、時間が経つのが本当に早く感じた。仕事が無い日もシルヴィの特訓に付き合わされ、たまにネイトネフェルが絡んできて……この一ヶ月は色々と本当に濃密だった。シルヴィとネイトネフェルの喧嘩の回数も前より頻度が多いし……。
ただ、総武で毎日を憂鬱に過ごしているよりは全然マシだった。星脈世代だと気付いてたら、最初からアスタリスクに行けば良かったと思うぐらいに後悔してる。
「どう?初めての星武祭の感想は?」
ここ一ヶ月の事を振り返りながら会場を見ていると、横からこの部屋の主であるシルヴィがピョコッと覗き込むように俺に訊ねる。
「試合前にも関わらずこの熱気みたいなのは凄い。予選や本選が始まったら、ヤバいだろうな。それよりシルヴィ、序列外で生徒会長でもない俺がここで観戦しても大丈夫なのか?」
「全然大丈夫!私の同伴という事で許可は取ってるから。それに八幡君の事はなるべく内密だから、一般の観客席にいるよりもペトラさん的には専用の席で見て貰う方が都合が良いって」
成る程、それもそうか。まさか冗談半分で星武祭を見たいと言ったら、ペトラさんとシルヴィの二人に快諾されるとは思っていなかったな。自分の存在は秘密だから、本当は自室で寂しく見る覚悟はしていたが、逆にその関心意欲を誉められるのは予想外だった。
「そうだ、八幡君!開会式が始まるまで今日私が戦う選手の確認を一緒にしない?」
「いいぞ、俺もシルヴィが戦う相手に興味がある」
そう言って、バンバンと子供のようにここに座って欲しいアピールをするシルヴィの隣の席に座る。そして、俺はVIP席に備え付けられたタブレットでシルヴィの対戦相手を確認するのだが……
「シ、シルヴィ?身体が近くないか?」
「えっ、そうかな?」
シルヴィが俺に寄りかかるようにタブレットを覗き込むのだ。そのせいで、顔に近づく彼女の髪から漂うシャンプーの香りが鼻を刺激し、腕に彼女のたわわな二つの柔らかい物体が当たっている。
あの初仕事から二人きりの仕事が増えて、最近のシルヴィはこんな感じだ。何故か妙に距離が近い。男子としては夢のような光景だが、彼女の専属という役職を持つ俺からすれば気持ちは良いが、その反面でいつスキャンダルになるかもしれないか内心ヒヤヒヤしていた。
彼女とそういった関係になるのに憧れは少しあるが、世界の歌姫であるシルヴィが只のマネージャーや護衛をやっている俺と釣り合うわけが無い……もし彼氏とかにするなら、俺よりもマシな男はアスタリスクでもかなりいるだろうに……。
そんな事を思いつつ、シルヴィと共に二人で彼女の次の対戦相手の一覧を見ていると、VIP席の部屋のドアが勢い良く開かれる。
「ここにいたのか!開会式前からイチャイチャしよって!貴様は生徒会長の職があるだろうが!」
「げっ……ネイトネフェルっ!?」
勢い良く部屋のドアを開けたのは子供っぽい可愛さを残したシルヴィに対し、それを捨てて大人の色気を追究したシルヴィと対局の存在である学園内でシルヴィに次ぐ実力者であるネイトネフェル。
彼女も星武祭の参加者であるため、会場にはすでに入場していると思っていたが、よくよく考えてみたら序列二位の彼女もこのVIP席を利用できる立場だったな。
「げっ……とは何だっ!何をしているか気になって見に来れば、八幡と一緒に二人きりではないか!お前は生徒会長なんだから私と違って開会式の挨拶があるだろう!」
「何よ~!別に少しぐらい良いでしょ!そういうネイトネフェルは私がいない間に何をする気なのっ?」
「それは勿論、私も八幡に対戦相手の情報を見てもらうに決まっている。生徒会長ではない私には開会式に参加する義務は無いからな。
「む~!ネイトネフェルの意地悪っ!」
こっちに来るや否や俺に身体を密着させ、シルヴィよりも細長い美脚を蛇のように俺の身体に絡めたネイトネフェルとシルヴィとの間で火花が散っている。この光景を見る度に二人の争いの蚊帳の外である俺は溜め息を吐かざるを得ない。
はぁ……ここ最近は二人の言い争いが多いもんだ。ペトラさんが言うには俺が来てから二人の争いは以前よりも絶えなくなったらしく、学生の性分として少しぐらいの喧嘩は良いとちょっと楽しそうに言っていたが……彼女達の間で巻き込まれる俺の気持ちになって欲しい。
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二人の喧嘩を宥めて、シルヴィを開会式の準備に行かせ、ネイトネフェルの要望に可能な限り付き合って、上機嫌な様子で彼女を選手の控え室に行かせた所で、開会式が始まろうとしていた。
二人のご機嫌取りに開会式でグロッキーな俺は一人で飲み物を飲んで休憩しながら、一人で
会場の中心にはシルヴィを含めた六学園の各生徒会長が並び、彼女達よりも前に出て中心で星武祭の歴史や規定を話すのは星武祭運営委員の最高責任者であるマディアス・メサ。いずれもアスタリスクにいれば、聞いたことはある有名人ばかりだ。
『星武祭は常に世界で最高のアミューズメントであり、無二の興奮と感動を生み出すステージであり、そして魂を震わせる至高のエンターテイメントなのだから!』
最高責任者による開会を宣言する最後の決め台詞に会場の観客達はワァッ!!と湧き上がる。まだ開会式にも関わらず、凄い熱量だ。
今回の王竜星武祭は十日をかけた緻密なスケジュールで行われる。本選に出場できるのは十六名。それまで各ブロックに分かれ、トーナメント形式で数百人近くが参加する学生を絞るのが予選である。
シルヴィ、ネイトネフェル共に予選に関してはデータを見ても心配しなくても良さそうだが……この十日間は何も問題が起きないで欲しいものだ。