歌姫に拾われた俺がアスタリスクで生活をするのはまちがっているだろうか。 作:リコルト
評価をくれた方々の中には私がアスタリスクの小説をきっかけをくれた作品の投稿者もいてすごくびっくりしました!
長くはなりましたが、それでは本編をどうぞ!
「……アスタリスクに行かせてください」
アスタリスクに行きたいという決心を言葉で示すと、目の前のペトラさんとリューネハイムさんはその答えに納得したような笑顔を見せてくれた。
「じゃあ、これから君は私の専属のマネージャーだね!えっと……そう言えば名前を聞いていなかったね。君の名前を教えてくれるかな?」
「俺の名前は……八幡、です」
「えっ、それって下の名前…あっ、ごめんなさい…」
リューネハイムさんに名前を訊ねられ、その返答にどうも困ってしまう。家族から絶縁されたから比企谷の名字は今後あまり語りたくは無い。リューネハイムさんもそれを思い出したらしく申し訳なさそうに俺に謝る。いや、別にリューネハイムさんが謝ることじゃないから。逆に俺が名前の説明で変に困った方が悪いし。
「……成る程。そういう悩みでしたら、これを機に貴方の新しい名字を作って戸籍として登録してみるのは如何でしょうか?」
「新しい、名字ですか?」
名字の説明の関係で俺とリューネハイムさんが困っていると、それを傍らで見ていたペトラさんが新たな提案を持って助け船を出して来てくれた。
「それって可能なんですか?」
「ええ、可能です。普通なら難しいですが、家族と絶縁されたという証明書を持っている貴方なら公的機関を通した新しい名字の登録もスムーズに終わるでしょう。それに、アスタリスクにはちょっとした事情で名前を変えた生徒も少なくはないですよ」
成る程。最初は斬新なアイデアだなと思っていたが、アスタリスクでは案外普通の事なんだな。言われてみれば、アスタリスクの星武祭では出生も分からないような選手が活躍していたのを昔テレビで何回か見たことがある。今の俺もそっち側の人間というわけか。
「それに可能な限り貴方の素性とアスタリスクでの生活は私が責任を持って守りますが、貴方の家族や知人が何らかの理由で接触を図るかもしれません」
うわっ、それはキツイ。最後までお金にがめつかった元家族がそれを知ったら、アスタリスクで優雅な生活をしていると誤解して何か接触してくるのは間違いない。それに、最後まで心配してくれた三人はまだしも雪ノ下や由比ヶ浜とかが接触してきたら非常に面倒臭いな。
「……分かりました。お言葉に甘えて新しい名字で生活してみようと思います」
「そう、懸命な判断ね。ちなみに、新しい名字の方はもう出てるのかしら?」
うーん、新しい名字か。純日本人だから変に外人みたいにカタカナを使うのは何かダサいから却下だろ。日本人らしさを残してみるか。それと新しい生活をするという心機一転みたいな意味を込めて俺の名字は………
「……決めました。俺の新しい名字は
『宮』っていう感じに日本人らしさを残しつつ、新しい生活という意味から『新』という漢字を使わせて貰った。案外短絡的な考えかもしれないが、妙にひねるよりはこっちの方が良いだろう。
「新宮八幡…良い名前じゃない。改めてよろしく頼むわ、新宮八幡君。今日から私が貴方の上司になるペトラよ。困った事があったら、何でも言って頂戴」
「私も改めて自己紹介するね。私の名前はシルヴィア・リューネハイム。クインヴェールでは生徒会長もやってるんだ。君とはマネージャーとして長い付き合いになるだろうし、気軽にシルヴィと呼んで!同い年だからタメ口でも全然良いよ!よろしくね、八幡君!」
「あ、ああ、よろしく。シ、シルヴィ」
改めて二人から自己紹介を受け、友好の証として互いに握手を交わす。それにしても、リューネハイムさ……いや、シルヴィか。いきなり、世界的アイドルを愛称で呼ぶとかレベル高すぎだろ。というより、さりげなく握手したけど、ファンに殺されないだろうか……。
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ー2日後の早朝ー
「……以上が総武中学を転校する書類です。今までお世話になりました」
生徒達でざわつく総武中学の中でも最も静かな場所である校長室。生徒達が登校する前の早朝であることから、校長室の静けさもさらに高まっており、そんな中で俺は目の前にいる校長先生と一部の教員に対して頭を下げていた。
理由はアスタリスクに向かうにあたって中学を退学する旨を伝えるためである。何も言わずに行方不明になっても良かったかもしれないが、元家族は何も興味を示さないと思うし、学校を困らせるだけである。
ある不特定多数の生徒に対して恨みに近い感情を持っているだけであって、先生達には全く恨みを抱いていない。むしろ、平塚先生とかにはあの事件以来でもお世話になった方である。少なくとも、俺を腫れ物のような扱いはしてこなかった。
一番の目的は退学の手続きだが、最後に生徒のいない総武中学と先生達にお別れを言おうとこの時間を俺は選んだ。星脈世代だから、刺し傷もすっかり自己治癒で2日で完治して、その治療中にペトラさんが新しい俺の名字の手続きと退学に必要な書類を整えてくれた。準備は万端な状態であった。
「それにしても比企……いや、新宮君だったね。私の力が及ばず君には大変申し訳ない事をした。頭を下げるのはこちら側だ」
そう言って、好好爺のような雰囲気の校長先生は先程まで持っていた資料を机に置き、俺に対して頭を深く下げる。校長先生に続いてその資料の内容を知った一部の教員も俺に頭を下げていた。
校長先生が持っていた資料。それは俺が中学で悪名が広まったきっかけである文化祭や修学旅行の嘘告白の依頼についての詳細が載った資料である。
いきなり退学したいと生徒である俺が言ったら、校長先生はその理由や動機を聞くのは当然で、シナリオ通り校長先生はそれについて訊ねてきた。
そこで、俺は文化祭や修学旅行の嘘告白の依頼の話を文化祭実行委員の出欠表や奉仕部の今までの依頼をまとめた日誌など裏付ける証拠と共に話を進めた。ここまでれっきとした虐めの冤罪の証拠があると校長先生や一部の教員も無視できず、深刻そうな顔をしていて、家族と絶縁したという旨の話をした時は先生達全員顔面蒼白だった。
「いえ、もう終わった事なので別に大丈夫です。その資料もあくまで俺が退学する動機を伝えるために使用したものなので、後はそちらが好きにして貰っても全然構いません」
「……いや、この資料を捨てるわけにはいかない。我々には君の人生を狂わせてしまった責任がある。この資料は近い内に私が改めて使用するつもりだ。君の名誉回復のためにね」
校長先生の言葉とその目には何かを覚悟した重みのようなものを感じた。恐らく、俺が渡した資料と共に校長先生は職を辞してしまうのだろう。校長先生が何をするのかは口に出さなくてもほとんど理解していた。
「もし、公表するなら出来るだけこの件と無関係な生徒は俺みたいに人生を狂わせないでください。特に同学年の戸塚、川崎、材木座は受験生なので……」
「分かった。同じ失敗はもう二度と繰り返したりはしないよ」
本当は関わった生徒も何とかしたいが、この校長先生はそこまで甘くはないだろう。これ以上の方針は俺が口出しをする必要は無い。
「そうだ、新宮君はこれから何処に行くんだい?」
退学の手続きも終わり、俺も校長室を出ようとする際に校長先生にそう訊ねられる。
「アスタ、リスクです」
「……そうかい、君のこれからの人生がより良い物になることを遠くから望んでいるよ」
校長先生はそれ以上何も言わなかった。校長先生もこれから忙しくなりそうなので、俺は校長室に別れを告げる。別れを告げて、人気の無い中学の裏門から出ようとすると、そこには見知った女性が立っていた。
「平塚先生………」
「比企谷……いや、今は新宮か。私もお前の人生を狂わせた責任を負う身だ。進路指導なんかしても参考にならんから、私からは何も言わん。ただ……」
「何時になってでも良い。一度はここにまた戻って来てくれ。お前を心から待っている友達がいるからな。アスタリスクに行くお前を私はただ遠くから見守っている」
「……はい。今までありがとうございました」
「……ああ、最後に教師として餞別の品だ」
そう言って、最後に平塚先生は住所が書かれたメモ用紙を俺に手渡した。
「これは?」
「私の学生時代の友人がアスタリスクで星脈世代向けの雑貨店を開いている。場所は再開発エリアの近くと立地は悪いが、私の友人と言えばお前の力になってくれる筈だ」
「はい、必ず訪れますね」
こうして、俺は総武中学に別れを告げた………
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「あっ!ペトラさん来たよ!」
「すいません!先生と最後に話をしてて」
「別に構わないわよ。すでに新宮君の荷物も船に積んでいるわ。後は乗るだけよ」
「八幡君!準備は良いよね?」
「ああ、行こうか。アスタリスクへ」