歌姫に拾われた俺がアスタリスクで生活をするのはまちがっているだろうか。   作:リコルト

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 前に言ったと思いますが、アンチ組に関しての質問やリクエストはまだ上手く対応はできません。「『アンチ・ヘイト』のタグを付けてるのは作者じゃん!タグ詐欺じゃないか!」と思う読者も少なからずいると思います……。ですが、まだアンチ組に関しては賛否両論の意見が多く、正直不安な所が多々あります。
 一応、そろそろ自分なりのアンチ組のその後は書こうと思っているのですが、もう少しリハビリ感覚で自由に書かせて頂けると作者としては非常に嬉しい限りです。いつも読んで頂いている読者の皆様には本当に申し訳ありませんが、よろしくお願いします。




ソフィア・フェアクロフ

 

 

「ソフィアさん、これでも大丈夫ですか?」

 

 立ちながら個人的な相談を受けるのもどうだろう、と考えた俺は近くの自販機で冬に合わせた温かいミルクティを自分の分とソフィアさんの分と二本購入し、片方を通路脇に備え付けられたベンチで座って待っていた彼女に訊ねながら手渡す。

 

「ええ、ありがとうですわ」

 

 礼儀正しくお礼を言って、温かい紅茶を受け取ると、ソフィアさんは蓋を開けて早速飲もうとする。色々とあって精神的に疲れてたのだろう。目が覚める苦いコーヒーより、ほんのりと甘さがあって温かいミルクティにして正解だったようだ。

 

「あちゅいっ!」

 

(あちゅい……?)

 

 自販機のドリンクも優雅に飲むのだろう、と興味本位で少し観察していたのだが、口を付けたと同時に舌が火傷をしたような仕草をし、子供のような少し砕けた感じの可愛らしい言葉が彼女の口から出てきた。

 

 大丈夫かと心配して声をかけたのだが、彼女は大丈夫だと顔を赤らめて答える。自分でも少し恥ずかしかったのだろう。彼女の名誉の為に、今のソフィアさんの意外な一面は誰にも黙っておこう。美しいという言葉が似合う高貴なお嬢様といっても、シルヴィみたいに可愛らしい一面があるもんなんだな……。

 

「………先程、貴方の主が私の事を気にかけていたと言っておりましたが、貴方は私の事をどこまで主から聞いておりますの?」

 

 小さくフーフーッとまだ温かいミルクティを冷まして飲みながら、ソフィアさんが同じくミルクティを飲み始めていた俺に訊ねる。

 

 うーん……女子校であるクインヴェールの校章を付けていたお蔭で、学園の裏組織であるベネトナーシュの一人だと誤解してくれたのは良いが、何処まで話せばボロが出てしまうだろうか?一応、俺の存在と能力は立場的にはベネトナーシュ以上に機密情報らしいしなぁ……

 

「あー……ソフィアさんの事は色々と聞いています。剣技に関してはアーネスト・フェアクロフ……ソフィアさんのお兄様を凌ぐ実力を持っているにも関わらず、公式序列戦といった対人戦ではそれを出し切れない。また、その原因はソフィアさんが抱える人を傷付けられないというトラウマにある事とかですね」

 

 俺は開会式前にシルヴィから聞いた彼女の事情を包み隠さず彼女に伝えるのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

~開会式前~

 

ーVIP席にてー

 

 

『シルヴィが他に気になる選手は誰かいるか?』

 

『う~ん…後はこのDブロックのソフィアさんかな?』

 

 今回の本選に上がってくるであろう選手の一覧を色々と見ていると、シルヴィはDブロックのソフィア・フェアクロフという名前を指差すのだった。

 

『確か元序列8位……ガラードワースの生徒会長の妹だったよな。同じ学園同士だが、ネイトネフェルみたいにライバルとして警戒しているのか?』

 

 あのシルヴィがネイトネフェル以外に珍しく同じ学園の生徒に対抗心を燃やしているのだろうかと訊ねてみるが、その問いにシルヴィは首を横に振るのだった。

 

『ううん……確かに彼女の剣技はアーネストにも劣らない実力を持っているから警戒はしているけど、それ以上に私は心配という意味で気になっているんだ』

 

『心配?』

 

『ソフィアさんは人を斬る事ができない……人を傷付ける事が出来ないトラウマがあるの。にも関わらず、あの人は生き急ぐように星武祭に参加してね。前回の王竜星武祭もそのトラウマのせいで、予選で敗退しちゃったんだけど、二回目である今回も私や周りの反対を押し切って参加しちゃったから……』

 

『成る程な……だが、どうして人を傷付けられないにも関わらず、星武祭に出るんだ?』

 

 星武世代でありながら人を傷付けられない平和主義はアスタリスクでも少なくない。そういう人達は戦闘以外の落星工学といった別分野で頑張ったりと基本は星武祭に関わらないのが普通だが、彼女の行動は真逆である。

 

『う~ん、その辺は私も詳しくは分からないな。そこはソフィアさん自身に聞くのが一番だと思う』

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「まぁ、剣技に関してはお兄様にまだ遠く及ばないと思いますが、それ以外貴方が言った事は本当ですわ……」

 

 自らの剣技を兄と比べて謙遜しながら、ソフィアさんは言われた事を肯定すると同時に腰に身に付けていた彼女の剣型煌式武装を震えるように見つめるのだった。

 

「言いたくなければ構いませんが、どうしてソフィアさんは人を傷付けられないにも関わらず、戦いの祭典である星武祭に身を投じるんですか?」

 

 俺は彼女の方を真っ直ぐ向いてずっと疑問に思っていた事をぶつける。その問いにソフィアさんは意外そうに、そして動揺したような表情を見せるが、息を飲みこむようにゆっくりと口を開いて教えてくれたのだった。

 

「……子供の頃、私のお兄様には婚約者がいたんですの。彼女はお兄様だけでなく、妹である私にも優しく接してくれましたわ。だけど、婚約者である彼女と私が剣の練習試合をしている際に、私が彼女の顔に怪我をさせてしまって……それ以降、その婚約は破棄となった事で、仲良くしていた彼女とは疎遠になってしまいましたの」

 

 成る程……それがソフィアさんの人を傷付けられないというトラウマの原点という訳か。

 

 ちょっとしたトラブルだけで婚約破棄という生涯平民である俺からすると、経験もしないような出来事だが、一家の人生設計を狂わせたと考えると抱える責任と罪悪感は相当重いだろうな。

 

「それで……婚約破棄されたお兄さんの方は?」

 

「アーネストお兄様はあまり気にしてないと私を心配してくれましたが、あの事件以降から一家の期待に応えるために奴隷のように従うようになって……家の呪縛に囚われて抑圧されたお兄様の姿はもう見たくありませんの」

 

「もしかして、ソフィアさんが星武祭に出る目的は……」

 

「私がお兄様に代わって家督を継ぐ事ですわ。星武祭で優勝し、私が兄に代わる存在だと家に認めて頂ければ、お兄様は自由になれますの」

 

 やはりか……確かに星武祭に優勝すれば、叶えられる範囲で自分の願いを叶える事が出来るし、加えて自分の実力を誇示できる。自らを売り出すのであれば、これ以上無い最高の機会だ。

 

「ねぇ……私が星武祭に優勝できるか、どうか貴方はどう思いますの?私はこれ以上どうすれば良いですの……」

 

「…………………………」

 

 震えながら、今にも泣き出してしまうのではないかと心配になるぐらいか細い声で訊ねられるが、その問いに上手く答えることが出来ない。

 

 彼女は生き急いでいるのではない……兄を気遣う自らの願望に追い詰められていたのだ。だが、今回で彼女は三回ある内の二回の出場権を良い結果が残せなかった形で使いきっている。残すは一回きりなのだが、勝算が望めない星武祭に参加するかどうか苦悩する気持ちは分からなくもない。むしろ、同情したくなるぐらいだ。

 

 あまりに重い相談内容に俺もしばらく黙って長考するが、数分して彼女の問いに対する答えを声に出す。

 

「……まず、結果から言うと、今のソフィアさんでは王竜星武祭での優勝は無理だと思います。ソフィアさんが人を傷付けられないというトラウマを克服するのであれば話は別ですが、そう易々と克服出来るものではない事は自分でも理解しているでしょうし、無理に克服するのはオススメしません」

 

「そう……ですわよね」

 

「けど、今の話はソフィアさんが()()()()()に出続ける場合の話です。他の星武祭……鳳凰星武祭や獅鷲星武祭であれば、貴女が優勝も不可能ではありません」

 

 優勝は出来ないと否定されたとはいえ、それを可能にするかもしれない解決案を出してきた俺の言葉にハッとした様子で興味津々にソフィアさんは耳を傾ける。そんな彼女の様子を窺いつつ、俺は話を続ける。

 

「自分が傷付けられないなら、他の仲間にお願いするのが最も手っ取り早くて自分は一番現実的だと思います。一番良いのは味方の数が星武祭で最多のチーム戦である獅鷲星武祭ですね」

 

 彼女は自分個人を見てもらいたい余りに仲間に頼る事を忘れているのだ。あの青髪の男が近い事を言っていたが、星武祭は勝てば正義。チームで優勝すれば、個人の実力を全て発揮できないとはいえ、願いを叶える権利と星武祭優勝者の肩書きを望もうが、望まないが得る事ができる。他人の力を借りたとはいえ、星武祭優勝者の肩書きは彼女の家督問題を解決できる効力を秘めている。

 

「わ、私は……」

 

「決めるのはソフィアさんです。あくまでそれが俺が考える最善というだけで強制はしません。次の鳳凰星武祭も獅鷲星武祭も今から半年以上はあるので考える時間は十分にあると思いますが……少なくとも自分の事をよく理解しているソフィアさんなら、その辺は柔軟に行動できると思っていますよ」

 

「……っ!!!」

 

 そう言って俺は座っていたベンチから立ち上がる。シルヴィに『少し遅れる』としか送っていないのだが、少々時間をかけて話し過ぎたようだ。

 

 ソフィアさんは冷静に落ち着いていれば、自分にあった行動をできる聡明な人物だと思う。今はただ急いでいるだけ。少なくとも雪ノ下妹のように自己分析が出来ていないにも関わらず、一人で身丈に合わない行動をする暴走機関車とは全然違う。彼女なら友人やクラスメイトに頼るのも容易だろう。

 

 

「あ、あのっ!」

 

「んっ?」

 

 

 立ち去ろうとする俺にソフィアさんが後ろから声をかける。気になって振り返ってみると、彼女はスマホ代わりに連絡手段としてアスタリスクで使える最先端のデバイスを取り出して、一枚のウインドウ画面を飛ばすように見せてきた。

 

 

「こ、これ、私の電話番号ですわ。ベネトナーシュの方だと理解していますが、またいつか相談に乗って欲しいのですの。勿論、貴方の仕事の邪魔は致しませんわ!」

 

 

 意外にも彼女が渡してきたのは彼女の電話番号。渡し慣れていないのか顔を恥ずかしそうに赤くして、画面を飛ばしたその手がプルプルと震えている。

 

 さて、俺もどうしたものか。彼女が勇気を振り絞って電話番号を頂いたのだが、彼女の決心もあって妙に断り辛い。これは流石の俺も予想外だった。

 

 まぁ、ペトラさんとシルヴィにこの事は報告するし、ソフィアさんも口は固い方だ。名前を隠して番号だけ交換するなら多分大丈夫だろう。

 

「分かりました。じゃあ、これが……」

 

 加工して番号以外を隠したウィンドウをソフィアさんに送り、互いに電話番号を交換。俺の数少ない電話番号の一覧に新たにソフィア・フェアクロフが新たに追加されたのだった。

 

「それでは私もこの辺で失礼しますわ。寮に帰ったら、改めて貴方がおっしゃった事を考えてみて、次の星武祭に向けて鍛練を積もうと思いますの」

 

「まだ時間はあるのであまり深く思い悩まないで下さいね。私の主もまた心配するので……」

 

「はいですわ!」

 

 

 そう言い残して駆けるように会場を後にするソフィアさんだが、顔色も相談を受けた前より全然良く、何かと吹っ切れた様子だった。

 

 今の彼女なら冷静になって次の星武祭について考えられるだろう。鳳凰星武祭であれ、獅鷲星武祭であれ序列8位の実力を持っていた彼女をチームに加えるチームは必ずある筈だ。

 

 

「やっべ……シルヴィが待ってるんだ。急がないと」

 

 

…………………………

 

 

 

………………………………………………

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

「ふふっ、良い顔になったね」

 

 

 苦悩していたソフィアと八幡の相談の一部始終を気配を消して隠れるように見ていた純白の学生服を着た青年が口元に笑みを浮かべ、姿を現す。

 

 

 名をアーネスト・フェアクロフ。ガラードワース序列1位という実力を持ち、ガラードワースの生徒会長でもあるアスタリスクでも有数の有名人。

 

 彼は今回の王竜星武祭の参加者ではないが、生徒会長として開会式に顔を出し、妹であるソフィアの試合を観戦しに来たのだ。

 

 敗退してしまった妹を心配して声をかけようと彼女がいる選手控え室を訪れようとしたのだが、その近くでソフィアが先程戦った選手に絡まれそうになったのを目撃。即刻彼も自身の相棒である聖剣『白濾の魔剣』を抜刀し、止めにかかろうとする。

 

 が、妹を襲う魔の手を八幡が阻止。それを見たアーネストは聖剣を納め、彼女の悩みの相談を受けた八幡に個人的な興味を抱くのだった。

 

 

「僕の為に奔走していたソフィアも彼のお蔭で何か吹っ切れたようだ……名前を知らない彼には感謝するよ」

 

 

 悩みを抱えていた妹に道標を指し示した八幡にアーネストは誰もいない通路で静かにお礼を言う。

 

 

「にしても彼……鮮やかな剣の腕前だったよ。序列25位を綺麗に圧倒するとはね。だが、ソフィアが言うように彼をベネトナーシュの一員のメンバーとして見た事が無い。久しぶりに個人的に彼を調べてみる事にしようかな。もしかすると彼は僕と同じぐらいに強い可能性を秘めているかもしれないからね」

 

 一流の剣士として八幡の剣技を解析し、全てが不明である八幡の素性に近付こうとするアーネスト。が、その表情には腹黒さに近い強者に対する野心の笑みが表れ、開会式に来た事を十分な成果だと満足してその場を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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