歌姫に拾われた俺がアスタリスクで生活をするのはまちがっているだろうか。   作:リコルト

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何事もなく終わる予選

 

 

 

『ウオォォォォォォッッ!!!』

 

 

 王竜星武祭が開催され、今日で五日目。

 

 星武祭が行われる日程としては丁度半分が終了し、各ブロックを勝ち抜いた選手合計16人が選抜される。そこで、新たに作り直された新しいトーナメント表に従って行われるのが本選だそうだ。

 

 一大イベントである星武祭にしてはかなりあっという間と感じるが、今年の王竜星武祭は例年よりも選手が少ないらしく、予定もかなり短縮されているらしい。

 

 理由は簡単。前回の王竜星武祭からレベルが高い選手が一気に参入してきたからだ。準優勝したシルヴィも大概だが、それに勝った前回優勝者の孤毒の魔女(エレンシューキガル)は別格。三回しか無い貴重な出場回数を削って、勝ち目が無い強敵と戦うぐらいなら別の星武祭に出場しようと考えるわけだ。どの星武祭に参加するかは自由だからな。

 

「どうした、考え事か?」

 

「いや、何でもない。星武祭も案外早く終わるものだなぁと思ってだな」

 

 VIP席から試合を眺めていた俺を心配するように訊ねてきたのはシルヴィに次ぐ序列を持つネイトネフェル。手には彼女が淹れたのであろう中国茶葉を使用したオリエンタルな雰囲気香るお茶が入った茶碗が握られ、それを受け取った俺はそれを飲みながら彼女の問いに答えるのだった。

 

 席に帰って来ている彼女。実はすでにシルヴィとは別ブロックではあるが、先程ブロック選抜者として勝ち抜けており、本選へ進む事が一足先に決まっているのだ。

 

 シルヴィの本選行きが決まるのをVIP席から眺めていた時に丁度ネイトネフェルが帰って来たのだが、彼女が言うには呆気ない試合だったらしい。

 

 彼女の試合を見返すと、彼女のブロックには各学園の冒頭の十二人(ページ・ワン)クラスは一人、二人ぐらいしかおらず、それらを含めても全ての試合において彼女の体術から放たれる蹴りと手刀で一発KOになっている。今年の王竜星武祭の人数が少ない原因の一人は間違いなく彼女だろう。呆気ないとはよく言ったものだ。

 

 

『勝負あり!Cブロック勝者はシルヴィア・リューネハイム選手だぁ!!!』

 

 

 ……どうやら、こちらも終わったようだな。シルヴィの相手はアルルカントの魔術師である男子生徒で、少々厄介な相手ではあったが、持ち前の歌の能力で無事勝利を勝ち取った感じだ。ここで初めて魔女の能力を使った事に苦戦しているのではないかと内心ヒヤヒヤしたが、本選に上がれて本当に良かった。

 

 

「全く……魔女の能力も使い、ここまで時間をかけさせるな。ギャラリーの不安を煽るだけではないか、バカ者」

 

 

 後ろでネイトネフェルも表現者としての独特な視点から厳しい言葉で評価するが、その表情は嬉しそうだ。彼女なりの照れ隠しなのだろう。

 

 

 

 さて、これで予選は終了。本選からは選び抜かれた16人が戦うことになり、これにはシルヴィ、ネイトネフェル……そして数日前に会った孤毒の魔女(エレンシューキガル)が含まれている。彼女が上がって来ないわけが無い。

 

 トーナメント表は各学園の生徒会長による抽選で決まり、戦う相手は各生徒会長に委ねられているに等しい。

 

 運が良ければ、当たりたくない相手と早く戦わずに済むし、逆に運が悪ければ、その逆もある。孤毒の魔女(エレンシューキガル)と最初に戦うのは誰もが避けたい案件だろう。彼女の場合は決勝まで戦わないのが一番ベストだな。

 

 後は同じ学園同士の生徒の潰し合いは避けたいものだ。うちのシルヴィとネイトネフェルはむしろ互いにぶつかり合えるのを望んでいるが、学園長であるペトラさんとは複雑な気持ちだろう。

 

 何せ星武祭は出場選手の個人戦ではあるが、その裏で出場選手が属する学園同士でランキング争いをしているからな。三種類の星武祭の結果を集計して総合優勝を決めているのだが、その総合優勝という肩書きの恩恵は計りしれない。スポンサーも増えるし、将来有望な選手を他学園よりも招き入れやすくなるといった数多くのメリットが簡単に思い付く。

 

 ちなみに、前シーズンのクインヴェールのランキングは六位……最下位だ。総合優勝も一度しかない。

 

 まぁ、クインヴェールは強い学生というよりはテレビ映りが良い芸能人向けの学生を募集しているため、そこは割り切っている。むしろ、シルヴィやネイトネフェルみたいに歌って、踊れて、強い、という三拍子の女子の方がクインヴェール内で珍しいのだ。

 

 そんな二人が本選の初めから潰し合うよりは、理想として優勝、準優勝みたいなワンツーフィニッシュした方が学園同士のランキング争いにおいてクインヴェールに大きく貢献する。まぁ、そう上手く行かないイレギュラーな事態が起こるのが星武祭の醍醐味でもあるんだが。

 

「よし……今日の試合が終わったし、トーナメントの抽選も明日になるそうだからシルヴィが帰って来たら、俺達も学園に帰ろうぜ」

 

「うむ、そうだな。そうだ……八幡、今日の夜の予定は空いていないか?」

 

「夜?ああ、全然空いてるぞ」

 

 別に星武祭の参加者じゃないからな。シルヴィやネイトネフェルと比べれば、暇人な方だろう。強いて言うなら、俺の煌式武装『ヴァルハラ』を煌式武装を扱うクインヴェールの技術開発部門に調整をしてもらうために提出するぐらいだ。

 

 理由は特に知らない。最初は西園寺さんに調整を頼めば良いと自分は思ったが、何でも優秀な研究者が転入し、その人物に調整をしてもらうとか。まぁ、顔は知らないが、ペトラさんが信頼している人物だし、不信感は抱いていない。自爆装置とか付けられたら、その装置を起動して一緒に爆発してもらうまでだ。

 

「そ、そうか……!それなら……」

 

 俺の返事を聞いて、何処か嬉しそうなネイトネフェルは俺に何かのサイトを見せる。これはレストランか?

 

「今日の夜、わらわと本選に上がった祝いを兼ねた食事でもどうだ?」

 

 成る程、祝勝会か。気が早いかもしれんが、星武祭に一区切りが着いた所だし、良い提案かもしれない。

 

 メニューを見てみると、ロコモコといった南国風…いや、ポリネシア風といった感じか。島国育ちのネイトネフェルが好きそうな料理ジャンルだな。評判もかなり高い方で、人気が少ない感じの所謂知る人ぞ知る穴場スポットらしい。人目を気にする彼女らしいチョイスだが、ファミレスみたいに騒々しい場所よりは落ち着いている場所の方が自分も良い。断る理由は無いな。

 

「良いぞ。だが、シルヴィはどうする?」

 

 さっき試合が終わったばかりでまだ帰って来てないが、シルヴィも本選に上がった功労者だ。彼女の予定にもよるが、参加する権利はあるだろう。

 

「ふっ……わらわは八幡と二人きりで楽しみたいのだ。あんな騒がしい奴がいれば、楽しめるものも上手く楽しめまい。それに見た感じ、彼女から夜について何も言われて無いのだろう?早いもの勝ちというものよ」

 

「えっ、ちょ……!?」

 

 此方に近づいてくるや否や、俺と同じぐらいの高い身長を生かして、余裕そうに耳元でそう囁く。

 

 彼女の独特な色気際立つ香水の良い匂いと耳元で囁かれる彼女のほんのり熱い吐息が鼻と耳を刺激する。これで本当に未成年なのが不思議なくらいだ。俺も含め一般男性なら、軽く彼女の魅力に魅了されてしまうだろう。

 

「さぁ、わらわと二人きりで楽しもうぞ?」

 

 女性が言うと色々な意味を持つ言葉を平然と使ってくる相手を魅了することには一流のネイトネフェル。ライブがシルヴィよりも少ないにも関わらず、彼女に熱狂的なファンがいる理由をこの身で理解させられる。

 

「ふふっ……さぁ、八幡はどうしたい?」

 

 さらにネイトネフェルは腕に密着し、シルヴィに劣らない露出が激しい柔らかい双丘を押し付ける。くっ……ネイトネフェルが成長して成人になったら、これよりヤバくなる可能性が高いのか……。

 

 

「ちょっと待ったあぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 廊下から何かが全速力で走る音が聞こえるや否や、VIP席のドアを蹴り飛ばすようにシルヴィが飛び込んできた。額には汗を浮かべている……相当走ったんだな。

 

「ちっ……邪魔者が入りよったか」

 

 目の前にシルヴィ本人がいるにも関わらず、毒を吐くネイトネフェル。仲が悪いのは知っているが、本音が漏れすぎだろ。

 

「はぁ…はぁ…嫌な予感がするから急いで来てみれば……八幡君はわ・た・しのなんだよ!今夜は私と祝勝会をしようと思っていたんだから、勝手に取らないでよね!」

 

「はっ!そんなの早いもの勝ちよ。そもそも八幡といつも近くにいる癖にそのような約束をして無い方が悪い!第一、貴様のようなバカ騒がしく、汗臭い女と食事をするなど八幡に似合わぬわ!」

 

「は、はあぁ!?バカとは何よ!それに今、私が汗かいてるのはネイトネフェルのせいでしょうがっ!?」

 

「なら、牛歩でもすれば良い。いっそ、動くな」

 

「それは私に来るなって言いたいのっ!?」

 

 目の前で繰り広げられる女達の舌戦。辛辣な言葉をネイトネフェルが言い、それに対してさっきの試合の疲れが何処に行ったのか分からないシルヴィが激しい様子で言い返す。うん……女の子って怒ると怖い。

 

 さて……これはどう収拾を着けるべきか。このままいくと、一足先に彼女達の潰し合いという本選が始まりかねない。特にネイトネフェルの体術はもう受けたくないな……普通に骨が折れるぐらい痛いし。

 

「そうだ……シルヴィアよ。今日は私に譲って、シルヴィアは明日にすれば良いじゃないか。明日は本選前の唯一の安息日で、一日中何も無いではないか?」

 

 と、ここでネイトネフェルがシルヴィに一つの提案をする。確かに明日は星武祭が行われる期間内で唯一の休みで、試合は一切無く、殆どの選手はお休みの筈だ。

 

「へぇ~……ネイトネフェルにしては良い提案じゃない。その提案受け入れるわ」

 

 そう言って、シルヴィは振り上げようとしていた拳を下に下ろす。様子を見ると、シルヴィもネイトネフェルも和解したように握手を交わすが……

 

 

 シルヴィ……その提案で……良いのか?

 

 

 二人の和解後、前日のように二人を車に乗せ、学園へと帰ろうとしたのだが、シルヴィがネイトネフェルの出した提案の真意に気付いていないのか一抹の不安を覚える。一応、ネイトネフェルにはその提案の()()()()について伝えたのだが、『あれは受け入れて騙された方が悪い』という事。シルヴィ……すまん、何も言い返せない。

 

 

 

 その夜、俺は約束通りネイトネフェルと例のレストランで食事をしたその一方で、シルヴィは自室で明日の休みはトーナメントの組み合わせの抽選と雑事があるため、一日中休みが無い事を知り、絶望するのだった。

 

 雰囲気に流される前に明日の予定と自分が生徒会長だという事を忘れていなければ良かったものを……

 

 まぁ、このままだとシルヴィが可哀想だし、星武祭が終わったら、何処かで埋め合わせでもしよう。

 

 

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