歌姫に拾われた俺がアスタリスクで生活をするのはまちがっているだろうか。   作:リコルト

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少し長くなりましたので、話を分けてみました。
ひとまずはこういった感じで……



※星武祭が行われる中、千葉では……①

 

 

 

 八幡が千葉を去ってから、すでに三ヶ月近く。アスタリスクでは王竜星武祭が始まる時期となっていた。

 

 

 

 世界中に注目されるようになった時期のアスタリスクでは毎日がお祭りのような状態なのだが、千葉……かつて八幡が通っていた総武中学では180度正反対のお通夜みたいな静閑とした状態だ。

 

 何故ならば、八幡のこれまでの行動の真実と八幡に対する学校生徒からの虐め問題が明らかになった事で、名門と言われていた総武中学のブランドは失墜。八幡に対して虐めや暴力を一切してこなかった善良な生徒等を除いた者達の評判や内申は目を逸らしたくなるぐらい最悪な事になっている。

 

 八幡の行動の真意を知らなかったとはいえ、都合良く八幡に虐めや暴力を加えていた生徒には八幡の学年の下級生も含まれていて、彼らは今後の学校生活を含めた絶望的に近い将来に対して深く後悔するのだが、それよりも深刻なのが八幡と同じ学年の受験生達だ。

 

 前述した一部の善良な生徒等はすでに推薦で何事も無く進路が決まり、推薦に受かった生徒本人とその家族は疲れが取れたように一時の安心感を覚えるのだが、彼ら以外の生徒達の推薦はというと全て取り消しという総武中学始まって以来の前代未聞の事態となっている。

 

 そのため、中学三年になっても勉強せずに最初から推薦入試を狙っていた生徒達は卒業間際で自らの志望校への入学は皆無に等しい事に。中には今からでも一般入試で入ろうと必死に勉強して、志望校は無理でも第二希望ぐらいには入学しようとまだ諦めない生徒もいるが、それはまだ良い方。推薦入試を狙っていた八割ぐらいの生徒が、現実から逃げるように中学を転校したり、引きこもりになっていた。

 

 

………………………

 

 

 

…………………………………………

 

 

 

…………………………………………………………

 

 

ーー雪乃sideーー

 

 

 

「………いただきます」

 

 

 そう言って、私は私以外誰もいない食卓で静かに夕御飯を食べる。親がどちらも高収入なので、一般的な家庭の食事よりもはるかに良い方なのだが、味がしない。

 

 まるで虚無という概念を食べた感じ……比企谷君のこれまでの行動が分かって、後悔してからこれがずっと続いていた。医者からは過度なストレスと診断され、すでにそういった病に対する薬も処方されている。

 

 私以外の家族?……私のお母様とお父様は私が学校で引き起こした問題が影響して、毎日その対処に追われているわ。噂では比企谷君の問題に私が深く関わっていた事を名指しで記者に漏らした生徒が何人かいたらしく、それが拡散されたみたい。今は少し落ち着いたけど、前までは家の前に多くのマスコミが出待ちしていたわ。

 

 姉さんも同じ……大学には何とか通い続けてるけど、お母様達との手伝いに時間が取られるようになって、今もお母様達と一緒に対処に追われている。姉さんも比企谷君には悪い事をしたと珍しく反省していて、今の私のように深く後悔していた。姉さんが熱心にお母様を手伝っているのは姉さんなりの贖罪なのだろう。

 

 けど、私は……今からでも最後の希望である一般入試のために必死に勉強して、推薦入試を取り消しにされた原因だと他の生徒達に恨まれる残り少ない中学生活を過ごしている。自身が原因だということを自覚しているにも関わらず、お母様達の手伝いはおろか、比企谷君への贖罪も出来ないなんて……

 

 比企谷君の事を知った時にはもう遅かった。彼は家族に捨てられ、一人何処かに転校したらしい。今も比企谷君の家族問題の渦中にいる妹の小町さんにも聞いたけど、何も知らないそうだった。ついでに聞いたけど、比企谷君を不当に絶縁したのは事実らしい。

 

 絶縁しなければ、彼に謝れた……とあの家族を悪く言う資格は私には無い。私も彼を絶縁するような形で拒絶したのだから、私も彼女達と同類だろう。

 

 

「………ごちそうさまでした」

 

 

 そうこうしている内に、食べた気がしない夕御飯を無意識に完食。すぐにでも勉強しようと思うが、少し気持ちを落ち着かせるためにテレビを点ける。

 

「そう言えば、今は星武祭の時期だったわね……」

 

 どの番組を見ても、千葉から北にあるアスタリスクと呼ばれる星脈世代が集まる場所で行われる星武祭の内容ばかり。その注目度はオリンピックにも匹敵するし、当然と言えば当然ね。

 

 出場している生徒は私と同じくらいの年齢の学生ばかり。そう言えば、両親から進路に関してアスタリスクに行く事も視野に入れておきなさいと言われてたわね…

 

 確か星武祭に優勝すれば、何でも願いが叶うらしく、星脈世代である私にはそのチャンスがある、と。確かにその願いがあれば、私のせいで傾き始めた雪ノ下家を復興できるかもしれない……それでしか家族に貢献出来ないなら、やるしかないわね。

 

「優勝候補……シルヴィア・リューネハイム」

 

 けど、私に出来るかしら……今、私と変わらない年齢である世界的アイドルのシルヴィアさんの試合を見たけど、凄まじいものね。武道の心得が多少あるだけの私が今彼女に勝てるかと言われたら……絶対に勝てないわ。

 

 テレビに映るシルヴィアさんの試合が彼女の勝利という形で幕を下ろすと、試合の中継動画は終了し、彼女が車で会場を後にする映像が流れる。

 

 パシャパシャとシャッター音が切られる映像はさながらパパラッチの襲撃に遭った様だ。護衛らしい黒服の方々が彼女をスムーズにエスコートするが、あまりの人数になかなか苦労している。

 

 

「…………えっ、嘘、でしょ?」

 

 

 垂れ流するように見ていた十数秒の映像だったが、画面に映った()を見て、もう一度詳しく見る事が出来ないか熱くなるように画面に食い入る。

 

 が、画面はすでにスタジオで司会とゲストがシルヴィアさんについて談笑している。さっきの映像を見せなさいとテレビの画面にお願いしようが、私が気付いた時にはすでに遅かった。

 

 けど、あれは見間違いではない。

 

 かつての目の濁りは無く、黒服に身を包み込んでおり、千葉での彼を知る者から想像する事は出来ないが、あの容貌……あの後ろ姿……黒服の中で只一人シルヴィアさんと共に車に乗り込んだ男は間違いなく……

 

 

「比企谷……君、なの?」

 

 

 生まれて初めてここまでテレビという物に感謝したかもしれない。数少ない情報で、確証も無いが……比企谷君に近付く手掛かりを手に入れた。気付けば、私の目からは温かい水が流れており、手で止めようとしても出てくるのが止まらない。

 

 

「……お母様!進路についてお話がっ………!」

 

 

 気がついたら、私はすぐに動いていた。近くにあったスマホを握り、泣いている事を隠しながらお母様へと連絡する。もう二度と後悔はしたくない。

 

 私は受験勉強をすることをすっかりと忘れ、お母様とその場にいた姉さんにテレビに映っていた映像の事とアスタリスクへの入学について強く志願することを熱心に報告するのだった。

 

 

…………………………

 

 

 

…………………………………………

 

 

 

……………………………………………………

 

 

 一方その頃……

 

 

『みんな……今の星武祭の特集見た?』

 

『ああ……妹達と見てたよ』

 

『我も見たぞ……あれは間違いなく……』

 

 

『『『八幡だ(だね)(だな)!!!』』』

 

 

 各家のそれぞれの自室で、先程まで雪ノ下が八幡を目撃した番組を同じく見ていた戸塚、川崎、材木座はグループ通話越しでハモるように叫ぶ。

 

 三人は全員が同じ総武高校に進学することが推薦入試で決まった総武中学でも数少ない受験終了組で、残り学生生活も有意義に過ごしている。ただ、受験から解放された人達が圧倒的に少なく、こうして電話で共有できるのはこういった少人数になるのだが。

 

『雰囲気は少し変わってたけど、あれ絶対に八幡だよね!?良かった……本当に良かった。八幡の家のニュースもあったからすごく心配してたんだ……』

 

『安心するのはまだ早いよ、戸塚。名前も出てないし、本当にあいつなのか確証は無い。けど……あの黒服を着たのは……少なくとも見覚えは、ある』

 

『川崎殿の指摘も間違ってはいないが、そこは戸塚殿みたいに素直に喜んでも良い所ではないか、川崎殿?テレビでも報道されていない情報を僅かに入手したのだからな。それにしても……アスタリスク、とは。県外に消えた可能性を考慮していたが、これは我も予想外だったぞ』

 

 八幡を最後まで信じ、彼をよく知る彼らは口々にテレビに映った彼を確証は無いものの八幡だと信じ、彼の姿を見てホッと安心した所で、漸く見つかった数少ない情報で色々な考察を次々と立てていく。

 

『シルヴィアさんと一緒に車に乗り込んだみたいだけど、八幡がいるのってシルヴィアさんの所かな?』

 

『うむ。だが、シルヴィア殿が所属するのは女性100%のクインヴェール。男である八幡がいる訳があるまい……いや、そんな場所(てんごく)にいたら、我は憤死している!』

 

『あっそ……けど、あいつが言うように八幡が所属している可能性は低い。私は八幡がアスタリスクの護衛の民間企業みたいなのに所属している説が一番現実的だと思うけど、戸塚はどうなの?』

 

『う~ん……どうだろう?』

 

 色々な考察が立てられ、戸塚達はどうにか八幡の今に近付けないか考えるが、納得できる説がない。そもそも、八幡が星脈世代の聖地であるアスタリスクにいることすら彼らにとって予想外だったのだから。

 

『……あんた達、そんな事してどうする気なん?』

 

 しばらくして、グループ通話に第四の声が入り込む。声は女性で、口調はギャルっぽいが、彼女も彼らと同じ推薦入試が終わった数少ない一人であった。

 

『あっ、三浦さん!』

 

 名前を三浦由美子。総武中学では葉山、戸部、海老名、由比ヶ浜と仲良くグループを作っていたが、八幡の一件でグループは自然崩壊。特に修学旅行の一件で、三浦だけ仲間外れにされた事が彼女がグループを抜ける決定打となった。

 

 八幡の一件で、葉山と共にいた彼女であったが、彼女は無関係だという事で内申に影響なく、無事に推薦入試を終える事ができた。悦ばしい事ではあるが、彼女はそれが八幡の計らいだという事に気付いており、八幡が転校した件について戸塚達と同じく後悔していたのだった。彼女がこのグループ通話にいるのも戸塚達と同じ気持ちを持っていた事が起因している。

 

『海老名と戸部からも同じような内容の連絡が来たから、こっちでも何か話してないか聞きに来たけど……戸塚達はあれが仮に比企谷八幡だとしたら、どうするし?』

 

『どうするって……そりゃ、八幡に会いにアスタリスクに行くに決まって…』

 

 そう言って、戸塚は三浦の質問に答えるが、三浦はそれを聞いてハァと深く溜め息を吐く。

 

『あーしは……アスタリスクに行くのは反対だし』

 

『どうして、三浦さん?』

 

『あんな事があった以上、今は無事志望校に受かって高校生になれた事で親を安心させるのが先だし。こんな状況でアスタリスクに行くなんて言語道断。まだ行く学校が決まらず、必死に勉強してる海老名と戸部も今は地元の高校に合格して親を安心させるって言っていたし』

 

 通話の裏で推薦入試を取り消しにされた身ではあるが、親のために心を入れ換えて必死に勉強している友人達を思い浮かべながら、三浦は自分の気持ちを戸塚達にぶつける。

 

『確かに……三浦殿の言う事は我輩達もよく理解できる。だが!友を心配するのは……!』

 

『そもそも、あいつが私達に心配して欲しいと本当に思ってるって話よ?接点が少ないあーしはまだしも戸塚とかに連絡の一つは寄越していても不思議じゃない?それが無いっていう事は……』

 

 

『『『……………………』』』

 

 

 三浦の言う事はドライに見えるかもしれない。だが、戸塚達三人は三浦が一番現実的に物事と状況を見据えているのはよく理解していた。だからこそ、反論するにも三浦の言う事が正論過ぎて三人は何も言い返せない。

 

 三浦が言うように各々の家族は子供の志望校が無事に決まり、ホッとしている状態。今アスタリスクに行きたいなんて言えば、家族に余計な刺激を与える事になる。最悪、アスタリスクの学園に通うなんて素直に言えば、家族は衝撃のあまりに失神してしまうだろう。

 

 加えて、八幡自身がかつての友人達に何も連絡してこない事実。三浦が話すように、これが八幡の心情を最も表していると言え、友人達にも何も言わないという事は隠居するように誰にも知られることなく、ひっそりと生活したいことを体現しているとしか考えられないだろう。こればかりは覆すことが出来ない事実だ。

 

『それにあーし達はあいつの計らいのお陰で、推薦入試を受けて合格することが出来たんだし。それを無駄にしてアスタリスクに入学するって考えは、あいつの思いを無駄にすることと同じだし。だから……あーしは進路を変えずに総武高校に進学するし』

 

『そう、だね……三浦さんの言う通りかも』

 

『ああ……私には妹と弟がいるからね。比企谷の事もそうだけど、家族には迷惑はかけたくない』

 

『うむ……そうか……そうだな……』

 

 

 その後、四人は八幡を探すといった話の大きな進展も無く、グループ通話を終える。

 

 結果、四人は進路を変えずに、地元の総武高校へと通う事を決意。色々な複雑な事情が渦巻く中、苦渋の決断であったが、彼らは家族を……八幡の残した思いを選択したのだった。

 

 

 

 

 

 

 




 というわけで、ひとまずはここまで!
・雪ノ下は八幡の謝罪のためにアスタリスクに行く。
・戸塚、川崎、材木座、三浦は八幡を確かめにアスタリスクに行きたいが、家族などの事を考えると、すでに受かった地元の高校に行く。
 アンチ要素が殆ど無い話でしたが、二つを対比させるような形で書かせて頂きました。読者からしてみれば、こういった展開に何か一言を言いたい方も多いかもしれませんが、ご理解頂けると幸いです。
次回はアンチ組……の予定です。
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