歌姫に拾われた俺がアスタリスクで生活をするのはまちがっているだろうか。 作:リコルト
そして、お久しぶりです。
私が投稿してなかった中でも、私の拙作を見ていただき本当にありがとうございます。
色々と語りたいところですが、まずは久しぶりの本編をどうぞ!
目の前の少女-オーフェリア・ランドルーフェンの過去とは壮絶なものだった。
彼女はかつてリーゼルタニアという国の孤児院で育ち、幸せな日常を送っていた。孤児院出身と聞くと、それだけで複雑な事情が垣間見えるが、そんな生まれを気にしない程に彼女は精神的に裕福だったそうだ。
同じ境遇の子達と一緒に遊び、かつての彼女の趣味であった植物のお世話が好きなだけできるだけで、彼女はとても幸せだった。
しかし、彼女のそんな豊かな生活は終わりを告げようとしていた。理由は孤児院の維持のために抱えていた多額の借金。楽しそうに過ごす彼女達の裏では、大人でも抱える現実的な問題が潜んでいたのだ。
結果、孤児院は多額の借金を返せず、貸した側からの提案として挙げられたのが、
勿論、その提案に孤児院の心優しいシスター達は反対した。そんな非人道的な行いをこれまで育ててきた孤児院の子供達にさせたくはない。しかし、気持ちだけでは解決できないものもある。そんな葛藤のようなものでシスター達が悩んでいた時、自分の身を差し出したのが、オーフェリアだった。
孤児院の中でも聡かった彼女は、シスター達の悩みも薄々感づいており、密かに借金の件も耳に挟んでいたのだ。そんな自己犠牲的な提案に最初はシスター達も反対と動揺の声が挙がったが、今の孤児院の厳しい経営状況とオーフェリアの固い意思-この二つが決定打となり、彼女はただ一人孤児院を出て、フラウエンロープ系列の研究所に引き取られたらしい。
だが、その研究所での生活はまだ幼い彼女が体験するには壮絶なものだった。
その研究所では、後天的に星脈世代を作る実験をしており、彼女が受けていたのは身体を改造する人体実験であったのだ。彼女の身には痛みを伴う実験や体調を崩す実験が日夜行われていたそうだ。
しかし、後天的に星脈世代を作る実験という前代未聞のプログラムには必ず予想外なモノが潜んでいる。
ある日、彼女の能力が暴走したことによって研究所は壊滅。元凶である彼女も瀕死の状態だったのだが、そんな彼女を保護したのがソルネージュの特殊部隊だった。
別の組織に引き取られ、彼女が『魔女』として覚醒したことが判明。同時に、その噂を聞いたディルク・エーベルヴァイン-
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「どう……?これが私の全てよ。学園都市で最強と言われているけど、彼にだけは逆らえないの」
「………………………」
オーフェリアの話をただ静かに聞いていた八幡は、マッ缶を全て飲みきってゆっくりと口を開く。
「……意外に優しいんだな」
「………………えっ?」
「いや、マジ尊敬するよ。流石の俺でもそんな自己犠牲はできないし、今も自分の住んでた居場所のために、文句も言わずに従っているんだろ?俺には絶対無理だわ」
彼女に感じた尊敬を吐き出すように淡々とそれを口にする。予想外の褒め言葉に、オーフェリアも驚いた様子で八幡を見つめるが、そんな彼女を気にする様子もなく、八幡は何かを思い出すように話を続ける。
「察しているように、俺もな……自分を犠牲にして、何かを変えた経験は確かにある。人体実験とかを受けたわけではないがな。けど、流石にオーフェリア程に優しくはなれない。俺だったら、間違いなく売った育て親辺りから恨んでるな」
「………八幡も優しいと思うわよ?」
「いやいや、お前には負ける。だから、今の話を聞いて思ったんだ。オーフェリアは救われて良いんじゃないかと。今も脅されているなんて可哀想だなって。その
「……八幡には無理よ。彼がその契約を取り消さない限りは。それに自分の星辰力の影響で、かつての自分のように植物にも触れないの。加えて、この星辰力は自分も蝕んでいる。味覚なんてほぼ死んでるわ」
「……そうなのか?ちなみに、味覚以外には何も問題はないのか?」
八幡の問いに、オーフェリアは他にも視力と嗅覚に衰えに似たものを感じると答えた。それを聞いた八幡は少し考え、オーフェリアの額に右手を当てる。
「オーフェリア、少し目を瞑ってくれ」
「……私の額に触れて、何をするつもり?」
「俺にはその契約を破棄することもできないし、生物に影響を与える星辰力もどうしようもできない。そんな無力な俺だが、少しでもお前を救えるんだ」
そう言って、八幡は星辰力を流し込み、自身の五感を操る能力でオーフェリアの五感を調整。しばらくして、八幡が彼女の冷たい額から手を離すと、オーフェリアは息を吹き返した五感を堪能することになる。
「……私達がいた公園ってこんなにも鮮明だったのね」
「感動して何よりだ。ほらよっ」
視覚、聴覚で感じる新鮮な公園の自然に感動するオーフェリアに、八幡はスペアのマッ缶を手渡し、彼女に飲ませた。
「……甘いって感じたの何年ぶりかしら」
「そうか。味覚も戻ったようだなって……あ、シルヴィからだ。もしもし?」
着メロが鳴ったデバイスを手に取り、八幡はシルヴィからのコールに応答する。
「ああ……分かった。また後でな。……すまん、どうやら抽選会が終わったらしくてな。学園に帰らないと行けなくなった」
「そう……なら、これを八幡に」
そう言ってオーフェリアが手渡してきたのは彼女の連絡先。いきなり手渡された彼女からのプレゼントに八幡も驚きを隠せない。
「いいのか、貰って?」
「構わないわ。貴方とは気が合うもの。もし何かあったら、それに連絡して頂戴」
「ああ、分かった。次は明日の本選で会おうな」
「また会いましょう、八幡」
こうして、八幡を見送ったオーフェリアはもう一度ベンチに座り込み、新鮮な自然を五感で堪能する。
「新宮八幡……貴方は決して無力ではない。もしかすると、いつか彼なら私の運命を変えてくれるかもね」