歌姫に拾われた俺がアスタリスクで生活をするのはまちがっているだろうか。   作:リコルト

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本選開始と動きだす裏方

 

 星武祭の予選の期間と本選の期間を結ぶ唯一の安息日の一日が過ぎ、学園都市アスタリスクは星武祭の再開を告げる活気の声をあげる。しかし、それは予選の比ではない。観客と注目度が段違いだ。

 

 これから始まるのは本選。何百という六つの学園から集まった学生達を何度もふるいにかけ、最後に残った大粒の十六人の猛者達の戦い。

 

 試合の内容を量から質に特化した試合が続くのだが、この本選一つ一つの注目度は非常に高い。世界中のメディアが取り上げない日が無い程に。そのため、ある学生が星武祭に優勝はできなくても、本選に出場しただけで世界で通ずる肩書きになる。

 

 ただ、そこにいる十六人で、そんな肩書きのためだけに戦う学生は一人もいない。狙うはただ一つ。

 

 

 優勝。

 

 

 そして、その優勝者に見合う賞品として与えられる願望を叶える権利。

 

 十六人の誰の願望が叶うのか、これも実は星武祭の試合を見届ける観戦者の注目する魅力だったりする。

 

 何せ、この一つの願いは世界を大きく変える力を持っているのだから。

 

 

 

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「これが本選か」

 

 

 本選が行われるアスタリスク最大規模の総合メインステージであるシリウスドーム。ステージ中央から離れ、世界中から集まった一般客の席の上に設けられたクインヴェール関係者のVIP席で、八幡は一人その本選が始まる様子を一面ガラス張りの窓から眺めていた。

 

 本来のこの部屋の主、大会参加者であるシルヴィアとネイトネフェルは本選の開会式で、八幡の視線の先であるステージ中央にいるため、不在。学園の長であるペトラも別用で、不在。そのため、利用者はシルヴィアの付添人枠である八幡しかいないのだ。

 

「それにしても、うちの学園二人が決勝まで戦うことがなくて良かったな」

 

 予選以上の並々ならぬ本選の活気に少し驚きながら、八幡は手元から本選トーナメント表を取り出す。

 

 クインヴェールから本選に駒を進めたのはシルヴィアとネイトネフェルの二人のみ。その数は他の学園と比べると少ない方だ。ただ、その辺りは戦闘向きではないクインヴェールにとっては毎年の恒例らしく、学園長ペトラもあまり気にしていない。

 

 重要なトーナメント表に話は戻るが、シルヴィアが見事当たりを引き、シルヴィアとネイトネフェルは決勝まで当たらない組み合わせとなった。同学園同士の試合は学園での総合優勝を決める上で一番不毛な争いだから、ペトラを含めた学園上層部はこの組み合わせには満足していた。

 

 

 しかし、問題はまだ他にある。

 

 

 オーフェリア・ランドルーフェン(前王竜星武祭の覇者)

 

 

 今回の王竜星武祭でも優勝候補として注目されており、本選に出場する選手全員が彼女を警戒している。

 

 圧倒的な星辰力、殺傷力の高い魔女の能力を持つ彼女がトーナメントの何処に組み込まれたか。

 

 

(準決勝でネイトネフェルと当たるとはな……)

 

 

 組み込まれたのはネイトネフェルと同じブロック。これにより、シルヴィアの決勝出場はほぼ決まり、その彼女の相手としてネイトネフェルorオーフェリアが立ち塞がるという構図の完成だ。

 

 が、オーフェリアと先に当たるネイトネフェルはその組み合わせに対し……

 

 

(ふん、前の王竜星武祭での雪辱を晴らすまで。今度こそ勝つのはわらわよ。シルヴィと戦う前のウォーミングアップにちょうど良いぐらいだ)

 

 オーフェリアに対して全く臆しない自信満々な気持ちを宣言していたので、余計な心配は不要だろうと八幡は感じていた。試合前の過度な干渉は避けるべきだ。

 

 

 八幡が本選について考えていると、ステージから聞こえてきた星武祭の運営実行委員長であるマディアス・メサのスピーチは終わりを告げる頃だった。

 

 同時に会場からは拍手の嵐が飛ぶが、やがてそれも台風の目に入ったかのように一斉に止む。観客達が何かを待ち望んでいると言わんばかりにワクワクした様子で。

 

 

『では、これより本選第一試合のスタートです!!』

 

 

『ウオオぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』

 

 

 

「始まったか……二人とも、頑張れよ」

 

 

 

 

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 本選が始まり、シリウスドームが活気に包まれた中、ドームの人目に付かないような外れの観客席に全容を見せないようにローブを被った人物が一人。周りの観客のように興奮するわけではなく、ただ冷静に何かを分析するような様子で試合を眺めていた。

 

 

『……なんの用だ?』

 

 

 試合をずっと見ていたその人物は、突如入ってきた連絡に苛立ちにも似た感情で応答する。

 

『おい、ヴァルダ。あまり彷徨いていられると迷惑だ。お前、誰かに追跡されてんだぞ』

 

『追跡?ああ、奴等のことか。別に始末したから問題はないだろう。そういえば、お前もこの会場に来ているんだったな。過保護な奴だ』

 

 そう言って、フードの人物はステージ中央から観客席へと視線を移し、レヴォルフ黒学院のVIP席を見つめる。そこにはイライラを隠しきれない赤髪の男が座っていた。

 

『黙れ。それよりもここ数日、お前を追跡している奴等の正体が分かった。ベネトナーシュだ』

 

『ベネトナーシュ……クインヴェールか』

 

『ああ、あの歌姫のところだ。今、本選で戦っているが、裏で一体何を考えているんだろうな。一応、奴等の追跡にはまだ警戒しとけよ』

 

 連絡を寄越した相手はブツンと捨て台詞のように、一方的に電話を切る。親しい仲なら、なかなか出来ない芸当だが、フードの人物は普段通りだなと特に気にした様子もない。

 

 それよりもフードの人物が気になっているのは、今ステージ中央で戦う紫髪の少女だった。彼女は連絡を寄越した相手から歌姫という渾名で呼んでいた。が、フードの人物はそんな彼女に対し、何か形容し難いような違和感を覚えていた。

 

(シルヴィア……リューネハイム。シルヴィア……この身体の持ち主に何か関わりがあるようだな……)

 

「まぁ、いい。近付けば、始末すればいいのだ」

 

 そう言って、フードの人物はステージ中央で戦うシルヴィアに一瞥をした後、観客席を立ち上がり、シリウスドームをそのまま後にするのだった。

 

 

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「学園長、こちらがヴァルダ・ヴァオス尾行班の隊長が遺した奴のデータです」

 

「ありがとう、クロエ」

 

 場所は大きく変わり、シリウスドームから離れたクインヴェール女学園。校舎やカフェテリアでは星武祭に参加しなかった学生等がテレビを通じて応援するといった活気溢れる光景が見受けられたが、学園長室ではその逆。学園長であるペトラとベネトナーシュを代表して来たクロエが淡々とした様子で、何か大事な報告をしている最中だった。

 

「クロエ、ベネトナーシュの再編成は大丈夫かしら?」

 

「はい。先日のヴァルダ・ヴァオス接敵により、隊長を含めた一部隊計十五人が殉職しましたが、問題ありません。今後も慎重に尾行を試みます」

 

「分かったわ、くれぐれも気をつけなさい」

 

「はい、失礼しました」

 

 頭を深々と下げ、クロエが学園長室を後にしたのを見送ると、一人しかいなくなった学園長室で、ペトラは受け取った報告書を溜め息を吐きながら確認する。

 

「合致率九十三%……まさか、今の宿主がシルヴィの師匠だなんて……厄介と言うべきか、運命というべきか」

 

(シルヴィにはまだこのことは伝えないでおくべきね……今は星武祭に専念してもらいましょう)

 

 シルヴィアの幼少期にお世話になった恩人……行方不明と彼女自身からも聞かされていて、学園の権力を使って調査を行っていたが、まさか標的としていた純星煌式武装に寄生されていたとは夢にも思わない。まるで、完成しかかっていたパズルの最後のピースが予想もしない形で埋まった感じだ。

 

 今のシルヴィアなら、これを知ってしまったら確実に星武祭を放って会いに行く。シルヴィアと長い付き合いのペトラはこれを確信していた。しかし、相手はアスタリスク史上最悪の事件を引き起こした張本人。シルヴィアを大事に思っているからこそ、ペトラは彼女に今は伝えない決心をしたのだ。

 

 だが、ヴァルダ・ヴァオスの討伐は必至。姿を見せた今だからというのもあるが、奴の追跡のためにベネトナーシュから犠牲を出しているのが大きい。ここで引き下がったら、全てが無駄になりかねない。

 

「……やるしかないわね」

 

 そう言って、ペトラは学園内の連絡電話を使って、ある人物へと電話をかけていた。

 

『流?そっちはどうかしら?』

 

 

『あー、ペトラ先輩?八幡君のヴァルハラはもう最終段階だよ。新しい機能めっちゃ付けて、あとは最終調整だけだから。もう少し待ってちょうだい』

 

『分かりました。で、()()()()は?』

 

『そっちはようやく半分越したぐらいかな?何せ、一から作るんだもん。理論は完璧だけど、実践導入に時間がかかってさぁ……決勝までには確実に間に合わせる!』

 

『はいはい、分かりました。では頼みました』

 

 

(勝負は決勝戦の日……ですね)

 

 

 

 

 

 

 

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