歌姫に拾われた俺がアスタリスクで生活をするのはまちがっているだろうか。   作:リコルト

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決着。舞神(ハトール)VS孤毒の魔女(エレンシューキガル)

 

 

「呑み込みなさい」

 

 

 冷徹なオーフェリアの言葉に反応し、彼女の毒々しい紫色の瘴気はオーフェリアを中心にモゾモゾとステージをさらに覆っていく。その瘴気はさながら這いずる生き物のような動きで、観客達もゾクッとするような不気味な様子を醸し出していた。

 

「ちっ……もう気付いたのかっ?」

 

 オーフェリアの怖いところ……それは他の星脈世代を寄せ付けない星辰力と魔女の能力、そして聡明な彼女の頭脳。成績・素行が最悪のレヴォルフ出身ではあるが、彼女の頭脳は他学園の優等生にも劣らない。

 

 もともと彼女自身の頭が良かったのもあると思うが、一番の理由は彼女の身請け引き取り人である悪辣の王(タイラント)による教育の恩恵が大きい。何しろ、彼は謀略という実力のみでアスタリスクに名を轟かす悪名高い存在になったのだ。交渉術、戦略で彼に敵う人物はそう簡単にはいないだろう。

 

 だからこそ、彼女は実験体という空白の期間を送っていても他には負けない頭脳を兼ね備えている。ただ、悪辣の王のアレンジでその頭脳は戦闘に特化しているが。

 

「あなたの分身……広い場所でないと使えないみたいね」

 

「……流石だな。ご名答」

 

 オーフェリアの瘴気の渦に引き込まれるように、ネイトネフェルの生み出した幻影はどんどん消えていき、ついに本体一人のみとなってしまう。

 

 ネイトネフェルの幻影は舞によるもの。

 

 幻影を生み出したその舞踊にはコツがあり、一つは残像を生み出す程の素早い所作で行うこと。そして、もう一つが場所を広く使う緩急を付けた独特なステップだ。

 

 そこにネイトネフェルの長年の舞踊の経験が詰まった存在感の強弱の表現が加わって、猛者でも誤認するような残像を生み出せるのだが、それ以前に残像を生み出せなければ意味がない。

 

 だから、オーフェリアはステージを封じたのだ。

 

 彼女が踊れなくする環境を作るために。

 

「これは舞踊を嗜む者として屈辱の極みだな。まさか、踊るステージを奪われるとは……」

 

 ネイトネフェルは追い詰められながらも、襲い来る瘴気を自慢の腕でさばいているが、その腕も限界。捻挫をしているわけではなく、紫色に変色している。実際、ネイトネフェルの顔色も徐々に悪くなっている。

 

 明らかにどちらかが劣勢か一目瞭然だ。

 

「ぐっ……!!があぁっ……!!!」

 

 ついにネイトネフェルは腕を抑え、辛そうな声を初めて口にする。腕の次は、腕を伝って全身。彼女が瘴気による毒性で倒れるのは時間の問題だ。

 

 だが……

 

「わらわは…約束したんだ。シルヴィアと決勝戦で……戦うことを。それに…八幡の前で無様な姿は見せられん」

 

 毒により全身を蝕まれているが、ネイトネフェルは歯を食いしばり、ニヤリと笑みを浮かべる。それはライバルと戦うために。そして、そのライバルが連れてきた自身が見込んだ異性のために。

 

「あなた、それ以上は命に関わるわ」

 

「元凶が……それを言うのか。だが、なぁ。だから、拳に全てを込めて有終の美を飾るまでっ!」

 

 最後の最後。瘴気に追い詰められたステージ上で、ネイトネフェルは残った全ての星辰力を右拳に込め、凄まじい早さで瘴気を踏まないように跳躍。オーフェリアとの距離を一気に詰める。

 

 

 しかし、最強(オーフェリア)が何もしないはずがない。

 

 

「悲しい……これも運命なのね」

 

 

 

塵と化せ(クル・ヌ・ギア)

 

 

 

 その言葉と共に、ステージに広がった瘴気から無数の禍々しい大きな腕が出現する。

 

 

 そして、その紫色の腕達はネイトネフェルを握り潰すように彼女を何重に包み込み、その30秒後。

 

 

 

 

 苛烈な準決勝第一試合は決したのだった。

 

 

 

 

…………………………………

 

 

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……………………………………………………………………

 

 

 

『……こえ………か。お……、しっかり………ろ』

 

 

「はっ……はっ……ここは?試合はどうし…た?」

 

 ネイトネフェルが目覚めると、そこはシリウスドームに設置された保健室のベッド。口には酸素マスクを付けられ、両手はギプスで固定。横を見ると、点滴のチューブが毒性を中和するように腕に繋がれていた。

 

「その声……八幡か?」

 

 意識が少しずつハッキリとし始め、顔を何とか横に向けると、そこにはシルヴィアに付いている筈の八幡がネイトネフェルが眠るベッドの横に座っていたのだ。

 

「ああ、そうだ。もう大丈夫なのか?」

 

「多分な。身体はまだ、痺れているが……。それよりも、試合の結末はどうなった?」

 

 試合の結末が気になるネイトネフェルに、八幡はその試合の結末を告げるのだった。

 

「試合は……オーフェリアの勝利だ」

 

「だろうな。まぁ、このわらわの惨状だ」

 

 ここで、ネイトネフェルの王竜星武祭は終幕。負けん気が強いネイトネフェルに八幡も伝えにくさはあったが、この結末を当事者であるネイトネフェルが一番納得していた。

 

「けど、ネイトネフェルも凄かったぜ。あのオーフェリアを舞踊一つで苦戦させるんだからな。それに、最後のネイトネフェルの一発。オーフェリアの肩に当たっていたらしいぞ」

 

「そうか……なら、一矢は報いたな」

 

 最後の一瞬。オーフェリアの技に呑み込まれかけた寸前で、ネイトネフェルの渾身の拳が彼女の右肩に直撃。試合後もオーフェリアが右肩を抑えていた姿が見受けられていたそうだ。

 

「そうだ。八幡、シルヴィアはどうしたのだ?」

 

「シルヴィはさっきまで俺とネイトネフェルを見舞いに来てたが、準決勝に向かった」

 

「まったく……なら、後で礼と助言を奴に言わねばな。敗者に構っている暇など無いと」

 

 

…………………………

 

 

………………………………………………

 

 

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 ネイトネフェルの状態の安否確認も取れたところで、八幡はネイトネフェルがいる保健室を後にした。本来ならば、まだ体調が万全ではないネイトネフェルを見守っていて良かったのだが、ボロボロの傷まみれの姿を見せたくないという彼女本人に部屋から追い出されたからだ。

 

「さてと……俺も戻るか」

 

 主であるシルヴィの試合を見るために、クインヴェールのVIP席に戻ろうとする八幡。そんな彼の前にしばらく姿を見せなかった彼女が姿を現す。

 

「お前、クロエか?久しぶりだな」

 

 常磐色の長髪を揺らす八幡の星脈世代の先生であるクロエ・フロックハートとの再会に八幡は驚いた様子を見せる。

 

 しかし、今日の彼女は制服姿ではない。黒装束にプロテクターを付けている。これはベネトナーシュに支給される実行部隊用の戦闘服だ。

 

 

「八幡。あなたに少し話があるの。来て頂戴」

 

 

 

 

 

 

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