歌姫に拾われた俺がアスタリスクで生活をするのはまちがっているだろうか。 作:リコルト
~シルヴィアとヴァルダが接触する少し前~
「さて、八幡君には今回の作戦を聞いてもらおうか」
「うっす」
西園寺さんがヴァルダ・ヴァオスの概要についての資料を持ちながら、何処から出してきたのだろうか分からないホワイトボードをバシバシと叩く。まるで、野球部のミーティングのような雰囲気を感じる。
「じゃあ、まず八幡君に質問っ!」
「質問……ですか?」
「そう、
五感か。要は純星煌式武装が視覚や聴覚、触覚を持っているかって話だが、武器に関して人間のような器官があるかと言われれば……だが……
「俺はある……と思いますね」
「んっ、どうしてかな?」
「純星煌式武装は普通の煌式武装とは違い、性格や感情があると思います。それなら、何かを感じるようなモノが何かしらあるのではないか……と」
俺が持つ『黄昏の夢幻剣』もそれに該当する。実際、俺が魔術師の能力を高めるために、『黄昏の夢幻剣』を使ったが、共感に近いテレパシーのようなものを受け取った記憶がある。
後は純星煌式武装を扱うには利用者との相性が必須という点だろう。相性が悪い人は使えないし、良い人は使える。決めるのは純星煌式武装の一方的な判断である。
「おお~、確かに論は通ってるね。半分正解かな?」
半分……なら、無いということなのか?
「確かに八幡君が言うように、純星煌式武装には全て性格・感情がある。要は何かを感じる能力があるというわけだね。しかし、五感はまた別の話になる。私の経験の持論だが、純星煌式武装には五感は少なからずあるが、それを感じない程に器が頑丈すぎる……その点で私は普通の純星煌式武装には五感は無いと思っている」
煌式武装にはあまり詳しくなく、西園寺さんの論についていけない。器ってどういうことだろう。
「純星煌式武装の基は『ウルム=マナダイト』と呼ばれる希少な鉱石で作られています。そして、その特徴は現代の技術では破壊できない程の頑丈さ。これまで純星煌式武装の外装が壊れた事例は数回ありますが、『ウルム=マナダイト』が砕かれたという事例は統合企業財体でも聞いたことがありません」
「そっ、流石はペトラ先輩!つまり、純星煌式武装の核であるウルム=マナダイトが『壊されるっ!』といったレベルの痛覚を体験したことがない……外からの刺激が未知だから、五感は無いって話だね」
なるほど、ペトラさんの追加の話で理解が進んだ。それにしても純星煌式武装ってそこまで頑丈だったのか。実は初めて知ったりする。
「ただ、例外もいる。それがヴァルダ・ヴァオス」
そう言って、ペンダント型の純星煌式武装のイラストをホワイトボードへと西園寺さんが書き込んでいく。
「奴は人間の意識を乗っ取ることができる極めて珍しい精神・記憶に作用するタイプの純星煌式武装だね」
「……改めて恐ろしい能力ですね。人を洗脳したり、記憶を改竄できる能力だなんて」
「まぁね~。だけど、これが効きやすいのも体質だね。魔女や魔術師といった星辰力が多い人は免疫が高いから抵抗力はあるし、何より五感を操る似たタイプの八幡君には多分効かない……かな?」
西園寺さん、そこは自信を持ってください。極力抵抗はするが、俺が間違ってヴァルダ側に敵として回ったらヤバいでしょ。
「で、俺はそのヴァルダ・ヴァオスに何をすればいいんですか?耐性がありそうってのは分かりますが……」
「そうだね。確かに守備に徹しては話にならないからね。だから、私はこんなものを用意しました!」
そう言って西園寺さんは、懐から紫色の刃を持つ短剣型の煌式武装を某ネコ型ロボットのように取り出す。
「なんです?それは」
「これは星辰力を断絶する『
お~、まさかそんなものを作っていたのか。西園寺さんの話が正しければ、今回の作戦の鍵を握る代物であることは間違いない。
「だけど、一つ問題がある。ウルスラという人物はヴァルダ・ヴァオスに乗っ取られて最低一年以上は経っている筈だ。その分、二者の癒着は強固だと思う。そんな人にこの剣をぶつければ、ヴァルダ・ヴァオスは止められてもウルスラと道連れになる可能性が高い」
西園寺さんが言うには、このままだと心臓に癌という異物が癒着した患者から、いきなりメスを入れて癌と一緒に心臓を引き抜くかもしれない事と同義ということ。確かにその状態はヤバそうだ。
「じゃあ、どうすれば?」
「簡単だよ。ウルスラとヴァルダ・ヴァオスの適合率を下げれば良いのさ。ヴァルダ・ヴァオスが純星煌式武装。その特徴を生かすんだ」
「簡単って言われても……」
聞いたところ、ウルスラという人物は武道の達人。そんな人にダメージを与えるのは至難の技だし、そもそも適合率を下げ方を知らないもんな。
「いやいや、確かに戦闘中に適合率を下げるっていう戦い方は私も見たことがない。だけど、ヴァルダ・ヴァオスという純星煌式武装に関しては、八幡君の能力を使って下げることができるんだ」
そう言うと、西園寺さんは改めてホワイトボードに色々とイラストや文面をズラズラと書いていく。
「さっきも言ったけど、ヴァルダ・ヴァオスは人を乗っ取るタイプだからね。実は人間の身体を通じて
「どんな例ですか……」
駄目だ。平塚先生の友人だから引き出しが全く同じだ。だが、言いたいことは分かる。確かグリードの時は五感がなかったけど、人の身体を手に入れてアイスとか味覚を感じて食べれたんだよな。
「で、適合率の下げ方だけど、要は嫌がらせだよ。ヴァルダ・ヴァオスが『人間の身体なんて不自由だ!人間の身体なんて大嫌いだ!』と思わせれば良い」
「あっ……」
「やることは分かったようだね?八幡君にはこの短剣を使う前にヴァルダ・ヴァオスの五感を弄って嫌がらせをして欲しいのさ」
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「やあぁっ!!!」
(ちっ……この歌姫。さっきとは動きが違う。まるで、私の動きが読めるように反応が早い)
シルヴィアの斬撃がヴァルダに襲いかかり、ヴァルダはそれを先程の蹂躙と同じように拳で潰そうとするが、シルヴィアはそれを寸前で躱すことに成功する。
(すごい……これが八幡君の能力)
そのからくりは先程シルヴィアが立ち上がった時にある。あの時、八幡はシルヴィアをサポートするために、シルヴィアに自分の能力が伝達する程の星辰力を授けていたのだ。そのため、シルヴィアの視覚、特に動体視力は普段戦うよりもかなり高いものとなっている。
「八幡君っ!!」
「ああ、
シルヴィアの呼び掛けに八幡が応えると、ヴァルダの五感を操作する右手に紫色の痣が光り輝く。
「ごめんっ!ウルスラっ!」
「がっ……!?これは……」
シルヴィアが剣撃を食らわせた右肩から右胸部分に対して、ウルスラは怯む程の痛みを覚える。理由は明白。八幡がその部位に全身の触覚を集中させ、痛覚を感じやすくしたからだ。
(なんだ……この痛み。傷は浅いのに、痛みが大きい。まさか、これはあの男の能力か?)
予想外の一撃にヴァルダは分析し、未知を既知へと変える。その瞬間、ヴァルダの標的がシルヴィアから八幡へと変わったのは言うまでもない。
「先に煩わしい奴から消してやるっ!」
ヴァルダは体勢を整え、シルヴィアと対決することなく、一直線に八幡へと突撃する。
だが……………
「ぐっ……これはっ?」
ヴァルダの突撃は八幡の目の前で不自然に止まってしまう。だが、ヴァルダの視覚には自身を止めた原因が見つからない。
「残念。あと少しだったな」
「何っ……!?がぁっ!?」
八幡は能力で先程シルヴィアが与えたダメージ部位に再び触覚を集中させ、ヴァルハラによる強い突きをぶつける。その勢いで、初めてヴァルダは吹っ飛ばされた。
「まさかヴァルハラにこんな性能を付けるとは……」
改良されたヴァルハラを見ると、ヴァルハラの先にはワイヤーの切れ端の跡。そして、八幡とシルヴィアの視線には八幡の周囲に張り巡らされたワイヤートラップが映し出されていた。
「視覚操作で見えないワイヤー……かなり使えるな」