歌姫に拾われた俺がアスタリスクで生活をするのはまちがっているだろうか。   作:リコルト

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大変お久しぶりです!
無事就活が終わり、ようやく本作を書ける時間ができました。
まだペースが戻ってませんが、月に2回程投稿できるようなペースで最初はやっていこうと思います!


激戦のヴァルダ

 

 

 接敵して、経過した時間は未だ10分にも満たず。

 

 しかし、戦っている当事者達にとっては、何時間も戦っているような持久力を試される程の長い時間が、経過していると感じられるものであった。

 

 それほどまでに彼らの戦闘は内容が濃く、激しさをどんどんと増していく。

 

 

「死ねっ」

 

 

 ウルスラ由来の身体能力から放たれるスピード特化の拳が、前衛で刃を交えるシルヴィアに向けられる。

 

 しかし、シルヴィアはそれを何とか紙一重で回避。八幡と共有する視覚のバフ効果で、動体視力が向上していなければ、ただではすまなかっただろう。現に、シルヴィアが立っていた通路は瓦礫と化している。

 

 だが、躱せば次が来る。ヴァルダは続けて拳を放った逆の拳を連続でシルヴィアにぶつけようと接近していた。しかし、シルヴィアを支える後衛が黙っているはずがない。

 

 

「させるかよ」

 

 

 八幡は銃剣型煌式武装ヴァルハラを銃の形に変え、ヴァルダに星辰力が詰まった炸裂弾型の光弾5発を浴びせる。しかし、ヴァルダはそれを難なく腕でガードし、シルヴィアへの接近を諦めない。

 

(……炸裂弾でも無傷か。星辰力で身体を守っているだろうが、シルヴィの師匠とんでもないバケモノだろ……)

 

 ヴァルダの宿主であるウルスラのスペックの高さに改めて驚ろかされる八幡。そこで、新しく改造されたヴァルハラに取り付けられたノズルを弄り、八幡は続けてヴァルダに弾丸の嵐をぶつける。

 

「ちっ!……うざい男だ」

 

 銃口から飛び出したのは炸裂弾よりも弾の大きさが小さいタイプの光弾。しかし、その射出速度は早く、数は無数。マシンガンのように飛び出していく。

 

 その無数の弾数により、ヴァルダは行動できるスペースを制限される。ガードが固いとは言え、ダメージは存在する。無理に動き、弾に当たりに行くのは悪手だろう。流石のヴァルダも特攻せずに、その場で止まり、無数の光弾を見極めなければならない状況だ。

 

「そこぉ!!」

 

 そして、動けなくなったヴァルダに反応して、シルヴィアも動く。右手にブレードを展開した銃剣型煌式武装。左手にウルスラを救う短剣型煌式武装。これで決めると言わんばかりに、シルヴィアはその刃をヴァルダにぶつけようとする。

 

 

「くそっ……さっきから煩わしいぞぉ!!」

 

「「っ!!?」」

 

 

 その瞬間、ヴァルダ――その本体である胸元のブレスレットが不気味な光を放ち、俺達はその光をまともに喰らってしまう。

 

 

(ぐっ……頭がっ……。これがヴァルダの精神攻撃か!)

 

 

 ヴァルダの精神攻撃を受け、八幡とシルヴィアは頭を押さえ、その場にしゃがみ込む。二人を襲うのは猛烈な頭痛。感触は脳震盪に近く、このままでは先程のように普通に戦うこともできない。

 

 二人の苦しむ姿に余裕を感じる暇もなかったヴァルダは、勝ち誇るように余裕の笑みを浮かべようとするが、このまま屈する八幡達ではない。

 

「なら…こっちもだ」

 

 八幡は純星煌式武装『黄昏の夢幻剣』を起動させ、その刃先を床へと突きつける。まるで、床を通じて、周囲に何かを伝播させるアンテナのように。

 

夢幻の安らぎ(ファンタジア・コンフォート)っ!」

 

 『黄昏の夢幻剣』の刃先という媒介を通じて、周囲の精神汚染を中和する、五感という精神に作用する八幡の魔術師としての能力が発動。八幡を中心に緑色の優しい星辰力が床から拡散していき、シルヴィアやヴァルダをも包んでいく。

 

「あ、頭の痛みが引いてきた!」

 

 これによりシルヴィアの頭痛も治まり、改めて調子が戻った彼女は煌式武装を握り直す。だが、この展開にヴァルダは苦虫を噛み潰したような顔をするのだった。

 

 

「ちっ....折角跪いたと思ったら……不愉快だ!!」

 

「ああ、そうか。だが、それはこっちもだ。人の身体を操る奴に少なくとも言われたくない台詞だな」

 

「なっ……!」

 

 一瞬、シルヴィアに目を奪れていたヴァルダの周囲には八幡の姿。それも十五人。いずれも『黄昏の夢幻剣』による幻を生み出す能力と八幡の魔術師の能力で生み出した実体を持つ幻である。

 

夢現(ゆめうつつ)・夢幻連舞」

 

「があぁっ……!!?これ…はっ!?」

 

 ネイトネフェル戦の時よりも倍近く分身の数を増やし、剣撃にも鋭さを増した、八幡の成長を感じさせる自身だけの技。十五人の八幡が織り成す異なった連撃は、まるで抜け出せない悪夢。この技の仕組みを知ったところで、名の通り夢か現実か困惑するだけだろう。

 

 加えて、ヴァルダの痛覚の感度を通常時よりも増した状態。これまで痛みを感じてこなかった純星煌式武装にはグッと来るものがあるに違いない。

 

 

(すごい…!これが今の八幡君の実力。星露から教えることはほぼ教えたって聞いてたけど……)

 

 

 一方、そこでヴァルダが八幡に苦戦する様子を見ていたシルヴィアは八幡の急成長ぶりに驚愕する。八幡の能力が初見殺しというのもあるが、間違いなくヴァルダが劣勢だ。たまに星武祭の模擬戦として試合をしたことはあったが、いずれも安全を考慮した軽いものであった。

 

 しかし、目の前で今見ているのは出し惜しみもない彼の全力。その原動力は言うまでもないだろう。

 

 

「ぐっ……貴様ぁ、理解したぞ。私と同じ精神に作用……五感に影響を与える能力か」

 

(お、正解)

 

 八幡達の幻が消えると、そこにいたのはかなり疲労した様子のヴァルダの姿。あれだけの斬撃を喰らえば、衣服もボロボロな筈だが、少し服が千切れている程度。

 

 それもその筈。八幡の幻は実体はあっても、相手に実際の傷をつけることはできない。傷の演出も『黄昏の夢幻剣』なら可能だが、余計な星辰力を使うのだ。

 

 しかし、八幡の幻による攻撃が皆無なわけではない。彼らは痛みを与える者として、相手の精神に直接攻撃しているのだ。だから、目の前のヴァルダは外傷が無いにも関わらず、疲弊している。少しの外傷は本物の八幡によるものである。

 

 夢か現実か混乱してしまうような八幡の稀有な特殊戦法だが、相手に外傷を与えずに相手を戦意喪失に追い込むという面では、これ程ボディーガードという彼の肩書きに合うものはないだろう。

 

「だったら、どうした?」

 

「……当たりか。これ程この人間の身体という醜い器を恨んだことはない。貴様という天敵がいることにもな」

 

「なら、さっさとウルスラさんから離れてくれるとこっちは助かる。そうすれば、後はお前を潰すだけだ」

 

 敵意に対して敵意で応える八幡。しかし、次にヴァルダから帰ってきたのは、予想外の言葉だった。

 

 

「お前、私達と手を組まないか?」

 

「…………なんだと?」

 

「この社会は未だ星脈世代に対する差別が絶えない。だが、なぜ凡人よりも力を持つ我々が異端だと扱われる?魔術師でありながら、同胞である純星煌式武装を使える星脈世代のお前なら、気持ちは分かるだろう?私達はその社会をひっくり返そうとしてるのだ」

 

「……………………………………」

 

 

 確かに星脈世代は社会からすれば少数派であり、差別的な思想は絶えない。奴が唱えている思想も分からなくはない。だが……

 

「生憎とお断りだ。その社会をひっくり返すために、お前は多くの犠牲を伴った事件を起こした筈だ。そんな奴に賛同はしたくない。それに、俺はこのアスタリスクでの今の生活は大好きでな。それを壊そうとする……シルヴィに手を出したお前には容赦しない」

 

「そうか……交渉は決裂だな」

 

 八幡の固い意志は揺るがない。そんな様子を見て、ヴァルダは呆れたような複雑な笑みを浮かべ、手首に付けられていた通信機を弄る。

 

 

「貴様達は知り過ぎた。だから、私も貴様達を始末するまでは撤退できない。()()には頼りたくはなかったが、これが貴様達の末路だ」

 

 そう言うと、ヴァルダの前に画面ウィンドウが現れる。そこには八幡やシルヴィアが知るアスタリスク()()の白髪の少女の姿が映し出されていた。

 

 

『……何の用かしら?』

 

 

孤毒の魔女(エレンシューキガル)、貴様の出番だ。今すぐに私に加勢しろ」

 

 

(オーフェリアっ!?なんであいつがヴァルダと……。まさか、ヴァルダが言ってた奴等って、悪辣の王(タイラント)も絡んでいるのか?だが、流石にこれは予想外だ……)

 

 八幡とシルヴィア、二人はヴァルダの予想外の増援に息を呑む。このままでは、二人共死ぬ可能性があると……

 

 

 


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