歌姫に拾われた俺がアスタリスクで生活をするのはまちがっているだろうか。 作:リコルト
--王竜星武祭が始まる数日前--
八幡side
「八幡よ、ちょっとこっちに来るが良い」
ベネトナーシュが利用する秘密の練習場を貸し切って、自身の星辰力を生かした訓練をしていると、俺の訓練の様子を眺めていた星露が声をかける。
「ふむ……最初の頃より段違いじゃな。星辰力の量も高まってきており、星辰力を無意識に使って戦うことにも慣れてきたと見える。我が界龍の門弟に劣らぬ成長ぶり、高く評価するぞ!」
星露は機嫌良く笑みを浮かべながら、俺の指導者として成長したことを評価する。
本当は他学園の生徒という立場であるため、こういった指導は禁止にされているが……生粋の戦闘狂である星露にとって、そんなの関係ないんだろうな。
だが、『万有天羅』というアスタリスク最強クラスの星脈世代に成長と強さを認められたことは大きな自信になる。いつまでも守る対象であるシルヴィに守られるのは、色々と勘弁だからなぁ。男の面子も丸潰れだし。
「おう、ありがとうな。だが、俺を呼んだのは更に強くなる何かが星露にあるんだろ?」
「左様じゃ。流石に一ヶ月以上も指導していれば、それも伝わるか。だが、これが妾が八幡に教える
どうやら、星露が俺に教えることはもう無いらしく、指導者としてクインヴェールに顔を出すのもこれが最後になるかもしれないとのこと。
本当はもっと聞きたいこともあるが、彼女には感謝している。最初、星露に会った時は身体の動かし方も星辰力の扱いもよく理解していなかった。そんな初心者同然の俺を数ヶ月も見てくれたのだ。
後は彼女が『継続は力なり』と言うように、鍛練を続けるのみ。自分の魔術師としての能力や純星煌式武装と相談して、自分だけの戦法を増やしていこう。
「ああ、もちろん鍛練は続けるさ。で、その俺に教える最後のモノって一体何なんだ?」
「うむ……妾は八幡の能力と純星煌式武装を合わせた戦法を見て、思い付いたことがあってな。お主なら『
「
初めて聞く単語に俺は首を傾げる。俺も六花に来てからは、星脈世代や煌式武装について詳しく勉強してきたが、聞き慣れない言葉だ。
「初めて聞くのも無理はない。何せ、この
七十年っ!?道理で知らない訳だ。七十年前なんてアスタリスクがまだ出来上がったばかりぐらいの時代。歴史の教科書でようやく触れるぐらいの年代の話だ。
ていうか……それを知る星露って……何歳なんだ?俺には10歳ぐらいの子供にしか見えないんだが。星脈世代は本当に何でもありだな。
「……
式神か……そう言えば、界龍には星仙術と呼ばれる界龍独自の星辰力を扱うものがあった筈。詳しくは知らないが、今の界龍には式神を操る学生もいるとか。
「自分の星辰力を放出して形にする……話だけ聞くと、星脈世代なら誰にもできそうだが、どうして七十年以上も扱える人がいなかったんだ?」
「その理由は大きく分けて二つある。一つは、この
星露によると、星脈世代の中でも魔術師と魔女は生身で
だが、魔女と魔術師の数は星脈世代の中でも一割~二割ぐらいと言う程にその数は少ない。最初の理由から扱える人物のハードルの高さが非常に高いのが窺える。
「二つ目は、魔術師や魔女であってもその
成る程……要はクロエのテレパシーみたいなニッチな能力だと駄目だということか。扱える適性の人物がさらにグッと厳選されていくわけだ。
「なら、シルヴィは扱えるのか?」
だが、俺はもう一人魔女を知っている。
それはシルヴィだ。
シルヴィの能力は歌を媒介にした能力。歌を基盤にした自由な戦い方が彼女の特徴である。
「扱える資格はあるじゃろうな。だが、確実に扱えるとは言えん。実際、この
「成る程……テクニックも重要なんだな」
生まれ持った才能のみならず、高いテクニックを要する高度な秘術。その全容を星露に詳しく聞いたわけだが、俺は星露にある疑問を一つ覚えていた。
「けど、どうしてそれを俺に勧めたんだ?確かに俺は魔術師だが、能力は自他の五感に影響を与える能力だぞ」
それは俺が扱える資格に該当しない点だ。
星露が挙げた魔術師でしか扱えないという高いハードルは越えているが、その能力はクロエに近い干渉型の能力。シルヴィのように自由度は高くない。
しかし、星露はその反論を待っていたと言わんばかりにニヤリと笑みを浮かべると、俺が持っている純星煌式武装
「そこで活躍するのが、
そう言って完成した姿を想像して星露は興奮した様子だが、俺も非常に興味が湧いてきた。
ネイトネフェルに使った実体があるように思わせる幻を使った戦法……あれを越えるものか。手本もなく、どういった形になるか分からないが、挑戦する価値はある。
「ほぉ……なら、早速できるか試してみるか」
「うむ、コツは妾が教えよう。最初はな……」
(捨てられた純星煌式武装と言われたモノがここで真価を見せるとはな……。確かに普通に使えば、ほぼ意味はないかもしれない。だが、この純星煌式武装は『イメージを形に出来る』という点に価値がある。多くの人間はイメージを想像できても、その想像を形にすることは簡単にはできない。だが、
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「これが俺の
八幡の後ろに立つような姿で、黒衣のマントと黒衣の鎧、そして鴉のような黒い羽を纏った3m程の人の形をした、幻夢皇モルペウスが黒い星辰力を周囲に出しながら顕現すると、黒剣と化した
すると、
だが、黒騎士のような風貌をしたモルペウスが黒剣を握る姿は正しく騎士と呼べるような姿で、顕現時の素手の時よりも迫力を感じるものだ。
「
ヴァルダは
そして、同時にヴァルダは瞬時に動く。
だが、八幡はすでに手を打っていた。
「
「がっ!これは……!?」
モルペウスの周囲から立ち込める黒い星辰力で作られた黒く染まった床からヴァルダの手足を縛るように、黒い鎖が何本も現れる。
ヴァルダはそれから脱出しようとするが、その鎖は実体があるように強く縛られた感覚があり、上手く抜け出すことができないでいた。
(この感覚……さっきの実体がある分身の応用か!五感を操る能力でわたしの五感を誤認させ、まるで実体があるように思わせて……)
だが、そこでヴァルダの思考は止まる。
「ぐっ!?」
(この
ヴァルダの眼前には、すでに次の一手であるモルペウス本体が八幡から独立して迫ってきており、右手に握られる黒く染まった
「
だが、
それは
・
(例えば、炎を扱う
・
この二点なのだが、特に前者は脅威的で、先程のヴァルダを縛った鎖もこれが原因だ。
「まだまだ行くぞ、ヴァルダ」
だが、八幡はまだ隠し球を持っているのだった。
・モルペウス
元ネタ:ギリシャ神話の夢の神
大きさ・イメージ:イナズマイレブンgoの化身に近いです笑