歌姫に拾われた俺がアスタリスクで生活をするのはまちがっているだろうか。 作:リコルト
それでは、本編をどうぞ!
前回よりは長めです。
ペトラさんと変装したシルヴィについていくように俺はクインヴェールの敷地内をどんどん進んでいく。男子である俺が女子校の中にいたら、不法侵入とかで通報されそうだが、人気の無い裏門から入ったことが功を成し、クインヴェールの生徒や教師にも見つかっていない。監視カメラはいくつか見かけたが、後で学園の理事長であるペトラさんが上手く処理をするだろう。
「二人ともこっちよ」
しばらく敷地内を歩き進めていって、俺達は敷地内にある一棟の建物の中へと入った。外観は植物や洋風建築によって若干女子校要素が溢れているが、日本の学校にもありそうな雰囲気でそんなに抵抗感は無かった。
中に入ると、目の前にはそこそこ大きなホールが広がっていて、そこからホテルのように細い通路や上階に行く階段も目に入る。しかし、いくら裏門から入ったと言っても人気があまりにも少ない。新築した建物だからだろうか?
「ここが俺の新しい拠点ですか?」
「ええ、そうよ。ただ、新宮君の新しい部屋はさらにこっち側なんだけどね」
『ピッ!!ブー!!!』
「うおっ!?」
そう言って俺が訊ねた質問に答えながら、ペトラさんは明かりが点いておらず、稼働していないと思われていたエレベーターの電子パネルに自分のデバイスを触れさせる。すると、エレベーターは高い機械音を立てて、エレベーター内の明かりが点灯したのだった。てっきり、新築したばかりで使えないと思っていたが、どうやら違っていたらしい。
「さぁ、エレベーターに乗りなさい」
「あー、八幡君の新しい部屋ってあそこかぁ。確かに彼処なら、人目は付きにくいかもね」
「…………彼処とは、一体?」
隣でシルヴィは俺の新しい拠点に確信を持っているようだが、アスタリスクに来て一日未満の俺にとってはどういう場所か見当がつかない。
そう思いつつ俺はペトラさんに招かれて起動したばかりのエレベーターに搭乗する。外観や内観からして最初は上階に行くとこの時は思っていた。
しかし……………
「えっ………?」
エレベーターは地下へと向かうように下へと静かに移動している。
マジかよと思い、俺はエレベーター内の行く階を決める装置に目を向けるが、よく見たら一階と地下を意味するBの二種類のボタンしか見つからない。外観と内観だけを見たら、このエレベーターはそれに合わないとんだ設計ミスである。
しかも、感覚で地下3階ぐらいまでエレベーターは移動しているし、俺はこの二人に何処に連れていかれるか少し心配になってきた。
まさか、実験場とかじゃないよな?だとしたら、さっきの俺の生活拠点に確信を持ったシルヴィの笑みに恐怖を感じざるを得ないのだが………
………………………
………………………………………
……………………………………………………
「着いたわよ」
「ここは…………?」
やがて、エレベーターは停止して地下のとある階でドアを開く。それに促され、俺達はその階に足を踏み入れると、そこには上階と違うような雰囲気が辺りに広がっていた。
地上階みたいに大きなホールは無く、目の前に広がっているのは一本の通路である。通路には植物や女子っぽい装飾は無く、殺風景と言うべきだろう。
「ここはベネトナーシュに所属する者達が使っている生活拠点の数ある一つです」
「ベネ、トナーシュ?」
ペトラさんの口から出る見知らぬ言葉に俺は思わず首を傾げてしまう。
「ベネトナーシュっていうのはクインヴェールが保有する諜報工作機関の事だよ。生徒会長である私が表の仕事をするなら、ベネトナーシュは情報操作や偵察や不穏分子の排除等の私が表立って出来ないような裏の仕事をしてくれるんだ。もちろん、他学園にもこういった機関は存在していて『影星』や『
成る程、シルヴィの説明で理解した。要は学園が保有する秘密の裏組織と言うわけか。ここまで見てきた人気の無い建物や特殊な操作をしないと起動しない地下行きのエレベーターの理由も納得だ。男子である俺が普通に女子寮で生活は出来ないからな。それならば、秘匿性の高い組織の住宅が簡単に挙げられるだろう。
「各学園にそういうのがあるんすね……」
「うん、私を含めた生徒会長達は定期的に集まって情報を交換しているけど、各学園にはいくつも知られてはいけない秘匿情報があるからね。それに、学園都市と呼ばれていても統合企業財体の競合関係で各学園全てが仲が良いというわけじゃないから」
仲が悪いというのは何となく分かる気がする。恐らく、学園都市の一大イベントである星武祭が良い意味でも悪い意味でもその仲を証明している。あれは謂わば、統合企業財体同士による代表戦という意味でも捉えられるからな。
そうやってシルヴィと話している内に前を歩いていたペトラさんがある部屋の前で立ち止まった。
「ここが新宮君の部屋です。中に入りましょう」
………………………
……………………………………………
……………………………………………………………
「うおー、ここが俺の部屋か……」
部屋の電子鍵を持っているペトラさんに部屋を開けられ、俺達は部屋の中へと入った。
入ってみると、最初に出迎えるのはそこそこの大きさの玄関、そこを先に進むと部屋がいくつも分けられていて、トイレや風呂や自室に出来そうな部屋も見つけた。リビングも人が多く入れる程広く、キッチンもあるではないか。大学生の一人暮らしの上位互換みたいな生活が出来そうである。
「こんな部屋を俺に?」
俺は思わずペトラさんに訊ねてしまう。
「ええ、今の貴方はクインヴェールでも秘匿性がそこそこ高い存在ですからね。ルームシェアなんてもっての他です。気に入って頂けましたか?」
「ええ、十分すぎるぐらいです」
ペトラさんにお礼を交えつつ返事をすると、ペトラさんは何かを思い出したように俺に訊ねた。
「そうだったわ……新宮君、貴方って自炊や家事が出来るタイプの男子かしら?」
「え、ええ。まぁ、慣れていますが……」
元々専業主夫を目指していたからな。料理や家事は普通にこなせる。それを聞いてペトラさんは安心した様子を見せていたが、何の心配だろうか?
「それは良かったわ。うちのほとんどの生徒達は寮だから学食を毎日のように使用しているんだけど、男子である貴方は流石にね……」
「成る程、ごもっともです」
飯を食べに学食になんか行ったら、一発でアウトである。だが、部屋にはキッチンや洗濯機や掃除機もあるし、食材や生活必需品さえ買えれば普通の生活は出来るだろう。
「へぇー!八幡君料理出来るんだ!」
そう言って話を聞いていたシルヴィは心配ではなく、興味を示していた。それを見てヤレヤレと言った様子のペトラさんだったが、シルヴィがそれ以上何を言うか俺も簡単に理解できた。
「……まぁ、予定が合えばいつでも作りますよ」
「やったー!楽しみにしてるね!」
それを聞いてシルヴィは女の子らしい可愛らしい様子で目の前で喜んでいた。昔は自分が一人でも生きていけるために料理をしていて、こうして他人に振る舞うのは初めてだった。けれど、こうして喜んでくれる彼女に悪い気はしない。いつかは作ってあげたいものだ。
こうして、あらかた俺の新しい部屋の散策は終わると、ペトラさんが部屋にあった棚の引き出しから何かを取り出し、俺に手渡してくれた。
それはこれまでペトラさんが使っていた物に似ていた電子デバイスと執事服を彷彿させるような黒色のスーツ一式だった。
「これは?」
「アスタリスクで生活する上で必要な貴方専用のデバイスです。これがあれば、先程の私みたいに裏門やエレベーターが使えたり、部屋の電子ロックも解除できます。もちろん、通信連絡も可能で貴方のデバイスにはすでに私とシルヴィの電話番号が追加されています」
それを聞いてシルヴィの方を見ると、シルヴィはやってやったぞみたいな感覚で一回静かにウインクをしてくる。電話帳の所を見てみると、シルヴィのアドレスが本当に載っていた。これからシルヴィのマネージャーとして雇われるから電話番号を知るのは当然だけど、相手が有名すぎて実感が湧かないんだよな。
「そして、こっちは貴方の新しい仕事服よ。アスタリスクの生徒同様に星脈世代が動きやすい素材を使用してみたわ。明日からはその服を学園内では着てくれるかしら」
「分かりました」
先程ペトラさんから取り出した引き出しを見ると、受け取った服と同じ物が生活に支障が無いぐらいに数着入っていた。スーツを着る経験はあまり無かったが、明日からこれを制服と思って着れば大丈夫だろう。
「これで君に渡す物は以上よ。後は部屋の中の物は勝手に使ってもらったり、買い出しに行ってもらっても構わないわ。ただし、外出する際は裏門を使うようにして頂戴」
「はい、気を付けます」
「それと、新宮君の魔術師の検査は明後日の朝からすることにしました。それまでは自由にしてもらって結構です。シルヴィも次の星武祭の練習で忙しくなるので」
どうやら、シルヴィは今年の冬に行われる王竜星武祭に出場するために明日からは重要な仕事以外はキャンセルして学園の施設で早くも練習をするようだ。星武祭が終わるまで俺のマネージャーの仕事も無いのだろう。
「以上で、新宮君に話すことも以上ね。貴方のこれからのことは検査をしてから改めて決めるわ。それじゃあ、私達はこれで失礼するわね」
「またね!八幡君!」
全てのやるべき事を終えて、手を振って部屋から出ていったシルヴィ達を俺は玄関まで見送った。二人はライブ帰りでもあるし、後仕事とかも残ってそうだからこれ以上は時間を取ったら駄目だろう。
さてと、明後日までは自由と言われてもな。体力を使う仕事もあると思うし、街の見学がてらランニングでも始めるか。それと今日はしばらくの分の食料品等を買い出しに行かないとな。あ、ついでに千葉で使っていた携帯も売却するか。家族や雪ノ下達が電話してきたら面倒だし。
次の話では八幡の能力についてある登場人物を交えて触れる予定です!