歌姫に拾われた俺がアスタリスクで生活をするのはまちがっているだろうか。   作:リコルト

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題名で分かると思いますが、彼女が出てきます。


体力作りと見知らぬ女児との接触

「はっ、はっ、はっ………」

 

 

 アスタリスクに来て二日目、学生ではないが晴れてクインヴェールに所属する事が決まり、千葉の奴等との唯一の連絡手段である携帯を売却した俺はのびのびと早朝ランニングしていた。

 

 ランニングの主な目的としてはアスタリスクの見学と自分の体力の向上である。といっても今はクインヴェールの周辺をランニングするだけなんだけどな。アスタリスクがバカ広すぎてアスタリスク全部を回るなんて一日では無理ゲーである。ていうか、一週間でも無理だ。今はお世話になるクインヴェールの周辺と買い出しで利用する商業区や中央区を地理的にマスターすべきだろう。

 

 それに体力の問題もある。星脈世代は普通の人よりも身体能力が高いらしいけど、自分の場合はそれに気付かないぐらいに体力が非星脈世代と同じっぽいからな。他の学園近くまでランニングすると、確実に筋肉痛だろう。星脈世代でも優秀なシルヴィなら容易かもしれないが。

 

 まぁ、身体能力の面は仕方がない。身体能力は自分の努力次第で伸ばせるし、今はコツコツとやっていくしかない。シルヴィには劣るかもしれないが、自分の身を守られるぐらいには成長したい。マネージャーで男子の俺が主である女子のシルヴィに守られるなんて変な感じだし。

 

 

「さて……もう少し行くか」

 

 

 ランニングをしている最中、気持ちを改めた俺は街中をさらに疾走するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほぉ、これはこれは……興味深い。朝から散歩したかいがあったのう。見慣れない奴だが、何処の所属じゃろう?まぁ、良いわい。少し相手をしてやろう。ちょうどこっち側に来ておるしな」

 

 しかし、八幡はこの時気付いていなかった。八幡が走っている場所から数100m離れたビルの屋上でピンク色のチャイナドレスを来た子供が八幡を新しく見つけた玩具のように睨んでいたことを。

 

 

 

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「ふぅ……かなり走ったな」

 

 クインヴェールからかなり遠くまで走った事を見知らぬ景色を見渡す事を通して実感しながら、自販機で買った水を飲んで休憩する。

 

「確かここは……再開発エリアの近くか」

 

 再開発エリア。そこはアスタリスクでも異質な場所で、近代的な建物よりも廃墟に近い建物が並んでいる場所である。そこには各学園でも悪名の高い生徒やマフィアが多く集結するだけでなく、市場では出回らない物を売っているツウの店も集結したりしている。また、誰もが怪しいと思うためにほとんどの人は寄り付かず、他学園同士の者が秘密の取引をするために利用するとか。

 

(そう言えば、平塚先生の友人ってこの辺で店をやっているんだっけ?まさかだとは思うが、そっち系のヤバい人じゃないよな?いや、平塚先生の友人だからなぁ………残念だけど全てを否定できないわ)

 

 俺は平塚先生のメモを再開発エリアに来た事で思い出す。メモを見ると、再開発エリアに入る一歩手前の場所にあるようだし、時間があった時に来よう。再開発エリアの方に入ってペトラさんやシルヴィに迷惑をかけたくないからな。

 

 

「おい、そこのお主」

 

 

「はいっ?」

 

 

 呼ばれた声がしたので、声が聞こえた方である下を振り向くと、そこにはピンク色のチャイナドレスを来た女児がいつの間に立っていた。

 

 ピンク色のチャイナドレス……確か界龍の学生だよな。けど、こんな子供が在籍しているのか?と思ってしまう。シルヴィやペトラさんが他学園の生徒にはあまり接触するなとは言っていたけど、呼ばれたら無視するわけにはいかない。

 

「えっと………どうしましたか?」

 

 俺は子供に接するように優しく丁寧に訊ね返した。他人から見たら、誘拐犯みたいな構図だが決してやましい気持ちは無いからな。

 

 ここまで丁寧に接したら、次に来るのはこの女児の悩み事だと思っていた……この瞬間までは。

 

 

 選ばれたのは………

 

 

「突然、すまんの!」

 

 

 綾〇でもなく、悪びれるような様子も無い女児の笑顔と謝罪、そして素早い手刀だった。

 

 

(やっば、危ねぇぇ!!)

 

 

 目の前から繰り出される女児の手刀に命の危険を察したのか、自分の視力が急激に上がり、目の前の素早かった手刀がスローに見えるぐらいまでに動体視力が向上した。

 

 しかし、目で追えてもそれに対応する運動能力は無い。女児は目の前で何故かフェイントを数回入れるが、結局その手刀はお腹に入った。

 

「ごほっ!?」

 

 女児の手刀は平塚先生の拳より重く鋭くて、鉄パイプで殴られたような威力だった。それに思わず、俺はお腹をおさえて道路に倒れてしまう。つい、先日同じ場所をナイフで刺されたのに……

 

「ほう、やはりお主は魔術師じゃな。よくあの妾の手刀を目で追えたわい。フェイントも追えたのは妾の弟子でも数人しかおらぬのに」

 

「………弟、子?」

 

 傍らに聞こえる女児の声に俺は耳を傾ける。

 

「さっき、触れてみて分かったが星辰力が五感を走るようなイメージを感じた。恐らく、お主は五感を変異させる魔術師じゃな。それなら、先程の動体視力も理解できるわい。良い才能じゃな」

 

 一度触れただけで、俺の能力が分かったというのか!?弟子とか言っていたし、まさかのとんだ大物に捕まってしまったようだ。

 

「じゃが、お主の身体能力は星脈世代に見合うものではないの。何故じゃ?魔術師や魔女の類いは普通の星脈世代よりも星辰力と密接な関係じゃから身体能力は勝手に成長するものなんじゃが……。少し胸を借りるぞよ」

 

 そう言って女児は倒れている俺を無理やり仰向けにして、胸をペタペタと触る。あの、介抱してくれないんすか?再開発エリアの近くだから人がいなくて助かってるんだけど、今の俺道路に倒れてる只の変人だからね。

 

「やはり……か。お主の身体を流れる星辰力は無意識にアンバランスな状態のようじゃ。それがお主の星脈世代としての成長を封印する形になったのだろう。恐らく、昔からの精神的なストレス等が原因じゃな。このような逸材を潰すとは金色の卵を産む鶏の腹を引き裂くような大馬鹿者にも劣らないうつけもこの世にいるようじゃな」

 

 どうやら、俺の身体能力についてこの女児が言うには能力と同じストレスによる弊害だということは分かったが、この女児は一体何がしたいのだろう?いきなり手刀飛ばすし、胸は触ってくるし。

 

 

「じゃが、妾にはそれを改善する方法がある。どれ、少し落ち着いてくれよ」

 

 

「~~~~~!!??」

 

 

 突如、この女児は胸の数ヶ所に向かって鋭い人差し指を針のように突き刺した。その痛みはさっきの手刀と良い勝負で、槍に刺されたような痛みだった。蜂とかと比べものにならないぐらいだ。

 

「ごほっ!?げっほ!?な……なにを?」

 

「何、お主の星脈力の流れを阻害する血栓みたいなものと星辰力の流れを良くするツボを刺激してやったのよ。中国でいう点穴に近いものじゃな。どうじゃ、気分は?」

 

「気分……いきなり、わけも分からず手刀を食らわされて、こんな目に遭うとか最悪の気分すね!」

 

 さっきの女児の言ったツボを押されたせいか、身体は何故か力がみなぎるように熱い。しかし、変な感じにどうも気分が悪い。俺は最後の力を振り絞るように女児を睨み付ける。

 

 

 すると……

 

「むっ!?これは………!?」

 

 突如、身体にふさわしいように元気だった女児が目を手で押さえてふらついたのだ。俺は何もしてない筈だが、一体どうしたのだろうか。

 

「ふふふ………ほっほっほっほっほっほっ!!!お主、とんだ金剛石ではあるまいか!素晴らしい才能じゃのう!うむ、お主なら五感を変異させる能力を駆使して武術も良し!星仙術も良いのう!お主よ、界龍に入らぬか?」

 

 目の前の女児が今度は界龍に入らないかと言ってきた。これで界龍の関係者だということは確信したが、この人は一体何者なんだろう。あの武術や俺の魔術師の能力に気付く洞察力、それにこの女児のアドバイスのようなものは証拠は無いが何故か間違っていない気がする。

 

「……ごめんなさい、ちょっと無理ですね」

 

「どうしてもか?」

 

「………俺には帰る学園がありますし」

 

「うむ。どうやら、貴様は訳ありのようじゃな。無理な勧誘はこの辺にしておこう。じゃが、お主という玉を見つけた以上、妾も見逃すわけにはいかない。一週間に一度、この場所で妾と実践形式で武術等の稽古をしてやろう。実践稽古なら他学園の生徒を教えても問題は無い」

 

 そう言って、目の前の女児は俺に彼女のアドレスと共に地図を送ってくる。その場所とは再開発エリアにある廃墟となった教会だった。

 

「実践……稽古」

 

「結論を今ここで出せとは言わん。お主の言う学園に帰って誰かと相談してからでも良い。まぁ、訳ありのお主なら近い内に関係者から連絡が来るかもしれないかのぅ」

 

 そう言って、目の前の女児は笑っていた。クソっ、気分が悪くて目眩が……

 

「おっ、そろそろお主も限界のようじゃな。良い拾い物をしたお礼じゃ。学園が分からんからランニングしていたコース沿い近くに帰してやろう。それ、また会おうぞよ!」

 

 そう言って、女児は俺にさよならを告げた。その際に飛ばされたような感覚を覚えたが、気分が限界の俺にはそれが現実か幻か判断がつかなかった………

 

 

……………………………

 

 

 

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…………………………………………………

 

 

 

「う~ん!ライブ終わりの休日は最高だねぇ!王竜星武祭の練習も今日は自分で納得するまでやったし、たまにはもうオフで良いよね!そうだ、八幡君に会いに行こうか!今、何してるかなぁ?」

 

 クインヴェール近くの海沿いの公園。そこには栗色の髪に変え、帽子を被って変装したシルヴィが自然の空気に当たりつつ、星武祭の練習の休憩をしていたのだった。

 

 練習を終え、新しく彼女のマネージャーになった八幡に会いに行こうかと思っていると、彼女の視線にある人物が目に入る。

 

「八幡君!?どうしたの!?」

 

 そこにいたのはフラフラの足取りでクインヴェールの方にまで歩いて来た八幡であったのだ。フラフラの足取りで今にも倒れそうな八幡をシルヴィは倒れないように抱き締めるのだった。

 

(あれ?八幡君……星辰力が増えてない?)

 

 彼を抱き締めたシルヴィは彼の違和感に気付きつつも、今は彼の体調が一番だとすぐ近くにあったベンチに彼をゆっくりと寝かせた。

 

「あ……シルヴィ。迷惑を……」

 

「気にしないで。今、車を手配しているから。それより、どうしたのそれ?」

 

「………ピンク色の中華服を着た……」

 

「中華服……明らかに界龍ね」

 

「……ピンク色の中華服を着た小学生みたいな女児にいきなり襲われて……」

 

「えっ……嘘でしょ?」

 

 八幡の絶え絶えの言葉を最後まで聞いたシルヴィはそれを聞いて目の色を変えた。最初は界龍の生徒にやられたと敵討ちに行くような感情を覚えていたが、今はどうして彼女が八幡に接触したのかという疑心で一杯だった。

 

「……車の中でさらに詳しく聞かせてもらうね。後、学園に帰ったらそれと同じ説明をペトラさんに頼めるかな?」

 

 

……………………

 

 

 

………………………………………

 

 

 

………………………………………………

 

 

星露(シンルー)?これはどういう事かな?』

 

『ほっほっ。まさか、彼が歌姫の学園の者だったとはの。これは予想外じゃった』

 

 その日の夜、クインヴェールの生徒会長であるシルヴィと界龍の生徒会長であり、八幡にあんな事をした張本人である人物、『万有天羅』というアスタリスク最強の称号を持つ界龍の序列一位范星露がモニター越しで会話をしていたのだった。

 

『それにしても、彼奴の名前は新宮八幡というのか。すっかり名を聞き忘れておったわい。で、彼の体調はどういう感じじゃ?』

 

『八幡君なら星露のせいで、今は体調不良で部屋で寝ているよ。全く……もう』

 

『すまんの。悪気はなかったんじゃ。彼の事は妾も秘密にするから許しておくれ』

 

『そんなの当たり前だよ!彼は私のマネージャーなんだから。で、八幡君に稽古をつけるって提案したんだって?星露にしては珍しいじゃない。どういう風の吹き回しなの?』

 

『お主、彼奴に関しては珍しく厳しいの……まぁ良いわい。彼奴には魔術師の優れた才能がある。武術や魔術師としての戦い方等を身につければ、あれはかなりの大物に化ける。歌姫も彼の能力は知っておるじゃろう?』

 

『まぁね。八幡君の能力は自身の五感の変化でしょ。視力や嗅覚とか聴力を好きな時に応じて変えられる能力ってすごいよね』

 

『うむ。それに武術を加えれば、彼奴はかなりの実力者になるの。だが、妾が言ったのはその能力じゃない。恐らく、妾がツボを押したから目覚めたのだろう。彼奴には能力がもう一つある』

 

『えっ、もう一つ!?』

 

『左様。近々彼の能力は検査で分かるらしいが、歌姫には先に言っておこう。彼の能力は自身の五感の変化だけじゃない。相手の五感も変えられる。妾はそれで視力を彼奴に一瞬だけ持ってかれたのじゃ』

 

 

 

 

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