歌姫に拾われた俺がアスタリスクで生活をするのはまちがっているだろうか。 作:リコルト
「さてと、お互いの自己紹介は済んだ事だし、早速要件を聞こうか。八幡君は何をお望みだい?」
互いに自己紹介を済ませ終わると、西園寺さんは商人のような鋭い眼差しで俺に訊ねる。ちなみに、シルヴィの事は俺をここまで連れてきた案内人と説明した。名前は詳しく聞かれなかったし、彼女の素性はバレていないだろう。
「平塚先生からここは星脈世代向けの商品を取り扱っていると聞いたんですけど……煌式武装ってここで売っていますか?」
「煌式武装?ああ!全然あるよ。こっち来て」
店内にいくつか煌式武装の部品があったから煌式武装もあるだろうと薄々思っていたが、どうやらビンゴだったようだ。そう思っている内に西園寺さんに連れていかれるように厳重に施錠された別の部屋へと案内された。西園寺さん曰く煌式武装は店内の品物の中でも値段が高いから、保管するように販売しているとか。
「うおっ。すげぇ……煌式武装がいっぱい」
煌式武装が売られている部屋へと案内されると、そこにはガラスケース内で展示されるように多くの煌式武装が陳列されていた。
「旧型から新型、さらには期間限定プレミアモデルまで何でも揃えてるよ。種類も銃型や剣型や槍型など色々豊富だからゆっくりと見ていくと良い」
そう言われて、俺とシルヴィは放たれたように展示された煌式武装達を見学する。シルヴィもこれほど煌式武装を取り扱っている店にはなかなかお目にかかる事が無いらしく、興味津々のご様子だ。
「ところで、八幡君は使いたい煌式武装のジャンルとかってあるかな?剣型や槍型とか言ってくれれば、お姉さんがオススメを紹介するよ」
使いたい武器のジャンルか。力も無いから斧やハンマー型は多分無理だな。銃や弓や槍とかも使ったことがないから不安だな。ここは無難に剣かな。
「そうですね……剣型っぽいのが良いですね。他の物はちょっと使いづらいかなぁと思います」
「剣型ねぇ………なら、これはどうかな?」
そう言って西園寺さんがガラスケース内から取り出したのは黒色を基調とした色に映えるような暗緑色の線が入った剣型の煌式武装だ。
「えっ!?それって………」
その煌式武装を見てシルヴィは誰よりも真っ先に驚いた表情を見せていた。
「ん?どうしたんだ驚いた表情で」
「それってフォールクヴァングっ!?」
フォールクヴァング……それって確か。
「お!案内人のお嬢さん詳しいね。そう、この子の名前は銃剣型煌式武装『ヴァルハラ』。クインヴェール序列一位シルヴィア・リューネハイムが使っている銃剣型煌式武装フォールクヴァングの色違いカラーモデルだ。彼女の人気と共に期間限定で発売されたかなりのレア物さ」
成る程、だからシルヴィが驚いていたのか。
「八幡君、試しに起動してみるかい?」
「えっ、良いんですか?」
「構わないとも。ほれ」
そう言われて、俺は西園寺さんから軽い感じで煌式武装ヴァルハラを預かる。持ってみた感触だが、意外に軽い。これなら、使いやすいかも。
「ヴァルハラ起動!」
試しにヴァルハラを起動すると、暗緑色の線と同じ色のブレードが顕現する。次に銃型へのモードチェンジも行ってみた。こちらも身体に負荷がかかる感じも無い。銃の扱いは慣れ以前に経験してないからまだ分からないが、これを機に挑戦してみるのも良いかもしれない。
「わぁ~!カッコいいよ、八幡君!」
「うん!八幡君には良い感じだと思うよ」
「そ、そうですか?……ありがとうございます」
シルヴィと西園寺さんもかなりの好評価のようだ。だが、俺は二人の女性に褒められるのに慣れていないため、恥ずかしさのあまり思わず煌式武装をしまってしまう。
「西園寺さん、ちなみにこれって値段の方はどのくらいするんですか?」
さっき期間限定で発売されていたとか言っていたからなぁ。かなりお値段も高いのでは?そう思いつつ、俺は西園寺さんに値段を訊ねた。
「うーん、本当は50万円はするんだけど……良いや!八幡君にそれはお姉さんがプレゼントするよ」
「「えっ!?」」
西園寺さんの予想外の答えに俺だけでなくシルヴィも声をあげて驚いてしまう。
「いやいや、50万円の煌式武装を俺がそう易々と貰うわけにはいきませんよ!」
俺はたまらずその答えに反論で返す。50万円のものを簡単に渡しちゃ駄目だろ!というより、50万円なんて代金払えないんですけど。
「良いって、良いって!煌式武装も展示されるよりは戦いに使ってくれるのが本望だから!」
「ですが………」
「うーん、静ちゃんの生徒にしては義理堅いね。なら、こうしようか!君にはこの店にたまに来て貰うことにしよう。要はご贔屓にして貰うってことさ。実はなかなか客が来なくて話し相手もいなくてねぇ。君となら良い話し相手になるだろう。これなら良いかな?」
「わ、分かりました……それなら」
「うん、素直でよろしい!」
素直っていうよりは威圧されたような感じである。これ以上は反論してはいけないと思ったし、西園寺さんも納得してるならそれが一番の平和的解決だ。別にここに通うのなんて苦でもないし。
「後はもう良いかな?」
「そうですね……もうこのヴァルハラで十分だと思いますね。今日はありがとうございました」
そう言って、西園寺さんにヴァルハラを勧めてくれた件、プレゼントしてくれた件についてお礼を言って店を去ろうとすると………
『待って、置いていかないで!!』
「えっ………?」
「どうしたんだい、八幡君?」
「いや、今声が聞こえて………」
『君なら僕を完璧に扱える!だから、待って!僕を置いていかないで!』
「ほら、今子供みたいな声が………」
耳に響き渡る子供の悲痛な叫びみたいな声が聞こえると西園寺さんとシルヴィに説明するが、二人には全く聞こえないらしい。
「まさか……!」
俺の説明を聞いて、何かにピンと来たのか西園寺さんは部屋の奥から鞘にささった洋風の片手剣を持って来た。鞘は黄色を基調に黒色の線が剣筋に沿うように彩られ、剣の本体も同じように黄色を基調とした刃に黒色が映えた美しい様だ。ヴァルハラみたいに展示されてもおかしくは無いのに、どうしてこの剣……いや、剣型煌式武装は部屋の奥から持ってこられたのだろうか?
「八幡君、君は魔術師かい?」
「えっ……?」
唐突な西園寺さんの質問に戸惑い、シルヴィの方を向くと、彼女は静かに頷くだけだった。どうやら、話しても良いと判断したらしい。
「はい、そうです」
「なら、試しにこれを触ってみてくれ。だが、痛みを感じたら、すぐに離してくれよ」
そう言って手渡されたのはさっきの黄色い剣型煌式武装。西園寺さんのすぐに離しなさいというのには最後まで疑問だが、西園寺さんに従って試しにそれを片手で柄を持ってみる。
「えっ、持てますけど………」
「痛みは無いかい?」
「全く無いですね。むしろ、何だか自分の身体に合っているような感じがします」
「そうか、それなら良かった」
それを聞いて西園寺さんは一安心みたいな表情を見せる。何か俺が触ったら、危険みたいな説明を受けたけど、あれは一体?
「西園寺さん……どうして貴方が
黙って西園寺さんと俺のやり取りを見ていたシルヴィが西園寺さんに訊ねる。
「純星煌式武装ってたしか煌式武装よりも希少な素材で作られているっていう……?」
「そう、純星煌式武装は希少な素材であるウルム=マナダイトをコアに利用した煌式武装の事で、『代償』の代わりに魔女や魔術師に似た能力を持っているんだよ。けれど、純星煌式武装は魔術師や魔女は相性が非常に悪くて、扱えたのもアスタリスクの歴史では数人ぐらい。八幡君はとても珍しいタイプなの。だけど、問題はそこじゃない。純星煌式武装は各統合企業財体が厳重に管理しているの。普通の店では絶対に売ってないはずなんだよ」
ということは西園寺さんは何らかの不正で純星煌式武装を手に入れた可能性があるという事か。だから、学園の生徒会長であるシルヴィもこれは流石に見逃せないというわけね。
「西園寺さん、教えてください。俺が持っているこれは何て言う純星煌式武装なんですか?」
「………その純星煌式武装の名前は
「捨てられた……純星煌式武装」