アズールレーン ─メイドインアビス─   作:志生野柱

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 断続的に鳴り響く耳障りな警報。

 日付も変わろうかという時間帯には聞きたくない目覚ましは、鉄血陣営『前線基地(イドフロント)』にいた全てのKAN-SENに届く。

 寝ていたKAN-SENを叩き起こし、哨戒中のKAN-SENを緊張の渦に叩き落し、晩酌に興じていた一部のKAN-SENの酔いを綺麗に覚まして、それは一応の役目を終える。

 複数種、火災や侵入者などのパターンに応じて用意された警報から選択されたのは、KAN-SENたちを最も不快にさせるうちの一つ。

 

 脱走者アリ。

 

 火災はまぁいい。大体はボンドルドの実験かセイレーンの攻撃が原因──つまり、日常茶飯事なのだ。事実、火災警報は最も音量が小さい。

 侵入者もまだ許せる。人間だろうがセイレーンだろうがKAN-SENだろうが、わざわざボンドルドの実験に協力しに来てくれたのだから。

 だが脱走者は、ボンドルドの実験の妨げにしかならない。最悪の場合、研究の成果がまるごと失われるか、他陣営に渡ってしまう。

 

 だからこそ、放送するビスマルクの声は固い。

 

 『第三隔離区画より実験体6名が逃走中。艦隊各位、発見次第確保または撃破せよ。繰り返す───』

 

 その放送を聞いて、オイゲンの眉が困ったと下がる。

 

 「6体か・・・これじゃ半分ね。」

 

 丸氷の入ったグラスにウィスキーを注ぎながら、至極面倒くさそうにごちる。

 展開された艤装を椅子代わりに夜空を見上げるが、目当ての月は見当たらない。

 

 「貴女たち、誰の手を借りたの?」

 「・・・言うと思う?」

 

 オイゲンがいるのは港だ。脱走者の動きを読んだ───わけではなく、単に晩酌をしていただけだ。

 黎明卿にシグニットの()()の是非を問えば非と返され、暇になったのでここにいた。星見酒に興じたはいいものの、月も無ければ隣に欲しいボンドルドもいない。退屈を覚え始めたころに脱走者警報が鳴り──気付けば3対1の構図だ。

 

 「はぁ・・・」

 

 勝てるか勝てないか。そんな次元の話ではない。

 70レベル艦3体なら一撃で掃討できるビスマルク(戦艦)とは違い、オイゲンにそこまでの火力は無い。だが相手は実験体として捕獲されていたドロップ艦。苦戦しろというのが無理な話だ。

 

 オイゲンのため息にすら怯えた様子を見せる、3人の中で先頭に立つケント。

 健気にもオイゲンを睨みつけ、艤装を向けるエイジャックス。

 その背後で震えながらも艤装を展開しているノーフォーク。

 

 彼女たちを順番に見据え───オイゲンは再度、嘆息する。

 

 「はぁ。・・・シグニットでしょう? 分かっているわよ。聞いてみただけ。」

 「・・・maybe,貴女がプリンツさん?」

 

 期待交じりのケントの問いは、おそらく。

 

 「えぇ、そうよ。シグニットはなんて?」

 「よかったー・・・あなたともう一人・・・Z23って子は協力してくれるだろうから、ここから逃げてって。」

 

 安堵したように、ケントたちが歩み寄る。

 どうしようもなく冷え切ったオイゲンの視線には気づくことなく。

 

 

 ◇

 

 

 遠くで響いた砲撃音を聞いて、Z23は嘆息した。

 

 「もう、オイゲンさんってば・・・勘弁してほしいです。後の掃除とか、同じ班の私まで駆り出されるんですから。」

 

 重巡洋艦の砲撃、それも高度に強化された艤装を装備した高練度艦のもの。破壊規模は馬鹿にならない。

 瓦礫撤去、被害修繕。三徹だろうか。本当に勘弁してほしい。

 

 うんざりした様子のZ23は、ほんの少し首を傾けて砲弾を回避した。

 それは背後の通路を通り抜け、綺麗に窓を突き破って海へと落下する。

 

 「これはアドバイスですが・・・この建物を壊した場合、仮に貴女達がこの島を脱出できたとしても、他陣営へ攻撃したKAN-SENとして処分されますよ。」

 「その前に、貴様らの悪事を全て公表してやる。・・・尤も、その後の断罪を貴様が受けることは無いがな。」

 

 真っ白な軍服に佩かれていたいた軍刀を抜き放ち、Z23と対峙するのは重桜の重巡洋艦、高雄だ。

 正規に重桜に所属している高雄ならいざ知らず、レベル1のドロップ艦。駆逐艦のZ23でも十分に相手取れる。

 

 「黎明卿はこの先か?」

 「さぁ、どうでしょう。この先に指揮官が居られようと、ご不在だろうと、貴女はここで倒します。」

 

 無意味な対話。

 Z23も高雄も、そう判断した。

 高雄がここで時間を食えば敵の増援が来る可能性が高まり、この研究棟のどこかにいる黎明卿を殺すことも叶わなくなる。

 Z23がここで時間を食えば、被害が──とんでもなく不機嫌だったオイゲンが生み出す破壊と、その後始末による睡眠不足が著しいものになる。

 

 「名を、聞いておこう。」

 「Z23です。高雄さん。」

 

 Z23が艤装を顕出させる。しかし、殺気を纏ったのはZ23だけだった。

 

 「ま、待て。貴女がZ23なのか? 私はシグニットに───ッ」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 警報を作動させた張本人、隔離区画から6人のKAN-SENを脱走させた下手人であるシグニットは、死線上に立っていた。

 隔離区画から逃げだすときに攻撃され、連れ出した6人は散り散りになった。だが、それはむしろ僥倖と言える。

 

 「そこを通してください、ビスマルクさん。」

 「逆に聞くけれど、私が頷くと思うの? 指揮官に砲を向けた貴女を、この私が許すと?」

 

 ここにいても、シグニットには氷刃のような殺気を纏ったビスマルク相手に時間を稼ぐこともできないのだから。

 だがビスマルクに一矢報いることができれば───少しだけでも警戒させるか、このまま話続ければ、分散された仲間たちが逃げることくらいはできるだろう。

 

 ビスマルクは()()を知らないはず。まだ一縷の望みはある。

 

 せり上がりそうになる胃の内容物を懸命に押しとどめ、シグニットは艤装を展開した。

 

 

 

 

 

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