アズールレーン ─メイドインアビス─   作:志生野柱

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 「これは・・・あぁ、シグニット。貴女たちは本当に素晴らしい。素晴らしい・・・」

 

 各所から上がる爆音と煙を意に介した様子もなく、ボンドルドは血痕の残る部屋でひとり、称賛の声を上げ続けていた。

 微かに涙の気配を漂わせる声音で、素晴らしい、素晴らしいと繰り返す様子は敬虔な信徒にも見える。

 

 「死を迎えたKAN-SENの消滅がこれほど残念だったことはありません。きっと、貴女の逝く先は天国ですよ。」

 

 ボンドルドの眼下、手術台に横たわるシグニットは満身創痍だった。

 両腕、両足、腹部と内臓のほぼ全てが失われており、既に活動を停止している脳が声を聞くことは無い。

 鈍い刃によって千切られたような傷は、その特徴的な形状からボンドルドにこの部屋で起きたことを簡単に推測させた。

 

 「あちらのシグニットも、きっと一緒です。」

 

 既に消滅が始まっているシグニットの死体、無事だった頭部を撫でながら、ボンドルドは感嘆の息を漏らす。

 

 「まさか調理前の自分自身を食べるとは。そしてそれ以上に──生きたまま食べられるのを許すとは。羨ましいほど素敵な絆ですね。」

 

 シグニットの身体に残る、無数の()()

 争った形跡はない。眠っているだけだったシグニットは勿論起きただろうが、許し───いや、もしかすると、起こしてから、許しを得てから食べたのかもしれない。

 なんという覚悟。なんという献身。

 

 「あぁ、本当に素晴らしい。───そう思うでしょう? 赤城、加賀。」

 

 その感動も、シグニットだった蒼く輝く粒子も、こびりついた血痕も。手術室諸共に、500lb通常爆弾によって吹き飛ばされた。

 

 部屋の外から憎悪を滾らせて睨みつける二人のKAN-SENは、重桜の正規空母、赤城と加賀だ。当然ながら正規に重桜に所属している艦ではなく、ボンドルドが拾ってきたドロップ艦だ。

 

 「───おや、おやおやおやおやおやおや。」

 

 爆炎の中、燃え尽きた黒衣は取り払われ、セイレーン技術由来の外殻『暁に至る天蓋』を露出させたボンドルドが歩み出る。

 その鎧も所々に損傷が見られ、左腕の『枢機に還す光(スパラグモス)』に至っては完全に破損していた。

 

 それも意に介さず、ちょうど赤城と加賀に挟まれる位置で、ボンドルドが嬉しそうに、或いは感動したように語る。

 

 「()()()()ですか! 素晴らしい・・・! あまり協力的ではなかったので隔離棟に置いていましたが、まさかこんなことになっていようとは!」

 

 赤城の腕も、加賀の腕も、血の滲む包帯が痛々しいほどに傷を主張している。

 その下にあるのが()()()だと、ボンドルドは理解していた。

 

 いくら爆撃機搭載の500lb通常爆弾をモロに喰らったとはいえ、オブザーバーとピュリファイアーというセイレーンの上位個体から作り出した外殻だ。未強化の艤装で傷付けるのは、KAN-SENの練度が高くなければ不可能だ。

 そして損傷は十分に与えられている。ならば────

 

 「強化因子含有量の低い四肢、それも軟禁状態というストレス下でこれほどまでの強化を! 一体何度、互いを口にしたのです?」

 

 答えは無く、それぞれ4機ずつ発艦した艦載戦闘機の機銃掃射がボンドルドに突き刺さる。

 サイズは小さいが、内包する破壊力は航空機用20mm機関砲と同等。一発で人間を吹きとばす威力の弾丸が毎分450発のレートで殺到する。

 人間も、部屋も、内装も纏めて粉々にする弾丸の嵐をその身に受けてなお、ボンドルドは下がりもしない。

 

 「答えて頂けませんか。貴女がたのような美しく強固な絆は、作ろうとして作れるものではありませんから。再現性はともかく、実数値は知っておきたいのですが。」

 「では貴方をご自慢の『祈手』とご一緒に監禁して差し上げましょう。三月のうちに何度、仲間の肉を貪るほどの飢餓に陥るか、その身で体験されては如何かしら?」

 「それはいい。貴様のよく回る舌も、薄汚い血に絡んで些かなりとも錆びるだろう。」

 

 赤城と加賀が憎悪と同時に攻撃もぶつけ、艦載爆撃機が再度の爆弾投下を行うが、それはボンドルドが放った右腕の『枢機に還す光』によって空中で切断される。

 『枢機に還す光』は熱線ではなく、物質を消滅させる光だ。爆弾を爆発させることなく、艦載機もろとも斬り飛ばすこともできる。

 しかし────その制御はボンドルド自身にもできない。装置を取り付けた腕の向きや振りによって破壊に指向性を持たせることはできても、その破壊範囲は『枢機に還す光』自体の減衰に依る。

 

 結果───研究棟は爆弾によってではなく、ボンドルド自身の手で、一部崩壊した。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 遠く、夜闇を切り裂く光と、轟音と共に崩壊する研究棟を見て、二人は正反対の表情を浮かべた。

 

 シグニットが満身創痍、死に体でしかし、穏やかに笑う。

 ビスマルクが埃の一片すらその身体に付けず、怒りと不安で凍り付く。

 

 これまでにシグニットが繰り出した攻撃は数知れず。その全てがビスマルクの装甲に阻まれ、無為と消えた。

 対してビスマルクがした攻撃らしい攻撃は、副砲の一撃のみ。それでもシグニットの耐久力の半分は吹き飛んでいる。

 

 生かして捕らえ、ボンドルドの役に立てようという考えが生んだ無駄な時間は、結果としてシグニットに有利に働いた。

 

 「一撃で殺すつもりは無かったけれど・・・大破くらいはするかと思っていたわ。貴女、練度いくつだったかしら?」

 

 ビスマルクの問いにシグニットは答えず、ただ折れそうになる足に懸命に力を籠める。

 いや、もはや聴覚が殆ど機能していないのだろう。

 

 「みんな、頑張ってるんだから・・・」

 

 艤装中破、KAN-SEN本体中破。戦闘続行は非推奨と判断される。

 そんな常識がシグニットの脳裏に浮かび、すぐに消える。うわ言のような言葉は、脳内を埋め尽くして溢れて漏れたものか。

 眼前の(ビスマルク)は練度100という異常個体、そして見据えるべき(ボンドルド)も常識外の存在。

 

 ならば───常識になど、囚われていられない。

 

 「うちだって、頑張る!」

 

 

 

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