アズールレーン ─メイドインアビス─   作:志生野柱

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 「黎明卿、我々は貴方を見誤っていたようだ。」

 

 裁判所、上座から見下ろすエンタープライズの目は冷ややかだった。ロイヤル代表のウォースパイト、重桜代表の赤城も揃い、開廷直後にそう言われたボンドルドは些か面食らう。

 

 「おや、何か至らないところがありましたか? 出撃以外での練度上昇を齎す食材と、未発達能力を解放する機材。どちらも傑作だと自負しているのですが。」

 「結果だけ見れば、あぁ、素晴らしいとも。お陰で北連や東煌と言った弱小勢力にも戦力化の目途が立った。──だが黎明卿、この技術は余りに度し難い。」

 

 血を吐くように言ったエンタープライズに、ボンドルドは首を傾げる。

 

 「そうでしょうか?」

 「当たり前だろう! KAN-SENの血肉が能力を向上させるだと? そんな情報を公開できる訳が無い!」

 

 その言葉通り、各陣営の首脳部数人を除いて、『食材』に血が混じり『強化』に他のKAN-SENを使うとは知らされていない。自力で練度を鍛えられるような十分な演習海域を持つロイヤルやユニオンなどは、その技術導入すら拒んでいる。

 例外は、未だアビスに正式加盟していない東煌や北連といった小規模な発展途上勢力。特に強力なセイレーンが多数出現する北極海に近い北連では、多少の無理無法も厭わない姿勢があった。

 あとは、人体実験にあまり抵抗のない重桜と、開発者であるボンドルド率いる鉄血陣営くらいだ。

 

 「それでは50点ですね、エンタープライズ。血液に含まれるのは練度強化因子、肉に含まれるのは能力活性因子です。」

 「ッ・・・それも、お得意の“解剖”で得た情報か?」

 「沢山のKAN-SENたちが協力してくれました。私一人の力ではありませんよ。」

 

 韜晦のような答えに、エンタープライズは拳を握りしめる。

 激発を予感し、ウォースパイトが引き継ぐように口を開いた。

 

 「黎明卿、確かにドロップ艦の所有権は保護した陣営に帰属する。しかし、それはあくまで()()したKAN-SENの、という決まりだ。貴官のように無断で、しかも実験台にするのは規定外の行為だとは思わないか?」

 「えぇ、そうですね。ですから保護したKAN-SENの届け出はきちんと提出し、望んだ帰属先に護衛付きでお送りしていたはずですが。」

 「それは貴官が重桜に居た頃の話だろう。鉄血陣営の担当になってから、一度も保護報告は上がっていない。」

 「勿論、保護していないKAN-SENの保護報告など上げる訳には行きませんからね。」

 

 上座に並ぶKAN-SENたち、赤城と重桜に属する数人以外の顔に困惑が浮かぶ。

 どういうことだ? というエンタープライズの問いに、ボンドルドは淡々と答える。

 

 「あれらは実験用の生体として()()したまでですから。」

 

 

 ◇

 

 

 「お疲れ、指揮官。」

 「シュペーもお疲れさまでした。平和に終わったのは、シュペーが居てくれたからですよ。」

 

 裁判所の外で、ぐりぐりと頭を撫でられて目を細めながら、シュペーは思う。

 

  (最後、艤装まで向けられてたけど・・・撃たれなきゃいいのかな、指揮官。私だったら───)

 

 練度90オーバーのアドミラル・グラーフ・シュペーならば、恐らく怒りで集中を欠いたエンタープライズならば単身で撃沈できる。勿論、相手は練度80の正規空母、それも誉れ高きLuckyEだ。損害は被るだろうが。

 だがボンドルドはそうはいかない。人間は練度70の重巡洋艦程度でも十分な脅威になる──そもそも練度1の駆逐艦でさえ人間は太刀打ちできないはずだが──のだから、シュペーが目指すべきは殲滅でも勝利でもなく、ボンドルドを無傷で母港に帰すこと。

 裁判が終わったからと、気を抜いてはいけない。特殊仕様の車に入るまではかなり射線が通る。まさかアビスに、それも統括管理官に手を出す間抜けがいるとは思えないが、警戒するに越したことは無い。

 

 そう、気合を入れ直した直後。

 

 「ッ!?」

 

 予備動作なくシュペーが艤装を展開する。

 巨大な鉤爪がボンドルドの頭部へ迫り、速度と風圧で護衛の数人が吹き飛ばされる。

 

 金属音を一つ聞き、倒れていた護衛は一斉に、シュペーに銃口を向ける。

 

 「落ち着いてください、皆さん。彼女は私を守ってくれたのですよ。」

 

 シュペーの艤装に直撃し、ころころと転がるのは大口径のライフル弾。潰れてはいるが、12.7x99mm弾、対物ライフルの弾丸に間違いないだろう。

 明確で鈍重な殺意に苦笑したのはボンドルド一人。サブマシンガンで武装した()()の存在価値が問われる場面に、彼らは素早くボンドルドを取り囲み、車へ誘導する。

 最も過激な反応をしたのはシュペーだった。かなり遠くから、しかもサプレッサーを付けていたのだろう。ボンドルドには分からない射撃位置を正確に割り出し、砲撃する。

 

 「シュペー、行きましょう。」

 「・・・ごめんなさい、指揮官。想定外だった。」

 

 まさか()()()()が攻撃してくるとは思っていなかったのだろう。ボンドルドだってそうだ。そもそもKAN-SENの攻撃すら防ぐ『暁に至る天蓋』を着ている以上、警戒するだけ無駄というもの。

 シュペーも、あの焦り方を見るに撃たれてから気付き、防御している。当たったところで問題は無かったが、プライドが許さないのだろう。

 

 「謝る必要はありませんよ。君はしっかりと私を守ってくれました。」

 「黎明卿、港まで全速で行きます。口を閉じて!」

 

 舌を噛まないように、という配慮を忘れないドライバーに好感を抱きつつ、背後、砲撃で崩壊したビルを一瞥する。

 

 「おやおや、嫌われたものですね。──『明星へ登る(ギャングウェイ)』」

 

 車を目指して飛翔していた対戦車ミサイルの弾頭を光が撃ち抜き、着弾前に爆発させる。

 

 「こちら護送車、狙撃されている。対応を求む。狙撃されている、対応を求む!」

 

 輸送ルートが露呈しているのか、明らかに複数個所から飛来するRPG。

 同時に来る分には『明星へ登る(ギャングウェイ)』で迎撃可能だが、波状に来られると連発が効かない武装しかないボンドルドでは対応できない。

 シュペーが迎撃しようにも、車の中からでは限界がある。

 

 「くそっ!?」

 

 ドライバーが吠える。

 運悪く対向車線を走っていたトラックにRPGが命中し、盛大に爆炎を上げて吹き飛んだ。残骸は勢いのままにこちらへ突っ込んでくる。

 

 「『枢機に還す光(スパラグモス)』」

 

 窓から身を乗り出し、トラックの残骸を両断する。少しばかり道路が融解して溶岩になってしまったが、そのうち冷えると思うので勘弁してもらおう。

 作り出された道を過つことのないハンドル捌きで走り抜け、ドライバーが一息つく。その目は油断なく周囲に向けられており、シュペーから見ても感心する職業意識を感じさせた。

 

 「──今のは、人間主義者ですか。」

 

 アビスが頭を悩ませているのは、ボンドルドの奔放さだけではない。

 ボンドルドとは真逆の、自尊心や名誉欲と言った下心にまみれたクズもこの世界には存在する。

 アビス首脳部、世界政府とも言える組織の中枢部が殆ど──ボンドルド以外の全員──がKAN-SENであることを、兵器風情であることを厭う人間主義者。

 

 兵器に人類を支配させてはならない。・・・兵器が自分以上の権力を持つのは許容できない。

 兵器が無意味に権益を得てはならない。・・・兵器が自分以上の権益を得るのは許せない。

 

 そんな裏の見え透いた標語を掲げ、デモから暴動まで幅広く活動する『人類代表(ノイジーマイノリティ)』。

 

 初めのうちは、投石やバリケード構築といった可愛らしい抵抗だった。やがて、それは出撃用の港に重油を撒く、基地に侵入するといった過激な方向へ向かい。

 銃撃(いま)に至る。

 

 「そうでしょうね。・・・全く、黎明卿は人間だってのに、見境ない奴らですよ。」

 「おや、意外ですね。てっきり、貴方がたには嫌われているものかと。」

 「き、嫌う? とんでもない、黎明卿はKAN-SEN技術の父とまで呼ばれた人ですよ? 貴方のお陰で、俺たち人類はKAN-SENたちに守られて存続できてるんだ。」

 

 くすり、と、シュペーが漏らした笑いに気付かなかったのか、ドライバーは語り続ける。

 

 「・・・に、しても、妙ですね。」

 「えぇ。何故今頃になって決起したのでしょう。」

 

 狙撃程度ならまだしも、RPGまで出てきては暴動の域を出てしまう。

 

 「・・・多分ですが、甘すぎたんでしょう。ウチのボス・・・エンタープライズ統括管理艦は。」

 

 人間主義者の()()は今に始まったことでは無い。だがユニオンほど活発なのは珍しい。

 ロイヤルでは小規模なデモ行進以外は警官隊によって取り締まられ、重桜ではボンドルドがいた時代にほぼ全員を拘束して人体実験の素体にしている。

 

 鉄血陣営は・・・もはや言うまでもないが、ボンドルドは非常に感謝していると言っておこう。

 

 

 

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