アズールレーン ─メイドインアビス─   作:志生野柱

21 / 81
21

 元・重桜陣営所属。現・鉄血陣営所属。この肩書を持つ者は少ない。

 一人はボンドルド。アビス首脳部で唯一の人間であり、二陣営の統括管理官を経験した唯一の人材である。

 もう一人は、重桜の装甲空母、大鳳。ボンドルドが重桜陣営統括管理官の席を辞したとき、後を追うように鉄血陣営に帰属した。

 

 ボンドルドの右腕がビスマルクならば、大鳳は左腕。この数か月間の仕事の成果を聞いたときは、ボンドルドのみならずビスマルクまでもが称賛した。

 

 「素晴らしい。サディア、ヴィシア、そしてアイリスと個別に同盟を結び、さらには連合同盟締結会議の段取りまで。君に任せて正解でした、大鳳。」

 「オーダー以上の成果ね。よくやったわ。」

 

 アビスに所属していないながら、その存在と自治は認められた陣営は複数ある。北方連合や東煌などだ。

 今回、大鳳が赴いていたのは鉄血本土の近隣に位置する3陣営。

 鉄血西部に位置する、自由アイリス教国とヴィシア聖座。鉄血南部に位置するサディア帝国である。

 

 今回、大鳳が取り付けてきた条文は、端的に言ってえげつないものだった。

 

 各陣営が攻撃を受けた時、鉄血は形の指定は無いが援助しなくてはならない。

 各陣営に正規に所属するKAN-SENの全データ閲覧権を鉄血が保有する代わりに、その身柄を同意なく使用してはいけない。

 

 ──各陣営はGDPの数%を研究費として供出しなければならない。

 ──各陣営は宣戦を含むすべての外交権を鉄血に委託する、など。

 

 つまるところ──その3陣営は、屈したのだ。

 全て差し出すから、手を出さないでくれと。

 

 一体どんな交渉をしてきたのだろうかと、政治には一切興味のないボンドルドですら少しの興味が湧く。

 

 「ありがとうございます。次の連合同盟では、もう少し甘くして差し上げようかと。」

 

 大鳳が差し出した書類には、連合同盟で交わす条約の草案が書かれていた。

 ボンドルドの仮面越しに覗き込んだビスマルクは、もはや期待すらしていたのだが──それは肩透かしといっていいものだった。

 

 「これは・・・?」

 

 相互不可侵、双方向の関税軽減、など。一般的なものしか載っていない。いくら草案とはいえ、大鳳の性格的にもっと盛りそうなものだが。

 例えば───

 

 「内政にまで干渉すると、指揮官様に幾許かの負担がかかりますから。鉄血は軍事国家ですし、戦争代行屋にでも甘んじましょう。」

 

 あぁ、と。ビスマルクは納得と共に嘆息した。

 全く大鳳らしい、ボンドルドのことしか考えていない「正解」だと。

 

 元が重桜陣営だからなのか、大鳳には陣営への帰属意識や誇りというものがまるでない。

 『ボンドルド』と『自分』。あとはせいぜい『ボンドルドの隣』くらいの認識だ。そこが何処であろうと関係なく、常にボンドルドの利益だけを考えて動いている。勿論自分たちもそう在ろうとしているが──率直に言って、大鳳の()()()()は羨ましくなるほどだ。

 

 「お気遣いありがとうございます、大鳳。───おや?」

 

 こんこんこん、と、控えめなノックの音が差し込まれる。

 少しばかり不愉快そうな顔になった大鳳に苦笑し、ビスマルクが扉を開ける。

 

 「誰? いまは少し──あぁ。」

 

 来客の顔、懐中時計と順番に目を走らせ、ビスマルクが振り返る。

 ドアの影から小さく覗き込むのは、恐縮した様子のダイドーだった。

 

 「指揮官、ごめんなさい。私が時間を把握していなかったわ。」

 「いえ、お互い様ですよ。いい仕事でした、大鳳。詳しい話は、また後日に。」

 

 滑らかな黒髪を撫でで、ボンドルドは頬を膨らませた大鳳を退室させる。

 入れ替わるように入ってきたダイドーは少し視線に怯えていたが、ボンドルドの前に立つ頃には緊張の方が勝っていた。

 

 「よく来てくれました、ダイドー。時間を失念していました、申し訳ありません。」

 「い、いえ、ダイドーのために時間を用意してくださって、ありがとうございます。」

 

 挨拶もほどほどに、ボンドルドは指を二本立て選択肢を提示した。

 一つ目は、本来の所属先であるロイヤルへの帰属。もう一つは、この鉄血陣営への帰属。

 

 「質問してもよろしいでしょうか・・・?」

 「えぇ、何なりと。」

 

 どこか上機嫌な様子のボンドルドに釣られるように、ダイドーも話しやすくなる。

 安堵しリラックスすれば頭も回り出し、そういえばさっきの重桜のKAN-SENは誰なのだろうという疑問も湧くが、まずは自分の事を訊かねばならない。

 

 「黎明卿は・・・私はロイヤルに帰属したあと、どうなると思われますか?」

 「どう、というのが行動の話であれば、おそらく後方で練度を上げた後、予備役として配属されるでしょう。ロイヤルには既に練度70のダイドーが居た筈です。」

 

 それは完全に確定した訳でもないが、単なる推測でもない。「普通はこうなる」という常識の話だ。

 その答えが気に入らなかったのか、ダイドーの顔が曇る。

 

 「私は・・・不要ということでしょうか?」

 「──言い方は悪いですが、そうですね。ロイヤルは現状、量の戦力は足りています。」

 

 正確には戦力に見合った海域にしか手を出していない、だが。

 ユニオンやロイヤルはアビス内でも量の戦力が充実しており、比較的弱いセイレーンが出没する──つまり、重要度の低い海域を広範囲に亘って攻略・保守している。

 対して鉄血は質の戦力が充実しており、範囲は小さいながら強力なセイレーンが出現する、重要度の高い海域を攻略・保守している。

 例外的なのは重桜だ。彼女たちは元より充実していた量の戦力をボンドルドが強化し、質・量共に優れた戦力を保有している。それでありながら、ユニオンやロイヤルへの戦力貸与、鉄血との合同作戦などに徹し、あまり積極的には動こうとしない。

 

 「では、その・・・鉄血に帰属した場合は?」

 

 ふむ、と。ボンドルドが考え込むような動作を取る。

 固唾を呑んで見つめるダイドーの想像とは違い、ボンドルドの思考に過るのは実験の進捗具合。

 ダイドーを迎え入れた場合、最も効率よく情報を収集できるのは────

 

 「申し訳ありませんが、君には練度が上がり次第、実戦に参加して貰うことになるでしょう。ロイヤルと違い、我々には量の戦力がありません。」

 「私は・・・ダイドーは、必要なのでしょうか?」

 

 その質問には、ボンドルドは即答できる。

 

 「勿論です。もし君が、私の手を取るのであれば。」

 

 差し出された手を、ダイドーはしっかりと握りしめた。

 

 

 

 




  嘘 は 言 っ て い な い 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。