アズールレーン ─メイドインアビス─   作:志生野柱

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 夜間行動訓練を終えれば、ダイドーには他のKAN-SENと同じように自由時間が与えられる。

 晩酌をするも良し、早めに寝るも良し。眠るには早いが酒は好かない、というKAN-SENたちは趣味に浸ることが多い。勿論、自主練という形で演習海域を使うのも良い。ただし、哨戒班に敵だと思われないように注意しながら。

 

 特に趣味もなく、酒を好むわけでもなく、とはいえこれ以上の出撃は困難なほど疲労困憊したダイドーは、ここ数日入り浸るようになったボンドルドの書斎にいた。

 過去の作戦記録やボンドルドが集めたらしい歴史書は泣くにも笑うにも物足りないが、勉強にはなる。「ここは禁書の棚です、ダイドー」と言われて指定された棚と、作戦記録の青ではなく実験記録の赤いバインダー以外からであれば、何を読んでもいいと言われた。

 

 「──わ、すごい。」

 

 数か月前の作戦記録を開くと、ダメージレポートやキルレシオがそれぞれ数値順に並んでいる。

 どれもKAN-SENたちに並ぶように、ボンドルドの名前が載っている。特に被弾率の少なさはトップクラスだ。次いでダメージレースが戦艦・空母に並ぶほど高い。

 

 「暁に至る天蓋・・・って、あの鎧のことかな・・・? それともビーム?」

 

 第〇次暁に至る天蓋改善案〇項参照、という表記が異常に多い。だが件の改善案のタイトルは赤いバインダーの背表紙に書かれているのを見ている。

 

 「すごいなぁ、ご主人様・・・」

 

 人間の身でありながら戦場に立ち、兵器であるはずのKAN-SENに並ぶ戦果を挙げている。

 KAN-SENがここまでセイレーンに喰らいつけているのも、ボンドルドの研究成果に依るところが大きい。

 まさに文武両道。人類の未来を切り拓く夜明けの光だ。

 

 「私も、もっと頑張らなくっちゃ。」

 

 気合を入れ直し、ダイドーは部屋に戻ることにした。

 知りたいことは知れたし、今日のところは寝て体力を回復するのだ。明日から頑張ろう、という決意を抱いて。

 

 

 ◇

 

 

 「お、ぶぇっ・・・」

 

 ダイドーが胃の内容物を海面にどろどろと吐瀉していれば、メイド服の上から着けた防弾ベストのような機材が甲高い警告音を鳴らす。

 左胸のスイッチでアラームを止めると、昼演習、格闘訓練のペアであるアドミラル・ヒッパーが近付いて来た。

 

 「身体の構造上、吐くのは仕方ないけど、膝を付くのはアホのすることよ。」

 

 練度の差がそれほどなかったり、艦種による装甲や馬力の差を埋められるとき、格闘戦による決着は各々の砲に依ることが多い。

 ゲロを吐こうが鼻血が出ようが致命傷にはならないし、たとえ身体──KAN-SEN本体を中破に追い込もうが、艤装が無傷なら戦力・脅威としては健在だからだ。

 ガン=カタではないが、空母以外の艦艇は超近接戦闘の中で、どちらが先に艤装を正確に相手に向けるか、自分はどれだけ相手に艤装を向けられないかが重要になる。

 

 訓練内では砲口からレーザーを照射する特殊な艤装を、本体はレーザー照射時間に反応して警告音を鳴らすボディアーマーを付けている。

 もう少し成長すれば模擬弾で、完成すれば実弾でやる手筈になっているが、当分先のように思えた。 

 

 「確かに身体を折り曲げれば楽に吐けるし、服も汚れない。けど、次の瞬間には身体にも服にも大穴が開くわよ。」

 「は、い・・・」

 

 意志までは折れていないのか、ダイドーは立ち上がる。ヒッパーも感心したように片眉を上げ、距離を取る。

 

 「もう一回、お願いします!」

 

 

 

 ───4日後。ダイドーは努力の甲斐あって、練度70に到達した。

 

 「・・・そう。つまり、ツェッペリン。指揮官の命令に従えない、と?」

 「口を慎めよ、ビスマルク。我にも矜持というモノがある。」

 

 一触即発。執務室に流れるその空気を一言で表現するのに、これほど相応しい言葉もない。

 鉄血陣営総旗艦・ビスマルク。第二艦隊旗艦・グラーフ・ツェッペリン。

 各々が艤装を展開し、一挙動で砲撃し発艦できるだけの準備を終えている。

 

 「落ち着いてください、ビスマルク。ツェッペリンも、何か理由があるのでしょう?」

 

 ツェッペリンが投げ捨て、床に散らばる書類は出撃命令書と編成指令書だ。

 第二艦隊には、北連からの救援要請に対応した北極海への出撃が予定されており、普段の第二艦隊にダイドーを加える旨が記されていた。

 

 「第二艦隊は卿より我に任された艦隊だ。我には総員の身を案じ守る責任がある。・・・そこに、ビスマルク。貴様は枷を付けようという。認められる訳がないだろう。」

 

 実戦可用レベルは、あくまで目安の話でしかない。この二人ならば、練度70のKAN-SENを一撃で沈めることも可能。

 急に一人増えようが、誤射や標的誤認といった甘いミスはしない。しかし、チームの強さというのは足引きだ。最強がどれだけ規格外であろうと、最弱の程度が低ければチームとしては弱い。

 重要なのは平均的な強さであり、実力主義的な鉄血陣営のKAN-SENとしては、艦隊の足を引くような弱者は居ない方がマシだ。

 

 「第一、ダイドーはまだ訓練課程を終えていないはずだ。違うか?」

 「・・・いいえ、その通りよ。」

 

 鉄血陣営が定めた基礎訓練課程には、練度70になるまでの演習の他に、練度70以降には実戦訓練代わりの長距離航海任務がプログラムされている。鏡面海域である基地近海より遠海の方が安全という、面白いほどに養成に向いていない立地が原因だ。

 

 「分からんな。無茶を通したいのなら、まず最低限の道理を通すべきだと思うが?」

 「───『実験』のためよ。」

 

 ビスマルクの韜晦じみた言葉に、淡々と反論するだけだったツェッペリンの顔に感情が宿る。

 怒りと嫉妬がないまぜになったような顔で、彼女は一歩詰め寄る。

 

 「実験・・・実験か。ビスマルク、貴様()()が魔法の言葉だとでも思っているのか? いいか、卿の実験は我々にとって最も合理的かつ効果的なものを選択し、我々をより強力に、強靭にするために行われる。その過程で出る犠牲は、あぁ、許容しよう。所詮は他陣営の艦だからな。だが───我々に損害が出るのであれば、話は別だ。」

 

 詰められた一歩、ビスマルクは下がる。

 

 「卿の為に死ぬのであれば、我とて隷下の艦隊に命じよう。この場で骸となり卿の征く道となれ、と。だがビスマルク、貴様は無為にリスクを増やそうとしている。訓練課程のほんの数か月を惜しんでいる。」

 「それは───」

 「その通りです、ツェッペリン。貴女の言葉は正しい。()()()()()()()。」

 

 白熱していた意識を急速冷却するボンドルドの声は、どこか楽しそうだった。

 冷静になれば、ツェッペリンの脳は言葉を咀嚼し、記憶を掘り起こし始める。

 ダイドーに課された訓練メニューは、明らかに艦隊として行動する能力の育成が足りていない。それに『練度70に』という指示も微妙だ。練度をいくら上げようが、KAN-SEN本体と艤装がある程度強化されるだけで、戦闘能力──戦闘センスというものは磨かれない。以前の赤城や加賀がいい例だ。実験台として使わない、本来の意味で鉄血艦として迎え入れた艦──シュペーやドイッチュラントがそうだ──は、みな『強く』と言われた。

 

 「───はっ」

 

 笑いが漏れる。

 簡単なことでは無いか。足りない訓練が何を齎すか。訓練を過少にした、その意図は。

 

 「卿は、奴を殺すつもりか。」

 「───素晴らしい、正解です。」

 

 

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