アズールレーン ─メイドインアビス─   作:志生野柱

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 この文読みやすいな、なんだか軽い文だな、と思う時、ありますよね。あれはセリフと地の文の割合が原因らしいんですよ。
 今回はセリフの割合が多い(はず)なので、きっと読みやすい文です。
 なお執筆者はド文系です。


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 「19時ジャスト、覚醒。予定通り。バイタル異常なし。・・・おめでとうございます、ダイドー。これで君も不死の艦隊(エインフェリア)の仲間入りです。」

 

 手術台で眠ったはずのダイドーが目覚めたのは、どうやら別の部屋だった。

 朦朧とする意識が徐々に回復し、ぼやけていた視界が鮮明になってくる。

 工具の並んでいない簡素な壁、目に刺さるような白色灯、こちらを覗き込むような仮面───

 

 「ごっ、ご主人様!」

 

 慌てて跳ね起きると、ボンドルドは「流石はKAN-SEN、羨ましいほど元気ですね」と呆れたように笑った。

 ダイドーは数時間前、眠りに落ちる前にボンドルドに言われたことを思い出す。

 

 

 「これから君にセイレーンと同じ人格バックアップ技術を導入します。施術時間は想定で5時間。施術後2時間は安静です。人格バックアップの起動方法や制限は術後にレクチャーされる予定です。───では、おやすみなさい。」

 

 

 無影灯を後光のように纏っていたボンドルドは、どこか人ならざる者の風情があった。ダイドーは正直怖かったのだが──こうして穏やかにダイドーとカルテを検分している様子を見ると、ただ手術前にナーバスになっていただけなのだと恥ずかしくなる。

 

 「ありがとうございました、ご主人様。ダイドーのために、先端技術を導入して頂いて・・・ダイドーは必要とされてるんですよね。ご期待には必ずお応えします!」

 「心強いです、ダイドー。ですが、二時間は安静ですよ。」

 

 興奮して寝付かない子供にするように、ダイドーの頭を柔らかに撫でる。気恥ずかしさを感じて、ダイドーはまた横になった。

 

 「本当はもう少し様子を見たいところですが、明日には出撃して貰います。勿論、異常が無ければですが。」

 「だ、大丈夫です! 今すぐにでも出撃できます!」

 「それは喜ばしい。では、21時にまた来ます。何か必要なものがあれば、枕元にナースコールがありますので、それを押してください。・・・あぁ、緊急時以外は連打しないように。」

 

 まるで医者のようなことを言い残し、ボンドルドは去っていった。

 

 

 

 気絶にも近い強制的な睡眠開けの割りに、ダイドーは眠れなかった。

 正確には、遠足前の小学生のような初出撃への期待と興奮で眠ろうともしなかったのだが、それを二時間後に後悔する羽目になった。

 

 「人格バックアップには二種類あるわ。一つは、脳に重大な損傷を負う前、できれば大破時などにあらかじめ使うべき、非戦闘時における撤退用。もう一つは、戦闘時、致命傷を負い撃沈される寸前に自動的に発動するもの。どちらも理屈の上では全く同じものだから、覚えるべき理論は一つだけよ。まず、人格バックアップは脳の構造を光子スキャナによってニューロン配列や損傷度、神経伝達物質の位置までも正確にスキャンするところから始まるわ。次に、そのデータは量子テレポーテーションによって『前線基地』に保管されているマザーメモリへ転送されるわ。スキャン・転送速度は理論上光速だから、危なくなったら使う、程度の認識でも問題は無いけれど、起動するための脳の伝達信号はいくらKAN-SENとはいえ秒間300mが良いとこだから注意して。ちなみに撃沈回避用のものが作動した場合は、光子スキャナが疑似的なラプラスの悪魔になって、つまり脳を構成するあらゆる要素を完全にスキャンして()()してから転送することになるわね。同時に体と艤装を構成しているキューブが自壊し、こちらも同様に転送される・・・といっていいのかしら。厳密には遍在するキューブを新たに取得しているらしいのだけれど、正直、この辺りは指揮官の方が詳しいから。・・・えっと?」

 

 脱線から戻ろうと、どこまで話したかとホワイトボードを見るのはレクチャー役のビスマルクだ。

 ダイドーは話の一片だけ──ボンドルド スゴイ程度──を理解し、あとはもう何言ってるんだろうこの人、というレベルだ。理解できない言語が単なる「音」として解されるように、ビスマルクの言葉を理解するための言葉の咀嚼すら行われていない。

 

 「あぁ、そうそう。哲学的な意味でのテセウスの船やスワンプマン的問題についての考察は書斎の『人格バックアップが齎しうる精神的問題について』の2冊目を読むといいわ。これは私の持論だけど、そもそも私たちKAN-SENが哲学的ゾンビでない確証が、私たちの主観しかないという時点で無意味に近い考察なのよ。・・・それを気にしてくれる指揮官の寛大さに触れるという意味で、目を通しておきなさい。」

 

 何か質問は? とでも言いたげに見つめてくるビスマルク。

 あるといえばある。それも大量に。だが───相手の知識レベルと自分のそれが違い過ぎて話にならない。まずは書斎へ行き、教科書代わりになる何かしらを探し、読み、その上でもう一度だ。それで無理なら、ビスマルクの講義に問題がある。その時は別の理解している人間──ボンドルドにでも聞けばいい。

 結局のところ自分の無理解が原因なのだ。他人のレベルと自分のレベル。上げやすいのは当然自分だ。

 

 「えっと・・・もう動いても平気なんですよね?」

 「えぇ、異常が無ければね。」

 「じゃあ、早速その参考資料を読んできます。失礼します!」

 

 逃げるように去っていったダイドーの背中を一瞥し、ビスマルクが自分の書いたホワイトボードの図に向き直る。

 

 「・・・分かりにくかったかしら?」

 

 

 ◇

 

 

 「えーっと、事象・・・自己・・・人格・・・あった!」

 

 立ち入りを許された書斎で、ダイドーは30分かけて漸く目当てのバインダーを見つけ出した。

 これまでのKAN-SENたちが書いた作戦記録ではなく、ボンドルド直筆らしい考察書記。その言葉の響きだけでなんだか面白い物のような気がしてくる。まぁきっと全くの勘違いだろうが、と冷静な自分に突っ込まれつつ、ダイドーはバインダーを開き───

 

 「ダイドー? 貴様、何をしている?」

 

 ───その険のある声に飛び上がった。

 

 「え、あ、ツェッペリン、さん?」

 「勉強熱心なのは感心だが、明日から出撃だぞ。貴様もエインフェリアとなった以上、出撃を前にすべきは焦ることでは無く状態を十全にすることだ。」

 

 勉強は帰ってからにして今日は寝ろ、ということだろう。

 旗艦の命令とあっては従うしかないな、と、ダイドーはそんな思考に至ったことが少し嬉しかった。

 

 ようやく出撃できる──ようやく、ご主人様の役に立てる、と。

 

 「はい!」

 

 注意された、という認識のはずだが、何故か上機嫌で立ち去っていくダイドー。

 ツェッペリンは困惑しながらそれを見送った。

 

 

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