アズールレーン ─メイドインアビス─ 作:志生野柱
「・・・ふぅ。」
油断さえせず、しっかりとこれまでのことを参考に立ち回れば、前回の死地にまでは辿り着ける。
だがそれはつまるところ、今のダイドーが死ぬ可能性が高い場所で、ダイドーが唯一持つ未来知という武器が失われるということだ。
対面で撃ち合うと、オミッターの光は絶対防御の壁となる。もし万が一砲弾が光をすり抜けても、相討ちならリセット。無意味だ。
「ダイドーの撃った砲弾ごと、オミッターさんはビームで焼き払う気ですよね。悔しいですが、私はこの距離のそれを回避できません。」
「はぁ? ・・・読めないなぁ、あんた。テスっちの方がまだ目的がはっきりしてる分、楽だった。」
ダイドーと対峙するオミッターは、苦笑いを浮かべていた。
次の行動が読まれている。その感覚はずっと、不可避のはずの初撃を躱された時から感じていた。
こうして対面して見れば、たかだか練度70の雑魚、という感じしかしない。だが予想・・・いや、予測は正解だ。
オミッターは相手がどう動こうが、主砲を一発撃つだけで眼前のKAN-SENを灰燼と化すことができる。そして、それは攻勢防御でもある。砲弾も、敵も。纏めて滅ぼすことが出来る。
だから、起死回生の一手を思いつくまでの時間稼ぎとして話を続けている?
違う。今まで数多のKAN-SENを葬り去ってきたオミッターは、その顔を知っている。
顔を引き攣らせながら主砲にエネルギーを充填する。これ以上話していたいとは思わない相手だ、このダイドーは。
「隠し玉とか持ってる奴はさァ、自信に満ちた目をするんだ。何もないが諦めてはいないって奴は、もっと力のある目をする。・・・で、テメェのそれはどっちでもない。」
───テメェのそれは、死を受け入れた顔だよ。気持ち悪ィ。
◇
「そうですね、死を受け入れた顔です。」
「その予知っぽいのはもっと気持ち悪ィな!」
あの光を撃たれる前に動かなければどうしようもない、という結論に至ったダイドーは、会話をズラされたことによって生じる隙を突く。
選択した攻撃は主砲でも副砲でもなく、相手の砲口をこちらに向けさせないための白兵戦。
「──ッ、もう!」
パンチやキックが大した威力を持たない低練度の──オミッターから見ればの話だが──軽巡洋艦が選ぶ攻撃ではない。
だが、即死の威力を持ったオミッターの攻撃は全て躱され、大した痛痒のないダイドーの攻撃は掠り、ときに直撃する。たまらず距離を取るが、それさえお見通しと言わんばかりに詰められる。
牽制代わりの機銃掃射は、やはり既知のように躱される。
殆ど使ったことのない五連装酸素魚雷までぶっ放したというのに、それすらも。
過去の交戦記録から化け物じみた推測をし、それこそ未来予知じみた戦略を立てるような輩は確かにいる。重桜の天城なんかがそうだ。だがこのダイドーは違う。予め知っている動きだ、これは。
「──やった、獲った!」
「何をだよ。」
眼前でのダイドーの砲撃を
愕然とするダイドーの顔を見て、オミッターは秘かに安堵した。
とはいえ、心筋の動きまで見透かすような相手とは、もうこれ以上対面していたくない。
主砲にエネルギーを充填し、辺りの海水ごとダイドーを吹き飛ばすことにする。そう、決断
「今です、ティルピッツさん!」
「良くやった、ダイドー!」
「しまったッ──!?」
オミッターにしてみれば、ダイドーの攻撃は羽虫のようなものだ。
確かに気持ち悪いほどの予測、予知にすら思える正確さと対処能力だ。蜘蛛の巣のように付き纏われれば振り払いたくもなる。
だが威力は、それこそ蜂の一刺し程度。至近距離での主砲直撃が薄皮を一枚破るから、なんだというのか。
総評としては、大した脅威ではないが気持ち悪いので早めに処理したい、といったところ。
そう決意してなお倒せない辺りが本当に気持ち悪いが、とにかくその程度だ。
だが──ティルピッツは別だ。
鉄血陣営第二艦隊が擁する最高火力。練度100に至る戦艦の主砲ならば、オミッターの装甲も貫ける。
獲った。
今度こそ本当に───
「19時ジャスト、覚醒。予定通り。バイタル異常なし。・・・おめでとうございます、ダイドー。これで君も
「え・・・?」
死んだ、ということだろうか。
別にそれは構わないが、死因と状況がはっきりしないのは頂けない。一周が無駄に──いや、どうせもう一周同じルートを辿れば判明する。
「はぁ・・・久しぶりにミスしたなぁ・・・」
オミッターの艤装が誘爆でもしたのだろうか。在り得そうな話だ。今度はもう少し離れてから攻撃して貰おう。
「──なにか、体に違和感などはありませんか?」
「はい、ご主人様。不快感や倦怠感、その他自覚できる異常はありません。」
「それは良かった。ですが念のため、二時間は安静にしていてくださいね。何も無ければ、明日には出撃して貰うことになります。」
「はい。明日にでも出撃できるよう、休息を摂っておきます。」
───そういえば、十周ほど前にボンドルドの行動がズレたことがあったが、フラグは何だったのだろうか。
そんなことを考えながら、ダイドーはルーチンである行動の整理に没頭した。
◇
「───ぐうッ!?」
オミッターの胴体に連続で主砲を撃ち込み、同時に全力で後退して距離を取る。
ティルピッツの砲撃が過たず直撃するのを見届け──最後の一撃と放たれた光を回避する。
「は、ははは。これも避けるとか・・・」
艤装大破、本体大破。
内包するエネルギーに耐えられなくなったオミッターの身体が自壊を始めれば、もう攻撃はできない。
鉄血艦隊も至近距離に展開し、万が一すら無くした状態になれば、ダイドーの纏う空気もいくらか弛緩したものになる。
「・・・凄いじゃない、ダイドー。」
「あぁ。まるで・・・いや、正しく戦闘機械のようであった。」
練度70艦単騎──止めはティルピッツの砲撃だったが──でのオミッター討伐。ダイドー不在であれば、負けはしないまでも、多少なりとも損害を被ったうえでの勝利しか挙げられなかった。
それが、ほぼ無傷での完勝。ヒッパーとツェッペリンでさえ認めるほどの大金星だ。
「あ・・・ありがとう、ございます。」
70か、80か。下手をすれば100を数えるほど挑戦し、死んで、そして辿り着いた勝利だ。
感慨もひとしおだが、それ以上に。
「これで、ご主人様のお役に立てたでしょうか?」
その不安そうな顔と声に、鉄血艦隊の全員が硬直する。
互いに顔を見合わせ、ゆっくりとツェッペリンが口を開く。
「あぁ、これで完璧だ。」
空を裂く駆動音。
見上げれば、暗雲のように空を覆う艦載機の群れがあった。
爆撃機が腹を開き、攻撃機が高度を下げ、戦闘機が鼻面を向ける。続くのは、雨のような爆撃に波打たせるほどの雷撃、そしてダイドーを、海面を掃討する機銃掃射の嵐だ。
「・・・え?」
◇
「19時ジャスト、覚醒。予定通り。バイタル異常なし。・・・おめでとうございます、ダイドー。これで君も
「──勝てないよ。」
勝てない。勝てるわけがない。
オミッター単騎であれば、まだやりようはある。文字通り死を覚悟して未来を知れば、なんとかなるビジョンは見えた。
だが──練度100、連携の取れた一個艦隊を相手取るのは不可能だ。もし仮に、億が一くらいの可能性で勝ったとしても、彼女たちはボンドルドの艦隊だ。勝ったところで、それは反逆以外の何物でもなく。
「どうして・・・?」
ダイドーが死んだところで、ここに──人格バックアップによって、母港に戻ってくるだけのこと。わざわざ殺す必要はない。
帰還の手間を省くため? いや、それならあそこまでの殺意を見せる必要はない。空を覆うほどの艦載機の群れなど、オミッター戦の時にすら──?
「・・・手を抜いていたの?」
考えてみれば、たかだか未来に取る行動を知っているだけのダイドーが、練度70の軽巡洋艦が単騎でどうこうできる相手ではない。艦隊と別行動になるレベルで先行すれば、誰かしらが止めそうなものだ。
数回の攻防で実力を認められたのだと思っていたが、もし、どうでもよかったからだとしたら?
あそこで、ダイドーが死ぬことが想定されていたとしたら?
「ご主人様──」
「ダイドー?」
機先を制するように──いや、流石に不自然すぎたか、と、今更ながら取り乱していたことを自覚する。
とにかく情報を集めなければ、という頭の片隅での思考は、ボンドルドの言葉に傾注する大部分の意識ごと漂白される。
「──君はいま、何周目ですか?」