アズールレーン ─メイドインアビス─   作:志生野柱

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 練度100、あらゆるKAN-SENの頂点の、そのさらに先を提示して、ボンドルドは何の気負いもない。

 ダイドーの戦慄を無視して語り続ける姿には、自慢や増長は見られない。それが普通で、それが単なる通過点であると示すように。

 

 「ひゃく、にじゅう・・・?」

 

 ダイドーの練度の約1.7倍だ。練度100のツェッペリンにさえ勝てないダイドーにとって、その領域は闇の中に在る。

 だがメンタルユニットを100個単位で使うとなると、メンタルキューブも100個単位で必要だ。KAN-SEN一人を建造するのに必要なメンタルキューブは2つ。育成コストを度外視して考えるのなら、最低到達点である練度70艦50隻に対して練度120艦が一隻。

 

 戦力として、質が量を凌ぐことも、量が質を凌ぐこともない。重要なのはバランスだ。

 確かに、練度100のビスマルクは練度70の艦が相手であれば三人同時に相手取ることも可能だ。だが50隻の練度50艦を同時にとなると、防衛戦では圧倒的に不利だ。敗走はせずとも、半数には突破されるだろう。攻撃戦なら鴨撃ちも同然だが。

 

 「それでは、これはどうやって・・・?」

 「ですから、ツェッペリンからですよ。正確には、ツェッペリンの精神(メンタル)からですね。」

 「ツェッペリンさんの? 別のツェッペリンさんですか?」

 「えぇ、その通りですよ。正規に鉄血陣営に属するKAN-SENは、素体としてより戦力として運用した方が効率がいいですから。」

 

 逆に効率が良ければ、きっと自陣営のKAN-SENでも躊躇いなく実験台へ送るのだろう。

 そう体感させるほど純粋な言葉に、ダイドーは一縷の希望を見出してすらいた。

 

 「ところで、ダイドー。気になっているのではないですか? どうして、君が時間遡行能力を発現したのか・・・そして、何故私が今になって介入したのか。」

 「はい、それは・・・勿論です。」

 

 教えてもらえるのなら知りたいが、知るべきでないのならそれでいい。

 その程度の気持ちで聞いていい話なのかは分からないが、ボンドルドが知るべきだと判断したのなら理解に努めるまで。

 

 「時間遡行能力の発生源・・・元凶は私です。」

 「・・・はい。」

 「正確には、君の人格バックアッププログラムと、私の埋め込んだ観測機の干渉が原因でしょう。以前にも似たような現象がありました。」

 

 過去形で話したということは、その発現者は時間の檻を抜けた──死んだということだろうか。

 

 「君も知っている子ですよ。鉄血陣営第一艦隊、プリンツ・オイゲンです。」

 「オイゲンさんが?」

 「えぇ。」

 

 ダイドーの脳裏に、飄々としたヒッパーの妹の顔が浮かび上がる。

 そんなに()()ていた気はしないが、ボンドルドは『鉄血陣営第一艦隊』と言った。別人ということはないだろう。

 

 「人格バックアップ開発初期の事です。君と同じように手術直後に、この観測機を外してくれと言われました。驚きましたよ、観測機のことを言おうとした直前でしたから。」

 「オイゲンさんは・・・ご自分で理由を突き止めたのですか?」

 

 羨望や劣等感をちらつかせながら、ダイドーが問う。

 

 「いいえ、突き止めたのは私です。正確には、オイゲンが相談し「こう言えば私は信じます」と彼女にアドバイスした、別の私ですが。」

 「別の・・・。」

 

 KAN-SENには──特に、時間跳躍という稀有な体験をしたダイドーには、それが感覚的に理解できた。

 別の自分。別時間の自分。「ロイヤルのダイドー」と「鉄血のダイドー」。「オミッターに倒されたダイドー」と「オミッターを倒したダイドー」。どれも別の自分だ。ダイドーではあるが、自分ではない。顔と名前と性格が同じでありながら、異なる経験を持った別人。

 

 「ご主人様は、どうして・・・?」

 「経験上、装置の観測波に不備があることは知っていました。加えて、何周か前に少し()()がありまして。・・・あぁ、君は『祈手(アンブラハンズ)』のことをご存知ですか?」

 「ご主人様の研究助手、としか。」

 

 少しだけ考え込むような素振りを見せたボンドルドが、やがてゆっくりと口を開く。

 

 「あれらは全て私です、と言えば分かりますか?」

 「え? ・・・ご主人様だと思ってお仕えしろ、ということでしょうか?」

 「・・・君はかわいいですね。ですが、そうではありません。」 

 

 頭を撫でられて嬉しそうにしながら、ダイドーはその蕩け気味の頭を回転させる。

 人格バックアップ。別の自分。スワンプマン仮説。“全て自分”という言葉。

 

 「ご主人様も、人格バックアップを?」

 「素晴らしい。正解ですよ、ダイドー。きっと事故のタイミングで君の人格バックアップが作動し、量子通信がたまたま噛み合ったのでしょう。私は多少ながら“前回”を白昼夢として知ることが出来ました。」

 

 言われてみれば十周ほど前、ボンドルドの行動が少しズレたことがあった。ダイドーの再現ミスが原因だと思っていたが、再現をミスしたのはダイドーではなくボンドルドだったらしい。

 

 「とても興味深い体験でした。・・・ですが、やはり私が持ち越せる記憶はほんの一部分だけ、研究の進捗も全てリセットです。」

 「やはり、ですか?」

 「えぇ。オイゲンの一件の後、何度か再現実験をしたことがあります。再現性には乏しく、実用性もないので後回しにしていたんですよ。」

 

 その言葉に、ダイドーは首を傾げる。

 ボンドルドですら再現性で行き詰る技術なら、きっとそれは奇跡の産物とすら言えるのだろう。

 しかし、実用性がないというのはどうなのだろう。オイゲンの時はどうだったのか知らないが、ダイドーは練度70ながらオミッターを撃破して見せた。積み上げた己が骸の果てに、だ。一度では無理なことを、十回、二十回と試行を積み上げることで突破できるのなら、この上ない利益があるのではないだろうか。

 

 「実用性がないのですか?」

 「KAN-SENにしか発現しない能力であるということが一つ。KAN-SENの脳を摘出し移殖した人間で試しましたが、残念ながら発現しませんでした。それに、戻れる時間もランダムで、任意に決定できないのも痛いです。」

 「・・・そう、ですか。」

 

 何より実験記録や成果が残らないのが面倒ですね、と笑うボンドルド。よほど時間が無い時なら選択肢には入る、程度なのだろう。

 ダイドー──一般人から見れば特級でも、ボンドルドのような一握りから見れば悪手ということは多い。

 

 この程度の力では役に立てないのか、と歯噛みしたダイドーだが、視線を逸らした先で奇妙なものを見つける。

 それは弁当箱くらいのサイズの箱状物体で、何本かの管から液体が循環し、計測用の機材からコードが伸びていた。

 

 「あの、ご主人様。これはなんですか?」

 「あぁ、ちょうどそれの件でお呼びしたんですよ。」

 

 機材に映るのは心電図や脳波を示す波形グラフ。その数値に依れば、その箱は()()()いた。

 

 

 「KAN-SENの固有能力を外付けする装置、と言えば伝わるでしょうか。私はこれを“スキルカートリッジ”と呼んでいます。」

 

 

 

 




 要約すると「タイムリープは再現しにくい上に随意性が低すぎて扱い辛い。しかも改善しようがないから後回し。」って感じ。
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