アズールレーン ─メイドインアビス─   作:志生野柱

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 知己のように言葉を交わしたボンドルドに、ほぼ全ての視線が集中する。

 セイレーン上位下層個体、テスター。名前の通り、様々な海域での戦力テストや装備の運用試験を行っている監督役だ。

 ピュリファイアーやオミッターのように、好戦的な個体ではない。KAN-SENが遭遇したとしても、全力で撤退すれば見逃されることも多い。秘匿性の高いテストの場合は別だが。

 

 だが、それでもセイレーンの上位個体であることには変わりない。

 ボンドルド自身が交友のある鉄血陣営と、鉄血経由で技術供与を受けているヴィシア聖座以外は、むしろ憎むべき相手だろう。ボンドルドが即時撤退技術を開発するまで、何十というKAN-SENが傷付けられ沈められてきた。

 

 「何故、貴様がここにいる」

 

 憎々しげに吐き捨てたのはウォースパイトだ。フッドも主砲を向けているが、甲板から船室側に向いているため、仮に砲撃すればまず間違いなくプロイセン号は沈没する。最悪の場合、着弾箇所から真っ二つになるかもしれない。

 

 「何故、ねぇ? 制海権は我々が掌握しているのだけど、忘れたの?」

 

 何処にいようと、咎める道理も力もないだろう。

 言外にそう告げられ、ウォースパイトの視線が鋭いものになる。

 

 「貴様の仕業か、黎明卿ボンドルド」

 

 ウォースパイトがボンドルドを睨み付ける。不愉快そうに眉を寄せた大鳳が進み出るが、その言葉はテスター自身によって否定された。

 

 「いいえ? そもそも、我々は誰かの指図を受けたりしないわ。武装もしていない客船が単騎でふらふらしてたから、脅かしてやろうと思っていたのだけれど──もっと面白そうじゃない」

 

 テスターがどこからともなくメンタルキューブを取り出す。

 何をするつもりか知らないが、させるわけにはいかない。ほぼ全員の意見が一致したところで、この場で最も先制火力に長けた者──ジャン・バールが砲撃する。

 

 豪華客船プロイセン号、撃沈確定の瞬間である。

 

 「お喋りはここまでだ──《パイレーツソウル》、《ラストファイア》ッ!」

 

 ジャン・バールの主砲が轟音と共に380mmの砲弾を吐き出す寸前、衝撃波から庇うようにボンドルドの前に大鳳が移動する。

 練度100のKAN-SENがそれだけの行動を取れる余裕があるのなら、テスターが手にしたキューブを起動することもできるだろう。むしろ、大鳳の移動はそれを警戒してだったのかもしれない。

 

 果たして──テスターへの攻撃は障壁に阻まれ、客船プロイセン号の周囲には無数の量産型艦が展開された。

 

 「上位個体はいないけど、それなりの精鋭艦たちを用意したわ。ここで貴女達が沈めば、人類側の戦力の70パーセントが失われるわよ。頑張ることね」

 

 

 ◇

 

 

 自由アイリス教国全権代理、戦艦リシュリュー。及び副官、軽巡ジャンヌダルク。

 ヴィシア聖座統括管理官、戦艦ジャン・バール。及び副官、戦艦ダンケルク。

 サディア帝国統括管理官、戦艦リットリオ。及び副官、重巡ザラ。

 ロイヤル陣営傍聴人、空母イラストリアス、戦艦フッド。及び随行者、空母アークロイヤル、戦艦ウォースパイト。

 

 そして鉄血陣営統括管理官、ボンドルド。及び副官、空母大鳳。

 

 この面子を人類側の戦力の70パーセントと評したテスターは、言い捨てると姿を消してしまった。

 展開した量産型艦も持って帰れと言いたいところだが、意思無き戦闘機械である量産型艦は、一斉に砲塔を回転させプロイセン号を指向した。

 

 重巡洋艦クラス以上が大半を占めるそれらの砲撃を食らえば、リュウコツ技術の導入されていない船ならば戦艦だろうと容易く沈む。

 しかし、この場の大半が即時撤退技術を導入しており、離脱には左程困らない。唯一人間であるボンドルドを除いて。

 

 そしてテスターと、この場のKAN-SEN全員が理解している通り、12人の中で人類にとって最も重要なのはボンドルドだ。

 

 1人の人間を捨て11人のKAN-SENを離脱させるか。

 11人のKAN-SENを危険に晒し続け、1人の人間を守るか。

 

 選択肢は少ない。だが選ぶのならば──

 

 「逃げる必要も、守る必要もありませんわ。ですよね、指揮官様?」

 「なるほど、確かにその通りだ。オレ好みの打開策だぜ、黎明卿」

 

 参加者きっての武闘派であるジャンバールが、ボンドルドよりも先に同調する。

 ボンドルドとしても異論はない。敵平均練度は70程度であり、重巡洋艦クラスまでなら、ジャンバールの精密砲撃であれば一撃で沈められる。戦艦でも、命中箇所次第では戦闘不能に追い込めるだろう。

 リットリオが参戦の意思を見せて並ぶと、諦め顔でザラもついてきた。

 

 「そうですね。この子たちも実戦テストはクリアしましたが、所詮はテストです。ここで実戦証明済み(コンバットプルーフ)の判を押しておきましょう」

 

 ボンドルドは両手を広げ、紫雲に覆われた空を仰ぐ。

 背負った円筒状の機械が軋むような駆動音を上げ始めれば、大鳳以外の参加者たちが何事かと距離を取るのも無理はない。

 金属質な駆動音に混じり、パキ、プチ、という湿った音も聞こえる。何を背負っているのかという好奇心以上に、聞かない方がいいという直感があった。

 

 「──行きましょうか、日向、ロンドン。──《砲術指揮・主力》《砲術指揮・前衛》」

 「───は?」

 

 暖かい、鼓舞するような温もりに包まれながら、ウォースパイトの心臓に氷柱が突き刺さった。

 

 眼前のこの人間はいま、この場のKAN-SENたちを強化するスキルを使った。

 およそ人間という種が持つはずのない、リュウコツ技術の、KAN-SENにのみ与えられたスキルを行使した。

 KAN-SEN以外にスキルは使えない。しかし、KAN-SENとしての本能が、明確に眼前の男は人間だと主張している。ボンドルドを指すのに異常という言葉を使ったことは幾度もあるが、ここまでの驚愕を伴ったことは無い。これまで、その異常性を知るのは裁判所での聴取という形で、つまり情報を聞くだけで、直接目にした訳では無かったからだろうか。

 

 そして、それ以上に聞き捨てならない名前があった。

 

 ロイヤルの軽巡洋艦、ロンドン。確かにその名前と、彼女の持つスキル名がボンドルドの口から出た。

 

 主力艦であるウォースパイトが、彼女の前衛艦に作用するスキルの恩恵を受けたことは無い。だが驚愕に目を見開くザラの様子と、同じく名前の出た重桜の戦艦である日向が持つスキル、砲術指揮・主力の効果が感じられることから、その行使があったことは間違いないだろう。

 

 「黎明卿・・・? 今のは、一体──」

 

 カチャリという銃のスライドを引いたような音を立て、背負った機械の駆動音が止まる。

 複数の管が伸びるそれは、どこか生命維持装置にも見えた。

 

 「君達KAN-SENのスキルですよ。慣れ親しんだ感覚ではありませんか?」

 「い、いや、そうではなく・・・ッ!」

 

 言い募るウォースパイトの追及は、無数の砲声によって掻き消された。

 取り囲む量産艦の一斉砲撃。どれか一撃でも、単なる客船のプロイセン号にとっては致命的だ。それを皮切りに、KAN-SENたちは一斉に眼下の海面へと飛び降りた。

 

 爆炎を上げる豪華客船を一瞥し、微かに笑ったのはリットリオだ。

 

 「あれが沈むまで何分かかると思う?」

 「あのサイズの客船は、穴が開いたくらいなら1、2時間は耐えると言われています。とはいえ、直撃10以上ですからね。20分か、それ以下かと」

 「だろうな。・・・では、殲滅に何分かかると思う?」

 「強力な上位個体でも出てこない限り、彼女達の方が早いでしょう」

 

 鉄血屈指の豪華客船の最期を前に、さしたる未練も見せずに分析するボンドルド。

 既にジャンバールや大鳳は戦闘を始めており、その戦力を考えれば、プロイセン号より量産艦たちが先に沈む。

 

 「では、そろそろ私も行こう。ザラに怒られるのでな」

 

 愉快そうに笑いながら、リットリオも戦線に加わった。

 さて、と、ボンドルドは考える。

 

 自惚れも過小評価も抜きにして、ボンドルドを殺した場合、セイレーン側は1年かそこらで人類を殲滅できる。

 だが、テスターは初めてボンドルドと会ったとき、その行動指針は人類側の誤った推察であると言っていた。セイレーンは現状()()動くつもりはないということは、今回の襲撃はボンドルド狙いではない。

 それは、主に大鳳の手で着々と屠られていく量産艦の脆さを見ても明らかだ。ボンドルドを殺すには質も量も足りていない。

 

 「──おや?」

 

 

 

 

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