アズールレーン ─メイドインアビス─   作:志生野柱

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 短いなら二話連続投稿すればいいじゃない(破滅への一歩)
 8月11日19:30に39話が上がります。たぶん。


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 グリーンランド近海、バフィン湾。

 

 展開したセイレーンが誇る上位個体オミッターやオブザーバーの率いる強襲海上艦隊は、エクセキューターシリーズを中核に大量の量産型艦を擁する大規模なものだ。

 それが、海面の半分を船が埋めるほどの大多数。数の戦力だけを考えるなら、ユニオン陣営の総軍に匹敵する。戦力の質も考えるのなら、クラーケンの群れが出てきたとしてもドン引きして逃げ出すレベルだ。

 

 海を覆う重油のような艦隊と、雲のような艦載機。

 

 それが、一息に薙がれる。

 

 鏡面海域の紫雲も、構築された物質・電波遮断結界も、射線上の存在を悉く灰燼と化す崩壊の極光。ボンドルドの『枢機に還す光』や、オミッターの主砲と同等かそれ以上の威力を持った()()()()

 ち、と舌打ちを漏らしたテスターが、次の瞬間には半身を失くして沈んでいく。それを見て脅威度を上方修正したコンダクターは、既に脅威度が上限値であることに気付くより早く胴体を貫かれる。量産型艦は片端から大穴を開けられ、時に転覆し、時に真っ二つになって沈んでいく。盾にも足場にも的にもなるそれを無感動に一瞥し、包囲の中心で笑うのは漆黒の太陽だ。

 

 「燃料と弾薬は量産艦から奪えるとしても、流石にメンテナンスも休息も無しでここまで戦えるものなのかしら?」

 「さぁね。アレ、認識指向研究の成果なんでしょ? ならこの世の如何なる存在とも符合しなくて当然なんじゃない?」

 

 近くの島に据えられた観測基地では、テスターとオブザーバーがそんな会話を交わしていた。

 戦闘能力でオミッターやピュリファイアーに一歩劣る彼女たちだが、分析能力ではセイレーン屈指。しかしその頭脳を以てしても、2年間という長い時間を費やしてなお、撃沈どころかルーツの解明にも届かない有様だ。

 

 「そろそろこの海域も限界よ。北連とユニオンが感づき始めてるわ」

 「はぁ? ロイヤルは何やってるの?」

 「そのロイヤル陣営の連絡担当官からメールよ。曇天作戦の規模を縮小する、だって」

 

 テスターが読み上げた内容に、オブザーバーがつまらない冗談だと苦笑する。しかし、テスターの表情を見てすぐに引っ込めた。

 代わりに浮かぶのは驚愕と疑問だ。

 

 「嘘でしょう? 今の戦力でも拮抗どころか食い潰されてるのよ?」

 「本当よ。割いた分の戦力は“なきがらの海”・・・大西洋沖、前線基地(イドフロント)と周辺の鏡面海域への強襲作戦に使うらしいわ」

 「第五・・・って、黎明卿を殺すってこと?」

 

 怪訝そうなオブザーバーに、テスターは首を振って応える。

 

 「彼を殺すことはレイに禁じられているでしょう? ロイヤル陣営としても、人類最高の頭脳を無駄にはしたくないでしょう。目的は曇天作戦と──フリードリヒ・デア・グローセ討伐戦と同じよ」

 「あぁ、新しい架空艦? 確か、重巡洋艦の」

 「重巡洋艦ローン、貢献度C、戦力評価はA。練度1時点でこの評価なら十分ね」

 

 テスターとオブザーバーは、互いに顔を見合わせる。

 口に出すこともなく、表情だけで「やるの?」「まさか」と交わす。

 

 「まぁ、一応レイに報告して指示を仰ぎましょうか。グローセと同じように、人類の進化を停滞させてしまうようなら────」

 

 

 ◇

 

 

 「──日没作戦への参加は拒否、曇天作戦も他陣営に露呈次第全面中止、か」

 

 ロイヤル陣営全権代理ウォースパイトの表情は暗い。

 嘆息し、メールを削除する。執務室から出るように命じていたカーリューを、卓上のベルで呼び戻して紅茶を頼む。砂糖を多めに、と付け加えるのも忘れない。

 

 前回の曇天作戦、あれはこちらが提案し、セイレーンがそれに乗る形で実現したものだ。

 その目的はフリードリヒ・デア・グローセの撃沈による、重桜陣営の戦力低下。延いては、アビス内部での戦力均一化にある。

 現在、セイレーンに対抗できる軍事力を持ち、一定以上の人口と国力を維持している集団は9つ。鉄血、重桜、ロイヤル、ユニオン、アイリス、ヴィシア、サディア、北連、東煌。戦力も国力もこの順だ。

 つまり、人類がセイレーンを打倒するか、或いはセイレーンの活動頻度が低下したとき、来る人類同士の争いに対しロイヤルは劣勢を強いられるということだ。

 

 戦力が強大ながら不透明な鉄血と重桜は、ともすれば人類すべてを掌握できるかもしれない。当然ながら、そんなことは許されない。

 最低でも主権の確保を要求できる程度には戦える必要がある。 

 

 「人類同士の均衡を保つため、か」

 

 汚れ役もいいところだ。だが、誰かが請け負わなくてはならない。

 

 「お待たせいたしました、ウォースパイト様」

 「ありがとう」

 

 思考を止めず、血糖値を上げるためだけの紅茶を口に含む。

 カップを半分ほど空けてから、ウォースパイトはもう一度カーリューを呼んだ。

 

 「カーリュー・・・ユニオンと、アイリスの連絡担当官を呼んでくれる?」

 

 

 

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