アズールレーン ─メイドインアビス─ 作:志生野柱
ちょっと口の中が甘くなるけど、まぁそれも含めて好きだからいい。でも入手難度がちょっとね。ドンキまで行けばあるけど、近所のコンビニには無いし。
ファミマでもローソンでもいいから置いてくれ、アークロイヤル。
人類を守護する組織である『アビス』を形成するロイヤル陣営が、同じく人類の守護者であるはずの『アビス』鉄血陣営に宣戦布告した。
そのニュースの拡散速度は推測に難くない。
宣戦布告から1時間で、ほぼ全ての人類が把握していたことだろう。例外は余程のモグリか物心のついていない赤子くらいのものだ。
各陣営の動きは様々だった。
声高に戦争反対を叫ぶ、参戦表明すらしていないユニオンの民。民衆に心の底から同意しながら、ある程度の抑止は必要かと警官隊を動かすエンタープライズ。
自陣営の力を信じ、普段通りの生活を送るロイヤルの民。胃痛に悩まされながら、ふと和やかな国民を見て決意を固めるウォースパイト。
ボンドルドへの助力と打倒ロイヤルを叫ぶ、完全に無関係ながら血気盛んな重桜の民。苦笑しつつ、水面下で策を弄する赤城。
そして──戦時下ながら、不気味なほど普段通りの生活をしている鉄血の民。先のアビス支部爆破テロから一月もないというのに、国民は新聞一面の『ロイヤル陣営より宣戦』の見出しではなく、折り込まれたスーパーの安売り広告を見て思索に耽っている。
鉄血の民とて、宣戦布告に思うところが無いわけではない。ただ、反戦・反ロイヤル問わずデモや署名活動といった、直接的行動に出るほどの関心は無い。戦争に関心を持つ最大の理由、危機感が全くと言っていいほどに欠如しているからだ。つい2週間ほど前に『アビス』鉄血支部が爆破され、民間人にも多少の犠牲が出たというのに。
理由は──鉄血陣営の沿岸部では、民間人が海水浴できる、と言えば分かるだろうか。
ほぼ全ての陣営が沿岸部に防衛基地を置き、セイレーンに対する防衛用重火器──気休めともいう──が常時監視している。筋肉の眩しいサーファーや水着姿の美女が拝めるのは、セイレーンの跋扈するこの世界では鉄血と重桜くらいのものだろう。あとは、内陸部にある湖でコレジャナイ感に包まれた誤魔化しに興じるか。
少数ながら全陣営トップクラスの精鋭を擁する鉄血は、他陣営と比べ支配域を狭くすることで、民間人がセイレーンの脅威を感じないほどの安全性を確保した。つまり──鉄血の民は、この鉄火と流血の世界に在りながら、それを殆ど知らない。勿論、教育はされている。知識として『セイレーンが人類を脅かしている』ということは知っているが、まさか一人の研究者が歩みを止めるだけでその寿命が半世紀を下るとは思っていない。その代償に支払った先日のテロの犠牲でさえ、遺族以外は忘れ始めている。
「・・・まさか、これほどとは」
外見に気を遣っている、と評するには些か平凡な、埋没しそうな余所行きの恰好をした男が呟く。
その視線は携帯端末に落とされており、単なる独り言かと意識する者もいない。
雑踏行きかう大通りを逸れ、脇道に入り──横から伸びた手に拘束されて、消えた。
◇
実際のところ、ロイヤル陣営の勝率は如何ほどなのか。
『前線基地』の包囲と孤立化には成功したが、所詮は単なる研究施設。陣営運営の基幹はあくまで本土にある庁舎であり、本土襲撃はセイレーンですら難儀するほどだ。
だが、陣営の頭であるボンドルドの隔離、戦力の大部分の封じ込めには成功しているともいえる。さらには自由アイリス教国との同盟に加え、鉄血に友好的なサディア・ヴィシア両陣営は
質が量を凌ぐことは無い。この原則に従うのなら、確かにロイヤル陣営の勝ち目は薄い。
だが──あのフリードリヒ・デア・グローセでさえ、質ではなく数に依る飽和攻撃で三年間は拘束されたのだ。敵戦力を三年も封じ込めれば、地図を書き換えることだってできるだろう。
そして
「一年どころか、二日もあれば『前線基地』内の研究資料を奪取できる、か」
呟いたのはアークロイヤルだ。
出撃ドックには、彼女が率いる第二封鎖艦隊の面々が揃っている。
「あと5分で出発します。ご用意を」
カーリューの言葉に頷き、アークロイヤルは指令書の最終確認をする。
現在、前線基地近海“なきがらの海”を封鎖している第一封鎖艦隊と交代する。──その際に、わざと包囲網に穴を空け、籠城中の敵戦力を釣り出す。
出てくるのが連絡・補給要員ならば囲んでどうとでもできる。包囲突破用の強襲艦隊なら、交戦を避けて脱出させてやり、その後で『前線基地』を奪取する。
籠城から二週間だ。それなりに疲弊しているだろう。
こちらの包囲要員が入れ替わり、疲労や物資の損耗がリセットされるタイミングで全面攻勢には出てこない。あったとしても、ため込んでいた物資を一点集中させた一個艦隊程度。連合艦隊の敵ではない。
「・・・本当に、そうだろうか」
口を突いて出た懐疑を、アークロイヤルは首を振って追い払う。
『指令室』からの命令だ。一介の艦隊旗艦程度が知らされていない情報もあるだろう。それに基づく判断だとしたら、不自然だと思っても従うのが正解だ。
練度70を超える『アークロイヤル』は幸いにしてあと一人しかいない。きちんと命令に従っている限り、そう易々と代替されることは無いだろう。
「艦隊各位、出撃準備だ!」
声を張り上げる。懸念と、僅かな恐れを払うように。
と、それが数時間前の話だ。
「・・・杞憂だった、か?」
何事もなく、封鎖艦隊は第一から第二へ移行していた。
鉄血陣営の動きが無かった場合、アークロイヤルたちの任務は単なる周辺監視になる。近付く船やKAN-SENに警戒し、敵性存在であった場合には攻撃する。簡単な仕事だ。
「少し、あからさま過ぎたのでは?」
「確かにな」
困り顔でも微笑を絶やさないイラストリアスに和まされ、彼女を副官にしたのは正解だったと場違いな感想を抱く。
欲を言うならユニコーンや駆逐艦の方が良かったのだが、守るべき子たちを危険な場には連れてこられない。
「はぁ・・・」
せめて幼分補給でも、とポケットに手を差し入れ──硬直する。
「あれ?」
ない。あるべきはずのものが、あるはずの場所に。
「ない!?」
電子機器を狂わせる鏡面海域の内部でも問題ないように、わざわざ紙媒体に印刷した宝物が、お宝写真の数々が。
「一枚も無い! ま、まさか、落とした──ッ!?」
「アークロイヤル!」
「!! お、おほん。何だい、イラストリアス」
慌てて取り繕うが、艦隊の者は誰も見ていなかったようだ。
いや──違う。
イラストリアスを含む全員が同じ方向を、揃ってアークロイヤルの前方を見ている。
「何が──あれは、人影、か?」
レーダーに反応は無い。セイレーンではなく、KAN-SENでもない。だが蜃気楼にしては、艦隊の誰ともシルエットが似つかない。確かに海上に実在する人型の何かを、しかしKAN-SENでもセイレーンでもない存在を見ているのだ。
そして、そんなことが可能な者は、一人しかいない。
「鉄血陣営統括管理官──“黎明卿”ボンドルドか!」