アズールレーン ─メイドインアビス─ 作:志生野柱
挿絵が下手すぎて萎えたわ。等の苦情はモチベに大きく関わるのでやめてください。しんでしまいます。主に作品の質と投稿頻度が。
というか挿絵が下手で萎える可能性のある方は見ないという選択を、是非に。
ウォースパイトの表情から疲れが消え、喜色に染まる。次に浮かんでくるのは安堵と、微かな怒りだ。
「いらっしゃい、アークロイヤル」
扉の前で所在無さげに立っているのは、なきがらの海に沈んだ11名に遺され、生還した唯一のKAN-SEN、アークロイヤルだった。
しかし、その表情からは一切の感情が抜け落ちており、凛とした雰囲気を纏っていたこれまでの彼女とは違った、無機質な鋭利さを伴っている。
これまでの彼女と違うのは雰囲気だけではない。
艶やかながら活発さを表すような黒髪は今や銀髪に染まり、一房の紅を垂らしている。
オイゲンやシュペーのような鉄血陣営艦に近しくなった変容は髪だけでなく、髪に隠れた右目にも表れていた。変わりのない左目の碧眼とは対照的に金色に染まった瞳は、グローセのそれを彷彿とさせる。
艤装はロイヤル純正の優雅さを湛えたものではなく、半生体の獰猛さと凶暴さを孕んだものになっていた。
言うなれば、アークロイヤル鉄血仕様。
第二封鎖艦隊唯一の生還者──という形容が怪しくなるほど変貌した彼女は、ウォースパイトを気遣うように微笑した。
「あぁ──少し、話せるか?」
「えぇ、勿論。テラスへ行きましょうか、食堂でも・・・あ、ごめんなさい、陛下に提出する資料がまだだったわ」
「午後の会議か、大変だな」
げんなりした表情を見せたウォースパイトに、アークロイヤルは苦笑する。こういう会話中に見せる所作は変わらないのだが、とそこまで考えた時、昼食の載ったカートを持ったグロスターが帰ってきた。
「お待たせ致しました。・・・アークロイヤル様?」
「・・・あぁ、すまない。会議が終わったら、時間を貰えるか?」
「ごめんなさい、そうするわ」
アークロイヤルが退出し、きっちりと扉が閉じたのを見届けて、ウォースパイトはまた一編の報告書を取り上げる。
『指令室』KAN-SEN管理部、調査ドックからのそれは、タイトルを『鉄血型アークロイヤルの解析資料』と評されていた。
「51パーセント、か」
身体構造検査、精神構造検査、艤装解析。同一型のKAN-SENでも、装備の損耗や練度上昇に伴う肉体強度や反射速度の向上によって、その身体や艤装には細かな差異が生まれる。それを利用した特定個体を識別する、特に代表的で確実性の高い方法だ。
それによれば、鉄血型アークロイヤルは51%の割合が本人で、残る49%が異物。記憶を利用した本人確認では高スコアを出しているが、アークロイヤルは拿捕されている。信頼性には乏しい。
51%。面倒な数値だ。変動こそあれ確実に本人であると表せる6割には届かず、完全に別人であると評する4割は上回る。
それに、個人的感情を加味せずとも、敵方のスパイとして切り捨てることが出来ないのもある。
洗脳やそれに類する悪影響を判別する精神汚染検査スコアはゼロ。つまり、洗脳の影も形もない。
逆に練度や戦闘技能の発達を算出する戦闘技能測定スコアは160パーセント。つまり、出撃以前のアークロイヤルの1.6倍は強いということだ。
艤装や本体に発信機や自爆機能などの害意も見られず、ロイヤル陣営としては敵方から送られてきた塩を使うかどうか、その心理的な障壁だけが残されている。
「不気味なのは、鉄血の・・・黎明卿の真意が分からないことね」
「挑発では? アークロイヤル様の話では、封鎖艦隊はほぼ鎧袖一触に蹂躙されたとか」
現に「お粗末すぎて話にならんな、技術を盗ませてやるから出直してこい」というメッセージを示唆するように、アークロイヤルの身体や艤装に施された改造には最新技術も多く、逆に秘匿はほぼゼロだ。細部に散見される秘匿技術も、こうして何の対策もなく送り帰した時点で、破られるのは時間の問題だと分かっているだろう。その突破すら、ロイヤル陣営の技術を進歩させる。
前線基地に残された資料も含めて、ボンドルドはロイヤル陣営を強化しようとしているように思える。・・・勿論、ただの挑発だろうが。
「──どこまでも、馬鹿にしてくれるな」
せめて、その慢心と送られた塩は有効活用させて貰う。
ウォースパイトは引っ掛かりを覚えながら、差し迫った問題である資料の作成に着手した。
◇
レッドアクシズ創設に必要なあれこれや鉄血陣営への説明を終えたボンドルドは、鉄血本土から重桜本土までの迎えが到着したと聞いて港へ来ていた。
確かに迎えはいた。高練度のKAN-SENを護衛兼乗組員とした客船は、ボンドルドを高次元の戦闘が可能な戦闘要員ではなく、あくまで非戦闘員として扱うという意図があってのものか。外見からして豪奢なそれは、きっと中も凝った造りなのだろうと期待させてくれる。
のだが、些かながら問題があった。
「──重桜を離れた貴女が、よくもまあぬけぬけと顔を出せたわね?」
「──指揮官様のお側を離れたのは貴女の方ではありませんか、赤城先輩?」
重桜最強の一角である赤城と、世界最強の一角である大鳳。その気になれば中小規模の陣営なら蹂躙できるだろう二人が、今は互いに額を突き合わせて睨み付けあっていた。
呆れ顔のビスマルク、にっこりと微笑むグローセ、穏やかな微笑を崩さないローンに、興味なさげなオイゲン。そして、懐古に浸るボンドルド。戦力的に止められそうな者は数多く、しかし実行する者は誰もいなかった。
「まぁいいわ、貴女は戦力としては使える方だし、精々指揮官様の役に立って頂戴ね?」
「昔はともかく、今は貢献度でも戦力でも貴女以上だと思いますけれど。何なら、今ここで証明して差し上げましょうか?」
赤城が一枚の札を取り出し、大鳳が扇状の装甲甲板を顕現させる。
互いにワンアクションで発艦できる体勢だが、変わらず誰も動こうとしない。
「あー・・・指揮官? 止めないのか?」
「おや、江風ですか。お久しぶりですね」
客船からではなく背後から怪訝そうに近付いて来たのは、重桜の駆逐艦、江風だ。
来た方では荷物の積み込みを終えた作業員が休憩している。彼女はそれの監督をしていたのだろう。
「・・・指揮官、なのか?」
怪訝そうに、というには些か敵意と懐疑を強く宿した視線に、側に控える鉄血陣営のKAN-SENたちが反応する。
かつての同胞であると同時に最もボンドルドへの敵意に敏感で、それ故に動きの読めない大鳳が赤城と拮抗状態に在るのは、もしかすると幸運だったのだろうか。
防御寄りのオイゲンとビスマルクが庇う位置に移動し、ローンとグローセが少しだけ広がる。それが大鳳や他の友軍を巻き込まない最適な砲撃位置であることは、KAN-SENであれば考えるまでもないことだ。
「えぇ、その通りですよ。私はボンドルド。約束通り、貴女たちの指揮官として帰ってきました」
陣営一つを容易く蹂躙できる防陣を解かせ、ボンドルドは歩み寄る。
ボンドルドの言葉に微かな動揺を見せるが、江風の警戒は解けない。
だが、それも仕方のないことだろう。
KAN-SENはそもそも、セイレーン支配域への出撃による強襲奪還や、海域防衛の為に存在する兵器だ。軍艦レベルの戦力であり、人型ゆえの格闘戦はともかくとして、砲弾の限界射程は20kmにも及ぶ。平均的な交戦距離は10kmかそこらだ。
それだけの距離を介した戦闘に耐えうる高感度の観測器官を搭載しているということであり、かつての指揮官であるボンドルドの肉体が以前と異なるとすれば、気付くなと言う方が無理だ。
黒衣や『暁に至る天蓋』、I字に発光する仮面などの分かりやすいシンボルを纏い、『これがボンドルドだ』という強固なイメージ付けをしていれば、肉体を変更し身長や体形が変わったとしても気付く者は居ない。
現に鉄血陣営で影武者の噂が立ったことは無いし──仮面の下は無貌だとか、1000の顔を持っているという噂はあったが、ボンドルドの功績が異常だったが故だ──本気で調べに動く者は、望む形ではないが『ボンドルド』を知ることになった。
だが、それは現実主義であり能力主義である鉄血陣営の国民性が大きいだろう。
要は、「ボンドルドが鉄血と人類に多大な利を齎している」以上は、「ボンドルド」が何者であれ知ったことでは無い。たとえ中身が別人であろうと、鉄血に、人類に害が無い限り。「ボンドルド」として相応しくある限り。
国民性ゆえに無頓着で居られたが、重桜の民とKAN-SENはそうではない。
彼らは鉄血よりロイヤルに近い、信仰と忠誠に依って強固な団結を確立した陣営だ。──統括管理官の長門が幼い外見であることは、きっと関係ないだろう。たぶん。
とにかく、彼らにとって忠誠を捧げる相手であるボンドルドの中身が違うというのは、それはもう一大事だった。
ボンドルド以外がボンドルドを騙る。単なる詐称ではなく僭称とされ、処刑されて然るべきだと、彼らは本気で考え実行するだろう。
確かに重桜の民は寛容だし、KAN-SENたちは忠義に篤い。だが、激発すれば手が付けられないというのは歴史が証明している。恐るべきは、今の重桜は鉄血を除く世界を敵に回せる戦力を持っていることだ。
「──仮面を、外して頂けるか」