アズールレーン ─メイドインアビス─   作:志生野柱

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 モチベがね・・・無かったんだ。扁桃炎で寝込んでいたのは1週間だけで、ここまで遅れたのは偏にモチベが無かったからなんだ。

 でも評価が増えてたのでモチベが上がって書きました(激チョロ)

 感想・評価ありがとうございます! これからもお願いします! という前書き。


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 「指揮官、なぜ、あんな・・・いや、あれをどうやって・・・?」

 

 鏡面海域は、セイレーン技術の産物だ。『前線基地』にある鏡面海域も、前線基地がもともとセイレーン支配域だったから備わっているに過ぎない。その発生装置の解析こそ済んではいるが、再現や無効化策の開発はボンドルドですら成功していない。

 ビスマルクは「なぜ(Why)」を問いたい気持ちを抑え、より重要な「どうやって(How)」を問う。行動の効率化は、鉄血陣営艦としての性質であり、ボンドルドの副官としてやっていく上で研磨されたものだ。

 

 「あぁ、君は知りませんでしたね。あれは重桜の最重要機密である『ミズホの神秘』が生み出したものです」

 

 ミズホの神秘。ある種の聖域とされるそれは、重桜の土地に、民に、海に、そしてその守護者たるKAN-SEN達に祝福を与えるという。

 それが何なのか。人物なのか。神仏なのか。或いは土地や力場か、はたまた装置のような物なのか。それを知る者は一人もおらず、ただ文献に、文面上に語られるだけのものだった。

 

 「()()が、()()を・・・?」

 

 重桜が誇る最強の鏡面海域。セイレーンの技術として知られるそれが『ミズホの神秘』によるものだと、ボンドルドは語った。

 

 「えぇ、その通りです。リュウコツ技術というブラックボックスを人類にもたらし、セイレーンに対抗する力を与えた。その一方で、セイレーン技術であるはずの鏡面海域を生み出す力もある。・・・不思議ですよね」

 

 長身を翻し、ボンドルドはビスマルクの顔を正面から覗き込む。

 ビスマルクの青い瞳が同様に揺れた。

 

 「私は、君たちKAN-SENを生み出すリュウコツ技術と、セイレーン技術は同系の・・・同じ系統樹に連なる別枝ではないかと考えています」

 「我々とセイレーンが同一種である、と・・・?」

 

 それはビスマルクにとって、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そもそも、薄々気づいてはいたのだ。

 

 鉄血陣営艦は艤装にだが、重桜陣営艦に至っては本体にセイレーン技術を取り込んでいる。しかし、多少の変質はあれど強力な拒否反応もなく、戦力強化として十分に利用できている。

 セイレーン支配域であるはずの鏡面海域からはKAN-SENがドロップし、架空艦というKAN-SENの極致も、メンタルユニットという限界を突破させるがごとき超越技術も、全てセイレーンからもたらされた。

 

 今までボンドルドの敵として無感動に、或いは素材として積極的に狩ってきた敵が、実は同族だった。()()()()()()()()()()。そもそもKAN-SENの根源である軍艦は、もとより同族殺しの為に作られた兵器である。

 それに、ボンドルドの実験の為にKAN-SENを使い潰すのが日常の鉄血陣営だ。今更種が同じ程度の相手を殺戮していました、と告げられても「へぇ」程度の感動しかない。

 

 「成程。であれば、どちらもその『ミズホの神秘』によって造られた技術体系なのかしら?」

 「私はそう考えています。ですが、まだ『ミズホの神秘』には手が届きません」

 

 ボンドルドは屋上の柵に歩み寄り、テクスチャがバグを起こしたように遠近感のない黒い空間を見つめる。I字に発光する仮面の奥では、きっと悔しそうな口調に似合わず心底楽しそうに笑っているのだろうと、ビスマルクは口角を歪めた。

 

 「『ミズホの神秘』はKAN-SENに、それも重桜陣営のごく一部のKAN-SENにのみ働きかけ、祝福を授けるとされています。いつか、その謎を──その祝福を、解き明かしたいものですね」

 

 好奇心に突き動かされる、子供のような願いだった。

 それはきっとミズホの神秘を解き明かしたところで終わることは無いだろうと簡単に想像できる。ミズホの神秘を解き明かし、セイレーンとKAN-SENの全てを知り、その先に何があるのか。分からない。分からないことは──何とも、素晴らしい。

 

 未知とは、先の見えない闇だ。その夜闇に覆われた道はしかし、きっといつか黎明が訪れ、解き明かされるだろう。

 

 その時には──いや、その後も。

 

 「ずっと、御傍に」

 

 

 

 ビスマルクが「専属契約なんてものを知らされた直後でテンションがおかしかっただけ。あんな大鳳みたいなことを言うつもりはなかった」と、若干失礼な後悔をするのは、その夜の事である。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 「・・・ラブコメの波動を感じます」

 「・・・遺憾ながら同意ですわ」

 

 遺憾なのはその波動を感じたことか、はたまた意見の合致に対してかと勘繰りたくなる組み合わせだった。

 重桜最強の一角である赤城と、同じく世界屈指の実力者である大鳳。二人の仲の悪さ──特に、ボンドルド絡みでの面倒くささは、重桜陣営の皆が知るところである。

 

 珍しく二人が一緒にいるのは、縦横本土からほど近い場所に浮かぶ無人島だ。無人島とは言うが、そこには栄えた都市の残骸が未だ朽ちずに残っており、セイレーンによって「島」の脆さや危うさが浮き彫りになった時代のことを思い出させた。

 

 二人が肩を寄せ合うのは、元はガソリンスタンドか何かだったのだろう、壁と天井がきっちりと残っている頑強な建物の中だ。こじんまりとはしているが、くつろぎたいわけではないし、身を隠すには十分といえる。

 

 「西側の索敵は感知ゼロ。敵影ありませんわ」

 「南側も同じく。全く、どんな隠れ方なんだか・・・」

 

 身を隠し、少数の偵察機での索敵しか行っていないことから分かるように、二人はいま「追われる側」だった。

 追う側であれば、それこそ空を埋め尽くすが如き艦載機の大群で以て、この都市の残骸から狐を追い立て二人の前に跪くよう誘導することも容易い。しかし今は、それだけの戦力である二人が、こうして馬の合わない相手と肩を寄せ合うだけの追手がいる。

 

 そもそも、セイレーンと制海権を争う存在であるKAN-SENが陸の上で何をしているのかと言えば、当然ながら戦闘訓練である。

 ただし、それはセイレーンではなく、()()()()()()()K()A()N()-()S()E()N()を相手取ることを想定した訓練だ。

 

 追う側は、レーダーは敵とすら認識しない人間を駆り立てることを想定し、レーダーは使わず。

 逃げる側は、正面戦闘では絶対的な差のある人間がするであろう、潜伏と奇襲を第一としたゲリラ的な戦法で。それぞれ制限を付けて戦うのが、この島での訓練だ。

 

 まぁ、重桜陣営と言えば鉄血に並ぶ、当時であれば比類なく世界最強の陣営だ。本気で殺し合いレベルの訓練をすれば、島一つ沈めることも想定されたからだろうが。

 

 さておき、二人は偵察機からの情報を精査し、かつレーダー情報にフィルターをかけた状態で、懸命に追手を探す。

 鉄血陣営らしい黒と赤の軍服を。夜闇のごとき黒髪を。全てを見通すという悪魔と同じ金色の目を。異質な半生体艤装を纏う鉄血陣営の中でなお異質な、超大型の艤装を∞の形に従えた、その姿を。

 

 「走査範囲を30キロまで拡張」

 「・・・了解ですわ」

 

 これでグローセが見つからなければ、二人は彼女が定めたキル・レンジの外に出ていることになる。最低限度の安全が確認されるということだ。

 1分。2分と経ち、二人は顔を見合わせる。

 

 「感知ゼロ」

 「同じく。・・・ふぅ」

 

 大鳳の安堵の吐息は些か気が抜けすぎだと、普段であれば赤城も眉根を寄せるところだが、今回の相手に限っては大目に見る。

 グローセは強力無比なKAN-SENだ。本気で二人を狩り殺す気なら、砲射程ギリギリの40キロ辺りからでも難なく遮蔽ごと吹き飛ばせる。それをしないのは、グローセが()()()だからだ。

 

 普通のKAN-SENであれば、砲撃の必中必殺距離は10キロから20キロ。戦艦でも30キロというのは有効射程限界に近く、綿密な測量と着弾観測を要する。鉄血陣営が──否、人類が誇る最高戦力であり、ボンドルドをしてKAN-SENの極致と、これ以上は無いとした最極の一であるグローセ。彼女の領域に至り、漸く必殺の距離を40キロまで拡張できる。“届く”と“当たる”、そして“沈められる”の間にあった超えられない壁を、彼女は超えて見せた。

 

 当然ながら、それはどの陣営においても──ビスマルクや長門といった陣営最強に挙げられる戦艦ですら叶わないことだ。

 

 もし敵対すれば、彼女は決戦計画級の分類に恥じぬ働きを、その区分が示す「一個陣営の趨勢を左右する」という戦力評価の恐ろしさを、存分に発揮することだろう。

 

 だが、グローセは()()()()()()味方であって、人類の味方()()()()

 

 つまり、敵対するという仮定が実現することは無いのだ。敵対的な架空艦が出現した場合に備えての訓練として本気の8割程度の彼女と戦うことはあるが、それは壊す物のない海上でのみ。陸上戦であるうちは、彼女は通常のKAN-SEN程度の力しか出さないよう、自分で決めていた。

 本気ならばいざ知らず、セーブ状態との訓練経験はある。知識と経験がある相手なら、赤城と大鳳の二人が勝てないことはない。なお、勝率は2対1の現状でも4:6で不利だ。

 

 赤城が自嘲気味に口角を上げた時だった。

 隣で偵察機からの情報を精査していた大鳳の表情が強張り、空気が張り詰める。

 

 「感アリ。・・・北東24キロの幹線道路を移動中。座標、送りますわ」

 

 ち、と、舌を打つ。

 南北は赤城が、東西は大鳳がカバーしていた。そして北東や南西といった曖昧な箇所は、二人が被せるように入念な走査が行われていたはず。それで見落とした──いや、隠れられ見落とさせられた。

 

 普段は堂々と、レッドカーペットを進む女王がごとき傲慢さで道路のド真ん中を歩いてくるような相手だ。事実、対人戦闘であればゲリラ相手でもそれで問題ないだろう。奇襲も罠も、KAN-SENの感知・戦闘能力相手には意味が無い。こそこそと動き無駄に神経を使うよりは余程手早く終わるし、赤城が追う側でもそうする。

 

 一体何故今更──と、苛立ち混じりに偵察機を差し向けて。困惑顔で大鳳と顔を見合わせた。

 

 「ローンさん、何故ここに・・・?」

 

 にこにこと楽しそうに廃墟の都市を見物しながら、ゆっくりと、しかし確実に二人が隠れている方向へ歩いてくるその姿は。

 未だその全力の戦力評価が定かではない、第二の架空艦。重巡洋艦ローンだった。

 

 

 

 

 

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