アズールレーン ─メイドインアビス─   作:志生野柱

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 対セイレーン特別武装非政府組織『アビス』は、旧世代の国連とは完全に別物の組織だ。

 加盟には単独でセイレーンと対抗できるだけの戦力が要求される代わりに、その門扉は国家や陣営だけでなく、傭兵や個人にも開かれている。

 セイレーンの攻勢に対する人類とその生存領域や交易ルートの確保・保護を第一に。第二にはセイレーンという存在の駆逐と根絶を掲げる、人類に残された最後にして最大の砦。

 現在の加盟陣営は、成立時の四大陣営から『重桜』と『鉄血』の二つを省いた二大巨頭、『ユニオン』と『ロイヤル』のみだ。

 

 しかし、まだ人類にはそれ以外の陣営も残されている。

 単独ではセイレーンに抗い切るだけの戦力を持たず、『アビス』からの戦力派遣や救援対応などで命を繋いでいる、いわば衛星陣営。

 ロイヤルに大幅な内政干渉を受けている自由アイリス教国や、鉄血陣営との連合同盟を結んでいるサディア帝国、ヴィシア聖座などがそうだ。

 

 そして、中には『アビス』からの援助をほとんど受けずにセイレーンと対抗している独立陣営も存在する。

 北極海周辺の制海権を長年セイレーンと争っている北方連合がそうだ。精強なセイレーンが跋扈する海域だけあって資源やドロップに恵まれるそこを支配する彼らは、その権益と自立を守るため、『アビス』にではなく陣営ごとに戦力提供を依頼することが多い。

 中でも物理的に近いロイヤルと鉄血、そして重桜には、頻繁に救援要請が飛んでいた。とはいえ質の戦力が求められる北極海において、ロイヤル陣営は歯が立たず。ボンドルドが『アビス』の命令で左遷されて以来、海域確保に積極的では無かった重桜は殆どの救援要請を無視し。結果的に、条件を満たし、かつ見返りも求めない鉄血陣営が対応していた。

 

 『アビス』にではなく鉄血陣営と仲を深めていたこともあり、レッドアクシズ成立後も変わらない対応になるだろう。そう見込んでいたのだが──

 

 「では、出撃に係る燃料・弾薬とその他の経費は後程請求いたしますわ。報酬については後日ということで」

 

 と、良い笑顔で突き付けられたのは、かつて鉄血陣営の外交を一手に担い、今はレッドアクシズの外交担当としてその辣腕を振るっている大鳳にだった。

 

 さて。鉄血・重桜に共通して言えること、つまりレッドアクシズの特色として、その精強な艦隊が当然挙げられる。そして、数ではユニオンやロイヤルに劣る彼らが、何故その評価を得られたのか。

 それは、戦艦や空母といった一騎当千を旨とする大型主力艦にある。

 

 極論、海戦というのは戦艦と空母を無数に並べてゴリ押せば勝てるのだ。潜水艦の雷撃で一隻、二隻沈もうが、核搭載フリゲート艦が薙ぎ払おうが、それを差し引いてもなお海面を埋め尽くすほどの大型艦を並べれば勝てる。そのバカげた理屈を通せるだけの戦力を持っていたセイレーンのグリーンランド艦隊を見よ。

 

 損耗率は8割を超えた。壊滅だ。

 

 たった一隻の戦艦を拘束しようとしただけで、人類を2、3回滅ぼせるだけの戦力が海の藻屑と消えた。

 机上の空論を実現した超大規模艦隊すら、その机上存在の前に屈服した。

 

 その戦艦を筆頭に、指揮能力に長けたビスマルクや単独で天を覆うほどの艦載機を運用する大鳳やツェッペリン、赤城といった大型空母を擁する。作戦立案能力であれば『アビス』最高峰と言われた天城までもがレッドアクシズに属するというのは、本当にどういうバランスなのか。ロイヤルの気持ちが分かるような気もする。

 

 閑話休題。

 

 レッドアクシズの主力は大型艦であり、須らく燃料や弾薬の消費が激しい。特に鉄血陣営はロイヤル陣営と戦争状態にあることもあり、資源の備蓄に気を配り出したのだろう。

 それは分かるが、北連としても「はい了解」と応じるわけには行かない。練度100オーバーとされる主力艦の燃費は相応だろうし、別途報酬を支払えというのもだ。普通と言えば普通だが、今更、という思いもある。常識・非常識の話をするのなら、これまでの鉄血が非常識だった。

 

 「同じ人類同士、セイレーンという外敵には共同で応じるべき」と言い募る北連首脳部が集団ガス中毒──原因は建物の経年劣化によるものだとか──で倒れ、KAN-SENを中心としたものに挿げ変わったのは最近の話だ。

 

 とにかく、そんな経緯を以て、レッドアクシズの救援艦隊は北連艦隊と合流した。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 北連艦隊は精強だ。練度で言えばロイヤルの主力艦隊にすら引けを取らないだろうが、KAN-SENの数が極端に少ない。

 セイレーンに対しては核兵器すら有効打とならない現状に在って、全艦総数が10を下回るというのは流石に厳しいものがあるだろう。むしろ、よくその戦力でセイレーンに食い潰されなかったと驚き、称えるべきかもしれない。

 

 少数精鋭を地で行く北連艦隊を束ねるのは、練度90の戦艦ソビエツカヤ・ロシア。艤装の対凍結仕様と半生体化は鉄血陣営からの技術供与によるものだ。

 レッドアクシズが6隻、北連が6隻の艦隊を用意し、海上で合流。そのまま連合艦隊へと再編する。その予定だったのだが、合流予定地に現れたのはロシアとその護衛らしき2隻だけだった。

 

 「──まずは、多忙な時勢にも関わらず、救援に来て頂いたことに礼を言わせて貰おう」

 

 ロシアは訝しむ表情を隠すこともなく、しかし礼儀に適った所作で一礼し、右手を差し伸べる。黒い長手袋は装甲と防寒を兼ねたものであり、いくらKAN-SENが寒さに一定以上の耐性があるとはいえ、室内以外で外したくはない。

 北連艦であれば言わずとも理解できることだが、他の陣営にとっては些かなりとも不快感のある行為だったのだろう。大鳳が微かに不快そうな顔をした。

 ちなみにその大鳳だが、もこもことボリュームのあるマフラーで首から胸元までを覆っておきながら、足元はニーハイソックス、風に煽られただけで鼠径部まで見えそうなミニ丈の改造和服という、寒さで頭をやられたのかと言いたくなる格好をしている。

 というか、ある程度厚手の軍服を纏う3人の鉄血陣営艦はともかく、改造和服の大鳳と、やはり上半身だけ防寒具を着て下半身は露出の際どい翔鶴と土佐。重桜の3人は北極海を舐めているのか、と、北連のKAN-SENたちは顔を引き攣らせていた。

 

 尤も──

 

 「お礼を言う必要はありませんよ。我々は同じ人類同士ですから、互いに助け合い、慈しみ合うことが大切です」

 

 ロシアの手をしっかりと握り返す、眼前の男がその最たる理由だろうが。

 

 「“黎明卿”・・・何故、貴殿がここに?」

 「私は彼女たちの指揮官ですからね。それより、君のお仲間はどちらに? 予定では、ここで12隻の連合艦隊を編成する手筈でしたが」

 

 レッドアクシズ側は艦隊旗艦のフリードリヒ・デア・グローセと、副長のビスマルク。グラーフ・ツェッペリンと大鳳、翔鶴、土佐の6人に加え、何故か付いて来たボンドルドも含めて、総勢7名。

 対して北連側は総旗艦のソビエツカヤ・ロシアの他には、駆逐艦のグロズヌイと軽巡洋艦のチャパエフしかいない。

 

 「あー・・・それなんだが・・・」

 

 ちら、と、ロシアが後ろを振り返る。その視線は僚艦の二人ではなく、もっと後ろを見ていた。

 

 「仲間の一人が、遠目に黎明卿の姿を見た瞬間に基地に戻ると言い出してな。他の二人は、その随伴だ」

 「おや、艤装か体調に不備でもあったのでしょうか? 心配ですね」

 

 グローセが漏らした微かな失笑には気付かず、ロシアは言葉を続ける。

 

 「あぁ。本人は心配ないと言っていたが、流石にな。だから随伴を付けた。申し訳ないが、今回の作戦は──」

 「問題ない。戦闘前に体調の管理もできない奴がいても、足を引っ張るだけだ。我々だけで片を付けてもいいが?」

 

 グロズヌイとチャパエフが険のある土佐の言葉に眉根を寄せるが、ボンドルドは微かに苦笑しただけだった。

 

 「気を悪くしないでください。彼女も心配しているのですよ」

 

 嫌味や韜晦の気配が一分もない、心底からの信頼を感じさせる言葉に微かに引きつつも、そうまで言われては強く言い返すこともできない。

 

 「そ、そうなのか」

 

 とたじろぎつつ返したロシアだったが、続く言葉にはしっかりとした意志と信念が籠っていた。

 

 「いや、しかし、ここは我々の領域だ。救援隊に全て任せて、我々が何もしないという訳にはいかん。それと──」

 

 ぴし、と、重桜艦の三人に指を突き付ける。

 

 「馬鹿かお前たちは! いくらKAN-SENとはいえ、艤装や体内の水分の凝固点まで変わるわけがないだろう! 内部構造を凍らせて緊急帰還したくなければ、もっと厚着しろ!」

 

 まぁ、そうだ。

 KAN-SENは霜焼けや凍傷とは無縁だが、機械用潤滑油の凝固点はマイナス40度ほど。血液はマイナス20度ほどで凍結する。

 対する北極海の気温は平均でマイナス20度、最低気温はマイナス80度だ。艦対艦戦闘を想定した設計になっているKAN-SENは、高熱や衝撃に対する防護は極めて高い。だが、機械すら凍結させる極低温には弱い。

 なまじ凍傷や低体温症といった予兆がないだけに、その致命的なラインを超えてしまうことがあるのだ。寒くは無いが、寒くないからと言って対処を怠って良いわけではない。

 

 そんな致命的な事態に陥る前に状況を終了させて帰ればいい。そう考えているのだろうが、甘いと言わざるを得ない。

 

 「今回の相手はただの艦隊じゃない。──要塞なんだ」

 

 




 鯖のごった煮兄貴作『黎明廻戦』が素晴らしいのでみんな見て。見ろ(豹変)
 
 これリンクhttps://syosetu.org/novel/243963/

 ボ卿二次クロスもっと増えろ増えろ・・・
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