アズールレーン ─メイドインアビス─   作:志生野柱

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 先に言っておくけど全然華々しいクリスマス感はないから期待はしないで
 時系列的にはまだ前線基地に居た頃。ロイヤルと戦争おっぱじめる前。サディアとかと連合同盟組んだ後くらい。




幕間:クリスマス

 12月25日。

 旧世代の大宗教における記念日であるその日は、その信徒も、そうでない者も皆が一様に浮かれ、祝う日であった。

 特にセイレーンの攻勢を受け、KAN-SEN信仰や現実主義の浸透によって宗教の影響力が著しく落ちた今では、そんな文化は廃れている。・・・一部の陣営を除いて、ではあるが。

 

 こと宗教行事であれば戦争より何より優先させる宗教国家、自由アイリス教国。

 イベント、祭り、フェスティバル。名前は何でもいいがとにかく騒げるなら騒ぐぜ、なユニオン。

 独自の宗教を持ちながら異常なまでに他宗教に寛容。実はお前らも騒ぎたいだけなんじゃないの、な重桜。

 

 残念ながらかつてその宗教の大本山があったサディア帝国は、今やセイレーンの猛攻に抵抗するだけで精一杯だった。

 

 

 ◇

 

 

 セイレーンの脅威をほぼ完全に取り除いておきながら、現実主義的な国民性ゆえにその文化が根付かなかったのが鉄血陣営だ。

 少なくとも、そう認識されていた。

 

 

 「──素晴らしい!」

 

 

 『前線基地』内部、執務室──とは名ばかりの資料置き場で、そんな感嘆の声が上がった。

 

 「どうされたのですか? 指揮官様」

 

 イラストリアスの眠たそうな声に、ボンドルドははっと我に返った。

 

 「あぁ、起こしてしまいましたか。申し訳ありません。・・・いま、クリスマスという文化についての文献を読んでいたのですが」

 

 黙々と作業をこなす『祈手(アンブラハンズ)』の一人がそれを一瞥し、また作業に戻る。

 ボンドルドは声を抑え、ぶつぶつと自分と対話するような調子で言葉を続けた。

 

 「クリスマスにプレゼントを贈るという風習、ただ年末の在庫整理に絡めた商売戦略かと思っていましたが・・・」

 

 ボンドルドの視線が文献を舐める。背後でイラストリアスが動揺したような気配がした。

 

 「性の6時間。これは素晴らしい風習です」

 「し、指揮官様・・・?」

 

 性愛どころか男女関係そのものに興味の薄そうなボンドルドが口にするには、あまりにも可笑しな内容だった。

 その強烈な違和感とボンドルド越しに見た文献の内容が、イラストリアスの思考能力を著しく低下させていた。

 

 「愛です。愛ですよ、イラストリアス」

 

 思考を大量の「?」で埋め尽くしながら、イラストリアスは言葉の続きを待った。

 イラストリアスの困惑と疑問はすぐに伝わったのか、ボンドルドはヒートアップした内心を治めるように、仮面を取って顔を覆った。

 

 KAN-SENの前では仮面を取ることは滅多にない。重桜陣営のKAN-SENたちはその限りではないらしいが、器を変えた今ではそうもいかないだろう。

 ボンドルドはその仮面と黒衣によって、自陣営の民にすら強烈なイメージ付けをしている。人格バックアップを用いた群体化は人間性を徐々に希薄にするらしいが、もともと表情の読めない者であれば露見もしない。何より、統括管理官という狙われる立場に、KAN-SENに混じって海域を攻略する身だ。影武者は立てやすいに越したことは無い。

 

 そんな合理的な理由があるからこそ、その時の素顔を見せられる者は非常に限られている。ボンドルドである『祈手』と、あとは実力的に信頼のおける数人のKAN-SENくらいか。

 その特別な数人に入れたことに歓喜と微かな優越感を覚え、イラストリアスは高揚した気分になった。

 

 「失礼しました。・・・君は、人類の現状をご存知ですか?」

 「えぇ、勿論ですわ。セイレーンの攻勢は制海権と沿岸部をほぼ完全に掌握し、攻撃による一次被害、貿易路の閉鎖による食糧難や格差拡大による二次被害が人口を大幅に・・・あっ?」

 

 掌を打つような気配。ボンドルドは頷き、半ば埋もれている執務机に向かう。

 

 「君は聡明ですね。その通り、人類は大幅にその数を減らされ、存続の危機にすら瀕しています。ですが・・・」

 「クリスマス・イブを恋人と過ごす文化を浸透させれば、自然と・・・その、じ、人口も増えるのですね?」

 

 イラストリアスが言い淀み、頬を赤らめた気配が漂う。

 その頭を撫でられないのが惜しいと思うが、それも仕方ない。ボンドルドは仮面を着け直し、内線で大鳳を呼び出した。

 

 「えぇ。統治機関が遺伝子情報を解析し、最適なペアを作り上げることは可能です。ですが──家族とは、そうした作為によって作るものではありません。愛が、最も重要な要因なのですよ」

 

 こんこんこん、と、軽快なノックが響く。

 『祈手』の一人が扉を開くと、つい先ほど呼び出したばかりの大鳳が立っていた。

 

 「お呼びに従い参上いたしましたわ、指揮官様」

 「随分と早いですね。ありがとうございます、大鳳」

 「いえ、指揮官様のためですもの」

 

 にこにこと笑顔を浮かべる大鳳は汗一つかいておらず、着衣にも乱れは一切ない。走ってきたのでなければ、もう隣の部屋で待機でもしていなければありえない速度だったが、ボンドルドは気に留めなかった。イラストリアスは少しばかり引いていたが。

 

 「大鳳、クリスマスを世界的に浸透させましょう」

 「畏まりました。理由をお聞きしても?」

 

 了解してから理由を聞く辺り、筋金入りである。とはいえ、ボンドルドからの命令や提案には、確固とした意志と理由がある。きっとイラストリアスでも同じ返事をしただろう。

 

 「勿論ですよ。現在の人口問題を解決するのに有用で、理想的な手法ではありませんか? この文献を──」

 

 イラストリアスを無視して議論の姿勢になる二人だったが、不快感は感じなかった。

 むしろ、真剣に、それでいて楽しそうに、今後の展望や自分の考えを語り、議論するボンドルドを間近で感じられることが幸せだった。

 

 

 論議は数分だった。その有用性は大鳳も理解しており、ボンドルドの理想とも合致する。あとは細かなすり合わせだけであり、人類陣営で最高峰の頭脳を持つ二人にかかれば、そう時間のかかるものでもない。

 一礼して退出しようとする大鳳が、ふと振り返った。

 

 「・・・そういえば指揮官様」

 「どうされましたか?」

 

 大鳳の表情には微かながら苦笑と嫉妬が浮かんでおり、いい言葉が飛んでこないのはすぐに分かった。

 

 「カートリッジとお話になるのは、今のように周りにご自身か、大鳳たちしかいない時にしてくださいね?」

 「ありがとうございます、今後は気を付けますよ」

 

 

 

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