アズールレーン ─メイドインアビス─   作:志生野柱

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 63話じゃなくて64話だったわ()


64

 灰色で硬質な壁を撫で、ボンドルドは一歩下がって黙考の姿勢に入った。

 片手は肘を支え、顎に手を当て、俯いて。ただ脳を回転させることに集中したその姿は隙だらけだったが、随伴艦は誰一人諫めない。状況とボンドルドをあまり理解していないチャパエフやグロズヌイが声を上げようとしたが、タシュケントやビスマルクに止められていた。

 

 しかし、彼女たちの判断こそが正解だろう。ここはセイレーンの北極海方面艦隊が擁する氷山要塞の内部。つまり敵の本拠地である。

 悠長に壁の修復メカニズムや再現性などについて考え込む暇はない。

 

 どたどたと慌ただしく走る足音が聞こえ、廊下から複数体のエグゼキューターシリーズが姿を見せる。駆逐艦タイプの人型端末だが、上位個体ではないため人格は無い。おそらく、要塞に備わっている防衛機構の一種だろう。

 

 「指揮官、一旦移動を──」

 

 壁を検分するボンドルドは、一応、KAN-SENたちに守られる立ち位置だ。とはいえ戦闘に確実はないし、眼前のスカベンジャーは見たところそう強そうでもないが、セイレーンには未だ未解明事項の方が多い。

 ビスマルクが進言するが、それは意外にもタシュケントによって遮られた。

 

 「待って、ビスマルク。何かおかしい」

 

 スカベンジャーの総数は4体。そのどれもが戦闘態勢に入っておらず、どう考えても侵入者であるはずの一行をぼーっと眺めているだけだった。

 

 専守防衛を基本理念としてプログラムされている・・・というのは、流石に荒唐無稽か。セイレーンは人類を駆逐するための兵器だし、と、タシュケントも頭を回転させるが、この場におけるもっとも単純な解決策は。

 

 「ビス──」

 

 狭い廊下では絶対に聞きたくない、頭蓋を通して脳を揺らす重い爆音が響く。

 ビスマルクの主砲が上げた砲声だ。

 

 流石のボンドルドも思考を中断し、振り返る。

 残念ながら、スカベンジャーは一機残らず吹き飛ばされていた。幸いにもと喜ぶべきか、或いは意外にもと驚くべきか、廊下の壁や床、天井にも一切の傷は付いていなかった。

 

 「ちょっと! 撃つなら合図くらいしなさいよ!」

 

 白いもこもこのイヤーマフは防寒用で、遮音機能は無いのだろうか。ビスマルクはそんなことを考えつつ、ふしゃーっと猫のような気勢を上げるタシュケントを撫でて抑える。

 

 「悪かったわね。それで指揮官、防衛機構もあるようだし、一度移動しましょう?」

 「分かりました。先導をお願いできますか?」

 

 頷き、ビスマルクはレーダーを起動して歩き出す。

 どういうわけかその探知網に敵性存在が引っ掛かることは一度もなく、やがて一行は大きめの部屋に辿り着いた。

 

 多様な機械類が整然と並べられたその部屋は、レイアウトや規模こそ違えど、ボンドルドやビスマルク、そしてタシュケントにとっては懐かしさを覚えるものだった。

 既知感の原因はおそらく、その機械群だろう。

 

 見覚えのある機械に近付いて検分してみれば、やはり、鉄血陣営が採用する民間兵器製造会社──つまり、ボンドルドが一枚噛んでいる企業──であるクラップ社のロゴがある。シリアルナンバーから見ても分かる通り、メーカー純正品らしい。

 クラップ社は主にKAN-SENの艤装や強化パーツを作る会社だが、医療機器や工業用機材も手広く扱っている。精密機械の設計開発に長けた鉄血企業らしく、どの分野でもその製品クオリティは好評だ。

 

 そんな鉄血のトップ企業製品が、なぜ、セイレーンの要塞に据えられているのか。

 まさか人知を超える技術力を擁するセイレーンが、その解体検分やコピーを試みたわけではあるまい。サンプルにしては量が多いし、バラされた形跡もない。

 

 「これは・・・同志ちゃ──じゃなくて、黎明卿のところの機械じゃないの?」

 「えぇ、そのようです。それも、KAN-SENの整備に使うものですね」

 

 たまたま手近にあったのはKAN-SENの整備用として発表され、サディアやヴィシア、そして北連などの小規模陣営にも提供品として現物が、さらには経済活発化を目的として、現地企業とライセンス契約が結ばれたものだった。しかし、ビスマルクがちらりと一瞥し、タシュケントは露骨に目を逸らした機材などは、ボンドルドが独自に開発させ、その存在は秘匿されている種類のものだ。

 

 「指揮官、これは──」

 「どうやら、口の軽い方がいるようですね。悲しい限りですが、今は──」

 

 部屋には入ってきた側とは反対側にも扉があり、ボンドルドが一瞥したのはそこだ。意図を汲み取り、興味深そうに、或いは不思議そうに部屋や機材を見ていた随伴艦たちが切り上げて集合する。

 

 「先へ進みましょう。あぁ、今度セイレーンが現れたら、先に攻撃されるまで、こちらからは手を出さないで下さいね」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 オミッターの主砲は、ピュリファイアーのそれに近しい。

 オミッターの主砲の加工品はボンドルドが掌に装備する長距離用火砲『火葬砲(インシネレーター)』となり、ピュリファイアーの主砲の加工品は腕に装備する近距離用光剣『枢機に還す光(スパラグモス)』となる。射線上に存在するあらゆるものを()()()ように消し去るそれらは、まさに防御不可の絶対兵器。

 

 如何な架空艦とて、喰らえばただでは済まない。

 

 オミッターの主砲に集まるエネルギーは臨界に達し、青く煌めく死が解き放たれる。

 

 直接の射線上から逃れても、焼き切れた大気が上げる悲鳴じみた爆発はさらに広範囲だ。そう容易く避けられるものではない。

 そう知っている一方で、オミッターは別の確信も持っていた。あのフリードリヒ・デア・グローセが、底知れぬ架空艦が、砲撃の一発で沈むわけがないと。

 

 「高評価に感謝するわ」

 

 射線上の大気を焼き、海面が蒸発し大量の水蒸気が視線を遮る。

 白く煙る視界にはしかし、黒く歪なシルエットが悠然と立っていた。

 

 「避けた・・・って感じには見えないが」

 「まさか。避けたわよ」

 

 ならば、戦闘に長けたオミッターの動体視力を以てしても見切れなかったということか。

 いや、違う。オミッターは最初から最後まで、グローセの一挙手一投足を見逃してなどいなかった。だが、あの動きは避けたというよりも──

 

 「外した・・・?」

 

 いくらKAN-SENが素早く動けると言っても、限界は存在する。砲弾を見てから回避するような一部の速度特化型はともかく、グローセは超弩級戦艦だ。スピードも特化した駆逐艦に比べて随分と遅い。加えて、オミッターの主砲は光兵器だ。減衰など存在せず、射程限界までを一息もかからず埋め尽くす死の奔流。その速度は毎秒約30万㎞にも及ぶ。

 射線を予測し、その線上から予め逃れるしか回避方法はない。

 

 だが、練度が上がれば上がるほど、照準修正の速度と精度は向上する。

 回避運動やその予備動作から動きを予測することなど造作も無いし、先に照準を置いておくこともできる。基本的にKAN-SEN同士、セイレーン対KAN-SENの戦闘が攻撃側が有利だとされる所以がこれだ。

 

 しかし、だ。グローセはいま、確実に()()()()()()()()

 必中の照準と自負する狙いは外れ、必殺の一撃は虚空だけを灼いて過ぎ去った。

 

 オミッターは顔を歪める。

 

 「・・・ってか、モノローグに返事してんじゃねぇよ、気持ち悪ィな」

 「あら、その方が独白のし甲斐もあるのではなくて?」

 

 水蒸気の霧の奥、∞の形に従えた半生体艤装が鎌首をもたげる。

 都合六つの金色の瞳に射竦められて、オミッターは慌てて飛び退いた。

 

 霧を払いながら砲弾が通過し、怖気に従った自分を褒めてやりたくなる。だが──

 

 「ボウヤが戻るまで、私たちも退屈なのよ。できるだけ耐えて頂戴ね?」

 

 興味なさげなツェッペリンと退屈そうに欠伸を噛み殺す大鳳が並ぶ。グローセに比べれば何でもないような相手だが、一対一なら勝てるかと聞かれても怪しい。それが三人。ガングートやソビエツカヤ・ロシアはオマケみたいなものだ。

 舌打ち一つで端的に心中を表し、オミッターは再度、主砲の装填を開始した。

 

 

 





 ちんまり置いてるってことは自分で描いた奴なので以下省略。
 
【挿絵表示】


 アサルトリリィとボ卿のクロスssを書けという天啓が舞い降りた
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