アズールレーン ─メイドインアビス─   作:志生野柱

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 文章力……主に表現力と構成力が欲しい


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 重桜への帰路を急ぐなか、唯一の部外者であり援軍という形で参戦していたエンタープライズが声を上げた。

 

 「グローセ、少し急ぎ過ぎじゃないか? 艤装が焼け付いたらいざという時に戦えないぞ」

 

 その心配は少し過剰だ。

 確かにKAN-SENの艤装は永久機関という訳ではなく、燃料の補給や部品の整備は必要だ。酷使すれば摩耗は酷くなるし、逆に全く使わないと錆び付いてしまう。だが、それでも兵器である以上耐久性には長けている。高速戦闘機動や被弾を前提としている以上、ちょっと焦って吹かした程度で焼け付いたりはしない。

 

 だが、グローセが一行を引き離すほど先行していたのも確かだ。

 超然と、全てを見透かしたように──事実、悪魔じみた観察眼を以て未来知を可能とする彼女が焦っているところなど、付き合いの長い大鳳やビスマルクでも初めて見る。

 

 顔だけで僅かに振り返り、グローセは速度を落とすことなく正面に向き直った。

 

 「貴女たち、敵があの子だけだと思っているの?」

 

 そこまで言われれば、エンタープライズにも思い当たる節はある。

 セイレーンのことではない。レッドアクシズは加盟陣営こそ重桜、サディア、ヴィシアを擁してはいるが、実質的に鉄血陣営を中心とした軍事同盟であることは明らかだ。ボンドルドの統括の下、技術体系を共有し強固な指揮系統を敷き、それ自体が一つの軍隊であるかのような連携を見せる。

 

 そんな組織が生まれた理由は──ロイヤル陣営との開戦にある。機を見るに敏というか、ただ単に手が早いというか、拙速を聞き巧の久しきを観ざるロイヤルのことだ。この機に重桜や鉄血を攻撃するか、混乱に乗じて良からぬものを仕込んでくる可能性は低くない。

 

 心配性だと切って捨てるには信憑性が高い提言者であり、急ぐに越したことは無い状況だった。

 故に、エンタープライズもそれ以上は言い募らず、グローセの後を追う。──その航路が、最短ルートとは微妙に違っていることに気付かぬままに。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 ロイヤル陣営の対鉄血陣営戦略は非常に面倒くさく、また達成難易度の高いものだった。

 

 今回の戦争は、引き金こそボンドルドの「非人道的な」研究になっているが、主目的は研究を放棄させることでも、その情報の奪取や抹消でもない。

 陣営間に存在する戦力格差の是正。単騎で陣営の趨勢を左右できる戦略級──決戦計画級艦船の破壊、或いは奪取。どちらも叶わない場合でも、同等の存在を作り出すことが急務だ。

 

 つまり、ただ戦争に勝利するだけでは何の意味もない。

 鉄血の国土を蹂躙しようが、鉄血陣営の戦力を全損させようが、ボンドルドを暗殺しようが、それは人類に百の害をもたらすだけで、一分の利益も生み出さない。いや、一時的にロイヤル陣営が覇権を握れるかもしれないが、その後には重桜陣営がまず間違いなく報復を仕掛けてくる。鉄血陣営と連戦で勝てる相手ではないし、仮に勝ったとして──そんな損耗状態でセイレーンの攻勢に遭えば。百の害も一の利も、人類の歴史と共に海に沈むことになる。

 

 鉄血陣営の戦力を「ちょうどいい具合に」削る。その後、勝利できれば文句はない。負けたとしても、海域防衛に支障が出ない程度の損耗であれば問題はない。

 天秤の片側にさらに天秤が付いたような面倒さは、ロイヤル『指令室』でも文句の種だった。

 

 そんな折、一つの速報が入る。

 ユニオン内部に紛れ込ませていた諜報員と、ボンドルドに付けていた監視役の二人から入った確度の高いもの。しかし、その正確性を知っていてもなお疑いたくなる内容だ。

 

 「未確認勢力がユニオンを襲撃。黎明卿は死亡」

 

 かつてMIAとなり、変貌を遂げたアークロイヤルは『指令室』のみならず、王家にまでこう提言した。

 

 『黎明卿失くして人類の歴史は一世紀と続かない』

 

 それは民衆が信仰混じりに口にしていたことだったが、自らの手で敵を屠り、海と人類を守ってきたKAN-SENたちにとっては冗談のような物だった。過激な言い方をするのなら、「人間風情が何を」といったところだ。

 だがアークロイヤル──ロイヤルでも最上位にほど近い強者の提言とあれば、徐々にではあるが認識も変わる。「なーに言ってんのwww」から「あ、そうなん……?」くらいにはなっていた。

 

 そこに、これだ。

 『指令室』は速やかに緘口令と情報統制を敷くが、ふと思い当たるものがある。

 

 全陣営の統括管理官、あるいは艦には、とある装置が取り付けられている。

 生命反応あるいは存在係数に反応し、その消失──つまり死に際して全陣営に秘匿回線で救援信号を発する装置だ。『指令室』にもその受容装置は置かれているが、俗に『弑逆警報』などと呼ばれるそれが鳴っていない。

 

 襲撃者の正体を探りつつ、黎明卿の動向を再確認する。とりあえず、と。『指令室』はユニオンを訪れるまで黎明卿のいた重桜へと視察艦隊を向かわせた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 時期的にも、航路的にも。

 重桜へ出向いた視察艦隊と、ユニオンからエンタープライズを伴って帰投する鉄血艦隊が遭遇する可能性は、そこまで高くなかった。

 

 だが悲しいかな──単純な観察と化け物じみた推察力を以て、戦略を食い潰す戦術兵器が相手。

 

 海岸線一つを消滅させられるという大被害を被り、今尚上陸と侵攻を許している重桜へと向かっていたロイヤル艦隊。長らく最強の陣営と目されてきたその地の土を踏めるという興奮と、こんなものだったのかという失望や落胆。その他の様々な感情を抱いていた彼女たちの進路は、世界最強のKAN-SENによって遮られた。

 

 視察艦隊旗艦のパーシュースは、火事場泥棒のような仕事だと自嘲しつつ油断していた。

 4隻編成という小規模な艦隊で隠密行動が取りやすく、また空母という偵察に長けた艦種であること、精鋭とされる一航戦が内陸で防衛に徹していること。ボンドルドの爪牙として知られるビスマルクや大鳳がユニオンに向かっていたこと。油断しても仕方のない要素は並んでいるが、甘い。

 

 シグニットがあそこまで侵攻できたのは、ほぼ全ての干渉を透過するスキル『炬火の残光』ありきだ。並のKAN-SENであれば、防衛機構や監視装置に引っかかり、哨戒に追われ、赤城と加賀──重桜が誇る一航戦の名が伊達でないこと、その手の長さと爪の鋭さを思い知り、沈むことになる。

 

 尤も、いま眼前にいる相手はその数倍は恐ろしい相手だが。

 

 「……最悪」

 

 ぼそりと呟いたのがパーシュースだったのか、副官に据えたシュロップシャーだったのかは分からない。だがどちらにしろ、残る二人、セントーとジャマイカも同じ思いだった。

 艦隊の平均練度は75、最高練度のパーシュースでさえ80の壁で止まっている。おまけに艦載機は大半が偵察機に換装されており、空母二人の戦闘力は皆無。

 

 問答無用ということか、ビスマルクとグローセの砲塔が回転する。照準は速やかに、そして正確に合わせられ、微かな身動ぎにすら反応して微調整される。

 

 そんな態度に最も慌てたのは、半ば情動が麻痺していたロイヤル艦隊の誰でもなく、付いてきていたエンタープライズだった。

 

 「ま、待ってくれ。ここでロイヤルと事を構えるのは、君たちにとっても良くないと思うんだが」

 

 言わんとすることは分かるし、その真意も分かる。

 正体不明、能力不明、目的不明、全容不明の未解明新勢力の出現。少なくとも鉄血と重桜、ユニオンに対しては敵対的である──ユニオンついてはエンタープライズの誤解で、単なるとばっちりだが──灰色のKAN-SENたちを相手取るのに、さらにロイヤルと全面衝突するのは止めた方がいい。

 エンタープライズとしては、ユニオンを襲撃したシグニットへの報復に来たのに、ここで対ロイヤル戦が始まって巻き込まれるのは不本意極まりないだろう。

 

 焦ったように宥めるエンタープライズに便乗するように、ここしかない、と、パーシュースも口を開く。

 

 「私たちも謎のKAN-SENについては把握できていない。……情報収集のために来ただけ」

 

 敵対する意思はないから見逃してくれ、と。そういうことなのだが、口下手なパーシュースの真意は伝わったのだろうか。

 

 胡乱げな視線を向ける大鳳と、知ったことかと照準を続けるビスマルク。だが攻撃に踏み切ってこないあたり、表情を微笑に固定したグローセがこの艦隊の司令塔か。

 ならば説得すべきは彼女一人。言葉を重ねようとセントーも口を開く。

 

 だが言葉を紡ぐ前に、グローセの表情が強張った。

 

 振り返れば、ビスマルクと大鳳が驚きを隠せず目を瞠る。

 

 フリードリヒ・デア・グローセ、世界最強のKAN-SENの表情に──色濃い()()が浮かんでいた。

 一瞬遅れて大鳳が艤装を全力で稼働させ、ビスマルクを突き飛ばしながら水面を蹴立てて散開する。

 

 刹那──死が通過する。

 

 死線に慣れ、その超え方すら熟知したエンタープライズですら気付かないほど遠距離からの攻撃。監視任務に就き、直接的な殺意を久しく浴びていなかったロイヤル艦隊では察知は難しいだろう。

 グローセは怪物じみた予知で、大鳳は既知を以てビスマルクを伴い、その一撃を回避した。

 

 先んじて通過した万物を崩壊させる枢機の光は音も無くパーシュースとシュロップシャーを消し去り、続く大気の爆発が轟音と甚大な熱を以て残る二人──否、エンタープライズを加えた三人を呑み込む。

 大鳳とビスマルクの回避は、結果から言えば過剰だった。グローセは一歩も動いていないにも関わらず、破壊の余波で荒れ狂う海面の煽りを受け、服が濡れる以外の被害を受けていない。

 

 ボンドルドがローンに組み込んだ対()()攻撃兵装『火葬砲(インシネレーター)』。シグニット一人を狙うにはあまりに過大威力なその火砲は、ローンの索敵範囲内に存在したすべての()を一度に掃討した。

 

 グローセの表情が苦笑に歪む。

 馬鹿げた力だと感嘆するところだが、制御が甘い。ロイヤル艦隊はともかくとして、エンタープライズを巻き込んだのは完全に判断ミスだ。

 ユニオン陣営からの悪感情は確定。最悪の場合、ユニオン・ロイヤルの連合軍がレッドアクシズに敵対することになるだろう。戦力的にはそう脅威でもないが、人類同士で争っている場合ではない。

 

 覆水盆に返らず。グローセは嘆息し、ローンに説教の一つでも垂れようかと転進した。

 

 

 

 

 「プロット通り、進捗は理想的ね」

 

 一部始終を傍観していたテスターが呟く。

 手にした端末に状況報告を打ち込んでいると、背後に気配が生じる。

 

 「人類対人類の全面抗争。進化は競争によって加速する、だっけ?」

 

 つまらなそうに、頭の後ろで手を組んだピュリファイヤーが端末を覗き込んだ。

 

 「うわ、なにこのスコア」

 「あのローンとかいう架空艦のよ。このまま行けばグローセを超えるかもね」

 「ヤバ。……あれ? でも、それって停滞因子になるってことじゃないの?」

 

 テスターは両手を上に向けて肩を竦める。

 なんじゃそりゃ、と言いたげにピュリファイヤーは溜息を吐くが、そもそもセイレーンの司令塔はテスターではない。

 

 「その辺どーなの、レイちゃん。……や、スポンサー?」

 

 揶揄うように両手を向け、ニヤリと笑う。

 いつからか居たオブザーバー・零が無感動に見返すと、消沈したように肩を落とした。そもそもセイレーンの共有意識空間だ。いつでもそこにいる、というのが正しい。

 

 「いじり甲斐のない奴……ま、いいけど。それで? ローンちゃんは排除しなくていいの?」

 「できるの?」

 「あぁ?」

 「冗談よ。 ……そうね、今のところ、彼女は停滞因子とはなり得ないでしょうね」

 

 眠そうなその言葉に如何ほどの信憑性と正確性があるのか。

 テスターとピュリファイヤーは是非もなく頷いた。

 

 「いまは暴走……偏向回帰によって道を外れているけれど、脅威度自体はそこまで高くないわ。むしろ──」

 「余燼勢力の方が問題、ね」

 

 レイの言葉を引継ぎ、テスターが端末を操作する。

 空間上に複数の映像が映し出される。それらは全て灰色のKAN-SENで、中にはシグニットや飛龍のものもある。

 

 「『枝』の剪定が甘かったんじゃない? ……そういや、時間軸が揺れたってことはさ、あいつも起きるんじゃないの?」

 「どうでしょうね? 大樹の枷はアンチエックス最高峰の軛。それこそ鋏でも無いと切れないはずよ。ちょっと揺すったくらいで起きるかしら?」

 

 ちょきちょきと、片手でハサミを象るテスター。

 

 「それもそっか。……んじゃ、差し当たりは活動指針に変更ナシで?」

 「そうね。……あぁ、重桜の襲撃頻度を少し上げて」

 

 シグニットの襲撃とローンの一撃で甚大な被害を被った重桜だ。ここで手を抜くのは不自然だし、危機感を煽るにはちょうどいい。

 そう判断しての指示だったのだが、ピュリファイヤーは心底嫌そうな顔をした。

 

 戦闘狂の面を持つ彼女らしくない反応だが、理由に心当たりがない訳ではない。

 

 「黎明卿なら、今は北極海の氷山要塞よ」

 「()()()ってだけでしょ? ったく、他人事だと思って……」

 

 ぶつくさ言いながら出て行ったピュリファイヤーに、レイとテスターは顔を見合わせて苦笑した。

 

 

 

 

 




 あと画力と運命力と資金力も……

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