アズールレーン ─メイドインアビス─   作:志生野柱

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 不本意ながら、ロイヤル陣営が諦めかけていた“日没作戦”は成功した。

 全容不明ながら天秤を傾けうる大戦力とされていた奪取目標、架空艦ローンはMIA。重桜本土にはセイレーンの大規模破壊兵器が直撃したとされ、事実、海岸線は地図の修正が必要になるほどだ。

 

 レッドアクシズが二大巨頭、鉄血と重桜。その片方でも一時的に動きを封じ込め、第一目標であるローンの乖離を達成。

 

 さらに──

 

 アークロイヤルは嘆息を隠さず、一昨日から同じ内容を繰り返し報道しているテレビを一瞥した。

 どの局のどのニュースも、同じ映像を使い回す。映像のオリジナルはユニオン外務省。旧大統領邸(ホワイトハウス)、現統括管理官邸にて撮影されたその映像では、泣き腫らした目元に浮かぶ憎悪を隠すこともなく、吠えるように宣言するエセックスがカメラを睨み付けている。

 

 『我らが英雄、エンタープライズの意志は踏みにじられた。救援のため向かった重桜で、先輩は、助けるはずの重桜の手で沈められた。その代価は──必ず贖わせる。彼らの蛮行を、彼らの所業を、彼らの罪を、我らユニオンへの宣戦と判断し──ここに、それを受理する』

 

 エンタープライズの死。

 即時撤退技術を導入していなかったのか、それごと焼き払われたのか、無効化領域内だったのか。もはや理由などどうでもよく、ただ厳然たる事実として、ユニオンの英雄は沈んだ。

 数件ではあるものの殉死者すら報告され、ユニオンの民──KAN-SENは言わずもがな、人間にすら信奉されていたのだと判る。

 

 感情を剥き出しにしたエセックスの隣に、無表情の仮面を被ったフッドが並ぶ。

 彼女はロイヤル陣営統括管理官の代理──即ち、ロイヤル数千万の民の総意として、代弁者としてあの場に立っている。

 

 『我らロイヤル陣営は以前より、彼らとは異なる主義を掲げてきました。我々はユニオン陣営に賛同し──『アビス』に代わる新たなる共同体、『アズールレーン』を組織することを宣言いたします』

 

 『我々の目的はただ一つ。セイレーンの抹消──その技術を含めた、かの存在の根絶、絶滅です』

 

 ぶつ、と、画面が暗転する。

 最近の機種ではありえない不快な切断音は、電波そのものが遮断されたことに起因するものだろう。

 この旧『前線基地』は鏡面海域の中にある影響か、電波がかなり不安定だ。

 

 アークロイヤルは背もたれに体重を預け、目を閉じる。

 

 セイレーン技術の根絶。

 可能か不可能かで言えば、可能だ。だが──激情家のエセックスも、緊張屋のフッドも、我らが女王陛下でさえ知らない。

 セイレーンを根絶したら、その次に彼らが絶滅すべきは自分たちであるということを。

 

 無知は罪だ、と言うけれど。

 アークロイヤルはそれを赦す。その罪を自覚することもないまま、ただ平穏な日常を、平坦な道を進んでくれと願う。

 その道の外は自分が征くと。この身諸共に罪を焼く業火を篝火に、私が彼らを先導すると。そう決意した。

 

 「アズールレーン、か」

 

 アビスが抱えていた澱を排し、新生した“完全なる対セイレーン組織”。その技術をも否定する──その技術を使うレッドアクシズを、元アビスの同胞たちをも否定する。

 それならそれでいい。セイレーンという共通の敵が存在する今でもなお、人間同士の争いはある。その外敵を駆逐した後にそれらが加速するのは、それは止めようのない性だ。

 

 KAN-SENは兵器だ。人間の在り方を定義するものではないし、人間の在り方に流されるものだ。

 だが。

 

 「醜いものだ」

 

 自嘲を含んだ独白が、防音加工の壁に吸われて消えた。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 幸いにしてというべきか、『アズールレーン』の『レッドボックス』に対する攻勢は穏やかなものだった。

 前身組織である『アビス』の主要戦闘員はKAN-SENであり、人間の兵士といえば輸送要員か偵察要員で、航空機パイロットでもなければKAN-SENの護衛が付く。下手すれば警官の方が死亡率が高いかもしれない職種と揶揄されることもあった。

 

 そこそこしんどい訓練をやって、あとはKAN-SENに守られた輸送船の船室でカードゲームでもやっていれば給料の貰える仕事。そんな甘っちょろい「人類を守る軍隊」であったアビス所有軍、現アズールレーン所有軍は、3週間でその総数を30%まで減少させた。

 

 彼らの任務はそう過酷なものでは無かったはずだ。

 目標はボンドルドが所有する資源採掘プラントや製薬工場。KAN-SENは元より、PMCのような武装した護衛はイメージ戦略のためか使われていない。

 

 たとえば、ユニオン領にある製薬工場の接収。丸腰に制服を着せただけの警備員が数人立っているだけのそこを、戦闘ヘリや装甲車を擁する2個中隊約500人で包囲・制圧する簡単なお仕事。

 非武装組織相手に何を大袈裟な、と、現場指揮官は下された命令を鼻で笑いつつも従った。

 

 戦闘は火力が全てだ。

 人数に携行火器をかけた火力のスコアが3倍ならば絶対的優勢、6倍ならば確実に勝てる。

 従業員数50名ほどの製薬工場に機甲兵器込みで10倍の人数。煙草吹かしながらでも勝てる戦闘のはずだった。

 

 結果は──()()

 

 午後8時ちょうどに開始され、工場の完全包囲は8時8分。突入開始はその20秒後。

 1時間もしないうちに終わるはずだった。

 

 しかし、1時間経ち、2時間経ってもアズールレーン本部には連絡が入らない。

 何があったのか。まさかしくじったのかと確認を向かわせるが、その確認要員からの連絡も途絶える。

 

 リアルタイム映像を送るドローンを飛ばし、観測用ヘリを飛ばし、果ては戦闘機まで飛ばし、その全てが忽然と消える。丁度その辺りで観測衛星が作戦地域を映せる位置に来たので接続して見れば、当該工場の周りには部隊の痕跡どころか戦闘の跡すらなく、ボケっとした欠伸途中のマヌケ面した警備員まで見える。画像照合したところ、民間の派遣警備サービスの契約社員で何のヒントにもなりやしない。

 

 意味が分からん、本気で何があったのだと指揮指令室を出て行った作戦指揮官が失踪し──作戦の概要やタイムスケジュールなどを記した書類一式がエセックスの元に届けられた。

 

 公式指定の形式でサインまで入った作戦要綱。そのくせ上がってこない作戦の報告書。親族等からちらほらと寄せられる「「存在しない職員」と連絡が付かない」という旨の問い合わせ。

 なるほど、つまり。

 

 「その気になれば『消せる』と、そういうことか……」

 

 作戦が成功したのか失敗したのか。そもそも作戦は本当に実行されたのか。概要書通りの規模だったのか。もしそうなら、500人からなる機甲部隊を『消し去って』しまえる力があるということか。

 そんな都市伝説じみた恐怖は緘口令も虚しく拡散していき、結果──構成員の7割が休職あるいは退職という形になった。

 

 「黎明卿──存外にえげつないわね」

 

 

 

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