ヤンデレ胡蝶   作:ヤンデレ大好き丸

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今回も頭を空っぽにして見てください(土下座)







第二話 そこに二人のヤンデレがいるじゃろう?

 時刻は正午、陽の光が本格的に主張を始める時間帯だ。夏の熱と湿気を孕んだ風が部屋の外から吹いてくる。書類作業をしただけで汗が滲み、背中と脇と腹の辺りがじんわりと濡れてかなり気持ち悪い。

 

 その暑さは想像を絶するものであり、思わず部屋から飛び出すと部屋の前にはしのぶの継子である栗花落カナヲが待ち構えていた。

 

 

「どうしたカナヲ、俺に何か用か?」

 

 

 意志表示が苦手なカナヲが俺のところまでやって来るのは非常に珍しい。一方的に俺が話をするか、間がもたなくなってなんとなく頭を撫でてやるのがいつもの流れだ。

 

 ちなみにその様子を見た胡蝶姉妹はカナヲに嫉妬しまくっていた。私たちの頭も撫でてと、せがみまくって来たが断ってやった。

 ヤンデレ共を甘やかしたら最後、それこそ姉妹の暴走は更にエスカレートして俺の貞操を奪ってくるだろう。

 

 仮に奴らの要望に応えて頭を撫ででもしたら……

 

 

「水流くんが頭を撫でてくれたから私たちは相思相愛!つまり子供を作らなくちゃならない!!」

 

「姉さん、水流さんの食事に睡眠薬を仕込んでおいたので今頃、自室でぐっすり寝てます!その間に既成事実を作っちゃいましょう!!」

 

「そうよね、しのぶ。水流くんは奥手だからそれくらいしないと駄目よね!」

 

「水流さんとの子供は何人につくります?」

 

「とりあえず最低二桁は欲しいわー!私と水流くんの子だもの、きっとお淑やかで逃げ足の速い子に育つわ!」

 

「水流さん、あなたが私たちのパパになるんだよっ!」

 

 

 

 

 

 

 うっぷ……想像しただけで吐き気がヤバい。やっぱり、今日のうちに逃げないとマジであの二人は既成事実を作りかねない。

 

 

 そんな俺の心情とは裏腹にカナヲは銅貨を投げる。このコイントスは自分で意志を決められないカナヲが運に任せて行動を決めるためのものだ。今回出たのは裏、それが意味するものは彼女本人しか分からない。

 

 

「師範から鱗滝様が逃げ出さないか監視をするように頼まれました」

 

 

 どうやら今のコイントスは表が話さない、裏が話すという内容だったようだ。それにしてもしのぶの奴め、俺が常日頃から逃げ出そうとしてるみたいに扱いやがって。

 

 二週間前に七日連続で脱走したのが気に食わなかったらしい。結局、全部捕まったんだから水に流して欲しい。元水柱だけに。

 

 あっ、ちょっと周りの空気が涼しくなった。

 

 

「そうか、今日は逃げ出す気はないから監視なんかしなくていいぞ。外で遊んで来なさい」

 

「嘘、逃げ出す気満々。この前そう言って逃げ出したことを私は忘れてません」

 

 

 既にバレてらぁ!!

 以前までは撒くのが容易かったカナヲも最近になって手強くなってきた。どうやらカナエとしのぶに俺を逃さないよう鍛錬をつけてもらっているようだ。もはや俺にはカナヲが剣士ではなく追跡者にしか見えなかった。

 

 今日の午後に脱走を図っていたのだが、どうにかしてカナヲを上手く対処しないとすぐに悪魔の姉妹の元に連行されてしまうだろう。

 

 

「うむ、今日はもう仕事を終わらせてしまったし……やることがないな」

 

「じゃあ脱走する?」

 

「あれ、もしかしてカナヲって俺のこと暇さえあれば脱走する人間だと思ってる?」

 

「違うの?」

 

「違うよ!?」

 

 

 カナヲは大きな勘違いをしている。

 俺がいつも胡蝶姉妹から逃げ出そうとしていると思っているのは大間違いだ。

 

 そもそも俺はこの蝶屋敷を愛しているし、あの二人のことも大好きだ。そもそも胡蝶姉妹とは長い付き合いだ。

 ただ彼女らの俺に対する度が過ぎる接し方が生理的に受け付けられない。

 

 例えば街で彼女たちと歩いているとき、つい俺が美しい女性を見つけてそのお方を眺めていると二人は火山が噴火したかのように怒り狂う。

 

 これが恋人や婚姻関係を結んでいるのであれば話は分かる。そうだとするのならば非があるのは俺の方だから謝るべきだろう。

 

 だが俺たちはそういう関係でもなく、肉体関係を結んだこともない。であるならば悪いのは俺の方ではない。

 

 一方的に自分たちがそういう関係であると思い込んで暴走しているのはあちらの方だ。  

 俺は二人に愛の言葉を囁いてたり、勘違いをするようなことは一切していない。

 

 だというのにあの日を境に彼女たちはヤンデレになってしまい、俺を束縛し始めたのだ。そんなヤバいやつらから逃げだしたくなるのは当然の帰結だ。

 

 

「することがないのならそうだな、稽古でもつけてやろう」

 

 

 いつもなら蝶屋敷から抜け出す際は気配を殺してこっそり行くか、持ち前のスピードを活かした逃走劇を繰り広げるのだが今回は違う。しのぶの命でカナヲが監視に来ている状況で普段のように逃げていてはすぐに捕まる。

 

 ならば稽古という名目上でカナヲを疲弊させ、体力を奪う。そのどさくさに紛れて彼女の意識を刈り取った上で逃走するのだ。

 まして今日は猛暑日。こんな炎天下の中で稽古なんかしたらこちらに注意を向ける余裕などなくなる。完璧だな。

 

 

「結構です」

 

「一応聞くけど……なんで?」

 

「稽古で私を疲弊させた隙に逃亡する魂胆が見え見えだからです」

 

 

 おい、しのぶぅ!お前の継子が有能過ぎて全く撒けねえぞ!!

 きよちゃん、なほちゃん、すみちゃんみたいに「逃げ出していい?」って聞いたら「いいですよ、どうせ捕まると思いますけど」って言ってとりあえずチャンスを与えてくれる優しい子に育てなきゃダメでしょうがぁ!

 

 

「というかさっきから逃げないと言っておきながら本気で逃げるつもりですね。こうなった以上、私にも考えがあります」

 

「実力行使か?ふん、いくら剣士として素質があるとはいえ、お前が相手にしているのは元柱だ。俺に勝てると思っているのか?」

 

「いえそこまで私は自分に自惚れてなどいません。ですので」

 

 

 カナヲの口ぶりはいかにも自信に満ち溢れている。カナエやしのぶから言い渡された極秘の策でもあるのだろうか。何が来てもいいように警戒態勢を厳にする。

 

 

「貴方の後ろにいるカナエ様に捕まえてもらいます」

 

 

 はっ、でまかせを言うとはカナヲも随分とユニークな子に育ったものだ。カナエが後ろにいると嘘をつき、それにびびった俺が振り向いた瞬間に奇襲を仕掛けようとしたのだろうが……残念だったな、こちらの方が一枚上手だ。

 

 

「水流くん、こっちを向いてくれるかな?」

 

 

……聞こえない、カナエの声は聞こえてない。昨晩、目隠しをされて気を失うまでずっと耳元で「大好き、愛してる。だから子供作ろ?」って囁かれ続けたから幻聴が生じてしまっているんだ。そうに違いない。

 

 

「鱗滝様、無視してないで後ろを見たらどうですか?」

 

「……その手には乗らんぞ」

 

「どうしても後ろを向いてくれないのなら向かせれば良いだけだよね、えいっ!」

 

 

ゴキッッッ

 

 人の首から絶対に聞こえてはいけない音を奏でながら俺の視界は180°回転する。

 その先の視野に入って来たのはーーーー

 

 

「こんにちは、水流くん!」

 

 胡蝶カナエ様だった。

 どうもこんにちは、会いたくなかったです。

 

 

「もう逃げ出そうとしたでしょ。駄目だよ、今日この蝶屋敷から逃げ出そうとしたら四肢を斬り落とすって、しのぶと話して来たばかりなんだから」

 

 

 とんでもない爆弾発言が投下される。童貞を奪うとか婚姻を結んだ関係だとか生優しいものではない。もうこれ以上逃げ出せないように四肢を落とすとか、分かりきってはいたが胡蝶姉妹は人間を辞めている。

 正直言って鬼より鬼らしい。もう人間を名乗るのは無理があるだろう。

 

 

「その場合だと四肢どころか命ごと落としそうなのですがその件については無視ですか?」

 

「大丈夫、私としのぶならきっと水流くんの命を助けることが出来るよ!」

 

「カナヲ、助けてくれぇぇぇぇぇ!!ヤンデレ胡蝶姉妹に殺されてしまうぅぅぅ!!」

 

「ご冥福をお祈りします」

 

 

 貴様ぁぁぁ!今している蝶の髪飾りを買ってあげたのは俺でしょう!?

 いつも大事そうに手入れしてるの実は知ってるんだからな!!

 せめて助ける素振りだけでも見せてくれてもいいだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 

 

「あっ、鱗滝様にカナエ様だ。今日も仲がいいですね」

 

「きよちゃん、なほちゃん、すみちゃん!この悪魔から俺を解放してくれぇぇ!!」

 

「「「お労わしや鱗滝様」」」

 

 

 蝶屋敷唯一の良心であるはずの三人娘たちに早々と見捨てられる。初めて出会った頃はあんなに純粋で良い子たちだったというのに今では随分ドライな性格になってしまった。

 

 もう俺を救ってくれる人はいないのか……?

 

 

「騒がしいと思ったらまたですか……カナエ様、鱗滝様から離れてください。嫌がってますよ?」

 

 

 来た!常識人(アオイ)来た!これで勝つる!

 

 

「そうなの?てっきり喜んでるかと……」

 

 

 どんな目をしてたら喜んでいるように見えるのか小一時間ほど問い詰めてやりたいところだが、精神的にまいって心が悲鳴を上げているためそれどころではない。

 

 

「もうすぐ22歳になられるお方が本気で涙を流しているのですから気付いてください」

 

「そういえばそうね。私が悪かったわ、アオイちゃん。次はもっと上手くやるわー」

 

「えっ、次あるの?」

 

「もちろんよー?」

 

 

 

 

 

 

 スイリュウは

 めのまえが まっくらに なった!▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 










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