今日も夏は終わらない   作:だるまや

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第1話

俺が目を開けると、そこには知らない女性が笑顔で立っていた。パッと見可愛かったが、生憎照れる程自分の気持ちは今冷静ではない。周りを見渡して見るに、どうやら自分はどこかの寝室に寝かされていたようで、背中にはふかふかとしたベッドがあることがわかる。小綺麗に片付けられている10畳程の部屋にはベッド、机、本棚ぐらいしかなく、まるでガリ勉くんの勉強部屋といった風情で非常に簡素だ。

 

 ともあれベッドから俺は起き上がると、素直に疑問をぶつけてみた。

 

「…。あんた誰だ?」

 

「あらあら?提督は寝ぼけてらっしゃるのですか?私の名前は大淀ですよ?」

 

「大淀?変わった名前だな。じゃあもう一つ聞くがここは一体どこだよ?しかも提督ってなんだ?もしかして俺のことか?」

 

 大淀が困ったように笑うが、泉自身矢継ぎ早に疑問が湧いてきてそれどころではない。ついつい態度も喧嘩腰になってしまう。

 

「提督ったら、からかっているんですか?あなたは今日付でショートランド泊地に赴任する、日本帝国海軍所属泉俊介少佐でしょう?」

 

「おいおい、ちょっと待ってくれ。あんたが言った言葉で唯一合ってんのは泉俊介ってことだけだぞ。俺がいつ海軍なんかに入ったんだよ?]

 

「正確には一年ほど前でしょうか。士官学校を卒業してからは…、そうそう!横須賀鎮守府で艦娘の知識や運用方法を学んでいたはずですよ?」

 

 大淀は持っていた書類に目を通し、泉の態度を不思議に思いながら伝えた。しかし泉は大淀の言葉がすんなりとは耳に入ってこなかった。

 

 

(どいういうことだ?俺は確かにあの事故で死んだはずだ。なのにこうして生きている。まさか漫画みたいに別世界へ転生したってことか?じゃあここはなんなんだ?そんなことありうるのか?だめだ、意味がわかんねえ。)

 

 

 俺は結論の出ない考えをやめると、とりあえずは彼女に聞いてみることにした。なにより一番知りたかったことを。

 

「わかった。じゃあもうひとつ聞かせてくれ。あんた楠悠佳ってやつを知らないか?髪を結んでて、こうちっちゃくて、女みてえな顔をした男なんだが」

 

 

 身振りを交えてはいるが、泉の的を射ない表現に大淀は首をかしげつつも、その問いに答えた。

 

 

「くすのき?さんですか?少なくとも私が知る限り思い当たる方はいらっしゃいませんけど…。誰かお知り合いの方ですか?」

 

 

 

 淡い望みを込めた質問は、虚しく潰されてしまった。もちろんこの場にあいつがが居ない以上、最も考えるべき事実であった。しかし俺は心のどこかでそれを否定していた。そしてその言葉は自らの孤独を実感することとなった。しかしそれさえわかれば、ほかは半分どうでもよかった。まずはこの人に自分の身に起こったことを説明する他に手段がない。

 

 俺は腹をくくると一つ息を吐いて言葉を吐いた。

 

 

「いや、知らないならいいさ。とりあえず、大淀さんだっけ?あんたに聞いて欲しいことがある。まあどうせ信じてもらえるとは思っていないが」

 

 一言余計に言葉を付け加えて、自分の身に何が起こったのかをありのまま話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…そして目が覚めたら、この有様だ」

 

 私は目の前にいる提督から耳を疑うような話を聞かされた。

 

 要するに今目の前にいる「彼」は本来生きていた世界で交通事故に遭い、死んだと思ったらこの世界に生き返ったということらしい。

 

 最初から信じることはできなかったが、細かい話しぶりを聞く限り、とても冗談で話しているといった雰囲気は感じない。彼の言うことは多分本当なのだろう。

 

 もちろん確証があるわけではないが、まず私の知っている提督はこんな冗談をいうほどくだけた人じゃないし、口も悪くない。

 

 そこで私は彼の言葉を信じ、”こちら”の日本における緊急事態を説明することにした。どうであれ彼はこのあと提督として前線に赴くのだから知る権利もあるだろう。

 

「そうですか…。あなたはつまり違う世界から私たちのもとへ”転生”してきた、というわけですね?」

 

「信じたくはないが、そういうことになるんだろうな」

 

 舌打ちをしながら極めて不機嫌そうに彼は認めた。何をそんなに苛立っているのだろうか?

 

 

「でしたら、その言葉を私は信じたうえで、この世界で今起きていることを簡単に説明したいと思います。可能性の問題ですがこの話を聞くことで、あなたの元の世界へ戻ることができなくなるかもしれません。それでもよろしいですか?」

 

 

「ああ。今更戻ったところで地獄に行くのが関の山だ。聞かせてくれ」

 

 彼は少し悲しそうに笑いながら、極めてどうでもいいといった感じでそう答えた。先ほどの楠という人物が関係しているのだろうか?あの表情は見ていて少し痛々しさすら感じる。だがそれは私にはわからないことなのだろう。私は頭を切り替えて話をすることにした。

 

「…この世界では人類の存在を脅かす存在がいます。その名も深海棲艦。彼らは突如世界の様々な海に現れて人を襲い始めました。各国は力を一つにして戦ったんですが、奮戦虚しく敗退を余儀なくされました…」

 そう。いま世界は危機に瀕している。10年前、太平洋沖を航行中だった日本の新鋭イージス艦「さざなみ」が謎の生物に襲われ轟沈した。通称「八八事件」である。それからたった数日で、その生物は次々と世界の各水域を侵略し始め、人類は陸地への退避を余儀なくされたのだ。もちろん各国は自分たちの国に威信にかけてこの生物を駆逐するために躍起になったが、瞬く間に漁礁へと姿を変えてしまった。

 

 ある国は自国内の植民地におびき寄せ、核を起爆する暴挙に出たが、結果としてそれは失敗し、焦土と世界の非難を生むだけであった

 

「そこに救世主として現れたのが艦娘という存在です」

 

「艦娘?なんだそれは?」

 

「我が大日本帝国海軍の艦艇の魂を受け継いだ、人型兵器ですよ。こちらをどうぞ」

 

 持っていた書類を渡すと、泉は訝しげにそれを見た。

 

「これは…。普通の女の子じゃないか。もしかしてロボットなのか?それにしてはリアルすぎるぞ」

 

「未だに我々もその全ては知り得ません。しかし分かっているのは、彼女らは人間とほぼ変わらない姿でありながら、深海棲艦に唯一対抗できる存在だということです」

 

 5年前、各国の対抗策も底を着き、世界はすべてを諦めかけていた。そんな時人類の前にある存在が現れた。妖精さんである。どこからやってきて何が目的だったのかはわからないが、彼らははっきりとこう言ったのだ。

 

「「砂糖くれるです!」」

 

 いよいよ持って世紀末かと皆思い始めたが、半ば自暴自棄になりながら角砂糖を大盤振る舞いした。すると、彼らは大喜びし翌日再び現れた。一人の少女を連れて。

 

「はじめまして、吹雪です。よろしくお願いいたします!」

 

 現れた少女は、自らを帝国海軍が所有していた駆逐艦吹雪の生まれ変わりだ、と説明した。まったくもって意味がわからないので、砂糖を与えながら妖精さんに話を聴くと、砂糖をもらってテンションが上がった彼らは鎮守府にある資材を用いて外見を作り、そこに艦の魂を吹き込むことで彼女を作ったらしい。しかも彼女が言うには深海棲艦と互角に戦えるというではないか。当初、軍上層部もまさかのファンタジー要素に耳を疑ったが、吹雪のやる気と藁もすがる思いで出撃させたところ、小型の敵(今はイ級駆逐艦に分類されている)を2隻も倒したのだ。これに味をしめたのか、政府は定期的に角砂糖を妖精さんに渡す「シュガー協定」を結び、妖精さんは艦娘を建造、軍は彼女らを鎮守府に配属し少しずつ勢力を取り戻していったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…というのがこの世界で起きた大まかな出来事です。お分かりいただけましたか?」

 

「ちょっと待て。途中まではまだまともだったが、妖精がでて来てから世界観ぶち壊しじゃねーか!」

 

「そう言われても…。事実なのだからしょうがありませんよ」

 

 泉のツッコミに対して、大淀も苦笑いで返すほかない。

 

「ちなみに言うのを忘れていましたが、私もその艦娘の一人ですよ?」

 

 大淀は戦闘こそ行わないが、艦娘の人類の橋渡しや、事務など裏方の仕事をこなす立派な艦娘である。

 

「マジかよ!?そういうことは先にいってくんねーかな!?」

 

 さっきまでのシリアスな展開が台無しである。泉があまりの急展開に頭を抑えていると大淀はこう続けた。

 

「そしてあなたには、今日付でショートランド泊地に向かっていただき、艦娘を指揮する提督として着任していただきます。頑張ってください」

 

「はあ!?ちょっと待ってちょっと待って?俺ががその提督になんの?!」

 

 大淀はそう言うときりっと敬礼をして泉の方を向いた。綺麗な海軍式の敬礼である。しかし泉は大淀から衝撃的な一言を聞いて、意味がわからなかった。流石に話は理解できたが、なんでその役目が自分なのか納得もいかない。そもそも自分はそんな厄介事には関わりたくもないし、勝手にやってほしいのが本音だ。

 

「そんな勝手に決められても、行くわねーだろ!大体あぶねーじゃねーか!」

 

「あら?じゃああなたはこの世界でどうやって生きていくんですか?あなたが泉俊介である以上、もし逃げ出せば軍法会議で死刑はまぬがれませんよ?」

 

「そ、そうだけどさ。し、死刑かよ…。そんなマジか…」

 

 死刑とういう重い言葉に、泉も顔が青ざめる。流石に二度も死ぬのはゴメンである。

 

「確かに責任の大きい仕事ではありますが、海軍としても、艦娘としてもあなたを全力でサポートします!是非受けてはもらえませんか?」

 

 大淀は真剣な顔でそう述べると深く、頭を下げた。泉としても選択肢はないようなものだし、なによりここまで頭を下げられて断れるほど非情な人間ではない。

 

「…わかった。よくわかんねえけど、ここまで来たらなんでもしてやるよ。今更帰る場所もないしな

 

「そうですか!ありがとうございます」

 

 渋々といった表情で了承すると、大淀はほっとしたのか嬉しそうに笑ってみせた。その笑顔は泉の中で、なぜか最近見たことのある誰かの笑顔と重なった。泉にはその笑顔を見るのが苦しかったため、急いで話を戻すことにした。

 

「しかし、なんでそこまでして俺に頼むんだ?元の中身とは違うわけだし、あんたも困るだろ?」

 

 そう言うと大淀は少し困ってしまった。確かに泉の言うとおり頭を下げてまでお願いするのは妙であるが、大淀ははっきりと断言した。

 

「現実として深海棲艦は飽和的に増え続け、私たちも頑張ってはいますが膠着状態にするのがやっとの状態です。そもそも艦娘を扱える人材が少ないので、猫の手も借りたい状態なんですよ。それにこの短い時間でしたが、あなたには艦娘を指揮するのに適役だと私は思いましたから」

 

「は?どこがだよ?自分で言うのもアレだが、大したことはできないと思うぞ?」

 

 はにかみながら答える大淀に、泉は戸惑ってしまった。どこをどう見たら適役になるのか泉は全くわからなかったからし、その期待が恥ずかしかった。

 

「まあまあ。理由は秘密ですが、あなたならきっと大丈夫です!頑張ってください」

 

「…何を隠してるのかわからないが、ほんとに期待だけはするなよ?なんせ何やるかもわかんないだからな?」

 

 あくまで念を押すと、大丈夫といった表情で大淀は話を続けた。

 

「提督の業務内容は、ショートランドへ着くまでにある程度私が教えますから安心してください。もし分からなくても、現地にいる秘書の艦娘が補佐してくれているので」

 

「え?もう現地に誰かいるのか?」

 

「ええ。あなたの記念すべき一人目の艦娘が待っていますよ」

 

 そう言われると、にわかに泉もそわそわし始めた。なんせこの小一時間で訳も分からず、戦いの前線に送られるのだから顔が引き攣るのも無理はない。

 

(大丈夫か…?まあ、なんとかなるか。今更慌てても仕方ないしな…)

 

 内心気持ちを抑えると、一つ疑問を大淀にぶつけてみた。

 

「ちなみにその艦娘ってのは誰なんだ?教えてくれよ」

 

「ええっとですね…。あ!この子です。駆逐艦ですね」

 

 大淀が持っていた写真を見せてもらうことで、泉はまた衝撃を受けることになる。なぜならそこに写っていたのは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一緒に死んだはずの楠悠佳だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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