一一〇〇。いつものように執務室で仕事をこなしていると時雨が誰かから来た電話を受け取ってそう言った。先日、やっとの思いで製油所地帯沿岸の制海権を取り戻したため、今日も今日とて特に出撃の予定はなくのんびりとした時間が過ぎていたが、急な申し込みなのでびっくりしてしまった。どうも話によるとラバウル基地の精鋭艦隊が視察がてら力試しをしてやるという腹づもりらしい。
「うん。予定では戦艦1、空母1を基幹とする総合演習みたいだね」
「ちょっと待てよ。俺たちの基地に戦艦どころか空母すらいないぞ?どうやってやるんだ?」
そう、自慢ではないがこの基地にはまず四人しかいない。実は資材は大切に使ったほうがいいとの時雨のアドバイスから、攻略作戦で行き詰まるまで建造は控えていたのだ。みんなの練度も上がってきていて、近い海域ならば被弾して帰ってくることも少なく順調に進んでいたのでこんなイレギュラーは予想外である。
「僕もそれを伝えようとしたんだけどね…。なんせ向こうがまくし立てて切られちゃったから、説明できなくて…」
時雨も困った表情していることから、相当向こうも強引に頼み込んできたようだ。
「全く大変だったな。ちなみにいつこっちに来るんだ?」
「一週間後だよ。しかしよりによってあのラバウル基地だなんて…」
「なんだ?なにか嫌なことでもあったのか?」
今度は苦虫を噛み潰したような顔を見せる時雨だが、なにかあったのだろうか?確かラバウル基地といえば海軍きっての要衝で戦力も十分、南方海域奪還作戦の攻略すら任されているエリート中のエリートだったはずだが。もちろん情報は大淀からの受け売りだけど。
「いや、これは以前聞いた話なんだけど…。まず提督は、ブラック鎮守府って言葉知ってるかな?」
「?聞いたことないな。どう言う意味だ?」
「ブラック鎮守府。簡単に言うと僕たち艦娘を道具のように扱って戦果をあげる鎮守府のことさ。被弾したり、疲れが溜まってもひたすら休むことなく出撃させられ、気づいたときには海の底に沈んでいるっていうとんでもないやり方なんだよ」
「そりゃ…なんともひでえな。沈んでっていいのかよそんなことして?」
「まあ、僕たちは一応兵器だからね。軍の中にもそういった効率重視の考え方が根強いのも確かだよ」
少し諦めたようにそう言う時雨だが、内心ははらわたが煮えくり返る程怒りに満ちていた。確かに自分たちは紛れもない兵器であり、無限に増え続ける敵を倒すために戦う存在かもしれない。でもだからといって文字通り死ぬまで戦わせることは許せなかった。自分たちだって被弾をすれば痛みを感じ、沈む瞬間はこの世とは思えない恐怖を味わうことになるのだ。確かに沈んでも替りはいるのかもしれない。だが死ぬのも事実なのだ。そんな存在すら否定される考え方が蔓延していることが信じられないし、悲しかった。まあそれに関していえば提督はすぐサボるし、全然朝起きなくて大変だけど自分たちのことを第一に考えてくれる。だからこの人についていくことに決めたのだ。
「しかしそんなやつと演習だなんてまっぴらゴメンだ。なんとかならんのか?」
「なんせ向こうの方が階級が上だから難しいよ。僕としてはなんで僕たちと演習を申し込んできたのかが不思議だけど…」
言われればそうである。着任してから三週間、未だ戦力が揃っていない新人提督に申し込むメリットがあるのだろうか。もし手取り足取り戦い方を教えてくれるのならそれは非常にありがたいが、ブラック鎮守府の提督ならば、その可能性も低いだろう。
「まあ意図はわからんが、いずれもう一度挨拶がてらこっちから連絡してみるわ。それよりもやばいのは戦力だぜ?どうするよ?」
「とりあえず妖精さんにお願いしてみよう。それに空母や戦艦が加わるなら戦い方も変わってくるしね」
「そうだよな〜。じゃあ一応みんなには後で伝えておいてくれ。いろいろじゅんびがあるしな」
「わかったよ。じゃあ提督は工廠へお願い」
「りょーかい。じゃあ後でな」
そう言うと時雨はみんなに知らせるため部屋から出て行った。さてそろそろ自分も行かなければ。
その後妖精さんに依頼しにいくと、相当いいことがあったのかやたらとテンションが高く喜んで引き受けてくれた。中にはハチマキを締め直して円陣を組みだしたやつまでいるので期待できるだろう。話によると一八〇〇には建造が終了するらしいのでその時間に工廠前に集合することをみんなに伝えて残りの仕事を片付けることにした。ちなみに何もないときほかのみんなは何をしているかというと、球磨はひたすらごろごろ冬眠したかのように惰眠を貪り、摩耶は本土から届いた恋愛小説を興味深々に読みあさり、夕立は非番の妖精さんとかくれんぼをしていた。さすがにここまでだれているのはどうかと思う。
そして一八〇〇。みんなでいつものように摩耶と喧嘩しつつ、夕立を構いながら工廠前で待っているとついに妖精さんが奥から連れてきたようだ。
「翔鶴型航空母艦1番艦、翔鶴です。瑞鶴とともに頑張ります!」
「私が、戦艦長門だ。よろしく頼むぞ。敵戦艦との殴り合いなら任せておけ」
「ああ、よろしく頼む。俺が提督の泉だ。見ての通り人数が少ないからな。頼むぞ!」
そう言って二人と握手をしていると後ろの四人が唖然としていた。何をそんなびっくりすることがあるのだろうか?確かにきっちり要求通りだが、他になにかあったのだろうか?
「ま、マジかよ。翔鶴と長門さんを引き当てるなんて」
「しかも一発クマ。こんなのほかの提督が聞いたら卒倒するクマ」
「提督さん、すごいっぽい!」
「なんだ?そんなすごいのか?」
てっきり何かやらかしたのかと思ったがそうではないらしい。
「ま、まあね。でも僕も会えて嬉しいよ」
時雨がそういうと、堰を切ったようにみんなで軽く自己紹介した。どうやらみんなもすっかり打ち解けたようだ。そして時間も時間、夕食時になったため、いつものように摩耶の提案で歓迎会を行うことになった。もちろん今回は奴が現れることはない。
そしてみんなで食事をしているとき、話題がちょうど演習の話になった。ちょうどいい、説明しとかないと時間は限られている。
「演習ですか?」
くるくる器用にスパゲッティの回しながら上品そうに食べる翔鶴が、少し驚いたようにこちらの方を向いた。
「ああ、朝連絡があってな。翔鶴と長門にも悪いが出てもらう必要があるんだ。なんせ戦艦と空母を編成しろって命令なんだ」
「私は一向に構わないぞ。連携などやらねばならないことがあるが、この長門が提督に勝利をプレゼントしよう」
食べていたうどんをすするとさも当然といったように断言する長門。翔鶴も特に異論はないようだ。
「私も大丈夫です。皆さんよろしくお願いしますね?」
そう言って快く了承してくれる長門と翔鶴を見て軽く感動を覚えてしまった。時雨こそまともな奴だが残りの3人は一癖も二癖もあるためこうした優しさは素直にうれしいし心に来る。
「そう言ってくれると助かるよ。後で詳しい編成や、情報は向こうから聞くがとりあえずは力が出せるように頑張ってくれ」
そうして歓迎会もお開きとなり明日の予定をみんなに伝えたあと、ひとり執務室にもどってラバウル基地に関する資料を俺は見ていた。本来なら時雨も遅くまで手伝っていることが多いのだが、ひとりでどうしても調べたかった。なぜならどうも嫌な予感が拭えないのだ。唐突な演習、ブラック鎮守府だという噂、答えこそ出ないがきな臭さがプンプンしている。
そこでみた事実は、艦娘ではない自分が見ても悪寒がするほどのものだった。
一昨年、建設されたラバウル基地は今までで三人の提督が入れ替わっているようだが、轟沈の数が爆発的に増えたのが現在の提督「嬉野 晃嗣」なってからだ。資料によると嬉野は江田島の海軍兵学校を主席で卒業したエリートであり、以前は海軍の参謀として要職を歴任している。そして45になった去年、ラバウル基地の提督になったようだ。しかしそのエリートのプライドがそうさせたのだろうか、戦果を上げるために犠牲にした数は18にも及ぶ。資料からはそこまでしか読み取れなかったが想像するのは容易だった。
「予想以上だな…」
これならあの時雨の怒りに満ちた目も納得がいく。轟沈することが何を意味するかおおよそ大淀から説明を受けていたが、だからこそこの数は異常だと自分でもすぐわかった。いったいラバウルでは何が起きているのだろうか?何を思い生活しているのだろうか?
しかし結論は出ない。なにせ情報がないのだからいかんともしがたい。こうなったらあいつに電話するか。
「ああ、大淀か?俺だが…」
「ああ、提督。お久しぶりです。どうかしましたか?」
「いや、お前嬉野ってやつ知ってるか?ラバウルにいる提督なんだが」
「あ!いまそれに関する仕事をやっていたんですよ」
「どういうことだ?」
「実はですね…」
「…なるほどそういうことか。結果がわかるのはいつごろだ?」
「三日もあればなんとか…。でもこの情報どうするんですか?」
「なに、万が一の時のための保険だよ。もしまたわかったら連絡してくれ」
「分かりました。提督もお元気で」
大淀との電話である真相をつかみつつ、ついに演習の日を迎えることになった。
「いやはや、出迎え済まないな泉少佐」
きたる演習当日。飛行場で俺と時雨は炎天下のなか嬉野を迎えていた。本来ならばこんなことはしたくないのだが、向こうの階級が少将ともなれば致し方ないのだの時雨に説得されたため渋々表情を作っているというわけである。
大きな音を鳴らしながらラッタルから降りてきた嬉野は、この暑い中軍服を完璧に着こなしその禿げかけた七三の髪をワックスか何かでがっちり固めている姿から、相当プライドを持つ人間だということがすぐわかった。目は官僚特有のような汚れ切っているのも印象深い。
「いえ、わざわざご足労いただきありがとうございます」
こんな敬語死んでも使いたくないのだが、向こうの階級が以下略。
ともあれ演習場を目指しつつ、基地を歩いていく。黙ってついてくる時雨も内心嬉野を軽蔑した目をしているが表情は完璧なのでやつが気づくことはない。
「ふむ。なかなかに設備は揃っているようだな。今戦果はどのくらいかね?戦力は?」
よっぽど自慢したいのかそんなことばかり聞いてくるのが非常に鬱陶しいが、答えるほかない。
「今のところ近くの製油所地帯までは奪還致しました。このまま来週をめどに防衛線まで攻略したいと…」
「ああ、もうわかった。しかしこんな素晴らしい基地をもらいながらその程度では全く評価できんぞ?私などこの前…」
人の話を切っておきながら案の定自慢と嫌味を繰り返してくることにイライラを隠しつつ必死にこらえているとついに演習場に到着した。がしかしそこで見た嬉野の艦隊をみて思わず自分の目を疑った。いや信じたくなかったのかもしれない。
なぜならそこにいた艦娘たちは最低でも小破しているのがみてわかるほどボロボロだったのだ。顔には全く精気がなく、目はこちらが見ても痛々しい程辛そうで、とてもこれが艦娘のあるべき姿だとは思いたくなかった。
「すまんな、生憎第一艦隊を呼ぶ程余裕がなくてな。予備のやつらだがそこそこ君たちの相手にはなるだろう?」
そう言いながらこの姿が当たり前のように笑う嬉野を見て、よく自分がぶん殴りそうになるのを抑えたものだと思う。時雨も珍しく感情をあらわにしつつあったが、目の前のバカはそれに気づくこともなく延々と何かを喋っていた。そんなこともう聞きたくなかった。
「こちらのメンバーは瑞鶴、金剛、北上、電、鈴谷の五名だ。そちらは六名で構わん」
「そうですか。ありがとうございます。ではこちらの艦隊を呼んできますので準備をお願いします」
もはやロボットのようにはなさなければ感情を爆発させてしまいそうだった。よりによって瑞鶴などたしか翔鶴の妹ではなかったか?あんな姿を何も説明せずに見せるわけには行かない。
そう思うと、急いで時雨と共に食堂に待機しているみんなのもとへ向かった。
「そんな、瑞鶴が…!提督ホントですか!?」
食堂にいたみんなにありのままを伝えた。悲惨で言葉にするのも反吐が出たが、みんな黙って聞いてくれたおかげでなんとか落ち着いて話すことができた。
「ほんとだ。あんなこと信じたくないがな」
翔鶴も妹の悲惨な現状を聞き取り乱さざるを得なかった。隣にいる摩耶も拳を震わせていて、相当とさかにきていることが見て分かる。
「提督どうすんだよ!?あんな奴のところに放っておけってのか!!!」
「やめてよ摩耶。僕たちだってなんとかしたいんだ。でもどうしようもない」
「なこといったって…!」
「摩耶やめろ。違う基地に生まれてしまったその不幸を呪うしかない」
「!…クソが!!!」
摩耶のぶつけようのな怒りが、空気を重くしていた。艦娘としての痛みを知るからこそ黙ってはいられないそんな気持ちが余計辛くみんなにのしかかっていた。
しかしその空気を感じ俺はあることを実行することを心に決めた。こんなどうしようもない事態を救うために。しかしそんなことをやってしまえば、やつはもちろん軍上層部すら敵に回すのかもしれないのだ。でももう我慢の限界だ。ありきたりな正義感ではなくただただあのハゲをぶっ潰すために、俺はすべてをぶっ壊すことにした。
その後予定通り演習が始まった。そして結果だけ言えば俺たちが圧勝した。まともに補給も受けていないのか、動きは重く長門や翔鶴の攻撃が的のようにあたってしまうのだから当たり前である。しかしそんな光景が目に前にあるのに、未だ自分の権力や強さを誇示し続けてくる嬉野にはもうなにも思わなくなっている自分がいた。そんな時嬉野がこう言ってきたのだ。
「少佐、後で話がある」
演習後、執務室には両者の艦隊全員、嬉野、俺が全員集まっていた。理由はさきほど嬉野が呼んだからなのだが、嬉野は一体何の話をしようというのだろうか、当の本人は優雅にソファーに座りタバコをふかしていた。後ろにいる仲間の視線すら全く気にせずに。その姿はもはや滑稽ですらあった。
「今日はありがとうございました。おかげで大変有意義な時間を過ごすことができましたよ。ところで話というのは?」
早速嬉野に聞いてみると、待っていたと言わんばかりににやりと笑い始めた。
「そうだったな。実はだ、君のところの艦隊をうちにくれないか?」
「…どういうことですか?」
一体何を考えているんだこいつは。そんなことできるわけないではないか。後ろのみんなも不安そうに顔を見合わせている。
「何、うちは今度南方海域の最深部に突入するんだが戦力が足りなくてな。君のところの艦隊が欲しいんだよ。長門や翔鶴がいるのは好都合だ」
そう言って汚く笑う嬉野が今日一番気持ち悪く見えた。
「まさか断るわけないよな?私ほどの身分になれば、君の首など簡単に切れる。もし承諾してくれれば、なんでも君の希望を叶えようではないか。いい話だろ?」
「てめえふざけんな!提督がそんなこと…!」
思わず摩耶が我慢しきれず声を荒げてしまうが、その瞬間、嬉野の目が一瞬で変わった。まるでゴミを見るかのように。
「黙れ。お前ら兵器は我々のために使われる道具だ。おまえの意思など関係ない。人間が安心して暮らすために働けばいいんだ」
まるでそれが宿命のように、低い声で嬉野が言った瞬間、俺の中で何かが切れた。もういいだろう。ここまで我慢すれば上等だ。
「そろそろそのへんでいいか、ハゲのおっさん」
俺が急にそんなこというものだからみんな目を丸くしていた。でももう止まらない。行くしかないのだ。
「だいたいベラベラゲスいこと言ってくれるじゃねーか。あんたみたいなクズが提督をやれてるなんて海軍もたいしたことないな?」
「き、貴様!!!誰にそんな口をきいて…」
よっぽどびっくりしたのか、プライドを傷つけられたのが原因か、顔を真っ赤にして嬉野が怒鳴り散らしていた。そんなことどうでもいい。ただ俺はこいつがムカつくだけだ。
「シラネーヨ。どんだけあんたがエライかそんなこと知ったこっちゃないんだよ。まるで自分が王様になったような気分かもしんないがな、所詮てめえなんざ禿げた気持ち悪いおっさんなんだよ」
静かにでもはっきりと思いつくままに暴言を吐く。ああ、どんどん自分の未来が消えていく、もしかしたら殺されるかもしれないな。でもそんなこと知るか。
「だいたいなんだ道具って?こいつらが道具か?んなわけないね。時雨も、摩耶も、夕立も、球磨も、翔鶴も、長門もみんな生きてんだよ。同じ飯食って、寝て、遊んで、喧嘩して、戦って、笑ってさ、人間と何ら変わらねえんだよ。何も役に立たねえハゲは黙って死んでくれ」
「貴様ふざけるな!!これ以上私を愚弄するとただじゃおかないぞ!!」
「はあ?だからなんだよ?お前なんかにビビるとでも思ってんのか?んなわけねーだろ。しまいにはこいつらをよこせって?できるわけねーだろばーか。こいつらは俺の仲間だ、戦友だ!てめえみたいな産業廃棄物にやるものなんか1ミクロンもねーよはげ」
「貴様ぬけぬけと…!!!」
「あと言っとくがな、お前に俺に口を聞く立場にないんだよ。わきまえろはげ」
「なんだと?どういうことだ!!!」
そう聞く嬉野に大淀からもらっていた武器を机に叩きつけてやった。そう、それは嬉野にとって最も突かれたくない弱みがそこには全部かかれていた。
「随分と懐が暖かいみたいだな。そんだけ横流ししていれば金もすごいんだろ?」
そこに書かれていたのは嬉野が行っていた物資の横流しの実態だった。ここ一年基地に支給される物資の数々、それらを海外へ高値で売りつけていたのだ。しまいには艦娘に対して支給される金銭にしても脅し恐怖で支配したあと全て自分の財布に入れていたのだから救いようがない。
「貴様!一体これをどこで!!」
慌てふためく嬉野はみていて滑稽だ。瑞鶴たちもまさかの展開にどうしたらいいのかわからないようだ。
「幸いあんたのクズっぷりは聞いていたんでな。内地にいる友人にあんたのこと聞いてたんだよ。そしたら黒い噂があるっていうから調べてもらえばこの通りだ。残念だったな、せいぜい路頭に迷いな」
そう、実はあの時大淀に電話をした際、内地でラバウル基地の物資の流れがおかしいことが問題になっていたのだそうだ。そしてそれを聞いた俺は大淀に詳しく調べてもらっていたのだ。彼女は以前話したかもしれないが、事務関係の要職についているため、そういった不正も調べている。また彼女自身もブラック鎮守府を撲滅したいと意見が一致し、ついにこの証拠が手に入ったというわけだ。本来なら来るべきタイミングでちゃんと出すべきだったが出してしまったものは仕方ない。
「くぅ…」
グウの音も出ないといった感じでその場にうずくまる嬉野は、まさに人生の階段の一気に転げ落ちていく様そのものだった。しかしこいつを貶めることが俺の目的ではない。そう瑞鶴たちを救わなければ意味はないのだ。
「なあ。あんたが言うこと聞いてくれれば少しは助けてやるぜ?」
「な、なんだと!本当か!頼む助けてくれ!」
「じゃああんたのところの艦娘を引き取らせてくれ」
そう。もしこのままラバウル基地の子達がバラバラになればまた同じような辛い思いをしれない。ならまるごと受け入れてしまえばみんな仲良く生活できるという算段だ。幸いこの基地は敷地も有り余っているし。
まさかと思ったのか瑞鶴たちも顔を見合わせ驚きを隠せないでいる。
「そ、そんなことでいいのか?」
ここまで落ちればもうなにも言うまい。提督の風上にもおけない発言のオンパレードだ。
「ああ、そうすれば俺は見逃してやる。その間に金でも持ってにげろよ。言っとくがあと三日もすれば内地から警察が来てゲームセットだ。どうするよ?」
「ああ、わかった!!そうしてくれ!!」
その嬉野の言葉でブラック鎮守府騒動は終焉を迎えた。
後日談。
あのあと嬉野が裏切るかと思ったがそんなことはなく、やつが姿を消したのと同時にラバウルにいた艦娘たちが一斉にうちへとやってきた。相当辛かったのだろう、扶桑あたりは三つ指をついて感謝を述べてきたぐらいだ。無事翔鶴と瑞鶴は感動の再開を果たし今では瑞鶴も元気を取り戻しつつある。以前翔鶴がお礼がしたいときかなくて、膝枕をしてもらっているところを見られたときには艦載機で一日中追い掛け回されたのには焦った。まさかあんな奴だとは…。今では食堂もだいぶ埋まるようになり、基地も賑わいを見せてきた。その後ラバウル基地は無期限休止となり、近くのうちにその役割が回ってきてしまった。大体提督業すらままならないため、時雨にほとんど丸投げしている自分はいる意味があるのかわからんが、それもいいだろう。みんなで一緒に入れるなら。
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