【サンプル】艦これ~蒼海戦線~ Ⅱ、朧月   作:瑞穂国

7 / 7
サンプルに戦闘シーンが全くないし、艦娘もほとんど出てこなかったのでおまけです。

サンディエゴ沖の戦闘。


(おまけ)邪砲再来

 七月二三日。サンディエゴ。

 

 

 

「弾着確認!夾叉です!」

『砲術より艦橋、次より斉射!』

「〔ミネソタ〕左舷至近に敵弾弾着!」

 

 怒号に似た報告と命令の入り乱れる〔アリゾナ〕艦橋に、ハリスは立っていた。

 正午丁度にサンディエゴ軍港を出港した太平洋艦隊の残存艦艇は、一昨日から変わらず港外を遊弋する深海棲艦艦隊へ向け、戦端を開いた。第一戦艦部隊(BD1)所属の〔ミネソタ〕、〔コロラド〕、〔アリゾナ〕が二隻の敵戦艦へ砲弾を投げつけ、〔ブルックリン〕級三隻と駆逐艦が肉薄を試みる。

 全艦艦娘搭乗艦ではないから、当然、攻撃しても効果はない。そのことは、すでに半年をかけた検証で実証済みだ。

 それでもなお、太平洋艦隊は深海棲艦に戦いを挑んでいる。理由は一点をおいて他にない。

 

「敵戦艦の射撃間隔は四十秒!」

「敵巡洋艦に、以前の情報と差異は認められず」

「〔コロラド〕に至近弾!今ので第三射です!」

 

 味方艦隊の情報だけでなく、敵艦隊に関する情報もまた艦橋内に飛び交っている。その全てを、ハリスの横に控える副官がメモしていく。この他、艦橋や通信室のやり取りは全て、録音されている。

 

(身を挺した情報収集……鯨乗り(サブマリナー)らしい、大胆不敵な判断です)

 

 自らもまた〔ミネソタ〕で指揮を執るニミッツの決断を、ハリスは思い返す。

 残存艦艇を用いた強行偵察と情報収集は、ハンセンの提案だった。しかし、当初巡洋艦主体で行われる予定だった作戦に、サンディエゴ在泊艦艇全艦の投入と、自らの乗艦を付け加えたのはニミッツだ。

 

――「こういう時こそ、指揮官先頭がよかろう」

 

〔ミネソタ〕へ将旗を掲げさせた太平洋艦隊司令長官は、そう言って引き留める参謀長を陸へ残し、艦上の人となった。

 現代戦争に指揮官先頭が似合わないことは、ニミッツ自身がよく知っているはずだ。彼は指揮官先頭を体現した東郷提督(アドミラル・トーゴー)を尊崇しているが、その真似をすることはないだろうと常日頃から口にしていた。

 そのニミッツが、自ら将旗を掲げたのは、なぜだったのか。

 

「一番槍はもらうぞ、〔ミネソタ〕」

 

 斉射の準備が完了したことを告げるブザーに、うっそりとした声が混ざる。敵戦艦二番艦を見つめるロバート・リー〔アリゾナ〕艦長が、口角を吊り上げた。BD1の三戦艦は、〔ミネソタ〕が敵戦艦一番艦を、〔コロラド〕と〔アリゾナ〕が二番艦を、それぞれ目標としている。

 ブザーが鳴り止むと同時に、〔アリゾナ〕が咆哮した。左舷一万六千ヤード(およそ一万五千メートル)先へ向けられた一四インチ砲十二門が、その砲口に一斉に炎を躍らせる。水圧機で吸収しきれなかった反動はそのまま艦を襲い、三万六千五百トンの艦体を右舷へと仰け反らせる。傾ぐ艦橋に、ハリスは両の足を踏ん張った。

 BD1の中で、最も艦歴が古いのは〔アリゾナ〕だ。その分、乗員の習熟度も高い。その〔アリゾナ〕が、他の二隻に先駆けて斉射を放ったのだ。

〔アリゾナ〕最初の斉射の余韻が収まらぬ中、〔ミネソタ〕と〔コロラド〕も新たな射弾を放つ。両艦はいまだ観測を目的とした交互撃ち方だ。しかし、その精度も着実に上がっている。夾叉や命中弾が出るのは時間の問題だ。

 一方の敵艦隊も、応戦の砲火を放つ。三連装三基九門が据えられた一六インチ砲のうち、各砲塔一門ずつを振り立てての交互撃ち方だ。すでに両艦とも、〔ミネソタ〕と〔コロラド〕に対して至近弾を得ている。たった三射でこれだけ射撃精度を詰めることができるのなら、敵の射撃指揮装置の性能もそれ相応の物のはずだ。

 二十秒ほどの飛翔を終え、〔アリゾナ〕の第一斉射が敵二番艦へ殺到する。砲弾が落着するとともに、丈高い水柱が幾本も乱立した。白濁のベール、その向こうに命中弾炸裂の物と思しきオレンジ色の閃光が走る。

 

「ただ今の命中弾は二発!」

 

 水柱が晴れる頃、見張り員から報告がある。第一斉射から命中弾二発とは、幸先のいい滑り出しだ。

 

「次弾装填急げ」

 

 リーが各砲塔を叱咤する。〔アリゾナ〕の装填速度は四十秒強。敵戦艦とほとんど遜色のない速度だ。

 だが、〔アリゾナ〕の射撃準備が完了するより早く、先に放たれた敵弾がBD1を襲う。

 先に弾着するのは、敵一番艦から放たれた射弾だ。〔ミネソタ〕を目標とする砲弾は、同艦の左舷、先よりも近い位置に水柱が噴き上がり、水滴が舷側装甲を強かに打つ。

 そして、敵二番艦より〔コロラド〕へ向けて放たれた砲弾は――

 

「〔コロラド〕被弾!」

 

 見張り員が叫ぶ。見れば、〔アリゾナ〕のすぐ前を航行する戦艦の甲板に、火焔と黒煙が見えた。一六インチ砲弾が命中し、炸裂した証左だった。

〔コロラド〕をネームシップとする〔コロラド〕級戦艦は、日本海軍の八八艦隊計画(エイト・エイト・フリート・プラン)に対抗して策定されたダニエルズ・プラン艦の第一弾として建造された。元設計はテネシー級のものを引き継いでおり、一四インチ砲艦として就役する予定であった。それを、日本海軍の〔長門〕型(ナガト・タイプ)に合わせて、一六インチ砲八門へと設計変更したのだ。そのため就役当時から、装甲の不足が指摘されていた。

 重装甲と堅牢な構造で知られる米戦艦が、そう簡単に撃ち負けるとは思えないが、不安は残る。

 

(今少し、耐えてくれよ、〔コロラド〕……!)

 

〔アリゾナ〕に続いて発砲した〔コロラド〕へ、ハリスは祈る他なかった。

 さらに二度の斉射を〔アリゾナ〕が放ち、〔コロラド〕が四発目を被弾した時、〔ミネソタ〕から「一斉転舵」の指示があった。〔コロラド〕が被弾したことで、一旦仕切り直すとの意図だろう。太平洋艦隊残存艦の目的――深海棲艦の情報収集を達成するためには、可能な限り長時間、戦い続けたい。

 

「撃ち方待て。面舵一杯、針路一四〇」

 

 リーが下令する。準備されていた第四斉射の発砲が中止され、艦は右へと艦首を振る。

こちらが直進する前提で放たれていた敵弾は、〔コロラド〕と〔ミネソタ〕の左舷至近に水柱を上げた。〔コロラド〕のさらなる被弾は避けられたのだ。

 BD1の各艦は、針路を百八十度変える。正面に見えていた〔コロラド〕の姿が左舷へと流れ、やがて艦橋の視界から消えた。今度は、〔アリゾナ〕がBD1の先頭艦になる。

 

「敵戦艦一斉回頭!こちらと同航戦を維持する模様」

 

(こちらが戦う限りは、応戦するということか)

 

 西海岸沖での深海棲艦の戦闘は一貫している。こちらが挑めば応戦し、離脱すれば追わない。今日もその原則は変わらない。

 

「目標変わらず、敵戦艦二番艦。射撃諸元の再計算急げ」

 

 敵艦隊の転針が終われば、すぐに砲撃を再開する。その意思を滲ませて、リーが砲術に発破をかける。

 右舷を指向した各砲塔へ、再び射撃諸元が送られる。各砲塔が旋回俯仰し、敵二番艦を捉えた。射撃開始を告げるブザーが艦上に響く。砲術長は、一射目から斉射を選択していた。

 

撃て(ファイア)!」

 

 砲術長の号令で、紅蓮の炎が上がる。艦を襲う衝撃はそれまでと変わらない。砲口から広がった衝撃波が艦橋の窓を震わせ、艦橋要員の耳朶を強かに打つ。

 

「〔コロラド〕、〔ミネソタ〕、砲撃を再開しました!」

「敵戦艦再び発砲!」

 

 後続する二隻の一六インチ砲艦と、相対する敵戦艦二隻が砲撃戦を再開した旨、見張り員から報告が入る。一万六千ヤードの彼方へ飛翔するこちらの砲弾と、一万六千ヤードを飛翔してくるあちらの砲弾。二種類の巨弾は高空で交錯し、轟音を引き摺って海面へ降り注ぐ。

 最初に弾着するのは、〔アリゾナ〕の一四インチ砲弾十二発だ。敵戦艦二番艦へ向けて放たれた砲弾は、派手な水柱を噴き上げてその姿を隠す。すわ、一撃のもとに轟沈したか、という錯覚に陥るが、それが勘違いだとハリスは知っている。

〔アリゾナ〕に続くようにして、〔コロラド〕と〔ミネソタ〕の砲弾も飛翔を終える。こちらは交互撃ち方のままだ。敵戦艦二番艦の周囲に四本、一番艦の周囲には三本、〔アリゾナ〕よりも一回りほど大きな水柱が立ち上る。

 

(命中も夾叉もなさそうだ)

 

 転針後最初の砲撃をハリスが見定める間に、今度は敵弾がBD1へ降り注ぐ。

 頭上へ迫る圧迫感を、ハリスは感じ取った。

 甲高い飛翔音が途切れた時、〔アリゾナ〕の右舷に三本の水柱が現出した。硝煙を多分に含んだ海水は〔アリゾナ〕の背丈を超える高さまで巻き上げられ、飛び散る飛沫が艦上構造物に降り注ぐ。砲身に触れた海水が、ジュッと音を立てて蒸発した。

 弾着のタイミングから考えて、敵戦艦二番艦の砲撃であろう。二番艦の一六インチ砲は、転針に伴って先頭になった〔アリゾナ〕を、新たな目標に定めたのだ。

 一方の一番艦は、変わらず〔ミネソタ〕へ射撃を繰り返している。転針前に四発を被弾した〔コロラド〕が、今度は敵の砲撃を免れている状況だ。

 射撃諸元の修正が完了し、〔アリゾナ〕が転針後二度目の砲撃に踏み切る。振り立てられた十二門の一四インチ砲から、雷鳴を思わせる砲声と黒褐色の砲煙が吐き出された。重量約六百キロの砲弾が十二発、一万六千ヤード彼方へと飛翔していく。

〔アリゾナ〕の咆哮に、〔コロラド〕と〔ミネソタ〕も追随する。〔アリゾナ〕の物より一回り太く長い砲身から、一斉に火球が生じた。右舷側の海面が、衝撃波でクレーターのようにへこむ。

 一方の敵戦艦も、遅れることなく第二射を放つ。

 お互いの砲弾が飛翔を終えるのは、およそ二十秒後のことだ。

 装填位置へ下げられた主砲身に、新たな砲弾が装填されるのを待つ間、ハリスはふと、やや離れた海域に目を移す。

 そこは巡洋艦と駆逐艦の戦場であった。砲の装填速度も、艦の機動性も、戦艦とは比べ物にならないほど速い中小艦艇の戦場は、残念ながら一目でその詳細を確認することは叶わない。辛うじて、猛然と砲炎を吐き出し続ける三隻の軽巡だけ、確認することができた。〔ブルックリン〕級の三姉妹だろう。うち一隻は、ハリスも乗り込んだことのある〔ヘレナ〕だ。

 艦橋で檄を飛ばすコールマン大佐の姿が、見えた気がした。

 同じ海域には、サンディエゴであまり見慣れない艦影も混じっていた。〔ブルックリン〕級によく似た――しかしどことなくほっそりとした印象の、二隻の軽巡。第五次輸送船団護衛艦の〔熊野〕と〔鈴谷〕、二隻の〔最上〕型(モガミ・タイプ)軽巡だ。こちらも、〔ブルックリン〕級ほどではないとはいえ、凄まじい勢いで砲火を放っている。

 二隻の日本軽巡が放つ射弾は、深海棲艦へ有効打を与えている様子だ。パッと見ただけで二隻ほど、炎上し漂流する深海棲艦の駆逐艦が確認できた。

 別の戦場を見つめていたハリスの意識を、飛来した敵弾の轟音が引き戻す。またしても左舷へ生じた水柱。海面下で炸裂した砲弾が、〔アリゾナ〕の艦底を揺さぶった。

 至近弾でこの衝撃だ。直撃弾が生じれば、果たしてどれほどの激震が艦を襲うのか。それを想像するだけで、床へ踏ん張る足に力が入った。

 至近弾落下を気にした風もなく、〔アリゾナ〕は三度目の斉射を放つ。右舷へと噴き出した砲煙は、艦の前進に伴って後方へと流れ、やがて漂う黒雲となる。丁度、八本足の怪生物(デビル・フィッシュ)の吐き出す、墨のような見た目だ。

 視界を奪う黒雲が後方へ流れる頃、敵戦艦二隻も三度目の砲火を放った。一切の乱れなく、艦前部で二つ、艦後部で一つ、火球を生じさせる。

 西海岸の穏やかな波の上を飛翔し、空中で放物線を交差させた砲弾が、それぞれの目標へ降り注ぐ。鋭角の風帽が大気を切り裂き、敵艦の装甲に牙を突き立てんとする。

 

「よしっ」

 

 他艦へ先駆けて飛翔を終えた〔アリゾナ〕の砲弾が、敵戦艦二番艦の周囲に水柱を産み出す。それと同時に、命中弾のそれとわかる真っ赤な火柱が、水柱の間隙に見えた。〔アリゾナ〕はわずかに三度の射撃で、散布界に敵戦艦を捉えたのだ。

 

「いいぞ砲術!」

 

 上々の結果を出した砲術科員たちへ、リーが称賛の言葉をかける。

 しかし、その成果を喜ぶ暇もなく、今度は敵二番艦の射弾が〔アリゾナ〕を襲う。

 彼方から聞こえて来た、砲弾が空気を切り裂く調べが、それまでと違う気がした。

 こちらの精神を圧迫する轟音が途切れた時、体験したことのない衝撃が、艦橋後方から届いた。

 巨大な質量によって、金属が無理矢理引き裂かれる異音。耳をつんざく甲高い音。それらが収まらないうちに、あらゆる音をかき消す爆轟音が艦上に響いた。敵弾が〔アリゾナ〕の装甲を食い千切り、艦内部で炸裂したのだ。

 サンフランシスコの地震もかくやというほどに艦橋が揺れる。さながら、海神の巨大な腕に掴まれ、揺さぶられているかのようだ。投げ出された水兵が何人か、床へ転がった。

 

「被害報告!」

 

 艦橋の(へり)に掴まって難を逃れたリーが、応急修理(ダメコン)チームに尋ねる。煙突基部に命中した敵弾は装甲を貫通して炸裂。詳細は現在確認中とのことだ。

 

「砲撃を続行する。……我慢比べだ、ハリス大佐」

 

 戦闘の続行を命じたリーが、額に一筋汗を伝わせて、こちらを見る。その決意に、ハリスは頷いた。

 新たな斉射を〔アリゾナ〕が放つ。太平洋艦隊の残存艦艇には、もうしばし奮闘してもらわねばなるまい。




…あれ、結局艦娘出てきてなくない?(おい)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。