「……先生…」
「オイ、何があった?」
「私……私……ッ!」
泣き崩れていたシスティーナが、グレンに縋りつく。
「お、おい…」
「何も出来なかったんです……、何も」
「……、」
そっと、システィーナを抱きしめるグレン。
どれだけの間そうしていただろうが
「……大丈夫だ」
「……ぇ」
「必ず、あいつ等は連れて帰る。だから、待っててくれ」
「……先生」
すると、泣き疲れたのか、システィーナが瞼を閉じた。
「おっと」
「……もういいか?」
「あぁ。悪いな、手間を取らせて」
そんな簡単に、人は眠らない。ある程度精神が安定したと判断したアルベルトが、
「……先生、ルミアを……お願い」
「!……、」
だが、眠ってもなお、システィーナはそういう。只の寝言か、それとも……。
「考えるのは野暮だな。行くか」
この部屋に来たのは、ルミアの居場所を把握するためと、システィーナの安否の確認だ。
それを終えた以上、これ以上長居はできない。
「グレン、ペネトレイターは?」
「……あ」
「……、」
「待って!鞄の中にはあるから!」
そういって、急いで自分の部屋に戻るグレン。
「……はぁ」
そんな後姿を見たアルベルトが、そっとため息をついた。
「悪い悪い!待たせたな」
「……行くぞ」
「あれ?アルちゃんもしかして怒ってる?」
「死ぬか?」
「怖ッ⁉」
アルベルトに言われてると恐怖は倍増する。
そうこうして、どこかの下水道から侵入した二人。
「……にしても、どうやって居場所を?」
「魔力信号だ。競技祭の一件から、王女の居場所をいつでも探知できるよう術式を
「そんなもん、連れ去られた時に解除されてるんじゃねぇのか?」
「あぁ、当然だ。だからもう一つ、エレノア=シャーレットに、な」
なるほど、
そんな調子で、順調に先へ進んでいく二人。
「意外とザルだな。なんかあるかと疑うぜ」
「……その判断は正しいだろうな」
「え……?」
何が?という言葉は続かなかった。
ドゴォォォォォォッッン!!という音とともに、壁が破壊された。
そこから出てきたのは
「……キメラ?」
「下がれ!」
「あいよ!」
グレンが下がるのと同時に、ライオンのような姿をしたキメラがグレンに襲い掛かる。
「《吼えよ炎獅子》」
グレンの脇側から、アルベルトが黒魔【ブレイズ・バースト】を唱え、キメラを炭にした。
「ひゅ~。相変わらずえげつねぇ」
「……第二波が来るぞ」
「……今度は団体様か。……へっ、丁度こいつの調子を確認したかったところだ」
そういって、グレンは腰から銃を取り出す。
「錆びついてなければいいがな?」
「はっ、言ってな!」
目の前に広がるキメラの大群に、二人は向かっていった。
「……大体片付いたな」
「あぁ。腕は落ちていないようで何よりだ」
え、キメラを倒すシーン?全カットです。
「……なぁ」
「なんだ?」
「なにあれ?」
グレンがそういって、目の前にいる
「宝石獣だろう」
「あぁ。あのやばい奴か。……いつからここは配管工のおじさんの世界になったんだよ」
踏んだら倒せたりしないかな?と、バカみたいなことを考えるグレン。
「下らんことを言うな。来るぞ」
すると、宝石獣がその巨大な前足で二人を踏みつけようとする。
「《光の障壁よ》」
「……よし。やるぜ。……《我は神を斬獲せし者・我は始原の祖と終を知る者・其は摂理の円環へと帰還せよ――」
アルベルトは咄嗟に【フォース・シールド】で防御し、時間を稼いでるうちにグレンが黒魔改【イクスティンクション・レイ】の詠唱を始めた。
「⁉グォォォォォォォォッッッン!!!」
生物の本能か、グレンが致死性の攻撃を放とうと察知している宝石獣は、執拗にグレンを狙おうと、足だけでなく、ブレス攻撃や、帯電など、あらゆる手を尽くす。
「無駄だ」
しかし、その悉くを防ぐアルベルト。そうしているうちに、グレンは詠唱を進めていく。
「――いざ森羅の万象は須らく此処に散滅せよ・遥かな虚無の果てに》!ぶっ飛べ!」
グレンの手に、赤い三つの魔方陣が並び、そこから白い極光の柱が放出され、宝石獣を飲み込んでいく。
世界最高峰の魔術師、セリカ=アルフォネアの編み出した、単独行使では最強の
「……って、カッコつけたはいいが、マナ欠乏症キッツ……」
「これを使え」
顔色が悪く、いかにも疲れましたという表情のグレンに、アルベルトが宝石のようなものを渡す。
「魔晶石か。俺とお前じゃ魔力の相性悪くなかったか?」
「使わないよりはマシだろう?」
「まぁな。それじゃあ有難く温情を受けるとしますかね」
目の前の障害をすべて薙ぎ払った二人は、そのまま先へと進んでいく。
「なんだここ?」
しばらくすると、薄暗く、液体で満たされたガラス円筒が、規則正しく、無数に立ち並んでいる、何かの保管庫のような部屋にたどり着いた。
「……なぁ、アルベルト」
「どうした?」
「いやな予感がするんだけど」
「奇遇だな。俺もだ」
ここに来る途中で聞いたが、バークス=ブラウモンは徹底的な異能差別主義者であり、『異能者』を毛嫌いしているらしい。
そして、まるで何かを研究しているような場所。「天の智慧研究会」と繋がっている。
「……オイ、あの容器の中身確認して来いよ」
「貴様が行け」
「嫌だよ⁉どう考えても後に引けなくなるパターンだぞ⁉オブラートに包めない、シャレにならない奴だよ絶対!」
しかし、行くしかない。というより、ここの出口は容器の先なのだ。つまり、どうやっても容器の中身が目に入る。
それこそ、目をつぶったまま歩かない限りは。
「……はぁ」
「……、」
そして、先に進んだが、案の定
「……人間の
「……『発火能力者』、『再生能力者』――」
アルベルトが脳髄の下にあるラベルを読み上げていく。
つまり、これらはすべて、異能者の脳髄ということだ。
(……超能力者ってのは、何処も脳みそに何かあるのかね)
一見気楽だが、むしろこんな精神衛生的に悪い場所、そんな調子でもなければやっていられない。
…ぁ、れ……か
「……ん?」
「どうした?」
「いや、なんか声が……こっちか?」
もしかしたら、ルミアが叫んでいるのか?そう思い、グレンは声の聞こえるほうに歩いていく。
「なッ……!おい、大丈夫か⁉」
そこには、腕や足が鎖でつながれ、診察台のような場所に乗せられている少女がいた。
もしやこの子も、異能者か。
(いや、ンなことはどうでもいい!早く助けないと!)
「クソッ!」
鎖は雁字搦めで外れない。恐らく、少女が脱出しようとし、無理に動かしたせいで、絡まったのだろう。
魔術的拘束ではない。なら、魔術による開放はできない。
そう考え、拳銃を取り出し、鎖へと発砲するグレン。銃弾は正確に鎖を砕き、少女を開放した。
「…ぁ……ぇ?」
「グレン!何があった⁉」
銃声を聞いたアルベルトが駆けつけてくる。
「生き残りだ!五体満足だぞ!」
これだけ惨いことがあった中では、少女の存在はオアシスのようだ。
「……ふむ、どうやら、何らかの実験に使われる予定だったということか」
「そんなもんはどうでもいい。大丈夫か?」
「……あ……ぁぁあ」
「よく耐えた。お前は助かったんだ」
ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!と、グレンの胸元で泣き叫ぶ少女。
「……何かの歯車が違えば、この子は既に手遅れだったかもな」
「そのネガティブ発言やめてくれない?」
一通り泣き止むと、疲れたのか少女は眠った。
「……この子どうしよう?」
「こちらで何とかしよう」
「じゃあ、頼むぜ」
この部屋にキメラはいない。品切れか、もしくは貴重な研究施設だから動物を入れるのを拒んだか。
だが、ここは安全とは限らない。なにしろ、目的の部屋に最も近いのだ。むしろ、さっきまでいた通路の方が安全だろう。
「……運び終わったぞ。念のため、条件起動式の結界の術式を構築した」
「サンキュー。それじゃあ、先を急――」
「貴様らぁ!ここにあったサンプルはどうしたぁ⁉」
そんな二人の耳に、そんな理解不能な言葉が入ってきた。
三巻出てくる女の子、救ってあげたかったんですよ前から。
これくらい赦してお願い。