ロクでなしに憑依した   作:山羊次郎

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十六話:スルースキルは大事

「あん?アイツは……」

「……バークス=ブラウモンか」

 

 突如現れた老人……バークスに、アルベルトは冷ややかな視線を向けるも、本人は気づかない。

 

「私の研究材料を盗むとは、帝国の犬は盗人の飼い犬ということか?」

「知らねぇよテメェの研究とか。どうでもいいし」

「ふん!所詮駄犬の貴様らには、私の研究の価値など分からん!大人しく、私の「サンプル」を返すのだな」

 

 サンプルね。と、グレンはそっと呟き

 

「お前さぁ、少しくらい罪の意識とか、罪悪感とかないわけ?」

「罪だと?可笑しなことを言う。私の偉大な魔術研究の礎となるのだぞ?むしろ感謝してもらいたいくらいだ!」

 

 感謝、ねぇ。

 

「そうだな。感謝してるよ」

「……、」

「む?」

「『あの子』を未だにバラさないでいてくれたことは、な」

 

 バークスの気まぐれでしかなくても、むしろそれは感謝する。おかげで助けることが出来たのだから。

 

「だが、それとこれとじゃ話が別だ。テメェの腐った性根、根こそぎ刈り取ってやる」

 

 そういって、グレンは銃をバークスに向けて構え

 

「待て」

 

 それをアルベルトが制した。

 

「……この男の相手は俺が務める。お前は先に行け」

「知ってるか?そういうのは死亡フラグだぜ?」

「下らん。そんなものへし折ってやる」

「……じゃ、よろしくな」

 

 グレンは銃を腰に挟み、駆け出した。

 

「バカめ!通すと――」

「《気高く・吠えよ炎獅子》!」

「――何⁉貴様、味方ごと巻き込むつもりか⁉」

 

 アルベルトの即興改変の【ブレイズ・バースト】が、グレンを避けて(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)辺りを蹂躙する。

 その様に驚きつつも、バークスは咄嗟に【フォース・シールド】を展開して攻撃を防いだ。

 バークスの足が止まっている隙に、グレンは一気に奥の部屋に駆け込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どっかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」

 

 そんな叫びとともに、目の前の扉を蹴破ったグレン。

 扉の先には、天井から延びる鎖に拘束されたルミア、宮廷魔導士の礼服に身を包んだリィエル、そして魔導演算機の前に立つ青い髪の男がいた。

 

「先生⁉」

「悪いなルミア。ちょっと死にかけてたわ。後、これからそこにいるクソ野郎(おにいさん)とO☆HA☆NA☆SHIしないといけないから、少し黙っててくれよ?」

「……本当に、よかったです」

 

 この状況で俺の心配するのかよ。と、内心少し呆れるグレン。

 そして、グレンは少女に目を向ける。

 

「おいリィエル!黙って見てんじゃねぇよ!ルミアがあんな目にあっても何とも思わねぇのか⁉」

「……、」

 

 その叱責に、リィエルは無言を貫いた。

 話にならない。そう思い、今度は青髪の男を睨みつける。

 その鬼をも射抜き殺さんばかりの烈火の視線に、男の背筋がビクンっ!と跳ね上がる。

 

「俺の生徒に随分と舐めた真似してくれたなクソ野郎」

「ひッ⁉」

「今回のグレン先生はちょっとばかしバイオレンスだぜ。痛い目に遭いたくなけりゃあ大人しく――」

「……、」

 

 今の今まで動かなかったリィエルが、男を庇うように前に出てきた。

 

「……何のつもりだ?」

「それ以上、兄さんに近づかないで」

「……兄貴?そんなクソ野郎がか?」

「兄さんを侮辱するな」

 

 そういって、リィエルは大剣を錬成し、グレンに矛先を向ける。

 

「……本気でやるのか?反省文じゃ済まねぇぞ?」

「や、やれ!リィエル!そいつを始末しろ!」

 

 リィエルが味方にいると分かった男は、今までの怯えようが鳴りを潜めて、リィエルに高圧的に命令する。

 

「……お前の兄貴は二年前に死んだはずだが?」

「今ここに居る。容姿や声だって――」

「そんなもん、魔術で幾らでも……いいや、魔術じゃなくても誤魔化せるだろうが!」

 

 確かに、魔術による変装。無論、魔術じゃなくても同じことはできる。

 

「……うるさい!……兄さんを守る。それが私の生きる意味!グレンにはそれが分からない!」

 

 ……確かにな。と、グレンは内心自嘲する。

 

「確かに、お前にとって本当の救いは何か、俺には分からなかったよ」

「……、」

「けど、少なくとも!今のお前が、本当に救われてるとは思わねぇ!」

 

 そういって、グレンは拳を構える。

 

「来いよ、リィエル!」

「!……、イィィィィィィヤァァァァァァァァァァァぁあああああああああ!!!」

 

 凄まじい、叫びのような咆哮が、部屋中に木霊する。

 そして、リィエルがグレンに切りかかった。

 

「そらよ!」

 

 グレンは右の拳で、大剣と打ち合った(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)

 

「⁉」

「へっ」

 

 その現象に驚愕するリィエルと、狙い通りと口の端を吊り上げるグレン。

 戦闘になるのは予想がついていた。なので、予め【ウェポン・エンチャント】で拳を強化していたのだ。

 だが

 

「ぐッ!」

「はァァァァァァァあああああああ!!!」

 

 単純な力では、リィエルが勝っている。徐々に押し込まれていくグレンは、咄嗟にサイドに飛んで躱す。

 

「ふっ!」

 

 それすらも読んでいたのか、或いは直感か。グレンが飛んだ先に追いすがり、連続で切りつけるリィエル。

 それを拳で弾いて凌ぐグレン。

 

(……こいつを黙らせるのは、力じゃ無理だ)

 

 それに、それじゃあ意味がない。

 

「……くっ⁉」

 

 何度も打ち合い、手が痺れてきたグレン。そもそも、リィエルの剣は「ウーツ鋼」という物質で出来ている。その頑丈さは、鉱石の中でも上位だ。そんなものとまともに打ち合えば、どっちが先にダウンするなど明白。それに、単純に剣と拳という違いもある。

 グレンが見せたその隙を見逃さなかったリィエルが、グレンを後方へと吹き飛ばした。

 だが、これはグレンにとって好都合。咄嗟に腰の銃を抜き、銃口を向ける。

 

「ひっ⁉」

「!……、」

 

 それを見て、動きを止めるリィエル。

 グレンが銃口を向けたのは、リィエルではない。男の方だ。

 離れたことで、グレンが銃を撃って男を仕留めるのが早いと、理解したのだろう。咄嗟に兄のもとまで戻っていくリィエル。

 

「……お前、さっき兄貴を侮辱するなとか言ったな?」

「それがなに?」

「馬鹿野郎!一番お前の兄貴を侮辱しているのは、お前自身だろうが(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)!」

「な……っ!」

 

 リィエルを止めるなら、それは言葉でなければ。

 

「お前の兄貴は、いつもお前の事を思ってただろ!なのに、そこにいるそいつは、お前のことを道具みたいに扱う。そんなのがお前の知る兄貴なのか⁉お前の兄貴は、そんな最低な男なのか⁉」

「……うるさい!うるさいうるさいうるさいうるさいッッッ!!!!グレンは兄さんの事何も知らない癖に、知ったような口を利くな!」

「知ってるさ。お前の兄貴のことは。もちろん、名前もな(・ ・ ・ ・)

「……………………………え」

 

 確実に、リィエルの動きが止まった。今までの警戒してじゃない。本当に、ただ呆然として。

 リィエルは、兄の事を覚えていない。それどころか、名前さえ(・ ・ ・ ・)分からない(・ ・ ・ ・ ・)

 自分の知らないことすら知っている。その事実が、リィエルを動揺させる。

 

「……まさか、貴様……!」

「二年前、お前の兄貴は帝国軍に亡命しようとしていて、それを手引きした帝国軍魔導士がいた」

「……そ、れが……な、に……?」

 

 リィエルがそう聞くが、本当はもう分かっているだろう。

 彼女を帝国軍に連れてきたのは誰だ?

 なぜこの男は、リィエルの事にそれほど詳しい?

 

「……ぅ」

「リィエル!そいつの戯言に耳を貸すな!」

「そいつの言葉に耳を貸すな。そいつは、お前が思ってるような奴じゃねぇ!」

「…ぇ……ぁ…」

 

 リィエルは迷っている。何が真実で、何が嘘なのか。分からなくなっている。

 

「リィエル!」

 

 その時、グレンでも、ましてや男でもない、全く別の声がリィエルの耳に入った。

 

「る……みあ?」

「大丈夫だから。……先生を、信じて」

 

 ただ真っすぐと、視線でともに訴えるルミア。

 

「……、」

「リィエル!」

 

 今度は、男の言葉が、リィエルに叫ぶ。

 

「また僕を見捨てるのか⁉」

「!……、」

「リィエル!君は僕の妹だろう⁉」

 

 見捨てるのか。その言葉は、リィエルの心を容赦なく抉っていく。

 だが、だからこそ、リィエルは確信する。

 

「……Re=L(リィエル)計画」

「なッ⁉」

 

 この男は、兄ではないかもしれない、と。

 リィエルがぼそりと呟いた言葉に、男が絶句した。

 

「……リィエル、お前は、その計画で、とある少女の複製(コピー)として作られた魔造人間だ」

「……でも、それじゃあ……」

「あぁ。お前に、本当の意味での兄貴なんていないんだ。それ以前に、兄貴の癖に自分の妹の名前を間違えるなんて、兄貴失格だろうが」

 

 リィエルという名は、計画の通称から持ってこられたもの。元となった少女には、全く別の名がある。

 もし仮に「兄」が生きていたとしても、それなら自分の妹の名を呼ぶはずだ。

 告げられた真相に、リィエルは呆然と立ち尽くしている。

 

「それで?まだ言い訳はあるかクソ野郎」

「……、」

 

 今のリィエルとは、もう戦わないし、その必要もない。

 そう思い、グレンが男に視線を向ける。男は俯いたまま動かない。

 だが、しばらくすると、口を開いた。

 

「はぁ。やっぱりあの時、『アイツ』を安直に始末したのは()の最大の失敗だったな。……二年前、『アイツ』が密告したことで、帝国宮廷魔導士団に我々の研究所を強制捜査されたんだ」

「だろうな。『アイツ』とは、俺が連絡を取り合っていたんだからな」

「まさか、『アイツ』と繋がっていたのがアンタだったとはな。グレン=レーダス」

 

 男の、今までの若干丁寧な敬語は鳴りを潜め、乱暴な言葉使いに変わった。

 

「……俺たちは研究所に向かったが、既に『アイツ』は死んでいて、たまたま通りかかったところで倒れていた……リィエルのもとになった少女「イルシア」を、俺は発見した」

 

 だが、と。グレンは付け足した。

 

「助けられなかった。とっくにテメェや、追手の手で重傷だったからな」

「……、」

「そして彼女の「アストラル・コード」、つまり死ぬ瞬間までの記憶を受け継いだ少女を、俺は保護したんだ」

 

 つまり、それがリィエル=レイフォードの真実。

 なら、この男の正体とは?

 

「大方、お前は『アイツ』やイルシアと一緒にいた男、「ライネル」だな?」

「へっ」

「一応、お前のことも助けてほしいって言ってたんだが……無理そうだな」

 

 ライネルと呼ばれた男が薄く笑う。

 そして、リィエルを流し見ていった。

 

「研究所を逃げ出す時、お前の記憶をこちらに都合よくなるよう改竄しておいたはずなのにな。所詮、ガラクタはガラクタだったか」

「……あ?お前、今なんつった?」

 

 非常に低い、ドスの利いた声で言い、ライネルを睨むグレン。

 だが、先ほどまでとは打って変わり、ライネルは余裕を見せている。

 

「ガラクタはガラクタだ。もういらない」

「テメェ!《猛き雷帝よ・極光の閃槍以て・刺し穿て》!」

 

 グレンは己の左手をライネルに向けて、早口で詠唱を行い、黒魔【ライトニング・ピアス】を撃ち込んだ。

 だが、その瞬間、ライネルの前に三つの影が割り込んだ。

 その影が、グレンの攻撃からライネルを守った。

 

「この子たちがいるからね!」

 

 ライネルの目の前に立っていたのは、無表情で大剣を持つ、三人のリィエル(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)だった。

 

 

 

 




 量産型リィエルという天国。
 ロリが好きなんとちゃうで~、ロリも好きなんやでぇ~。
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