主人公の原作知識は宮廷魔導士時代でほぼ消えています。
一話:グレン先生初授業!自習じゃないよ?
セリカとの出会いから数年がたった。今ではもう十九歳。
俺は、まぁ波乱万丈な人生を送りながらも最終的に一年ぐらい引き籠りになった訳だが。
「グレン、お前を養うようになってからもうはや一年だ。そろそろ働く気になったんじゃないか?」
「はぁ?何言ってんだ?するわけねえじゃん。それより早く朝飯よこせ」
「よし殺す」
最近セリカが働けと五月蠅い。っというか、今俺に向かって破滅級の呪文を
「待て待て待て!それはやり過ぎだって!確かに俺の物言いは悪かった!でもな!俺が働かないのは今更だろうが!」
俺の言葉に不愉快そうに詠唱を止めたセリカは
「ハァ……」
「おい、何だそのため息は。そもそも、働くつったって面接で落とされるのが関の山だろうが」
「問題ない。私がお前に職を提供してやる。私からの推薦だ。期間は一か月、働き次第では正式な職員としての報酬も出るぞ」
「推薦だと?今のお前の権力で通る推薦ってことはまさか」
「そう。アルザーノ帝国魔術学院の講師枠が一つ空いていてな、そこにお前をねじ込むことにした」
俺の意見は無視かよ。
「っていうか、なんで空いてるんだよそんなとこが」
「急な人事だったから当分替えが用意できないんだ。お前にはそこを埋めてもらう」
……あ、もしかして原作?すっかり忘れていたがどうやら原作が始まったらしい。
「そんなもん、暇な教授とかにでもやらせれば……あ~、そういや、もうすぐ魔術学会だっけ?」
「覚えていたんだな。そう、だから教授陣はその準備で生徒の面倒を見る余裕がない。それは講師陣も同様だ。だからこそ、替えの人材が必要なんだ」
「それも可笑しな話だな。そもそも、なんで非常勤講師が必要になるくらい追い詰められるんだ?あの学院がわざわざ外部の講師を招くとかあり得ねえだろ。どうにもきな臭いんだが?」
「……流石だな。実はこの空いた講師枠にいた講師が、突如失踪したんだ」
「失踪?」
「あぁ。しかし、それをそのまま生徒に伝えるわけにもいかない。かと言って、替えの講師は内部では用意できない。だからこうして外部に頼もうということだ」
あぁ、そういえばそんな感じだったな。
「そもそも、俺には教員免許がないんだが?」
「学院内における私の地位と権力でどうにでもなる。お前がうまくやれば、裏技で免許発行してもいい」
「職権乱用って言葉知ってる?もう少し法律を尊重しようぜ?」
「魔術師としてのお前の実力なら問題ないだろう?お前だってそれなりに魔術をかじってたんだしな。どうだ?やっていないか?」
「確かに、お前の言う条件は規格外なほど好条件だ。アルザーノ帝国魔術学院はフェジテ最大の魔術学院。正式な講師と変わらない給料をもらえ、いまだ職に困る俺が実績次第で即採用もあり得る」
「だったら!」
「だが断る!」
俺は某スタンド使いのような顔つきをしながら言った。
「俺の好きなことの一つは、絶対的優位に立っている者にNOと断ることだ」
「……」
俺の言葉に呆然とするセリカ。しばらくすると再起動して
「……お前に拒否権はないぞ」
「ほう?嫌だと言えば?」
「原子レベルで分解してやろうか?それとも石化……いや、何なら無の世界に送ってやっても」
「すみません勘弁してください」
脅し文句の域を越えてる。最早魔王の選択肢だ。
俺はセリカに土下座をかましながら叫んだ。
「お願いしますセリカさん!俺働きたくないんです!靴でも胸でも舐めますからぁ!」
「お前に人間としての誇りは……最後なんて言った?」
「誇りで飯が食えるんならとっくに俺の腹は満腹だよ!」
「違うそうじゃなくて……、もういい。お前のセクハラは今に始まったことじゃないしな」
何を言っているのか分からないが、このままいけば何とか許してもらえる。
「許すわけないだろう。このチャンスを逃すか。なんとしてでも働かせてやる!」
「ちょ、ホントに待って!」
俺は土下座をやめてセリカに向き直る。
「お前だって知ってるだろ。俺が」
そこで一拍置き
「……俺が、働くことが大っ嫌いなことを!」
「《其は摂理の円環へと帰還せよ・五素は五素に・象と理を紡ぐ縁は乖離せよ》」
セリカが早口で唱えた呪文により、黒魔改【イクスティンクション・レイ】が起動。
俺の真横に光の波動が駆け抜けていきごっそり大穴を開ける。
「次は外さん!」
「……ふ、不幸だぁぁぁぁあああああ!」
「働けぇぇぇぇぇぇぇえええええええ!」
結局、俺は働くことになってしまった。そして今日はその初日。
まぁ、原作的にはこの展開はむしろバッチ来いなのだが。ぶっちゃけどのタイミングでどんな敵が来るとか覚えてない。だから対策のしようがないのだ。
「……めんどくせえ」
よく見ると、俺の部屋の時計は既に八時十分を刺している。完全に遅刻だろう。
「まぁ、リビングの時計を見る限りじゃ俺の部屋のだけがおかしいみたいだが」
大方、セリカが俺に遅刻させない為に仕組んだのだろう。
「その程度で俺を出し抜けると思わないことだな」
というわけで、ゆっくり学院に向かおう。
「……ん?」
そうして十字路に差し掛かった時、道の傍らに不思議な二人組がいた。
片方は銀髪、もう片方は金髪だ。
「……焦った。一瞬セリカかと思ったぞ」
その服装はアルザーノ帝国魔術学院の制服だ。つまり、彼女たちもあの学院の生徒なのだろう。
「……ま、どうでもいいか」
流石に自分のクラスの生徒ということはないだろう。そう思い、二人の存在を記憶の隅に追いやりつつ学院に向かう。
「時間ギリギリだな。なにをしていたんだ?」
「十分間に合った方だろうが。時計を弄るなんてくだらない真似しやがって、来てやっただけでも感謝しろ」
俺の物言いにセリカが額に青筋を浮かべる。
「……そうでもしないと寧ろ来ないと思ってな。それより、授業の準備をしろ。職員室は……」
セリカに案内され、職員室に向かう。中に入ると、一瞬俺に視線を向けてくるもセリカの存在を確認した途端こちらを見なくなる。
「ここがお前の席だ。それじゃあ、頑張れよ」
そういうと、セリカは職員室を去っていった。
「……寝るか」
「――先生。グレン先生!」
「んぁっ」
「もう授業が始まっていますよ!」
近くにいた講師にそう言われる。……あぁ、そういえば寝ちまったんだっけ?
「もうそんな時間か。じゃあ、教室に行くか。……確か、二年次生二組だっけ?」
寝ぼけ眼で職員室を後にし教室に向かう。
「わりぃわりぃ。遅れたわ」
「ようやく来たわね!あなた、一体どういうことなの⁉あなたにはこの学院の講師としての自覚はないの⁉」
「ねぇよそんなもん。非常勤だし」
「なッ!」
よく見ると、先ほど見かけた少女だった。
「大体、ほんの五分くらいだろ?」
「五分だろうと一分だろうと変わりません!社会人なら十分前行動が基本でしょう⁉」
めんどくせぇ。俺は目の前の銀髪を無視して自己紹介を始める。
「まずは自己紹介からだな。俺はグレン。グレン=レーダス。今日から一か月間、皆さんの勉学のお手伝いをすることになったが、見ての通り
「もう結構です。貴方の自己評価はどうでもいいですし、そもそも授業時間が過ぎています。早く授業を始めてください」
ふむ、それもそうか。
俺はセリカに渡された教科書を出す。教科書は学生時代は理由は忘れたがロクに読んでなかった気がする。
「じゃあ授業を……おい。教科書ってこれであってんのか?」
「えぇ。間違いなく、『黒魔術』の教科書です」
「つまり、これで授業してきたのか?この書き取りだの翻訳だのを?共通語訳って何?」
「あなたが何を言ってるんですか?」
俺はセリカに渡された教科書を開き、驚愕した。
(なんだこれ?こんなの単語帳と変わんねえじゃねえか)
書かれているのは魔術式の書き取りだの、より覚えやすくするための方法だの、アホみたいなことばっかりだった。
しかもこいつら、これで授業するのを当たり前だと思ってやがる。適当にやるか自習にでもしてやるかとか考えていたが、流石に見逃せない。
「……まずお前らに質問だ。この中に魔術の……いや、【ショック・ボルト】の即興改変が出来るやつはどれくらいいる?」
【ショック・ボルト】……それは学院の魔術師が一番初めに習う魔術だ。言ってしまえば、一番使うのが簡単な魔術ということでもある。
「そんなこと言われても」
「即興改変なんて高等技術、私たちには使えませんし」
「システィは?」
「まだ習ってないし、無理だわ」
……おいおい、本気で言ってんのかこいつら?即興改変なんて習うもんじゃねえだろ。
「……はぁ、お前ら本当に馬鹿だなぁ」
「「「(イラッ!!!)」」」
流石に呆れるわ。やる気なかったのに、これは見過ごせない。最早呆れを通り越して可哀そうだ。
「ポイっ」
俺は教科書を端に投げつけ
「じゃあ今日の授業に入る前に、一つおさらいしておこうと思う。題材は【ショック・ボルト】だ」
「何を言うかと思えば、【ショック・ボルト】程度の魔術で何をするのです?」
「そうですわ。そんなもの、とっくに極めてますわ」
極めた、ねぇ。
「今誰か知らんが、【ショック・ボルト】
「なっ!」
「じゃあ質問だ。これに答えられたら俺は辞表を書く」
『はぁ⁉』
「ハイ第一問!【ショック・ボルト】の呪文は《雷精よ・紫電の衝撃以て・打ち倒せ》の三節で構成されてるな?」
俺は黒板に呪文を書きつつ実際に発動する。俺の左手から微弱な紫電が壁に向かって飛んでいく。
「そこでだ。この呪文を《雷精よ・紫電の・衝撃以て・打ち倒せ》の四節にすると、何が起こる?」
「何を言うかと思えば、その呪文はまともには起動しませんよ。必ず何らかの形で失敗します」
やれやれと言った様子でため息をつく眼鏡。
「そんなことは分かってんだよ眼鏡。俺が聞いてんのは、その失敗がどんな形で起こるかってことだ」
「そんなの!ランダムに決まってますわ!」
ツインテールの女がそう言う。
「ぶははははは!ランダム⁉お前らこの術極めたんじゃねぇのかよ⁉どうやったらそんな間抜けな答えが返ってくる訳⁉」
こいつらアホ過ぎぃ!腹が捩れる!
俺の煽りでクラスの奴らの俺へのヘイトが高まっているが、気にすることではないだろう。どうせ一か月だ、大して問題ない。
「ぶっははは!……それで、ぶふ、他に答えるやつは?……なんだよ、全滅か?真面目ちゃんは?」
「……え、真面目ちゃんって私?」
「お前以外居ないだろ」
「私には、システィーナ=フィーベルと言う名前があるんです!」
「そんなもん知るか。今日来たばっかの奴に何言ってんだ?というか、さっさとこれ答えろ」
すると、真面目ちゃんは顔を俯かせ。
「……りません」
「なんだって?」
「……分かりません」
……はぁ~、仕方ねえ。これを理由に辞めれるかと期待した俺が馬鹿だった。
「答えは、右に曲がるだ。《雷精よ・紫電の・衝撃以て・打ち倒せ》」
俺は黒板に向かって魔術を行使する。紫電は黒板に向かっていき
『えっ』
直撃する瞬間に
「そんな⁉」
「あり得ませんわ!」
「残念ながら真実だ。ち、な、み、に。これを《雷・精よ・紫電の・衝撃以て・打ち倒せ》と言う感じに五節にすると、滅茶滅茶射程が落ちる」
黒板を書き換えつつ実際に発動してみると、紫電は三十センチほどしか進まなかった。
「一部を消すと出力が大幅に落ちる」
俺は黒板に書いた呪文の『衝撃』の部分を消し、実際に発動する。
それは真面目ちゃんに当たるが、彼女はキョトンとしている。一切痺れが来なかったことに驚いているのだろう。
「極めたって言うなら、これくらいはできねぇとなぁ」
ここぞとばかりに俺はドヤ顔をする。
「……さて、真面目ちゃん。今更だが、魔術ってなんだ?」
「はぁ?……魔術は、この世界の真理を追究する学問よ」
「ハイバカ―!お前何にも分かってない!」
「なんですって!」
「ちょ、落ち着いてシスティ!」
いきり立つ真面目ちゃんをなだめる金髪。
「いいか?魔術ってのは超高度な自己暗示だ。呪文を唱える時に使うルーン語ってのは、それを最も効率よく行える言語で、人の意識を変革させ世界の法則に介入する。真面目ちゃんみたいに、魔術は世界の真理を追い求める者、なんて言うけどな。そりゃ間違いだ。魔術はな、人の心を突き詰めるものなんだ」
そして俺はクラス全体を見渡し
「この話をすると、たかが言葉如きにそんな力が信じられんとか言う奴がいるんだよな」
実際、この中の何人かも思っていただろう。
「まぁ、こういうのは百聞は一見に如かずってな。おい真面目ちゃん」
「な、なんですか?」
「好きだ。実は一目見た時から、お前に惚れていたんだ」
「なッ!」
お、いい具合だな。
「はい注目!真面目ちゃんの顔が真っ赤になりましたね。見える位置に移動してもいいぞ。見事、言葉如きがこいつの意識に影響を及ぼしたわけだが、比較的コントロールの容易い表層意識でこれだ。コントロールの効かない深層意識なんてどうしようもないのさ。言葉で世界に影響を与える、これが魔術ぶげらっちょ!」
突然頭に衝撃が走り言葉が止まる。
「テメェふざけんな!教科書投げるとか罰当たりもいいとこだぞ!」
「馬鹿はあんたよ!そもそも、アンタだって教科書放り投げたでしょ!」
そういえばそうでした。
「……数学や国語に公式や文法があるように、魔術にも文法と公式みたいなもんがあんだよ。深層意識を自分が望む形に変革させるためのな。これが分かるなら、俺が最初に言った質問にも答えられるぞ」
「最初に質問……即興改変の事ですか?」
「そう。例えば……」
……まぁ、これでいいか。
「《まぁ・とにかく・痺れろ》」
俺は三節で呪文を唱える。すると、俺の左手からは微弱な紫電が……あり?
「思ったより威力が弱いな。……まいっか。俺のような三流でも、これくらいはできるようになるぜ」
「嘘だろ…」
「あんな適当な呪文で発動するのかよ」
「深層意識に覚え込ませた術式を有効にするキーワード、それが呪文だ。要は連想ゲームだな。分かりやすく言えば、お前らが真面目ちゃんを見て何を思うか。呪文と術式も同じだ」
俺は生徒たちがこちらを見ているのを確認して言う。
「それが分かれば、あの程度の呪文改変は難しくない。だが、その基本をすっ飛ばし、あのクソ教科書でとにかく覚えろと言わんばかりに書き取りだの翻訳だの、それがお前らのやってきた授業ってやつだろ?俺から言わせれば、アホの一言に尽きる」
流石にビビったわ。あの教科書を見た時は特に。
「今のお前らは所詮単なる魔術使いに過ぎない。将来魔術師を名乗りたいと思う奴は、自分に足りないものが何かよく考えてみな」
すると、そこでチャイムが鳴った。
「お、時間か。じゃ、次からはそのド基礎を教えてやるよ。興味ない奴は寝てろ」
それだけ言い残し、俺は教室を去った。
「凄かったねシスティ」
「……そうね」
システィーナは既にグレンの講師としての力を認めていた。
「アルフォネア教授のお墨付きなだけあるわ」
正直に言えば、彼女はグレンを舐めていた。いくらセリカ=アルフォネアのお墨付きの講師といえど、遅刻してくるような講師が優秀であるはずがないと高を括っていたのだ。
しかし、結果はこの様だ。『講師泣かせ』なんて不名誉な名前で呼ばれる自分が、あの男の授業がどの程度のモノか見極めてやろうなどと、思い上がりも甚だしい。
あの人は自分を三流だといった。確かに、
『好きだ。実は一目見た時から、お前に惚れていたんだ』
「ッ!」
先ほどグレンが自分に囁いた言葉を思い出し、顔を赤くするシスティーナ。
違う、あれは授業の一環であって他意はない……はずだ。
「システィ?次は錬金術の授業だよ?」
「……え、あ、すぐ行くわ」
ルミアに言われて、すぐに移動を開始する。しかし、頬の熱はいまだに冷め切っていなかった。
「……はぁ、次は錬金術かぁ」
確か、錬金術の授業は着替えなければいけなかったはずだ。
「おいグレン、お前更衣室がどこか分かるのか?」
「馬鹿にすんなよ。それくらいは覚えてるよ」
「いや、更衣室の場所はお前の時と入れ替わっている……ってもういないし」
この後、二年次生二組の錬金術の授業は担当講師が暴行事件に遭い実施不可能となった。
魔術の授業って難しい。